鹿児島県/畑添 至
九州山地の南の端の標高450メートルにある、ここ鹿児島県大口育成牧場では、 新緑の風の中を放牧牛がゆったりと若草を喰み、草地ではトラクターが唸りをあ げて一番草の刈り取りに精を出している。 当牧場は、県内酪農家の要望によって昭和49年に初妊牛の育成・譲渡を目的に 設立されたもので、これまで2,560頭の初妊牛を譲渡しており、そのうち299頭 は受精卵移植により受胎した雌牛である。 また、当牧場では開場以来、乳用牛群の改良促進に取り組んでおり、これまで に、@県有貸付牛1頭から生まれた雌子牛2頭を県に返す「高能力乳用雌牛造成 事業」、A県が導入した供卵牛から採卵し、育成牧場の牛に移植し、受胎した初 妊牛を酪農家へ譲渡する「乳量8,000キログラム牛造成事業」、Bアメリカ、カ ナダからの輸入受精卵を移植し、受胎した初妊牛を酪農家へ譲渡する「乳用牛能 力向上対策事業」、C効率的に高能力後継牛を得るため、受精卵の性判別を取り 入れた「明日を拓く乳牛改良事業」を実施している。 平成13年度から18年度まで実施予定の「明日を拓く乳牛改良事業」では、ア メリカ・カナダの輸入受精卵を受胎した初妊牛の譲渡とこれから生まれた雌牛か ら受精卵を得る従来からの改良促進事業に加え、県内から導入した供卵牛から特 殊な注射針で未成熟卵子を吸引し、シャーレ内で成熟卵子まで発育させた後、受 精させて発育した受精卵を雄と雌に分別し、雌と判定された受精卵を育成牧場の 牛に移植し、初妊牛を酪農家へ譲渡する事業を展開している。 13年度は8回採卵して222個の未成熟卵を採取し、その中の35個が性判別が できるまで発育し、うち雌11個、雄13個、雄雌不明11個と判定された。雌と 判定された移植可能卵8個を移植し、6頭が受胎し、うち1頭は流産したものの、 14年8月に無事1頭目の雌が生まれ、その後も予定通り4頭の雌が生まれている。 14年度は7回採卵、採取未成熟卵82個、うち判別可能卵23個、うち雌10個、 雄9個、雄雌不明4個であった。雌判定卵9個を移植し、現在、1頭が受胎して いる。 15年度は、採卵40回を計画している。 鹿児島県の酪農は、戸数420戸、生乳生産量約95千トンと、全国の中位ではあ るが、経営環境に恵まれていることや、若い後継者も多いこと等から、近い将来、 これらの新しい技術を活用し、酪農経営の向上が図られるものと考えている。 今日も昭和59年北海道生まれのドナー牛、キャニオンサイド・エム・ビー・ビ ー・エコーが白くなったまつげの瞳を半開きにして、新緑の風の中でゆっくりと 反すうをし、静かな余生を送っている。
【キャビネット内での 受精卵操作】 |
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【性判別子牛の 1号牛(雌)】 |