広島県/仙波 豊三
有限会社山本牧場(代表者 山本金平氏 78歳)は、昭和53年に広島市郊外か ら移転した酪農の牧場である。 当時の広島市郊外の該当地域は、急速に都市化が進み、それまで野菜産地の優 良畑地がみるみるうちに宅地になり、山本氏も環境に配慮して衛生管理に大変な 努力をしたが、牛がいるというだけで新住民の風当りは厳しく、牛舎があっては、 土地が有利に売れないと陰口を言われるようになり、止むなく移転したのである。 移転先の佐伯郡佐伯町玖島平谷は、酪農の盛んな地区で、自宅から約35キロメ ートル、車で片道50分のところで、山林20ヘクタールを農業公舎牧場として開発 整備した。住居は、そのままに牛舎だけ移転して通勤をした。それは、山本牧場 が近郊酪農特有の粕酪農で、市内の豆腐屋さんの豆腐粕を毎早朝に集荷し、それ を飼料の主体にした経営で、むしろ毎日市内から通勤することが都合がよかった こともあった。 豆腐粕利用は移転後5年目頃に乳質問題からその利用を断念し、その後は一般 的な酪農経営に衣替えをして今日にいたっている。 現在、成牛180頭、育成・子牛120頭計300頭で、常時搾乳頭数120頭、生乳出 荷量は1日当たり3,300キログラムで、県内では、規模の大きさで5本の指に入 る程である。 移転当時は、夫婦と臨時雇の経営であったが、種は、できる限り優秀なものを 付け、生れた雌子牛はすべて育成、搾乳し、能力の低いものは初産で廃用をする という、厳しい選抜をしながら規模拡大をしてきたので、能力的には高いものが 揃った。 その間に、長男、次男が共に経営参画をし、今は二人の男子が経営の実権をに ぎるまでになった。 成牛舎は、一棟で、搾乳牛と乾乳牛のフリーバンに分けられている。給じ、搾 乳は自動システム、ふん尿の搬出は大型のローダーで、今年度かく拌、送風機能 のついているたい肥舎を整備した。最も手間が要るのが育成・子牛で、月齢別に 4つの牛舎に分けて管理されている。 当初開発整備に要した補助残額と用地取得費は借入金であり、これが2億8,0 00万円に及んだ。この償還は、20年間は計画通り償還していたがちょっとしたつ まづきで、一年滞納せざるを得なくなった。その年ちょうど、市内の農地が売却 できたので思いきって残額すべて繰り上げ償還をした。その後は、借金ゼロで経 営は、格段と楽になった。 山本氏は、まだ市内に資産(土地)を残しており、新天地で一大牧場を展開、 2人の息子と共同で、5人の孫にも恵まれ、まだまだやる気充分。山本氏自身は 税理士資格をもつ経営管理のエキスパートであり、長男は獣医師、次男は機械整 備技能を有する。3人3様の特技で補い合い、山本牧場はさらに将来に期待でき る経営である。
【山本牧場のフリーバン】 |