◎専門調査レポート


 

国産鶏肉加工品で伸びる産地企業

京都産業大学 名誉教授 駒井 亨

 





はじめに

 平成14年6月20日付け、農林水産省統計情報部公表の「平成13年食鳥処理場調査
結果の概要」によると、同年のブロイラーおよび廃鶏の生産量は、と体・中ぬき
および解体品を合わせて101万トン余りであったが、これに対して、同年中の鶏肉
の輸入量は52万トン余りで、これに鶏肉調製品と鶏肝臓とを合わせた19万トン近
くを加えると、鶏肉製品の総流通量に占める輸入ものの割合は約42%に達する。

 輸入鶏肉およびその調製品の大部分は、そのままスーパーや専門小売店で販売
されることなく、加工品やそうざいの原料または外食・中食の食材として使用さ
れている。

 輸入鶏肉およびその調製品は、価格が安いことや使い易さから、外食・中食・
加工用に安易に使われてきたが、最近では、消費者の安全性志向、鮮度認識など
の高まりから、業務用分野でも輸入品忌避、国産品志向が顕在化しているという
(全国食鳥新聞6月1日付けおよび鶏鳴新聞6月25日付け、各第1面記事)。

 国内の産地食鶏企業は、地場産の新鮮で安全な鶏肉を原料として、消費者に喜
ばれる加工品やそうざいの製造・開発・販売に全力で取り組んでいるが、今回は
その中から徳島県と静岡県の2つの産地企業の実態を報告する。


国産鶏肉の総合加工品メーカー

 生鮮鶏肉と鶏肉加工品などの販売会社である株式会社丸本とその生産・製造母
体であるオンダン農協およびそれらの関連会社で構成される丸本グループは、創
業者丸本昌男氏(65歳)が、昭和39(1964)年に、徳島県海部郡海南町で鶏肉店
を開業して以来38年を経て、今、徳島県南端室戸岬に近い清流海部川に臨む約6万
坪の緑深い谷間に展開する延床面積2万6,400平方メートルに及ぶ鶏肉加工食品工
場コンプレックス(総合施設)を現出した。

 丸本氏は38年前、成鶏の処理・販売からスタートしたが、42(1967)年にはブ
ロイラーの処理加工を開始し、また47(1972)年には成鶏1日2,000羽を処理して
成鶏肉ミートボールの製造販売に成功した。

 丸本氏が現在の本拠地である海部町大井に広大な用地を取得して、大規模な食
鶏処理場と加工食品工場の建設に着手したのは62年のことで、その後の15年間に
累計80億円を投じて、5棟の工場、本社事務所、研究所その他の関連施設を完成さ
せた。

 (株)丸本、オンダン農協その他の関連会社を含む丸本グループの年間総売上
高は234億円、グループ従業員数594名(2002年3月現在)に達している。
【左から(株)丸本の丸本敦史専務、丸本昌男社長と筆者】


オンダン農協の食鶏事業

 丸本グループの基盤であるオンダン農協(昭和57年設立)は、組合員57人で、
食鶏処理場、食品工場その他関連施設を所有するほか、組合員が年間75万羽の阿
波尾鶏(JAS認定地鶏)および128万羽の銘柄ブロイラー(彩どりおよび元気どり
)を生産している。

 阿波尾鶏は82日齢出荷、育成率100%(つけ雛を割らない)、平均出荷生体重3
.2キログラム、飼料要求率2.736で、組合員生産者は、1羽当たり174円の利益(飼
育報酬)を得て、1戸当たり平均年間632万円の所得を確保している(平成13年度
)。

 阿波尾鶏は飼育成績が極めて良い上に、その製品は独特の食感と美味が好評で、
丸本グループでは、平成16年度には阿波尾鶏の生産を現在の2倍、年間150万羽に
まで拡大する計画であるという。

 オンダン農協の食鶏処理場では、上記の地鶏、銘柄ブロイラーのほかに、四国
全県および中国地方から年間140万羽以上の成鶏(採卵鶏の廃鶏)を集荷・処理加
工して、ミートボールを継続的に量産している。

 食鶏処理場では、地鶏、銘柄鶏の生鮮解体品を製造するほか、隣接の工場で、
焼鳥生串、ダイスカット鶏肉、鶏肉ミンチ、鶏肉すりみなども製造している。

 また加工工場(第2、第3、第5工場)には、煮込みライン、肉団子ライン、スラ
イスライン、フライライン、焼きものライン、ボイルライン、特殊ラインなど、
あらゆる種類の加工食品の製造に対応できる設備が完備されている。
オンダン農協(丸本グループ)の食品工場全景(徳島県海部町大井)


