◎専門調査レポート


鶏ふん発電の社会的意義
・実態・今後の課題

−南国興産を事例にして−

九州大学大学院 農学研究院
教授 甲斐 諭


はじめに

 近年、地球温暖化の防止や循環型社会の形成等の観点から、バイオマスの利
活用を通じた持続的に発展可能な社会の早期実現が求められており、2002年8
月に南アフリカのヨハネスブルグで開催された「持続可能な開発に関する世界
首脳会議」においてもバイオマスを含めた再生可能エネルギーにかかる技術開
発、産業化の推進等が合意されるなどバイオマスの総合的な利活用は国際的な
合意事項となっている。我が国でも農林水産資源を活用したバイオマス産業の
重要性が認識され、農林水産業を環境保全やバイオマス生産の場として再活性
させる施策を関係府省が一体となって推進するため、2002年12月「バイオマス
・ニッポン総合戦略」が閣議決定された〔1〕。

 バイオマスは、地球に降り注ぐ太陽のエネルギーを使って、無機物である水
と二酸化炭素(CO2)から生物(主に植物)が光合成によって生成した有機物
であり、国民のライフサイクルの中で、生命と太陽エネルギーがある限り持続
的に再生可能な資源である。バイオマスを燃焼すること等により放出される C
O2は、生物(主に植物)の成長過程で光合成により大気中から吸収した CO2で
あることから、バイオマスは、私たちのライフサイクルの中では大気中のCO2
を増加させないという「カーボンニュートラル」と呼ばれる特性を有している。
このため、化石資源由来のエネルギーや製品をバイオマスで代替することによ
り、地球温暖化を引き起こす温室効果ガスのひとつであるCO2の排出削減に大
きく貢献することができる。

 バイオマスは、具体的には、家畜排せつ物、生ごみ等の廃棄物や稲わら、籾
がら、間伐材等の未利用部分などである。特に、家畜排せつ物については、年
間発生量約9,100万トンのうち、約80%が利用されているが、その大半はたい
肥などの肥料としての利用である。しかしながら、南九州地域などの畜産濃密
地帯では、輸送性の悪さや窒素などの成分量等を考慮すると、家畜排せつ物の
肥料としての農地への還元は限界にきている〔2〕。

 バイオマスの賦存状況、利用に対する需要の条件等は地域によって様々であ
ることから、バイオマスの利活用は地域の特性や利用方法に応じ多様なものと
なるため、地域ごとに地域の実情に即したシステムを構築することが必要であ
る。バイオマスの利活用は、最終的には、民間の自由な創意と工夫による競争
的な企業活動によって進められることを目指さなければならない。しかしなが
ら、取り組みが始まったばかりのバイオマス産業については、現在の社会経済
的状況の中、一定期間の立ち上がり支援が必要な場合が多い。

 本稿で調査対象とする宮崎県高城町にある南国興産は、鶏ふん発電を行うな
ど非常に有益な事業を展開しており、その実態を把握し、今後の課題を整理す
ることは社会的にみて焦眉の急である。まず、南国興産が鶏ふん発電を行うに
至った社会的・経済的背景を検討しよう。
 

南九州(鹿児島県・宮崎県)に集中するブロイラー飼養

 本稿で取り扱うバイオマスはブロイラーのふんであるが、ブロイラーは図−
1に示すように、飼養羽数、飼養戸数が全国的に減少しつつある中で、図−2に
示すように、全国の約45%のブロイラーが九州で飼養されるなど、ブロイラー
の飼養は九州に集中している。特に、表−1に示すように南九州の鹿児島県と
宮崎県での飼養の集中が顕著である(両県合計の全国シェアは32.2%)。

 さらに両県には、肉用牛や採卵鶏が多数飼養されており、これらの家畜から
排せつされるふん尿は、耕地に還元すべき量を凌駕しており、しかも域外輸送
は輸送費に比較して価値が低いために困難であり、以前は耕地等に堆積される
ケースが散見され、地下水や河川の汚染原因と指摘されてきた。
図−1 プロイラーの飼養戸数等の推移
出典:農水省ホームページ


