◎調査・報告


畜産物需要開発調査研究から 食肉加工食品の消費行動に関する研究 ―加工調理食品の購買動向―

東京大学大学院 農学生命科学研究科 細野 ひろみ




はじめに

 栄養・エネルギーといった量的な面で、食品に対する欲求が充足された高度経
済成長期以降、消費者の食品に対する要求は、高級感・多様性・簡便性・安全安
心など質的な要素へと移行している。簡便化し好に応えると考えられる加工調理
食品に対する支出は、食料全体に対する支出の伸びが緩やかになった90年代にお
いても、流通販売システムの拡充と消費者ニーズに合った多様な商品開発を背景
に、急成長を続けている。今回は日経NEEDSのパネルデータを用いて、90年代に
おける加工調理食品購買行動の変化を検討する。


データの概要

 今回利用したデータは、91(平成3)年・95(同7)年および99(同11)年
に首都圏の量販店2店舗、近郊に居住していたパネラー約2,500世帯を対象とし
たもので、2店舗で購入した場合についてのみ購入状況(日時・値引率・天候な
ど)が入力されている。また、今回の分析には利用しないが、世帯の年齢性別構
成・耐久消費財所有状況・居住状況・就業状況・学歴・所得など属性データも収
集されている。

 表1は対象年の加工調理食品購入状況をまとめたものである。分析の対象とし
た加工調理食品は、日経NEEDSの大分類の、畜肉製品、チルド半製品、冷凍惣菜
である。

表1 加工調理食品年間購入状況概要


 各年とも全パネラーのうち、約9割が何らかの加工調理食品を購入している。
「カテゴリー」は例えば、冷凍ハンバーグ・チルドギョーザ・冷凍米飯などとい
った分類で、類似した商品をまとめたものである。表1から、90年代において、
100世帯当たりの購入数は一貫して増加しており、加工調理食品に対する需要が
増大している様子がうかがえる。しかし一方、購入世帯の年間購入金額は91年か
ら95年にかけては増加しているが、95年から99年の期間には減少に転じている。
この要因としては、平均単価が減少していることから、低価格化の進行と個食化
に対応したパックの小型化が進行した可能性が考えられる。

 また、購入時値引率および値引時購入率の91年から95年にかけての大幅な増大
は、量販店の販売戦略の変化と消費者の加工調理食品購買行動の変化の両面を示
していると考えることができる。後者については、ここで対象としている冷凍お
よびチルド保存の加工調理食品が比較的日持ちがする食品であることと、供給側
が定期的に値引販売を行うことを消費者は経験的に実感・認識するようになり、
「値引時に次の値引きが行われるまでに必要な量を購入する」、あるいは「安い
からとりあえず買っておく」という行動を取るようになった可能性が示唆される。
さらにこうした行動の背景としては、消費者の心理面からは加工調理食品の利用
に対する認識が変化し、日常的に利用する商品と考えるようになったこと、物的
な条件として冷凍室が大型化された冷蔵庫や電子レンジなど耐久消費財が普及し
たことなどが影響していると考えられる。

 以上で示した加工調理食品には、購入頻度の著しく低いカテゴリーも含まれる
ため、以下では特定のカテゴリーを抽出して2つの分析を行う。第1は、冷凍タ
イプとチルドタイプのある副食的食品を対象としたもので、冷凍とチルドに対す
る消費者の選好をカテゴリー別に考察する。第2は、各年の購入金額上位30品目
を対象とし、主成分分析を用いて、商品カテゴリーを同じ世帯に購入されている
ものどうしにまとめることにより、加工調理食品に対する世帯レベルの需要の傾
向を探る。


冷凍VS.チルド

 以下の分析は、加工調理食品を年に1度以上購入した世帯を対象として行った。
ここで取り上げる食品は、エビフライ・お好み焼き・ギョーザ・シューマイ・春
巻・グラタン・コロッケ・ハンバーグ・ピザ・フライドチキン・ミートボールの
11種類で、それぞれ冷凍とチルドに分類しているため合計22カテゴリーである。
分析に採用した各商品カテゴリーの概要を表2に示す。

表2 冷凍とチルドのある食品のアイテム数・平均単価・100世帯当たり購入数

 ※平均単価は95年=100とする食料品消費者物価指数でデフレートした。

 図1は対象カテゴリーの世帯当たり購入数、パネラーが購入したアイテム数と
平均単価の推移を表したものである。実線はチルド、点線は冷凍を示している。
アイテム数は、90年代を通してチルド食品が約2倍と圧倒的に多く、冷凍・チル
ドとも95年から99年にかけて大幅に増加している。平均単価は、チルドの方が30
〜40円高く、冷凍・チルドとも期間中一貫して低下している。購入数量は、91年
から95年では冷凍が増加しチルドが減少、逆に95年から99年では冷凍が減少しチ
ルドが増加するといった逆の動きを見せている。両者には代替的な関係が成立し
ていると見ることもできる。