(株)丸本の年間売上の50%は鶏肉加工品

 (株)丸本は、前記オンダン農協が製造した製品(生鮮鶏肉解体品および調整
・加工食品)を全国に販売しているが、平成13(2001)年度の売上高(年間139億
円)の内訳を見ると、調製品・調理品を合わせた鶏肉加工品の売上(弁当チェー
ンほっかほっか亭仕向食材を含む)は、全体の約50%をも占めており、生鮮鶏肉
解体品(地鶏、銘柄鶏など)の売上(卸売)合計約18%を大きく上回っている。

 (株)丸本の全製品の地域別売上(2001年度)を見ると、近畿40%、四国33%、
関東16%、九州10%、その他の地域1%となっており、地元四国と近畿で4分の3を
占めている。

 (株)丸本の営業活動の特色は、食品工場の衛生管理・品質管理を徹底し(国
際規格のISO9002およびHACCPの認証を取得済)、顧客に工場の操業状況を視察、
確認してもらうことによって、製品に対する信頼を獲得すること、つまり工場と
製品そのものにセールスさせることで、そのために、最新のIT(情報通信技術)
を駆使して全国いつ、どこでも工場の操業状況をリアルタイムで目視、確認でき
るシステムを構築している。

 なお、食品工場とは隔離した別棟のペットフード工場では、毎日10トン(ブロ
イラー10万羽分)のささみ(生鮮品)を購入してペットフードに加工し、全量を
専門メーカーに納品している。

【衛生管理、品質管理の徹底したオンダン農協(丸本グループ)の
加工食品工場内部(製品箱詰室)】



81種類の鶏肉加工食品を製造

 丸本グループが製造、販売している鶏肉加工食品は、

   未加熱串製品     :22種類
   未加熱調製品     :16種類
   焼成鶏肉       :16種類
   ミートボール     :11種類
   煮込み調理品     : 6種類
   揚げもの(フライ)	 : 7種類
   蒸しもの(スチーム)	 : 3種類

の合計81種類で、各種類毎に重量区分品目があるから、製造、販売品目数は数百
品目に及ぶ。

 これらの鶏肉加工食品および生鮮鶏肉解体品は、食品メーカーや商社を経由し
て流通するほか、四国全県、大阪府、兵庫県内のスーパーや小売店でも販売され
ている。

 また関東を中心に展開するファミリーレストランチェーンには、地鶏ももステ
ーキ、ジャンボカツ、手羽から揚げ、地鶏ぞうすいなどの定番メニューを供給し
ており、某カツオブシ・メーカーには鶏肉ブシの原料として阿波尾鶏のささみを
供給している。

 生鮮鶏肉解体品は、−20℃〜−30℃のベルトフリーザーで急速冷却した後箱詰
して冷蔵トラックで輸送する。また加工品は−40℃で急速凍結した後箱詰して、
−20℃の冷凍トラックで輸送する。海部町大井の工場から午後4時に出荷された製
品は、大阪へは当日の午後10時に到着する。

 中央研究所には、製品の検査と工場の衛生・品質管理のために7人、また新製品
開発のために5人の専門研究員が常勤している。
【丸本グループの全製品の衛生管理、品質管理
および新製品の開発を推進する中央研究所(専任研究員12名)】


食鶏処理場から鶏肉加工品メーカーに転進

 フジ・フーズ株式会社の取締役会長である山梨韶氏(69歳)が、現在の本社(
静岡県清水市興津)隣の小店舗で成鶏(採卵鶏の廃鶏)の解体・販売を始めたの
は、昭和35(1960)年のことで、1日わずか3羽からスタートしたが、38年には早
くも富士宮市に廃鶏処理場を建設し、廃鶏の大羽数処理と成鶏肉の拡販に成功し
ている。当時富士宮周辺には大規模な採卵養鶏が盛んで、山梨氏自身も5,000羽の
採卵鶏を飼育していた。

 42(1967)年には、ブロイラーの処理加工を開始し、当初は製品の大半(月間
5,000〜6,000羽)を箱根小涌園(藤田観光)に中抜丸どりで納入、藤田観光の経
営する旅館、ホテルへの鶏肉、牛豚肉製品の納品は現在も継続している。

 58(1983)年頃には、富士宮周辺でのブロイラー生産が増加して、ブロイラー
の処理羽数は1日1万羽〜1万2,000羽に達し、会社(富士ブロイラー株式会社)の
年間売上高は24億円に達していた。

 しかし、鶏肉加工品・そうざいなどの製造販売を志向していた山梨氏は、60年
に処理場をミヤマブロイラー株式会社と株式会社アサヒブロイラーとの合併会社
とし、後に全持株をミヤマブロイラー(株)に譲渡して、ブロイラーの生産・処
理加工から撤退し、代わって、鶏肉その他の食肉の加工および販売に全力を注ぐ
ことになった。
【フジフーズ清水工場前で。山梨韶取締役会長(左)と筆者。】



