諏訪東京理科大学 経営情報学部 教授 山腰 光樹
(元 財団法人 外食産業総合調査研究センター 主任研究員)
はじめに 「国産食肉等新規需要開発事業」は、平成13年度で16年目となっており、毎年 度数多くの新製品が開発されている。しかし、現在も店頭で売られているのは、 その中の一部と言われている。 そこで、直近5ヵ年において、当事業で開発された新製品について、その動向を 調査するとともに、各社の新製品開発・改善に対する取り組み、販売戦略等を調 査することにより、今後の新製品の開発について参考とすることを目的とした。 調査は、直近5ヵ年における当該事業の全参加企業93社を対象にアンケート調査 を実施した。その結果、67社から有効回答を得た(有効回答率72%)。さらに、 アンケート回答企業の中から10社をヒアリングした。以下、調査結果のポイント を紹介する。 なお、この調査は農畜産業振興事業団の指定助成対象事業「国産食肉等新規需 要開発事業」の一環として、財団法人日本食肉消費総合センターからの委託事業 として財団法人外食産業総合調査研究センターが実施したものである。 市場環境の動向 食肉加工品業界を取り巻く市場環境の動きをたずねた質問項目の中で、今回、 強く出た傾向を多い順に列挙すると次の通りである(カッコ内の数字は「伸びて いる」「やや伸びている」などの肯定的回答を合わせた比率が80%を超えたもの )。 これらの傾向は、新製品開発にたずさわる人や企業が、かなりしっかりした新 製品の計画と予測をベースにその活動を行っているものの、多様化、感性化、高 速化した市場ニーズの動きの中で、なお、自社新製品の最終的な消費場面、生活 場面における事業把握に苦慮している様子が読み取れる。 食肉加工品メーカーに対するインタビュー結果の1例を紹介して見る。 「ハム・ソーセージ業界も原点を見直す必要がある。例えば、保存料等の添加 物不使用による安全性、健康性を見直すこともその1つである。また、現代人の感 じるおいしさとは多分に柔らかさに合い通じる物がある。特に若者の食味はそう である。柔らかさを確保する技術開発が今後の方向性だと考える。今後は、家庭 や外食にも完全調理品を提供するのではなく、ユーザー独自の料理に仕上げる手 間の部分を10%ほど残した商品開発が有効なのではないか。調理の楽しさや可能 性を持った商品ということである。」と、本物志向、柔らかさ=おいしさ、手間 を10%残した調理の楽しさの追及といった方向が指摘されている。 新製品開発効率の変化 食肉加工品の開発効率の変化について、5年前と比較した主要な傾向を示すと次 の通りである(カッコ内は肯定的回答を合計した割合を示す)。 新製品開発活動そのものは、全体的な傾向としてこの5年間に、多品種少量化推 進、リードタイム短縮、マーケティングと技術スタッフの連携、アイデア数増加、 という好ましい動きがある一方、新製品開発コスト(人件費などの総変動費)の 増加、研究開発費の増加というマイナス傾向も生まれている。 業界を代表する大手メーカーでは、新製品の投入数は3〜4年前に比べ400〜500 件から700〜800件と急増している。その中で業務用が7割を占めるが、得意先仕様 が圧倒的に多くなっている。消費者向けは同社からの提案型が主流である。専任 の開発スタッフは本社に8名、各工場に4〜5名に過ぎない。人件費を含む開発部門 の総費用は仕事量の割に変わっていないという。多品種少量生産は特に業務用で 顕著となっている。コンビニ系列のベンダーからの要求は年々厳しくなっており、 研究開発費もかなり増加している。そのための設備投資も製造部門(各工場)の 新規設備投資額は年間35億円に達する。特に、多品種少量生産や多様な販売形態 等による包装、印刷、規格といった後工程の設備投資が目立っており、コストア ップに苦慮する様子が伺える。 新製品開発の実績と成果 食肉加工品メーカーの新製品開発が、市場でどのような実績や成果を示してい るのかを見てみよう。まず、開発した新製品の成否についての尺度をたずねた。 苦労して研究した成果を新製品として発表した後、その成否が売上や利益のよう な単一の尺度で評価されるのか、それとも、技術の蓄積、マーケティング、消費 者イメージの向上といった多様な尺度を使って総合的に判断されているのであろ うか。回答結果は「多様な尺度によって判断している」(28%)と「どちらかと いえばそうだ」(31%)と答えた合計が59%になっている。それに対して「どち らかといえば売上や利益の数字で割り切る」比率は25%と、いわば米国で最もよ く使われている売上や利益の尺度は低く、多様な尺度で評価されているのが実態 となっている。 多様な尺度で評価するにせよ、売上や利益の尺度は、いずれにしても大きな中 心的尺度であることには間違いないが、過去5年間に導入した全新製品のうち、何 %くらいが当初の販売額や利益の目標を超えたかについてたずねると、およそ16 %という数字が明らかになった。