宮崎県/企画情報部
西都市の農業生産法人有限会社有田牧畜産業といえばEMO(エモー)牛。地 元ではすっかりお馴染みのブランドで、「いつもと違うおいしい牛肉を」となる と、市の内外からファンが牧場併設の販売所にまでわざわざ買いに来るほどの人 気だ。 ネーミングの由来はEarth Medicine 0(ゼロ)。牛たちが食む草の育つ「大地 には一切、薬剤が使われていない」という長年の信条を簡便に言い表したもので ある。 これを名づけた代表取締役の有田哲雄さんは今年71歳。戦争が終わるまで軍馬 の養成地だった茶臼原に高知県宿毛市から入植し、割り当てられた1.5ヘクター ルの農地で、初めは耕種農業に携わった。それが1960年代も半ばを過ぎると、食 料政策が増産一本から品質重視の流れに転じるが、火山灰の酸性土壌に苦しめら れながらカンショの改良に腐心した。 その頃から直感していたのが食に関する民族間の異なり。欧州では香りを尊び、 中国は舌で愉しむが、日本人は見た目で食べる。 故に見た目さえ良ければと安易な方向に流れる傾向が一時強まり、薬品・化肥 がふんだんに投与される事態を招いた。日本の農業は家族単位で、米を中心に野 菜もやれば果実も作り、多少の余裕ができれば家畜も手掛け、そこから出るたい 肥は土に戻していた。農業生産が分業化・専門化する過程で、栽培に対する考え 方が変化していったのだが、有田さんは頑として自然重視に徹した。 畜産専業へのきっかけとなったのは畜産団地の新設である。父から受け継いだ 飼養技術で乳オス、ヌレ子の生産からスタートした。現在は繁殖から肥育までの 一貫経営で1,600頭を擁し、月平均100頭を出荷。そのうちの80%はF1で、残る20 %が黒毛和牛だ。繁殖までカバーするようになってから数年しか経っていないが、 順調に軌道に載っており、今年末には全体で2,300頭規模まで拡大するとともにF 2の生産も行う計画だ。 その繁殖を支えているのが20ヘクタールの牧草地。日向一帯は多雨のため肥育 段階に不可欠な乾草を自家生産することは難しい。ほとんどが半ナマの牧草にな ってしまうのだが、それでも繁殖には使える。 20ヘクタールの牧草地を生かすために繁殖を始めたようで順序が逆のようにも 思えるが、「最も重要な部分を他人や輸入に頼るようでは、それだけで畜産経営 は21世紀を生き残れないだろう」。有田さんは厳しく強く警告する。
【牛肉直売所前での有田哲雄さん】 |
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【繁殖経営を支える 20ヘクタールの牧草地】 |