図−2 畜産の飼養頭数からみた全国に占める九州の割合(平11)
出典:農水省ホームページ


表−1 ブロイラーの都道府県別飼養羽数
出典:農水省ホームページ


 本稿の調査対象である南国興産は宮崎県に立地しているが、宮崎県のブロイ
ラーの飼養戸数(平成15年2月1日:402戸)等の推移は図−3に示すとおりであ
る。近年、飼養戸数は減少しつつあるものの飼養羽数(同:1,716万羽)があ
まり減少していないので、1戸当たり飼養羽数(同:4.3万羽)が増加している。

 ブロイラー産業の1戸当たり規模を示す指標としては、飼養羽数より出荷羽
数の方が適当であるので、図−4から宮崎県のブロイラーの1戸当たり出荷羽数
(同:19.6万羽)を見ると増加していることが分かる。このようにブロイラー
の1戸当たり出荷羽数が増加し、それに伴い大量の鶏ふんが排せつされるので、
それの処理にブロイラー農家は苦慮している実態にある。
      

図−3 宮崎県におけるブロイラーの飼養戸数等の推移

出典:九州農政局ホームページ

図−4 宮崎県におけるブロイラーの出荷戸数等の推移
出典:九州農政局ホームページ


南国興産における鶏ふん発電の前史

 南国興産の本業は、レンダリング事業であり、表−2のような発展過程を辿
って我が国を代表するレンダリング企業に成長している〔3〕。昭和61年3月、
南国興産では全国初となる鶏ふんを燃料とする固形燃料ボイラーを本格稼動さ
せた。当時、固形燃料ボイラーを導入した主な理由は次の通りである。

@主要事業であるレンダリング部門の原料(家畜の内臓や骨などの副産物)を
 安定的に調達するために、地域が処理に困っている鶏ふんを処理し、地域と
 の連携を図るという経営方針を立てていたこと。

Aレンダリング部門はエネルギー多消費の装置産業であるので、鶏ふん発電に
 より燃料費の節減を図るという企業マインドを持っていたこと。

 以上の2点が固形燃料ボイラー導入の理由であった。その背景をみると、当
時南国興産では、レンダリングで使用する蒸気を発生させるために、年間3,30
0トンの重油が必要であった。計画では2億2,400万円をかけて固形燃料ボイラ
ー(ストーカー方式)を建設し、鶏ふんを1kg当たり3円で購入し、年間1万5,0
00tの鶏ふんを処理し、1時間当たり10tの蒸気を得る予定であった。

 当時、鶏ふんの買取価格を1kg当たり3円と試算したのは、計画時点の原油価
格は1リットル当たり50円であったため、十分採算が取れると見越したからで
あった。しかし、燃料費節減を目的にして導入した固形燃料ボイラーの採算性
は、その後の円高の影響により、原油価格が値下がりし、鶏ふん発電の方がコ
ストアップになる皮肉な結果となった。

 しかし、このときの鶏ふん発電の諸経験が、平成14年に鶏ふんボイラー発電
を本格的に稼動させる貴重な経験となった。その時の固形燃料ボイラー発電の
経験により、@鶏ふん発電は可能であるという自信をもつことができ、A技術
的ノウハウを蓄積することができ、鶏ふんボイラーの設計を自社で行うことが
可能になったのである。

表−2 南国興産の発展過程


鶏ふんボイラー発電導入の背景と環境保全に関する諸制度

 宮崎県では、県内の排せつ量が大量になり、処理に困っていた鶏ふんを鶏ふ
んボイラー発電方式で処理することを平成6年度から検討を行っていた。平成
10年以降に一部地域(北諸県、児湯地域)で計画されていた鶏ふんボイラー導
入計画が県下で具体化された。