「国産食肉等新規需要開発事業」による新製品 に限定すると11%の達成率である。また、多様な尺度を使った場合には、総合的 な主観判断を伴うが、過去5年間の新製品のうち「まあ成功」とみなせる新製品の 比率は24%となっている。「国産食肉等新規需要開発事業」による新製品の場合 は19%であった。この数値は新製品の成功率としては低いという見方も出来るが、 市場競争の厳しさを反映したものか、目標設定や期待値が高すぎるのか、いろい ろな解釈が成り立つ。 新製品の開発コストは「100万円未満」が全体の70%あると同時に、「100〜49 9万円」が27%あり、「500万円以上」は皆無である。開発のリードタイムも「3カ 月以内」が34%、「半年以内」が40%、「1年以内」が21%となっており、1年以 内までで全体の95%になっている。 新製品開発のステップごとに、どのような時間配分を行っているかについて聞 いたところ、「試作品づくりと性能テスト・実験」が最も長く、全体の3.5割を占 めている。「市場でのテスト」は最も短く1.4割を占めるに過ぎない。「開発・設 計段階」(2.7割)と「企画段階」(2.4割)はその中間にある(図表1)。 図表1 開発ステップごとの時間配分(平均値) 企画段階:アイデアの探索、絞り込み、事業化の研究・分析を指す。 注)四捨五入の関係で合計が10にならない場合がある 試作品の販売状況 過去5年間(平成8〜12年度)に国産食肉等新規需要開発事業の一環として試作 された新製品についてたずねた。回答企業67社の中で回答のあった試作品は1,55 1件である。 1,551件の試作品の中で、実際に販売されたのは817 件と過半数(53%)を占め る。製品種類別に見ると、実際に販売された比率は、チキン(66%)、畜産副産 物(57%)、ポーク(52%)、ビーフ(44%)の順に高い。 試作した新製品の未発売理由は、原料コストが高く、市場にあった価格設定が 出来なかった等「価格・コスト」に関する理由(35%)がもっとも多く、次いで 「味・品質」に関する理由(20%)、「社内評価、テスト販売」にて不評(17% )、消費者ニーズや顧客ニーズに合わなかった等の「販売・販売促進、ターゲッ ト」に関する理由(14%)の順に多い。 流通ルートは、最も多いのが「一般小売店ルート」(60%)、2番目が「業務用 ルート」(27%)の順である。チキンの場合「業務用ルート」の割合(41%)が 他の製品に比べ高い。販売地域は、「全国販売」(49%)と「地域限定販売」( 46%)に2分するが、チキンは「全国販売」(61%)が、畜産副産物では「地域限 定販売」(62%)が他の製品に比べ高い。販売期間は「1年未満」が39%を占める 一方、「3年以上」も26%ある。試作品を途中でリニューアルしたものは41%に達 する。リニューアルの内容は、「原料」(46%)が最も多く、次いで「容量」( 34%)、「パッケージ」(28%)、「デザイン」(26%)、「味」(23%)の順 となっている。 試作した新製品の原料を変更した製品は約3割(29%)を占める。特にビーフで は45%と多い。原料変更の内容は、「国産から輸入品へ変えた」(85%)ことに ある。理由はコストダウン(価格要因)である。 新製品の評価とその要因 国産食肉等新規需要開発事業により試作した新製品について成功・失敗の評価 を見ると、「大成功」が5%、「まあ成功」が32%であり、合わせて成功と評価 された製品が37%となっている。一方、失敗とみられる製品が20%である(図表 2)。 図表2 新製品の成功・失敗の評価 成功の要因として挙げられているものを分類すると次の通りである。 同様に失敗の要因を見ると次の通り 代表的な成功要因を列挙すると次の通りである。 ロングラン商品の有無とその要因 国産食肉等新規需要開発事業による新製品について、ロングラン商品の有無を 問うと、「ある」と回答した企業は、ビーフ製品取扱企業34社のうち8社(24% )、ポーク製品取扱企業44社のうち17社(39%)、チキン製品取扱企業16社のう ち5社(31%)、畜産副産物取扱企業4社のうち1社(25%)であった(図表3)。 図表3 ロングラン商品の有無 ロングランの要因としては、独特の味や食感、価格以上の品質の良さ、使用原 材料の品質の良さ、特定マーケットや販売ルートの絞り込みなどが挙げられてい る。 具体的なヒット要因を列挙すると次の通りである。 おわりに 以上、ハム、ソーセージ、そう菜等の食肉加工品に関する69社1,551の新製品 開発状況を調査して、食肉加工品メーカーの新製品開発の実態の一端が明らかと なった。メーカーにとって新製品の持つ役割は極めて大きく、絶えざる新製品の 市場導入と成功によって企業成長は保証される。今後は、新製品開発活動の成功 に至るメカニズムの解明に向けて、更なる本格的調査と研究が待たれるところで ある