★ 農林水産省から


牛海綿状脳症(BSE)の疑似患畜の範囲の見直しについて

消費・安全局 衛生管理課
大倉 達洋


はじめに

 わが国における牛海綿状脳症(BSE)の農場等での検査、発生時の対応等に
ついては「BSE検査対応マニュアル」(平成13年10月18日畜産部長通知)に
規定されている。本マニュアルの中で、BSE患畜が確認された際に、患畜であ
る疑いがある牛として殺処分すべき対象となる疑似患畜の範囲が示されている。
この範囲については、家畜衛生に関する国際機関である国際獣疫事務局(OIE)
の規定する国際動物衛生規約(コード)に準じて定められているが、平成15
年5月のOIE総会で、BSEに係るコードが改正されたことに伴い、わが国にお
けるBSE疑似患畜の範囲が変更されたので、その概要を紹介する。

経緯

 BSEは主として汚染された肉骨粉を含む飼料を摂取することにより感染する
ため、過去に患畜と同居歴があり、患畜と同じ飼料を給与された牛は感染して
いる可能性がある。このため、OIEコードにおいて、BSEの清浄化を図るため、
一定の同居歴等の条件を満たす牛について殺処分することとされている。わが
国においてもこの基準に準拠し、感染リスクが高い牛については、疑似患畜と
して殺処分しているところである。しかしながら、これまでわが国で確認され
たBSE発生農場等において、搾乳牛のほとんどが疑似患畜となり経営再建が困
難な状況に陥ってしまった事例があったこと、疑似患畜として処分された牛(
総計360頭)については、検査の結果いずれも陰性であったこと等を背景に、
各方面から疑似患畜の範囲の見直しを求められていたところである。このため、
農林水産省はOIEに対し、疑似患畜の範囲について欧州での経験に基づき科学
的に検討するよう提案してきたところである。

 その結果、15年5月に開催された第71回OIE総会において、殺処分の対象と
すべき牛について、わが国の提案も踏まえた範囲の見直しを行う改正案が採択
された。この新たな国際基準を国内基準へ準用することの是否についてBSEの
専門家からなる「BSEに関する技術検討会」に諮った結果、わが国も同基準に
準拠して疑似患畜の範囲を見直すことで差し支えないとの評価が得られたこと
等を踏まえ、15年6月に「BSE検査対応マニュアル」を改正し(表)、疑似患
畜の範囲を変更した。

疑似患畜の範囲変更の概要

 疑似患畜の範囲の大きな変更点としては、従前、1歳になるまでの間に患畜
(年齢は問わない)と同居し、同じ飼料を給与された牛が対象とされていたが、
改正後は、1歳になるまでの間に生後12カ月以内の患畜と同居し、同じ飼料を
給与された牛が対象となったことが挙げられる。飼養される牛の大部分が自家
産であり、標準的な年齢構成の牛群を有する酪農経営の農場において、患畜が
5歳で確認された場合では、従前の基準では同居牛の8割程度が疑似患畜とな
っていたが、改正後の基準では2割程度が該当することになると想定される(
図1、2)。
図1
図2
 今回のOIEコードの改正の背景としては、EUでは、毎年数万頭におよぶ患畜
との同居牛を検査しているが、その中から新たな感染牛が見つかることは稀で
あり、また、それらはすべて患畜の生前生後12か月以内に生まれた牛であっ
たこと等があげられ、OIEは従来のリスク管理の妥当性についてこれらの結果
を含めた科学的な知見をさまざまな観点から評価、検証し、コードの見直しを
行ったものである。わが国の感染牛の発生状況や同居牛の検査結果等から、B
SEのリスクはEUと同等もしくはそれ以下と考えられること、また、死亡牛検
査やと畜場における全頭検査と特定部位(SRM)の除去という体制が構築され
ていることから、「BSEに関する技術検討会」等において、今般改正された国
際基準をわが国の基準に準用することは妥当であるとの評価が得られたものと
考えている(図3)。

おわりに

 平成13年9月にわが国でBSEの感染牛が初めて確認され、それによりおよぼ
されたさまざまな影響は畜産業だけに留まらず、大きな社会問題として取りり
上げられた。 その後、短期間のうちにと畜場におけるBSE全頭検査、特定部
位(SRM)の除去、肉骨粉の全面的流通停止などBSEに対するさまざまな安全
対策が実施され、牛から牛、牛から人への万全な感染防止対策が確立されてお
り、食の安全は確保されているといえる。今後は現在とられている対策を適正
に運用し、必要に応じて科学的知見を踏まえた見直しを含め、適切なリスク管
理を実施していくことが重要である。生産者、消費者を含め関係者の方々には、
BSEについての正しい理解をより一層深めていただくとともに、今後新たな発
生があっても冷静な対応をお願いしたい。

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