岩手県/越川 志津
農業経営や暮らしについての現状を見つめ直し、1人1人が能力を発揮して意欲と 生きがいを持って農業経営に参画できるように、経営目標・役割分担・就業条件・ 生活運営などについて家族が話し合い取り決める家族経営協定について述べること とする。 この協定締結がもたらす成果は、働きやすい環境づくりや意識の改革だけでなく、 生産性向上等の経営改善にも表れていることに注目したい。 岩手県西根町で乳牛(27頭)と水稲とりんどうの複合経営を営む工藤嘉夫さん、 ミツエさんは、平成12年に家族経営協定を締結した。 家族経営協定を締結しようと決心するきっかけとなったのは、ミツエさんが参加 していた簿記記帳グループであった。当時グループ内には「同じ経営に参加してい るのに何だか物足りない、不満だ」という雰囲気があった。職業としての農業、男 性の意識改革、女性が経営に意見が言えるようにすること等、次の世代へのステッ プとして、わが家の後継者に示したい、この思いを夢だけでなく終わらせたくない 、という気持ちが協定締結へ向けての第一歩となった。 その後2年間、家族経営協定が経営を少しでも前進させるきっかけにしたいと何 度も家族での話し合いを重ねた。ミツエさん自身は、農協の営農指導員の指導の下 、技術的なノウハウを少しずつ取得し、経営に参画して一歩一歩スキルアップして きた。 その結果、酪農部門では生産乳量UP、繁殖成績の向上につながった。この生産実 績の積み重ねが家族の気持ちを少しずつ動かし、協定締結となったのである。
実際の生産実績は協定締結前より1頭当たりの年間乳量が1,500kgUPした。事故や 病気も減少した。これには給じなどの飼養方法の改善とカウコンフォート(牛床、 繋留、換気の改善)を考慮した環境改善の効果が大きい。また労力軽減と作業の効 率化も考えて力を入れてきた。労働時間は1人当たり2時間の短縮となった。 新しく取り入れたTMR(混合飼料;コンプリートフィールド)は牛にとっても、人 にとっても効果的であった。「牛にも人にもやさしい」そんな経営を工藤さんは実 践している。 協定締結前は、経営主の嘉夫さんが営農部門、経営部門の責任を1人で背負ってい たが、締結後は部門毎に正担当、副担当制を設け役割分担制を導入した。また、工 藤家の家族経営協定は家事労働も協定の中に繰り込まれているのが特徴だ。「協定 によって働きやすい環境づくりはもちろんのことだが、精神的な意識改革が大きか った」と工藤夫妻。 今後は生産者として消費者、特に次世代の子供達へ、食の安心安全についてPRし ていきたいとのこと。60歳を過ぎましたが、まだまだ頑張りますよ!と語っていた だいた。
工藤夫妻 |