◎今月の話題


リスクコミュニケーションについて

農林水産省 消費者政策官 岡島 敦子








新しい食品安全行政がスタート

 食品安全行政がこれから大きく変わろうとしています。食品安全基本法を制
定し、国民の健康保護が最も重要であるという基本的な認識に立つこと、食品
供給行程の各段階において必要な措置が講じられること、食品安全行政にリス
ク分析手法を導入することを基本として、食品安全行政を進めていくこととな
ります。

 「リスク分析」手法とは、人の健康に及ぼす影響について科学的な評価を行
い(リスク評価:食品安全委員会が実施)、科学者、消費者、生産者、事業者、
行政などの関係者が互いに情報や意見の交換を行いながら(リスクコミュニケ
ーション)、行政がこれら関係者との協力により、健康に重大な影響が生じな
いようにリスクを抑える対策を実施(リスク管理:厚生労働省、農林水産省等
が実施)するものです。


リスクコミュニケーションをどう進めるか

 このうちのリスクコミュニケーションについては、食品安全行政を的確に進
めていくためばかりではなく、食品安全行政や食品の安全性に対する国民の
「安心」「信頼」を回復するためにも重要なものであると考えています。農林
水産省は、新たに設置される食品安全委員会がリスクコミュニケーション全体
を調整する下で、農林水産省が実施するリスク管理についてのリスクコミュニ
ケーションを進めることとなります。

 リスクコミュニケーションについて重要なことは、情報提供・開示、情報・
意見の交換、施策への反映の3点だと考えています。

 このため、施策づくりの段階から、正確でわかりやすい資料づくりや説明を
心がけ、消費者・生産者などの関係者にさまざまな情報を提供することが重要
です。施策づくりの過程ではいくつかの選択肢を示しながら、関係者との情報
や意見交換を進め、その意見を施策に反映させるように努めます。また、施策
を実施する段階においても、生産者・事業者の取組状況や施策の評価などの情
報を提供し、関係者の対話を進めることにより、より適切な施策の実施や見直
しを進める必要があると考えています。


リスクコミュニケーションの課題

 リスクコミュニケーションは、わが国では決して蓄積のある分野ではありま
せん。情報の提供・開示については、従来から記者発表といってマスコミを通
じた情報提供、広報誌やホームページへの掲載、パンフレットの作成やメール
マガジンの発行などを行っています。情報公開法が平成13年4月から施行され、
情報開示は進んできました。意見を聞くことについても、従来からの審議会の
場に加え、パブリックコメントの募集、中央だけでなく地域でも意見交換会や
政策提案会を開催して広く意見を聞くように努めています。でもまだまだ手探
りの部分が多く、さまざまな課題があります。しかしそれは行政だけの問題で
はありません。

 例えば、消費者です。食品安全基本法の中で、消費者の役割として、「食品
の安全性に関し知識と理解を深めるとともに、施策について意見を表明するこ
とにより、食品の安全性の確保に積極的な役割を果たす」ことが定められてい
ます。「食品に関する知識と理解」についていえば、高度な専門知識を持つ消
費者もいる一方、基本的な食品に関する知識さえも持っていない消費者も最近
は多くなっています。従来家庭の中で伝えられ、自らの食体験により身に付け
ていった食品に関する基本的な知識や理解が、食の外部化の進展や家庭・家族
の変化により伝わらなくなっているからです。このため、栄養や食生活に関す
る基礎知識どころか、食品が腐るということがどういうことなのか知らない、
農畜水産物が天候や土壌、海域などの影響を受けて生産され、形や味が異なる
ものであることが理解できない人が若い世代を中心に増えているようです。

 食品には絶対の安全はなく、食べる量や食べ方、食べる人の体質や体調、さ
らには食品の保存の仕方により、食品の安全性や健康への影響が異なってきま
すので、「食品の安全性に関する施策について意見を表明する」ためにも、一
人ひとりが食について関心を持ち、日頃から食品の衛生的な取り扱いや食生活
の改善など「食」について考える習慣をまず身に付けることが必要です。

 また、リスクコミュニケーションにおいては、生産者や食品産業事業者も重
要な役割を果たします。生産・製造段階の情報・実態を一番良くわかっている
のは、生産者・食品産業事業者ですので、積極的に情報提供することやコスト
の実現可能性などについての意見を表明することが期待されています。

 リスクコミュニケーションはこれからの食品安全行政にとって不可欠なもの
です。関係者の積極的参加により、進めていくことが何より重要と考えていま
す。

おかじま あつこ

昭和52年 4 月	農林省入省
平成6 年 5 月	農蚕園芸局婦人・生活課長
	7 年 11月	農産園芸局婦人・生活課長
	9 年 7 月	食品流通局野菜流通課長
	11年 7 月	食糧庁計画流通部業務流通課長
	13年 1 月	総合食料局食料政策課長
	14年 1 月	大臣官房地方課長
	14年 7 月より	現職


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