◇図1:アイテム数・平均単価・購入数推移◇

 図2はアイテム数と全パネラーによる合計購入数の関係をカテゴリー別・観察
年別に示したものである。各軸は中央値のところで交差している。第1象限はア
イテム数・購入数ともに大きいことから、主力商品群、第2象限は少数のこだわ
りアイテムあるいは強力アイテムから成る商品群と考えることができる。グラフ
を一見してアイテム数と購入数の間には正の相関があることが分かる。しかし、
冷凍とチルドを個別に見ていくと、冷凍惣菜はアイテム数が5〜20のあたりに集
中しており、アイテム数の増加に対する購入数の増加率が大きいという傾向が認
められる一方、チルドは比較的購入数が多く、アイテム数と購入数の間に相関が
認められるカテゴリー群(チルド1)と、購入数の少ないカテゴリー群(チルド
2)に分類することができる。このうち、チルド1に関しても、冷凍惣菜に比べ
てアイテム当たりの購入数は少ない傾向が読み取れる。ここで、チルド1に分類
されるカテゴリーは、ギョーザ・シューマイ・ハンバーグ・ピザ・フライドチキ
ンである。

◇図2:購入数とアイテム数◇

 図3〜6には、以上の11種類の加工調理食品を中華惣菜・フライ類・軽食類・
畜肉製品に分けて保存状態別の購入状況の推移を示した。
 縦軸は100世帯当たり購入数、横軸はカテゴリー内でのシェア、円の面積はア
イテム数、円内の数字は観察年を示している。図3で示した中華惣菜はアイテム
数・購入数ともにチルドの比率が大きく、特に90年代後半にこの傾向が強くなっ
ている。また、ギョーザとシューマイはチルド内でのシェアも拡大しており、チ
ルドの主力カテゴリーの座を占めるようになったと考えられる。春巻の購入数は
ギョーザやシューマイと比較して少なく、冷凍のシェアが高かったが、90年代を
通して徐々に冷凍からチルドへシフトしつつある様子が認められる。

◇図3:中華惣菜の購入状況推移◇

 図4に示したフライ類は、逆に冷凍のシェアが大きいという特徴がある。しか
し、ここで示したコロッケとエビフライに関しては、アイテム数が増大している
にもかかわらず購入数は95年から99年にかけて減少傾向にある。このことの要因
として、1つには、コロッケやエビフライはフライ類の中でも伝統的な食品であ
るため、消費者ニーズの多様化に十分対応できず、例えば魚介フライや変わり揚
げなど他のフライ類へ購買行動がシフトした点が考えられる。また、「フライ」
は衣がついた状態での販売が多く、家庭で揚げる必要のある商品も多いことから、
簡便性の観点から他の惣菜と比較して劣勢となった可能性も考えられる。

◇図4:フライ類の購入状況推移◇

 畜肉製品は、図5に示されるように、全体としては冷凍とチルドがきっこうし
ている状況にある。アイテム数は、いずれの食品群においてもチルドの比率が大
きくなっている。フライドチキンは90年代にチルドから冷凍へという動きが認め
られ、99年にはほぼ格差が解消されている。ハンバーグは91から95年にチルド優
勢・冷凍劣勢という方向に向かったが、99年にはほぼきっこう状態に戻っている。
逆にミートボールは91から95年にかけて冷凍のシェアおよび購入数が拡大し、冷
凍とチルドの格差は縮小しているが、95から99年にかけて再びチルドが優勢とな
り、99年ではチルドが約8割のシェアを占めている。

◇図5:畜肉類の購入状況推移◇

 軽食類の推移を図6に示した。ピザは、チルドのアイテム数が多いもののシェ
アは同程度であり、また年間購入数も90年代を通してほぼ100世帯当たり100個の
水準を維持しており、安定的なカテゴリーだと考えられる。グラタンは、95年に
冷凍の購入数が増加するが、99年には91年の水準に戻り、逆に95から99年にかけ
てはチルドが購入数・シェア・アイテム数ともに伸ばしている。

◇図6:軽食類の購入状況推移◇

 以上をまとめると、チルドの購入比率が大きい種類は、ギョーザ・シューマイ
・ミートボールであり、逆に冷凍の購入比率が大きい種類は、グラタン・お好み
焼き・コロッケ・春巻・エビフライである。ハンバーグとピザに関しては購入比
率に差が認められない。アイテム数と購入数がともに増加しているカテゴリーは、
チルドでは、ギョーザ・春巻・グラタン・エビフライであり、冷凍では、ハンバ
ーグ・お好み焼きが挙げられる。一方、アイテム数が増加しているにもかかわら
ず購入数が減少しているカテゴリーは、チルドハンバーグと冷凍コロッケである。
しかし、この分析は全パネラーの集計値であるため、世帯レベルでは異なる傾向
を示す場合も予想される。


加工調理食品のグルーピング

 ここでは、約80カテゴリー存在する加工調理食品が、どのような買われ方をし
ているのかについて考察する。加工調理食品の中には購入量の著しく低いカテゴ
リーも存在するため、全カテゴリーを対象に分析を行うと安定性を欠く恐れがあ
る。このことを考慮して分析には、パネラーによる年間購入金額上位30カテゴリ
ーを採用した。また、加工調理食品を一度も購入していない世帯は分析から除外
した。各年の該当カテゴリーとその概要を表3に示す。

