★ 農林水産省から


「食の安全・安心のための政策大綱」について

消費・安全局 消費・安全政策課
企画官 宮本 亮


 農林水産省は、国民の健康の保護を最優先とした政府全体の新しい食品安全行政
に的確に対応するための指針として、6月20日に「食の安全・安心のための政策大
綱」を決定しました。その概要について紹介します。

経 緯

 政府は、BSEの発生、食品の不正表示、無登録農薬問題等の反省を踏まえ、食品安
全行政にリスク分析手法を導入することとし、食品安全基本法を制定して、食品安
全行政の基本理念を定めるとともに、リスク評価を行う食品安全委員会の設置等の
食品安全行政の体制整備を図ることとしました。


 これを受け、農林水産省では、リスク管理のための施策や組織を総合的に見直し、

@ 肥料、農薬、飼料等の生産資材の適正な使用の確保と農林水産物の生産過程に
おける食品の安全性を確保するため、肥料取締法等の食品安全関連法律を改正する
とともに、

A 農林水産省設置法を改正し、本省に産業振興部門から独立して食品分野におけ
る消費者行政とリスク管理を一元的に担う「消費・安全局」を設置するとともに、
地方においても現場における食品のリスク管理業務を担う地方農政事務所を設置す
る等、

本省、地方を通じたリスク管理体制の整備を図ることとしました。


 食品安全基本法案については、第156回通常国会における審議を経て、本年5月23
日に公布され、7月1日に内閣府に食品安全委員会が設置されました。また、食品安
全関係5法案および農林水産省設置法の一部を改正する法律案については、同じく6
月11日に公布され、農林水産省は7月1日より新たな組織体制に移行したところです。


 さらに、農林水産省では、これら関係法律の改正等を踏まえて、農林水産省にお
ける食の安全・安心に関する政策を推進するため、昨年11月に「農林水産省食の安
全・安心のための政策推進本部」(本部長:北村直人農林水産副大臣)を設置し、
「食の安全・安心のための政策大綱」をとりまとめることとしました。


 本大綱については、本年2月に「中間とりまとめ」を公表し、その後、地方意見交
換会やパブリックコメントなどを通じて、広く国民各層からご意見・情報をお寄せ
いただきながら準備を進め、6月20日に同推進本部において決定・公表したところで
す。

大綱の概要

 
 「食の安全・安心のための政策大綱」では、冒頭でそのねらいを示し、次に政策展
開に当たっての4つの基本的考え方を明らかにしています。さらに、この考え方に沿っ
た政策の展開方向を具体的に記述しています。
(1)大綱のねらい
 −「食の安全・安心のための政策大綱」は、食の安全・安心に向けた農林水産
  省の取り組み姿勢を示したものです。

  農林水産省は、食料・農業・農村基本法に基づき、食料自給率の目標などを定め
 た食料・農業・農村基本計画に従って、良質な食料の安定供給などに取り組んでい
 ますが、今後、さらに、



@ 本大綱を国民の健康の保護を最優先とした政府全体の新しい食品安全行政に的確
 に対応するための指針として、食の安全・安心のための取り組みを進めるとともに、


A 「消費者の視点に立った安全・安心な食料の安定供給」こそが農林水産業の発展
 につながる、「安心」と「信頼」を確保するためには施策づくりへの国民の参画が
 今まで以上に重要である、という意識改革を徹底します。

(2)基本的考え方
  −国民が「安心」、「信頼」を実感できるように、取り組みます。


  政府は、食品安全基本法の下、食品安全委員会がリスク評価を、農林水産省や厚
 生労働省等が分担・協力してリスク管理を担当します(図1)。また、農林水産省は、
 行政や生産者・事業者の取り組みが、国民の食に対する「安心」、「信頼」に結びつ
 くよう、体制や施策を総合的に見直します。

図1 リスク分析手法による食品安全行政の推進

@ 消費者、生産者、事業者等関係者の意見を反映した施策づくり 
 −施策を企画する段階から、関係者との対話を大切にしていきます。
  施策づくりの過程からわかりやすい資料づくりや説明に心がけ、関係者にさまざま
 な情報を提供します。施策づくりの過程では、選択肢を示しながら、関係者と情報・
 意見を交換し、施策に反映します。


A 食品の生産から消費まで全体を考えた総合的施策づくりと確実な実施 
 −産地から食卓まですべての関係者に、行動と協力を求めます。
  生産から消費までの各段階で想定されるリスクと、そのリスクを抑えるための対策
 を検討し、総合的なリスク管理対策を提示します。また、リスク管理の方法や食品の
 取り扱い等の情報を提供しながら、各段階で事業者等の取り組みを調査・監視し、リ
 スク管理対策を徹底します。

B 生産者・事業者による安全・安心な食品供給の促進 
 −食卓に安全な食品を届けるための仕組みをつくり、生産者・事業者の自主的
  な取り組みを促します。


  生産者・事業者が安全な食品の供給に自主的に取り組むことができるように、行政
 は仕組みをつくり、情報を提供します。また、企業、JA等のモラルに沿った活動、栽
 培・養殖管理の改善、新技術の開発・普及等を総合的に推進します。

