熊本県/企画情報部
益城郡松橋町の有限会社那須ファームは国内で最も早くHACCP(食品に対する 危害分析の重点管理点)を導入した養鶏農場だ。NASA(米国航空宇宙局)はそれ を宇宙飛行士用の食品管理システムとして開発したが、あちらは国家プロジェク ト。予算に糸目をつけなかったが、日本の農業生産法人で独自にそれに取り組む となると、代表取締役の那須修一さん(53歳)もさすがに逡巡した。 しかし13年前に東京で起こった卵による食中毒の背景を分析してみるとサルモ ネラ菌対策こそが経営展望のカギを握ることは明らかであった。ちょうど創業30 周年だったこともあって、既存鶏舎も改造といわず思い切って新築し、飼養管理、 生産施設デザインの中心にHACCPを据えた。通常ならば1羽当たりの施設コスト は2,000円程度。しかし那須ファームの場合はその2倍近い。 採卵鶏はすべて国産で飼養羽数は5万羽。もみじ=赤玉、さくら=ピンク玉が 半々に生産されているが、国産鶏に限定しているのは「育種改良が日本で行われ、 気候風土に適合しているから」だ。もちろん強健性・抗病性、さらには卵質にも 着目しての選択でもあり、完全無投薬を大原則としている。 こうした鶏自体の衛生に加えて重視しなければならないのが卵の衛生。「農産 物=食品である以上、雑菌がついてはならない」。従って鶏ふんは3日と舎内に 置かないし、産まれた卵は「平均25分で、25℃以下に定温化されたセンターに運 ばれ、早ければその2分後にはパックされる」。本当はもっと迅速に処理されて いるが、「計時でもされて少々遅れたりしたらシャクですからね」とストップ・ ウォッチを今にも持ち出さんばかりの自信だ。 こうしてHACCPの下で生産された卵は毎日午後2時過ぎ、熊本空港に急送され る。行き先の1つが東京・世田谷の食料品専門店。「産卵日+ゼロ日出荷」はこ のように当たり前のように連日行われており、那須ファームの卵の60%が「今日 産んで明日消費者の台所に届けられる」。 申し分のない衛生基準が維持されている現在、次に目指すのは環境保全である。 元来が良水に恵まれている地域。しかし生物活性水を使うことで卵質のさらなる 向上と鶏ふんの臭いも減らそうとしている。良い卵をつくるには「愛情が不可欠」 であり、「特売での目玉にしかならないような卵は那須ファームではつくらない」 とするのが不変の経営方針だ。
【HACCP管理された鶏舎内で】 |
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【鶏卵のパック詰め・出荷作業】 |