栃木県/川田 智弘
肉牛生産は、繁殖農家が生産した子牛を肥育農家に肥育素牛として供給し、肥 育後出荷されるのが一般的な経営形態である。この際、子牛の受け渡しを担うの が子牛市場であるが、栃木県には全国でも有数の高値市場である矢板家畜市場が あり、県内だけでなく全国からも多数の購買者が集まる。この矢板家畜市場を維 持し、栃木県産肉牛生産の発展を図るためには、繁殖農家から肥育農家へ子牛の 飼養環境の移行をスムーズに行えるように両者の間で十分な情報交換ができるこ とが重要である。このような繁殖・肥育経営の関係を見直す観点から、日本畜産 振興会の呼びかけにより県内の和牛生産者および指導者が集まり、座談会を開く 機会を得た。 今回、集まった生産者は、栃木県黒磯市の那須野農協管内の生産者で、繁殖・ 肥育一貫経営の山崎廣幸さん、繁殖経営の小森茂さん、乳肉複合経営の川井鉄男 さんの3人で、それぞれ地域において特色のある経営を行っており、また、肉牛営 農指導を積極的に行っているJA指導員の篠崎剛さんと人見典男さんも加わり活発 な意見交換が行われた。 今回の座談会の中で、まずポイントとなったのが子牛の導入時期についてであ り、通常家畜市場では9〜10カ月齢で取引された子牛を、肥育農家では導入後自ら の肥育環境に応じて飼い直しを行わなくてはならず、これが肥育期間のロスにつ ながるという課題であった。特に山崎さんは、自らの経営を例に、一貫生産と導 入では仕上がりに2カ月程度の差が生じると説明した。子牛の受け渡しが早く出来 れば、それだけ肥育の効率化も図れるわけで、農協としても繁殖生産者に対して、 出来るだけ若く出荷するよう指導しており、小森さんや川井さんたちも骨格がし っかりしていれば260日から290日で出荷をするようにしている。しかし、まだ多 くの生産者は10カ月、300kgにならないと出荷しない場合が多く、今後の課題とい えそうである。また、育成期間中の飼養管理状況について、特に近年、肥育で問 題になっているビタミンA水準については、肥育農家でのビタミンコントロール を行いやすく食い止まりを起こさない素牛とするために、育成段階での粗飼料給 与の管理を十分に行うことが繁殖農家に求められている。 これまで繁殖農家と肥育農家との間で単に子牛の売買という形でのやりとりか ら、今後は双方のコミュニケーションでお互いの情報を交換し合い、相互に生産 技術向上を図っていくことが肉牛生産性向上のために重要である。この課題に対 する1つの試みとして、矢板家畜市場では、子牛登記書にほ育・育成の飼養管理情 報を記入した「子牛育成履歴申請書」を添付し、繁殖農家から肥育農家への情報 の橋渡しを行っており、今後この情報が肥育に生かされ、栃木県における肉牛生 産性の向上が図れることが期待される。
子牛育成履歴申告書 |
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【子牛育成履歴書様式】 |
【矢板家畜市場の風景】 |