C 的確な危機管理
 −日頃から内外の情報を広く収集し、危機的状況の回避に努めます。


  内外の情報収集・分析・実態調査・情報提供、危機対応や個別要因ごとのマニュア
 ルの作成等に努め、政府全体の危機管理に的確に対応します(図2)。


(3)政策の展開方向 
 −食の安全・安心を目指し、次の施策に重点的に取り組みます。


@ 新たな食品安全行政に対応するための体制の見直し・強化


 ○ 食品安全委員会と農林水産省、厚生労働省などとの間で、連携・政策調整手法の
  取り決めを結び、公表します。また、食品安全委員会、農林水産省、厚生労働省な
  どによる情報交換等により関係行政機関と密接に連携します。


 ○ 「消費・安全局」の新設等により、産業振興と分離し、リスク管理体制を強化し
  ます(図3)。また、同局に「消費者情報官」を設け、関係者に広く食品の安全に
  関係する情報やリスク管理の状況などの情報を提供する等により、リスクコミュニ
  ケーションを推進します。


 ○ リスク管理のための施策づくりの過程では、さまざまな方法を活用して、できる
  だけ多くの関係者の意見を反映できるよう努めます。また、「食料・農業・農村政
  策審議会消費・安全分科会」委員として、消費者等の参画を求めます。


 ○ 新たに「食品安全危機管理官」を設け、危機管理に的確に対応します。


 ○ 食品安全に関わる国際機関などとの連携や調整を行う体制を強化し、コーデック
  ス委員会や国際獣疫事務局等の国際機関、主要国と連携を図ります。


A 産地段階から消費段階にわたるリスク管理の確実な実施(図4)


 ○ 生産技術の改善、簡易な分析の実施等、産地の自主的なリスク管理を支援します。
   また、生産資材(農業資材、養殖用資材)に関する制度の見直しと適正使用を
  推進します。


 ○ HACCP手法の導入等により、事業者の自主的取り組みと適切な企業行動を促進しま
  す。


 ○ 食品の安全を確保するための調査・監視・検査等を強化します。これらの結果につ
  いては関係者に広く情報提供するとともに、消費者を始めとした関係者からの情報や
  意見を受け付ける体制を充実します。また、厚生労働省等と連携した輸入食品等の調
  査、輸出国のリスク管理や食品事故に関する情報収集・提供に取り組みます。


 ○ 家畜を飼養する際の衛生管理のための基準づくりや、重要な家畜伝染病が発生した
  場合の対応マニュアルの作成等により、人畜共通感染症を含む家畜防疫体制を強化し
  ます。

B 消費者の安心・信頼の確保

 ○ 厚生労働省と一体となった表示制度の運営、食品表示の監視を強化します。また、
  JAS規格の見直し等に取り組みます。


 ○ 手引きの作成やセミナーの開催、システム・方法の開発やデータベースづくり、情
  報関連機器の整備等を通じて、トレーサビリティシステム(食品とその情報を追跡し
  、さかのぼることができるようにするためのシステム)を導入しようとする取り組み
  を支援します。また、任意の制度として、食品の生産過程に関する情報を正確に伝え
  ていることを第三者に認証してもらうJAS規格制度を創設します。
  さらに、牛肉については、「牛の個体識別のための情報の管理及び伝達に関する特別
  措置法」が制定され、牛の個体識別番号の表示、記帳などが義務付けられます。


 ○ 「食を考える月間」の設定(毎年1月)、「食育推進ボランティア」の活動支援、
  NPOとの連携などにより、地域や家庭、学校における「食育」を積極的に推進します。


 ○ 地産地消等により、消費者と産地の顔の見える関係づくりを推進します。


 ○ 食品検疫等との情報の共有化等により、水際での動植物検疫等を確実に実施しま
  す。
図5 トレーサビリティシステム
C 食の安全・安心を確保するための環境保全の取り組み(図6)

 ○ 環境省と連携した農地や漁場等の土壌・水質等に関するモニタリング調査を実施
  します。また、リサイクルの取り組みの支援、有害物質の発生・排出低減のための
  国民一人一人の取り組みに対する理解の促進に取り組みます。


 ○ 土づくり、化学肥料・農薬の低減、養殖場の魚の密度や飼料の抑制等、環境に配
  慮した生産活動を支援します。

D 研究の充実


  独立行政法人を中心に、民間企業、大学等から幅広く人材や技術を結集して、有害
 物質が蓄積される仕組みの解明、リスク低減技術の開発など、リスク分析を支える研
 究を強化します。また、研究開発の成果については、関係者にわかりやすく情報を提
 供します。


図6 食の安全・安心を確保するための環境保全の取り組み

まとめ

 農林水産省は、新しい組織体制の下、本大綱に沿って食の安全・安心の確保に積極的
に取り組んでいきます。本大綱がきっかけとなって、消費者・生産者・事業者などの関
係者および関係行政機関の方々によるわが国の食の安全・安心に向けての取り組みが広
がっていくことを期待しています。


 なお、本大綱については、農林水産省ホームページ
(アドレス:http://www.maff.go.jp/syoku_anzen/index1.htm)
に本文、ポイント、パンフレット等が掲載されているほか、農林水産省 消費・安全局 
消費・安全政策課および地方農政局・地方農政事務所で入手できますので、ご利用いた
だければ幸いです。


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