 この背景として、次の4点が指摘できる。

@宮崎県の農業粗生産額の約半分を占める畜産業(平成13年度:耕種1,396千
 円、畜産1,661千円)は、農家数の減少、経営規模の拡大、農家と一般住宅
 との混住化による畜産環境問題の激化など、厳しい経営環境に直面していた。

A県内の年間家畜ふん尿排せつ数量は約389万トン(焼却・浄化などにより処
 理される家畜ふん尿量47万トン、県内農地に還元されている家畜ふん尿量34
 2万トン)と推計されており、施肥基準から算出した県内農地受け入れ可能
 量は約269万トンであることから、約120万トンの過剰が生じ、窒素成分の過
 剰施肥や野積みなどの不適切処理による地下水汚染が起こっているものと考
 えられ、今後農地の減少により状況はますます悪化すると考えられること
(実際に都城市の井戸の13%が家庭排水や肥料の過剰施肥によると思われる硝
 酸態窒素および亜硝酸性窒素濃度が水道法の基準値を超えているという報道
 もあった)。

B平成11年に制定された「家畜排せつ物の管理の適正化及び利用の促進に関す
 る法律」により家畜排せつ物の環境に関連する規制強化が現実の問題となり、
 家畜ふん尿処理は畜産振興にとって大きな問題となっていたこと。

C「食料・農業・農村基本法」でうたわれている農業の自然循環機能の維持増
 進を図るためにも家畜排せつ物の適切な有効利用は必要不可欠であったこと。

鶏ふんボイラー発電導入の経緯と公的補助金受け入れ条件

 鶏ふん処理施設整備が鶏ふんボイラー発電に転換された経緯は次の通りであ
る。年間20万トン発生していると推計される鶏ふんの半分おおよそ9万トンの
ブロイラー及びレイヤー(ブロイラー約7,2万トン、レイヤー約1,8万トン)の
ふんを適切に処理し、なおかつ事業として成り立つためには、焼却灰も肥料と
して販売が見込めるボイラー発電の方が、堆肥化より、経済的と判断したため
である。堆肥化方式は、土壌の窒素過多を引き起こす危険性が高く、また流通
も困難であることが明白になったからである。

 当初の計画では定期修理時に燃焼処理ができなくなってしまうため、ボイラ
ーを2基(2系列)設置し、定期修理時には1基が稼動し、鶏ふんを排出する農
家が困らないようにする仕組みや、豚ふんも燃料の対象とし年間17万トン処理
することなどの検討も行われた。しかし、事業費(当初計画約40億円)が膨ら
むことなどから断念された。

 当時は、どの地元企業体も事業主体になろうとしなかったので、県当局から
事業の話が南国興産に持ち込まれた時、以前、上述のように鶏ふんを燃料とす
る固形燃料ボイラーを導入していた南国興産では、鶏ふんを燃やす自信とその
ノウハウを持っていたので、事業計画を詳細に検討し、ボイラーは1基(1系統)
のみにし、豚ふんは燃料としないことにして、事業を引き受けることにした。

 最終的に総事業費22億4千8百万円(うち国庫補助1/2と県補助1/6の14億2
千4百933千円、残り自己資金(日本政策投資銀行のリサイクル対策事業資金に
よる融資)で、流動床燃焼方式を採用することにより、鶏ふんを年間約10万ト
ン(1日当り約330トン、時間当たり13トン〜14トン燃焼)処理し、時間当たり
蒸気発生量41トン、発電出力1,500kWhとする計画を決定した。

 この事業は、国ならびに県の指導の下で畜産振興対策事業の指定を受けて、
平成12年度及び13年度の補助を受けた。平成13年1月にボイラー本体プラント
の入札を行い、田熊プラント株式会社が落札し、引き続いて7月にボイラー建
築工事、8月には焼却灰を粒状に固める造粒プラント(ヤマト機販(株)落札)
工事、11月に焼却灰倉庫建設工事が落札され、工事が開始されて、平成14年3
月に完成した。その後、試運転を行い平成14年8月から本格稼動が開始された。

