岩手県/朝田 くに子
岩手県中央、盛岡市と花巻市の間に位置する紫波町は、日本を代表するもち米 品種の1つであるヒメノモチの生産高日本一を誇る。そのもち米を飼料としたぜい 沢な肉牛が紫波もちもち牛である。 水田地帯である紫波町は戦後、畜産・稲作複合経営をいち早く定着させ、モデ ル地区として紫波型複合経営が脚光を浴びた。また、生産される「岩手しわ牛」 は前沢牛と並ぶ高品質の肉牛として高い評価を受けていた。しかし、いつしか前 沢牛の名前が前面に出るようになり、しわ牛のブランド力が低下しつつあった。 岩手県中央農協肉牛部会「しわ牛研究会」では、差別化できる特徴ある飼育を したいと考えた結果、平成10年ごろから米同様に消費量が低下しているもち米の 有効利用を試みることにした。もち米は米よりも栄養価が高く、スズメやバッタ が選んで食べるほどである。そのうえ、もち米が使用できれば、田を休耕するこ となく使え、田を荒らすこともない。 同研究会では、試行錯誤の上、イネが実ったらイネ全体を刈り取り、ホールク ロップ・サイレッージにすることにより、飼料として活用できることが判明した。 発酵してほんのりと日本酒の香りがする飼料を牛に与えたところ、食も進み、脂 肪の入り方が十分で甘味とコクのある上質な肉ができ、ブランド名を「もちもち 牛」と名付けた。 イネの栽培は除草剤を1回だけ使用し、化学肥料は使わず、牛のふん尿をたい肥 に使っている。イネに加えて地元で採れた乾燥ワラを食べさせている。子牛は町 内の生産農家によるもので、飼料の栽培と生産から肥育まですべてを地域で一貫 して行える地域内循環農業が実現することとなった。 BSE(牛海綿状脳症)の発生から安全・安心な肉牛への関心が高まり、トレーサ ビリティを高めるための整備が急がれているが、「もちもち牛」の場合は地域内 一貫生産により、牛の履歴が飼料も含めて容易に把握できる点でブランド力を急 速に強くしているといえる。平成14年8月に開催された第14回全国農業青年交換大 会では、大会会頭賞を受賞した。 現在は9牧場16人の会員が約200頭の飼育に取り組んでいる。1カ月に10頭程度し か生産できないため、首都圏を初め10数店舗に出荷しているが、常にバイヤーが 待っている状態である。今後、少しずつ飼育頭数を増やしていく予定だ。 紫波町は「環境と福祉のまち」を掲げ、「循環型まちづくり」を目差しており、 地域内循環農業から生まれた「もちもち牛」への期待は大きい。
【肉質が良いと評判の「もちもち牛」】 | |
【飼料も牛も地域内循環によるもの】 | 【栄養化の高い「もち米」を飼料として活用】 |