東京都/加藤 進
東京から南へ約300キロメートル、太平洋の黒潮が流れる伊豆諸島の八丈島は、 3月になると色とりどりのフリージアの花がジュータンのごとく咲き乱れ、ひと 足早い春の訪れを告げる南海の島である。 面積69.5平方キロメートル、人口9千人の島では、7戸の農家が125頭の乳牛 を飼育している。ここで生産された生乳は、農協の牛乳工場で牛乳やバターに処 理加工され、学校給食や家庭・観光需要等で島内消費されている。 ここは他の地域との生乳の移出入がなく、製造した牛乳乳製品は島内で独自の 流通をしていることから、加工原料乳の認定制度において関東地域の中の別区域 として取り扱われている。全国的に見ても、都道府県内の一部区域で個別に加工 認定を行っているのは、東京都の大島区域と八丈島区域の2区域だけである。 規模こそ小さいが、島国日本に例えれば、海外からの輸入乳製品に当たる本州 の大工場で大量生産された牛乳乳製品と競争しながら、島内需要に見合った計画 生産を行うことは大変難しく、ちょっとした出産予定の狂い等から生乳が余った り不足したりする。 しかしながら、八丈まぐさ(伊豆諸島に自生するススキの一種)等の青草をた っぷり給与された牛の生乳で作った島の牛乳やバターは、独特の風味があり、地 元では根強い人気がある。このような状況の中で、生産者の所得確保を図りつつ 牛乳工場の経営を維持していくためには、島の酪農を今後どのように展開してい けばよいのか、重要な課題になっている。 標高854.3メートルの八丈富士の中腹には町営の公共育成牧場があり、育成牛 が周年放牧されている。この牧場で育った牛は体型こそ小柄であるが、足腰が強 く粗食に耐え、長く搾乳に使えること、農家の育成牛に係る労働時間が短縮され、 余った時間を観葉植物など島特産の換金作物の生産に使えることから、生まれた 子牛のほとんどは牧場へ預けられ、島の酪農存続のためにはなくてはならない存 在になっている。 近年は、ふれあい牧場としての施設整備が行われたことから、牧場を訪れる島 民や観光客が増えている。島では3月21日から4月5日まで、フリージア祭りが 開催される。都会の生活で疲れた心身のリフレッシュのため、花と海と草をはむ 牛を一日眺めていやしの時間を過ごすのも、一興かと思う。 〈東京から八丈島への交通〉〈住複〉 飛行機 羽田−八丈島 エアーニッポン 4便/日 船 竹芝−八丈島 東海汽船 1便/日
【咲き乱れるフリージア】 |
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【特産品のバターと牛乳】 |