 補助事業導入に当り事業実施主体には、農業団体の出資比率が50%以上でな
ければならないという条件があり、宮崎経済連の出資比率が38.8%しかなかっ
た南国興産では宮崎経済連が100%出資している宮崎くみあいチキンフーズ
(株)の出資を仰ぎ、平成13年11月に農業団体の出資比率を50.5%とすること
により事業の条件整備を行った。

燃料としての鶏ふんの集荷システムと肉骨粉焼却の制度的問題点

 鶏ふんの集荷に関して計画段階では、南国興産が10トントラック4台で集荷
を行う計画であった。また、中継基地はコストが高くつくこともあり設置する
予定はなかった。しかし、宮崎県内には従来から、夜間、鶏舎内に入り、眠っ
ている鶏を捕獲し、ついでに鶏舎内のふんも同時に搬出する業者が存在してお
り、この業者の就業機会を確保するために調整が図られ、業者が鶏ふんを持ち
込む方式になった。

 南国興産が関係する県内のインテグレータ(系統4社、商系8社)のブロイラ
ーならびに採卵鶏のふんが業者から搬入されている。集荷対象となったブロイ
ラーとレイヤーの鶏ふん集荷量に差があるのはブロイラーとレイヤーの水分含
有量が異なるためである。ちなみに、燃料となる鶏ふんの混合割合はブロイラ
ー80%、レイヤー20%である。しかし、現状は安定した蒸気を得るため90%:
10%の混合で燃焼させている。

 現在、鶏ふんは1kg当たり1.1円で買い取られている。過去に3円で買い取り
逆ザヤを起こしていたことを考慮し、安く買い取っている。

 業者によって各農家から集荷された鶏ふんは、まずインテグレータの所有す
る倉庫に保管される。これは一定量集まってから南国興産に持ち込むためと、
鶏ふんの水分含有率を調整する目的がある。鶏ふんの水分含有率は夏と冬に高
く、また農家から集荷する際に鶏舎の床に散水して鶏ふんをはぎ取る場合があ
るので、そのまま燃焼させようとすると水分含有率が高いため、燃焼効率が悪
くなる。そのために水分を調整する必要がある。

 また、鶏ふんの水分含有率を高めている要因として、現在飼料として利用が
禁止されている肉骨粉に代わって利用されている代替飼料が鶏ふんの軟便化を
引き起しているとの指摘がある。倉庫で水分調整された鶏ふんは水分含有率が
約40%〜60%で南国興産に持ち込まれる。トラックによって次々に持ち込まれ
た鶏ふんは鶏ふんピットに搬入されるが、搬入口が3つあり24時間体制で次々
と持ち込まれる鶏ふんのそれぞれの水分含有量が違うため、鶏ふんクレーンと
呼ばれる大きなクレーンで燃料となる鶏ふんの水分含有率を一定に保つように
攪拌が行われている。

 特徴の1つは鶏ふんが南国興産の買取となっていることである。南国興産の
鶏ふん発電施設は産業廃棄物処理施設ではないので、鶏ふんは、エネルギー原
料として購入される。もし、発電施設が産業廃棄物処理施設として認可されて
いれば、鶏ふんを廃棄物として排出者つまり養鶏農家から処理委託料を貰って
発電機を稼動させることが可能である。新たに産業廃棄物処理施設として認可
を受けるには、地元住民からの同意書の取得等、長時間を要し、焦眉の急であ
る鶏ふんに起因する畜産公害を回避できなくなる危険性があったために、産業
廃棄物処理施設として申請が行われなかったのであろう。

