兵庫県/福島 護之
但馬牛の改良は、他府県から種牛を導入せずに兵庫県内だけで交配を行う閉 鎖群育種を継続してきた。人工授精技術の普及や牛肉の輸入自由化以降の極端 に肉質を重視した交配が行われるようになって、但馬牛は過度の近親交配が行 われた。最近、肥育農家から肉質の安定と同時に増体性の向上が求められ、こ れに対応した交配指導が和牛農家から望まれるようになった。 そこで、平成12年、兵庫県は神戸大学と共同して古い血統情報を整理し、種 雄牛と雌牛の近親交配の度合いを示す「近交係数」を再計算すると同時に、集 積されている産肉能力に関する「育種価」の情報と組み合わせて、和牛農家に 交配の結果が一目でわかるシミュレーションソフト「MSAS(エムサス)」を開発 した。 このソフトは、パソコン上で個々の雌牛と多数の種雄牛を交配すると、どの 程度の近交係数と産肉能力を持った子牛が生まれてくるか図表で示すシステム になっている。 これまでに、このシステムの利用法についてJA職員、農業改良普及員や家畜 保健衛生所職員ばかりでなく、一般農家にも指導を行い、画面を見ながら適正 交配を計画できるようになった。 平成12年の冬にシステムを公開してから、育種価が再計算される半年毎にMS ASを再配布してきた。その間、各地で利用されるようになったが、現場から使 用上不便な点が指摘され、その都度改訂を行い計5回の改訂を行ってきた。当 初は、プログラム上で近交係数の計算を実施していたが、結果表示までの時間 が掛かることから、予め地域内の生存雌牛に対して交配可能な全ての種雄牛と の交配結果を表形式のファイルとして用意するように改善した。この結果、事 前に計算されたファイルを利用して多頭農家に対応した利用を地域毎に実施で きるようになった。地域によってはMSASのデータと農家の市場での産子販売成 績など、これまでに眠っていた情報を結合させた新しいMSASとして検索できる システムも開発され、育種価を中心とした改良指導に利用している。また、他 の地域では、地域内一貫生産に向けた取り組みのための肥育素牛選定や計画交 配に利用している。 MSASを利用した交配指導が兵庫県全県下で実施されると、近交係数の上昇を 鈍化させて市場性が高く斉一性のある子牛生産ができると同時に、近交係数の 低い増体性の向上が見込める後継雌牛を確保できるようになり、但馬牛の改良 が一層進むものと考えられる。 今後は、これまでのMSASの情報に加えて、閉鎖育種を安定して推進するため に系統の整理を明確に実施できるソフトの開発を検討している。
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MSAS表示画面 |
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