表3 上位30カテゴリーの概要

 因子抽出法:主成分分析(バリマックス回転)

分 析

 まず、各世帯がどのカテゴリーを購入するのか、或いはしないのかという関係
を探る目的で、表3に示した各カテゴリーに含まれる商品の購入金額を、世帯別
に合計し、この世帯別年間購入金額をもとに、カテゴリーの相関係数のマトリッ
クスを作成した。相関係数の高いカテゴリー間には、世帯間で似通った購買行動
のパターンがあると考えられる。ここで求められた相関係数に基づき、主成分分
析を行うことにより、30カテゴリーを購買行動の似ているカテゴリー群にまとめ
ることができる。なお、本分析では商品カテゴリーの分類を目的としていること
から、抽出された各成分の解釈を行いやすくするために変数変換(バリマックス
回転)を施した上で、カテゴリーごとの主成分得点を計算した。抽出因子数は、
成分数の増加による説明力の増加がほとんど認められなくなる直前の第4成分ま
でを採用した。主成分得点の大きいものからグルーピングした結果を表4および
表5に示す。

表4 加工食品パネラーによる購入金額上位30品目の主成分得点
91年

95年

99年


表5 説明された分散の合計
91年

95年

99年


 各年とも第4主成分までの寄与率は30%を超える程度であった。91年の第1主
成分得点の高いカテゴリーは、副食的冷凍惣菜(特にフライ類)であり、第2主
成分はスナック類、第3主成分はチルドの畜肉製品、第4主成分は炭水化物系の
カテゴリーの得点が高くなっている。95年の第1主成分はフライ類を中心とした
副食的冷凍惣菜、第2主成分はチルドの畜肉製品、第3主成分は主食的食品、第
4主成分はスナック類である。このことから、91年と95年においては、副食的冷
凍惣菜・チルド畜肉製品・冷凍の主食的商品・スナック類に分類することのでき
る購買パターンのもとで加工調理食品が購入されていたことが明らかとなった。
ここで同一の分類に所属するカテゴリーに含まれる食品は、同一の世帯によって
購入される(若しくは、されない)可能性が高い食品であると考えられるため、
世帯間で共通する選好の示される食品群であると考えることができる。また、各
世帯内においては代替的なカテゴリーであると解釈することも可能である。

 99年の分析により抽出された成分は95年までとは異なり、第1主成分は冷凍惣
菜類、第2主成分はチルド食品、第3主成分はフライ類、第4主成分はチルドの
畜肉製品が高得点を得ている。ちなみに表には示していないが、第5主成分は冷
凍米飯や冷凍麺類など主食的冷凍食品の得点が高かった。

 99年の各成分に含まれる商品カテゴリーが95年までとは異なる要因として、以
下の点が考えられる。第1に、表3に示したように、冷凍パスタや中華惣菜の素、
その他の和風冷凍惣菜など、95年までは購入金額上位30位までにランキングされ
ていなかった商品カテゴリーが増加した点が挙げられる。これらの商品カテゴリ
ーが分析に含まれたために、各主成分得点の高い商品群の構成が変化したことが
挙げられる。第2に、95年から99年にかけてアイテム数が急増していることから、
消費者の多様なニーズに応えるべく供給サイドの充実化が図られた点が挙げられ
る。選択肢が広がったことにより、消費者も「欲しいもの」を実際に購入するこ
とが可能になったと考えられる。事実、第1主成分得点の高いその他の和風、洋
風冷凍惣菜には多様な商品がラインナップされている。


まとめと今後の課題

 今回の分析では、POSのパネルデータを用いて90年代における加工調理食品の
購買行動の変化とその要因を探った。明らかになった点としては、第1に「冷凍」
と「チルド」の調理食品に対する購買行動に差が認められることが挙げられる。
商品カテゴリーでは、中華惣菜は「チルド」、軽食類およびフライ類は「冷凍」
が好まれる傾向があることが確認された。また、世帯レベルでもチルド畜肉商品
に対する選好が安定していること、冷凍食品に関しては副食的商品と主食的商品
で購買行動に差があることが明らかとなった。2点目として、アイテム数の増加
と購入単価の低下から、消費者は加工調理食品に対して簡便性のみならず、多様
性やお買得感を求めるようになった状況が示され、90年代に加工調理食品に対す
る購買行動に変化が起きていることが示唆された。

 今回の分析には世帯属性に関する変数を含んでいないため、購買行動を規定し
ている消費者サイドの要因が明らかになっていない。主成分分析によりグルーピ
ングされた商品カテゴリーの購買行動に影響を与える世帯属性を抽出し、どうい
った属性を持つ世帯が、どのような商品を購入しているのかを分析する必要があ
る。また、各商品カテゴリーには容量・品質・価格といった面で多様な商品が含
まれているため、同一のカテゴリー内でも異なる選好の対象となっている商品が
混在している可能性がある。この点に関しては、同一カテゴリーに含まれる商品
を属性の類似性に基づいて再分類を行い、新分類を分析の対象とすることにより、
さらに分析を深めることが考えられる。

元のページに戻る