 また、産業廃棄物処理施設でないために、現在肥飼料としての流通が禁止さ
れ、焼却が義務付けられている自社製の肉骨粉さえも燃料の一部として自社で
の利用が禁止されている。鶏ふんボイラーで燃料として十分に燃やせるにもか
かわらずこの肉骨粉は廃棄物にあたるため産業廃棄物処理施設として認可を受
けた焼却施設でしか燃やすことができず、南国興産では自社で製造した肉骨粉
を他施設に依頼して焼却している。関係者が構造特区制度を利用して「畜産リ
サイクル振興特区」として鶏ふんボイラーで肉骨粉を燃やせるよう申請したが、
特区の認可を受けられていない実態にある。

鶏ふんの燃焼方式と排出ガスの分析結果

 廃棄物の燃焼方式は、図−5に示すような多様な方式がある。南国興産の場
合は流動床燃焼方式を採用している。その理由は、燃焼により発生する約1万
トンの灰が産業廃棄物となっては事業として成り立たなくなり、肥料としての
流通を計画している焼却灰の質を一定に保つためには、未燃焼灰の残りやすい
ストーカー方式よりも建設費が高くつくものの、未燃焼灰の残らない完全燃焼
した灰が得られる流動床燃焼方式を採用したのである。

 この方式は流動床上に廃棄物を投入し、約600℃の流動砂の放熱によりほぼ
瞬間的に熱分解、ガス化し燃焼させる。焼却物の大きさは均一のものが望まし
い。熱容量の大きい流動砂を保持しているため炉の起動と停止が容易であり、
流動砂は灰とともに取り出して循環使用する。間欠運転に適した方式といえる
〔3〕。
図−5 廃棄物の燃焼方式
出典:資源エネルギー庁ホームページ


 鶏ふんは、畜舎構造や飼養管理方法により排出される水分値が異なり、比較
的水分の低いといわれる鶏ふんはドライ・バイオマスと呼ばれ、直接燃焼に適
している。また、水分が低いと補助燃料がいらず自燃できる。自燃できる水分
含有率の限界は約70%といわれており、それより高い水分の場合は補助燃料が
必要となり、低い場合は余剰熱量として熱回収が可能である。また、鶏ふんを
燃焼させる場合には、熱効率の観点から20%前後まで水分調整が行われること
が望ましいとされる。 

 一日に焼却処理できる鶏ふんは312トンであるが、開始当初は業者からの搬
入量が少なかったこともあり、稼働率が低かった。だが、徐々に搬入量が増加
し、今後は当初計画よりも2万トンほど多い11万トンを処理する予定である。
鶏ふんを燃焼させるだけなら600〜700度あれば十分であるが、ダイオキシンな
どの発生を防ぐために南国興産では約900度で燃焼を行っている。当初計画で
は週末の土日は稼動しない予定であったが、県内養鶏農家を支援する視点から
現在は1月初めの定期修理時(3日間)を除き毎日24時間稼動している。鶏ふん
の水分含有率は40%での燃焼が理想とされている。だが、集荷される鶏ふんは
水分含有率にバラツキがあるため常に40%で燃焼できるとは限らない。調査時
には55%で燃焼を行っており補助燃料を利用した助燃を行っていた。助燃燃料
として使われるのは牛由来の副産物から取った油脂である。  一般に、水分
含有率が50%くらいで燃焼により得られる熱量と、燃焼の際に使用される熱量
が等しく、それ以上の水分では助燃が必要になる。燃焼により得られる高圧蒸
気量は1時間当たり41トンであり、圧力は17気圧である。燃焼により発生した
高圧蒸気は蒸気タービン、ボイラー周辺機器、誘導タービン、レンダリング工
場で使用される。 

 鶏ふん燃焼による排出ガスを分析した測定結果によれば、窒素酸化物、塩化
水素、一酸化炭素などは、規制値を完全にクリアしており、特に社会的問題と
なっているダイオキシン類の分析値は、規制値が1立方メートル当たり0.1ナノ
グラムTEQであるのに対して、0.000062ナノグラムTEQと全く問題がない。だが、
この法律によって年に最低1回の排出ガスの測定を実施している。
図−6 バイオマス資源の利用方式
出典:NEDOホームページ