食肉加工、そうざい製造、スーパー、レストラン、コンビニなどの複合経営

 山梨氏は、昭和60(1985)年には、清水市興津の現在地に約500坪の用地を取得
して、4階建の複合ビルを建設、1階を鶏肉・食肉加工場およびスーパー(後に一
部コンビニエンスストア開業)、2階を鶏肉等加工場および事務所、3階を焼肉レ
ストラン、4階を自宅とした。

 1階の鶏肉・食肉加工場では、鶏肉くんせい、ハム、ソーセージを製造するほか
ベーコン(ホテル仕向)も製造し、またスーパーで販売するそうざい類も製造す
る。

 製品の販売は本社1階スーパーのほか清水市周辺のスーパー(CGCグループ)25
店舗でも販売し、また藤田観光、ワシントンホテルや他の業務用にも販売してい
る。

 平成6年には、本社から約1キロメートル離れた高台に、そうざい専門工場を建
設、1階(床面積約120坪)を加熱調理室、野菜処理室、冷蔵庫、貯蔵庫とし、2階
を包装室、トッピング室、発送用仕分け室、事務室とし、3階を従業員控室および
住宅としている。

 このそうざい工場で製造される鶏肉そうざいは、全量、静岡県下安倍川以東(
伊豆半島を含む)のセブンイレブンの230店舗に毎日休みなく供給されている。そ
うざいの売上高は月によって変動するが、平成14年6月の実績では約6千万円であ
った。
【フジフーズ(株)清水工場のコンビニ仕向そうざいのソーティング・システム
(各種そうざいを230店のコンビニ店舗別に仕分けして発送するシステム:1日2回出荷)】



国産鶏肉新規需要開発事業でヒット商品を生み出す

 社団法人日本食鳥協会は農畜産業振興事業団の助成を得て、「国産食肉等新規
需要開発事業」を実施したが、山梨氏は平成6年度から10年度まで、この事業に積
極的に参加、これによって開発した製品を卸売・小売販売して大きな成功を収め
ている。この事業で開発された商品は次のとおりである。

 平成6・7年度  :スモーク・チキン
 平成8年度    :チキンウインナー、チキンハム、ギョーザウインナー、パセ
                  リウインナー、チキンフランク、チキンカツ
 平成9年度   :チキンブロッコリー、チキンさくらえびソーセージ
 平成10年度  :竜田揚げ、チキンチョリソウインナー

 特に需要が弱いブロイラーむね肉の活用商品としては、最近「手造り工房の究
極メニュー」として、スモークチキンペッパー、イタリア焼を開発、すなぎもス
モークと組合せたギフト商品として好評を博している。

 セブンイレブン230店仕向のそうざいとしては、バンバンジー(むね肉・55g)
260円、竜田揚げ(もも肉・125g)220円、鶏南蛮(もも肉・125g)300円、からあ
げ(もも肉・150g)290円(いずれも野菜などのトッピングを含む小売価格)の4
品が毎日コンスタントに出荷されている。

 そうざいの調理・製造は午前2時から始め、第1便は午前7時、第2便は午後1時頃
出荷する(セブンイレブン配送センター仕向)。
【フジフーズ(株)が清水工場(そうざい専門)で製造している
コンビニエンス・ストア向けヒットそうざい4品
(左上:から揚げ、右上:鶏南蛮、左下:バンバンジー、右下:若鶏竜田揚げ)】



鶏肉加工品・そうざい成功のカギは新鮮な国産鶏肉

 セブンイレブン向けそうざいの中では「竜田揚げ」が特にヒットしているが、
この商品は山梨氏が大分県のから揚げを徹底研究して製品化したもので、今では
全国のセブンイレブンに普及しているという。

 セブンイレブンの納入業者の会合で、鶏肉そうざいの成功の秘訣を聞かれた山
梨氏は「新鮮な地場産の鶏肉を使っているからだ」と答えて賞賛されたと言う。

 輸入鶏肉(凍結品)は、いかに上手に解凍してもドリップと共に味が抜けてし
まっていて、消費者には喜ばれないという。

 フジ・フーズ(株)が使用する鶏肉は、毎日静岡県下の2つのブロイラー処理場
から当日処理解体したものが搬入される。

 1つは、米久株式会社(キリンビール系列)のおいしい鶏株式会社(磐田市)
で、年間420万羽以上のブロイラーを処理、解体しており、また、2つ目は、富士
宮市北山の(株)富士アサヒブロイラーで、年間200万羽以上のブロイラーを処
理解体している。

 これらの地元産のブロイラーは、処理加工当日または翌日中に調理・加工され
るから、すばらしい風味で、イノシン酸などの旨味成分も多く含まれていること
から、こうした新鮮な国産鶏肉を使った調理・加工品は鶏肉本来のおいしさが充
実していて、輸入鶏肉の遠く及ぶところではない。
【ギフト商品として好評のフジフーズ(株)の国産チキン・ムネ肉加工品】




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