◎地域便り


千葉県 ●都市生活者との共生を目指す酪農経営

調査情報部


 香取郡下総町でランドマークの1つに数えられているのが”成田ゆめ牧場”
で、JR成田線の滑河駅前には専用バスの停留所も設けられており、休日ともな
ると親子連れが列を作る。

 正式な名称は農業生産法人(有)秋葉牧場。「創業は明治20年」というから
既に115年余の歴史を持つ酪農界の老舗である。現在の東京都江東区に始まり、
1937年千葉県八千代市に移転。さらに76年下総町名木に移ってきた。「これ以
上移転しようにも行く場所がない」(笑)とは5代目となる代表取締役の秋葉
博行さん(55歳)だが、秋葉牧場の歩みはわが国の都市近郊酪農が辿ってきた
軌跡そのものであり、人口の集中・肥大化による都市の拡大、さらには環境保
全に対する要請の高まりに後退りせざるを得かった。しかし「押し込められて
ばかりはいられない」。87年搾るだけの酪農から、自家産生乳を活用する乳製
品の加工・販売に進出し、同時に観光牧場の開設にも踏み切った。これら2つ
はいずれも「首都圏の巨大な市場と人口に賭けた新たな事業」。首都圏で酪農
を営むことの難しさを一気に「可能性・将来性」に転じさせることとなった。
牧場全体の広さは草地、駐車場等を含めて30ヘクタール。成牛35頭をはじめと
して合計60頭が飼養されている。搾乳専業の時代には最高で180頭を数えたこ
ともあったが、「現在はまだ多いくらい」。生乳の半分は加工用に自家消費し
、残り半分を集荷に回している。スタッフは週日に限れば従業員25人とパート
15人で十分足りるが、土曜・休日は臨時に20人が加わり、さらにゴールデンウ
イーク期間中ともなると総勢200人体制で臨む。というのも観光牧場への入場
者が年間22万人(01年度実績)に達しているから。しかし「ネックは天気」で
ある。今年のように天候不順が続き、もう1つスッキリ晴れないと客足は鈍る。
となると期待されるのが乳製品の販売である。中元、歳暮シーズンはもちろん
のこと、「1年を通じインターネット等を活用した通信販売の拡大」に努めて
いる。成田ゆめ牧場のゲートをくぐるとワクワクするのだろうか、どのグルー
プも足早にお目当ての場所に向かう。乳牛以外にもアヒル、ヤギ等の待つ小動
物園もあれば、”芝すべり”のスペースからは終日歓声が止まない。土地柄ら
しいのは”ドッグランスペース”。近隣のマンション、アパート在住者向けに
「愛犬を思い切り運動させる」一画も用意されており、これこそが秋葉さんの
構想した「都市生活者と共生する牧場」である。来場者からの「動物に触れ合
うことができて本当に良かった」との声を聞く時、秋葉さんは決断が間違って
いなかったと思うし、秋葉牧場が新たな100年に向かい歩み出していると実感す
る。
"芝すべり"から上がる子供たちの歓声に満足げな秋葉博行さん

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