焼却灰の処理と流通

 焼却灰は主として集じん装置であるバグフィルターで捕集したものであり、
非常に細かい粒子である。そのため、そのままの状態で畑などに散布すると風
で飛散するので、使用しにくい欠点がある。そこで灰を仁丹のような丸状に造
粒している。灰の成分についてはリン(P)とカリ(K)を多量に含んでいる
ことから肥料として十分に価値がある。減量化されているため運搬も容易であ
ることからも堆肥よりも商品性は高い。焼却灰価格は造粒前焼却灰が1kg当た
り約5円、造粒後は約25円で販売されている。販売先として肥料メーカーや製
鉄工場などがあるが、売れ残りが発生している。

 南国興産としても「これ以上売れ残るようであれば焼却灰倉庫が満杯になり
鶏ふんの焼却ができなくなる。どうして肥料として優秀な焼却灰が売れないの
か」と頭を悩ませていたが、同社では半年後には販路が確保でき、この問題は
解決しているだろうとの楽観的な見通しである。

 調査で得られた鶏ふん搬入量のデータによると平成14年度、15年度の搬入量
は合計約90万トンであり、焼却により灰は1/10程度に減量されることから灰
は約9万トン発生したと考えられる。

事業の収支状況と今後の見通し

 鶏ふん発電を開始してから期間が短いので、その収支状況を検討するには時
期尚早の感がある。各種の仮定を設けて計画段階における収支を推計してみる
ことにする。

 事業収入は、焼却灰収入と燃料の節減額から構成される。ます、焼却灰収入
は、約50%が造粒前の灰でトン当たり価格を約5,000円、造粒後の灰をトン当
たり約25,000円とし、推計焼却灰量を9,000トンと考えると、焼却灰収入額は
年間2億2,500万円となる。

 また、発電による電気料金と重油代の節減額は、電気料金の節減額が年間1
億3,826万円、重油の節減額が7,706万円になるものと推測される。さらに、電
気の販売代金を加算する必要があるが、関連資料が入手困難のため不明である。
焼却灰収入と燃料の節減額から構成される事業収入を合計すると4億4,032万円
になる。

 一方、事業支出は、鶏ふんの購入費(9,536万円)、電気代(4,767万円)、
人件費(5,165万円)、焼却灰の造粒費(7,151万円)、償却費その他(8,343
万円)の合計額の3億4,962万円となる。

 したがって、事業収入から事業支出を引いた事業利益は9,070万円になる計
算になる。

 上記の試算は計画段階のものであり、現実には、@現段階では焼却灰の販売
が停滞しており、A鶏ふんの水分含量が多い場合があることに起因して燃料代
の節減額が計画より小さく、B鶏ふんの購入額が計画より多くなっているため
に、現時点では、黒字化になっていない状況である。しかし、近い将来、焼却
灰の販売が可能になる見通しであり、事業収支の改善が見込まれている。

電気料金の設定と制度的支援の必要性

 今後、その発展が社会的に大きく期待されているバイオマス発電が成功する
かどうかの要因の一つは、発電する電気の販売価格に大きく影響される。南国
興産の場合は、鶏ふんボイラーが、平成15年6月13日付けで新エネルギー発電
設備として経済産業大臣から認定を受けた。

 電気会社と第3セクターとの契約の場合の売電価格は夏季(7〜9月)の昼間
(午前8時〜午後10時)が1キロワット当たり12円80銭、その他の期間の昼間11
円40銭、夜間4円90銭と定められているが、南国興産の場合は株式会社である
ために、実績による年間平均価格は3.6円と非常な低価格である。売電を行う
か受電を行うかは全てコンピューター管理されており、発電量に応じて自動的
に受電と売電が切り替わるようになっている。鶏ふんボイラーは24時間3交代
制で稼動しているが、レンダリング工場は夜間稼動していないため、売電が行
われるのは主に夜間であり、売電価格が非常に安くなっている。また、技術的
に昼間の余剰電力(1,500kwhを超える分)の売電は僅かであるので、これも売
電収入が少なくする要因になっている。

