★ 農林水産省から


食文化の継承に向けた取組の現状

大臣官房統計情報部 構造統計課 地域・環境情報室 窪田 晴彦




はじめに

 農林水産省大臣官房統計情報部では、食文化の継承や地域の農林水産物の活
用状況を明らかにするため、「伝統食を含む食文化の継承および地域産物の活
用への取組状況調査」を実施した。調査結果は、食料自給率の向上、健康な食
生活の実現に向けた食生活指針の普及・定着のための基礎資料として活用され
ている。

 調査は、平成13年9月に全国の3,247市区町村(東京都特別区を含む。)を対
象として、食文化の継承に関する市区町村の意向(3,194市区町村回答)と、
その地域で行われている食文化の継承への取組(1,375取組主体)について把
握を行った。


伝統食とは

−調査上の伝統食について−

 この調査では、「伝統食」を「主にその地域で生産される農林水産物を用い
て加工・調理された食物で、その地域の風土や習慣に合わせて長い年月をかけ
て形作られたもの」とし、多少現代風にアレンジされたものも含めている(酒
類、菓子、茶等のし好品は対象外としている)。

 伝統食の把握に際しては、内容が地域ごとに多様であることから、各都道府
県等から代表的と考えられる伝統食の情報を収集して候補リストを作成し、こ
のリストを用いて各市区町村の状況を回答していただいた。この結果、日常的
に家庭で食べられていると回答した市区町村が多かった上位3品目は、表1のと
おりであった。全体としては、漬物、煮物、なべ料理、すしなどが多くなって
いるが、畜産物を主原料とした「ジンギスカン」(北海道)、「とり飯」(三
重)、「豚味噌」(鹿児島)といった伝統食も見受けられる。


−伝統食の原材料となる地域産物−

 伝統食を含む食文化の継承を行っている取組主体(市区町村、教育委員会、
農業改良普及センター、農協・漁協婦人部等、1,375取組主体)において、伝
統食の原材料としている地域農林水産物の種類を見ると、野菜が53.5%と最も
高く、次いで米が52.3%、豆類が39.3%の順になっている。畜産物は10.8%で、
149取組主体で伝統食の原材料として活用している。
表1 日常的に家庭で食べられている伝統食(上位3品目)
注:同一順位のものがある。
 

食文化の継承に関する取組

−市区町村の意向と取組状況−

 伝統食を含む食文化の継承についての政策上の位置付けを市区町村に聞いた
ところ、3,194市区町村から回答があり、「重要な課題と考えている」が20.3
%、「現在は大きな課題となっていないが、今後は重要となる」が36.5%で、
これらを合わせると56.8%となっており、食文化の継承に関して重要性を認識
している市区町村が多いことがわかる(図1)。

◇図1 伝統食を含む食文化の継承の位置付け◇

 次に、市区町村の伝統食を含む食文化の普及、継承を目的とした取組につい
て聞いたところ、「市区町村独自の事業を実施している」は21.4%、「現在は
行っていないが、今後行う予定はある」が5.3%で、これらを合わせると26.7
%となっている。食文化の継承についての重要性は認識されているものの、実
際の取組にいたっていない市区町村も多いというのが実情である(図2)。

◇図2 取組の状況◇


−取組の内容−

 取組を実施または実施を予定している市区町村について、当該市区町村内で
の取組内容を見ると、「伝統食の料理教室・料理コンクールの開催」が48.4%
と最も高く、次いで「伝統食を含む食文化の継承に取り組んでいる団体への支
援」が46.0%、「広報誌等のメディアやイベントを通じた伝統食を含む食文化
の普及活動」が45.3%の順になっている(表2)。

表2  市区町村の取組(市区町村内) (複数回答)

注:図2で「市区町村独自の事業を実施している」及び「今後行う予定はある」
    に回答した市区町
  村のアンケート結果である。

 また、取組主体全体(1,375取組主体)の取組内容を見ると、「イベントを
通じた伝統食を含む食文化の普及活動」が67.1%と最も高く、次いで「伝統食
の料理教室・料理コンクールの開催」が37.9%、「伝統食を含む食文化の継承
に関する交流会・研究会の開催」が30.2%の順になっている(表3)。

表3   取組主体全体の取組 (複数回答)


 一方、「今後とも市区町村独自で特別な取組を行わない」とした市区町村は
全体の11.4%(図2参照)で、取組を行わない理由を聞いたところ、「取組の
対象になるような伝統食がない」が59.2%と最も高く、次いで「他に重要な政
策課題がある」が23.1%となっている。




食文化継承の取組と課題

 取組主体が行っている具体的な取組を見ると、近年あまり食されなくなった
伝統食を若い世代にも味わってもらえるよう地元開催のイベントで伝統食の試
食、実演コーナーを設けるものや、学校給食の献立に伝統食を取り入れるもの、
若い主婦層を対象に昔ながらの製法を料理教室で紹介するものなどが多い。こ
うした取組は、地元の若年世代に食文化を継承していくことを主な目的として
いるが、その一方で、取組主体の会員の高齢化や過疎化による後継者不足、PR
や活動の場所、活動資金の確保に苦慮しているものなどもあり、今後の取組を
維持・発展させていく上での課題となっている。
 
 「伝統食を含む食文化の継承への取組状況」の他に「地域産物の活用への取
組状況」について調査を行っているが、本稿では紙面の関係上省略した。

 なお、調査結果の概要については、農林水産省のホームページ[http://ww
w.maff.go.jp/]に掲載している。また、取組事例などの詳細情報は、『平成1
3年度地域資源の維持管理・活性化に関する実態調査結果報告書 伝統食を含
む食文化の継承及び地域産物の活用への取組状況』をご覧いただきたい。

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