 以上のように、売電する夜間の料金設定が昼間に比較して極端に安いために、
また、料金の高い昼間の売電量が少ないために、事業収入が伸び悩んでいる。
今後、社会的に発展が期待されるバイオガス発電の売電価格設定には、制度的
に何らかの支援措置を講ずる必要がある。

むすび

 本稿で検討したように、鶏ふんボイラー事業は、次のような効果が期待され
る。

 @鶏ふんの野積みなどの解消により、畜産に起因する悪臭公害や害虫の発生
  を防止する。

 A鶏ふんの過剰部分を発電の燃料として利用するので、土壌の適正施肥が可
  能になり、農地の自然循環機能を維持増進することができる。

 Bふん尿中の窒素成分を空気中に還元し、無害化できる。

 C地下水汚染や、河川の水質汚濁防止を図ることができる。

 D畜産農家において個別ふん処理施設整備投資の必要性が少なくなり、処理
  費用及び処理労力の軽減が図られる。

 E焼却灰は、肥料成分(P・K)が堆肥よりも多く、また減量化により運搬や
  保管が容易であるため堆肥よりも商品性が高い。

 F化石燃料に依存しないエネルギー供給方式であり、また他の廃棄物発電と
  比較しても二酸化炭素の発生量が少ないなど、地球温暖化防止に一定の効
  果がある。

 以上のように多くの社会的効果を持つ鶏ふん発電が事業として成功するた
めには、次のような課題の解決が不可欠である。

 @南国興産に見られるように技術開発により建設費の節減を図ること。

 A原料である鶏ふんの購入価格を低く抑えること。出来れば、今後は、鶏ふ
  んなどのバイオマス資源の供給価格は、無償あるいは逆有償にすることが
  必要である。供給価格を無償あるいは逆有償にすると処理施設を産業廃棄
  物処理施設に認定する必要があり、それには地元の同意を受ける必要があ
  るなど、施設設置が不安定になる。そこで、特例を設けて、バイオマス資
  源の利活用の場合は、一般廃棄物処理施設において無償あるいは逆有償の
  原料を処理できるようにすべきである。

 B売電価格の設定に対して何らかの制度的支援が望まれ、特に、夜間の売電
  価格を高めることが必要である。

 C焼却灰の肥料としての販売促進を図ること。さらに、肥料以外の需要開発
  により、販売の促進を図ること。

 D現在焼却が義務付けられている肉骨粉を、特例として、産業廃棄物処理施
  設ではない発電施設でも燃料の一部して利用する特別措置を講じ、エネル
  ギーの有効利用を図ること。

 E補助金の一部が県から出されているために、鶏ふんの集荷範囲が県内に限
  定されており、県境近くにある南国興産の場合でも、近隣県からの搬入は
  禁止され、遠方の県内農家から搬入されている。社会的にみると輸送費の
  無駄が発生しているので、長期的には県境を越えた近隣農家からの原料収
  集が可能なように制度を改善する必要がある。


これらの諸課題が早急に解決されることが期待される。


《追記》本稿を草するに際して、調査を快く引き受けて頂き、貴重な資料の
    提供と示唆に富んだ御教示を頂いた南国興産の杉田社長はじめ関係
    者に深く感謝申し上げます。

〔1〕農林水産省『平成14年度 食料・農業・農村の動向に関する年次報告』
   2003年。
〔2〕閣議決定『バイオマス・ニッポン総合戦略』2002年。
〔3〕亀岡俊則「燃焼技術(鶏ふんの焼却、灰利用)」『畜産の研究』
   2003年1月号。

    

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