生産局 畜産部 畜産企画課
畜産環境対策室
平成11年11月1日施行された「家畜排せつ物の管理の適正化及び利用の促 進に関する法律」(以下「家畜排せつ物法」という。)に定めた管理基準の適 用が、5年間つまり平成16年10月末日まで猶予されている。 この5年間に、法の適用対象となるすべての畜産業を営む者(以下「畜産農 家」という。)が、管理基準に従った処理を行うよう、@都道府県は施設整備 状況を調査して整備目標を作成し、その達成のため、A国は補助事業、税制特 例措置および融資制度などを措置してきており、また、B独自の補助制度や上 乗せ助成制度を設けた都道府県や市町村も多い。管理基準に従った処理の効果 は、野積み・素掘りの解消やたい肥化を通じた資源の有効利用という農業サイ ドの利点だけでなく、地域環境の改善という広がりを持つため期待も大きい。 しかし、この3年間の整備状況は、BSEの発生による経営不安もあり、必要整 備戸数の半数に留まっている。 このため、農林水産省では、残る半数の施設整備を猶予期限内に終了させる ため、本年2月から「ふん尿処理に関する緊急全国畜産農家個別点検・整備運 動」を開始していたJAグループと共同し、「畜産環境整備促進特別プロジェ クト」を発足させた。
特別プロジェクトは、農林水産省側代表者に北村副大臣、JA側代表者に吉岡 畜産委員長と大堀酪農委員長(全中畜産・酪農対策本部委員会)がそれぞれ就 任し平成15年3月28日に発足した。活動内容は、@全個別農家の総点検と工程 表の作成、A特別プロジェクト幹事会を通じた施設整備の全省挙げた取り組み、 Bアドバイザーグループからの助言、Cバイオマス・ニッポン総合戦略推進会 議を通じた他省庁との連携を掲げた。 中心となるのは、@の施設整備の促進を担う総点検とそれに基づく工程表の 作成であるが、Aは施設整備を畜産環境対策以外の補助事業も活用しつつ推進 していくものである。また、Bは整備を進める上での問題点の把握やその対応 を検討するためである。Cは家畜排せつ物のエネルギー利用や下水道を使った 処理など、農林水産省の枠を超える整備に対応するものである。 これらの結果、家畜排せつ物処理施設の整備は、農林水産省挙げての対策と 位置付けられることになった。
総点検は、法対象規模の畜産農家を対象にした農家個別調査と、共同利用施 設の稼働状況調査の2つを実施した。前者は、畜種、飼育規模、処理施設の有 無と内容および稼働状況、施設整備計画等の質問項目からなるアンケート調査 である。重要な情報は、畜産農家による処理状況の判断と、個々の畜産農家の 施設整備の必要性にかかる行政サイドの判断である。対象農家数は全国で約7 万戸と予想されたため、パソコン処理ができるよう選択式とした。後者は、4 月時点で2戸以上分の家畜排せつ物処理を行っている共同利用施設を対象に、 農家個別調査と同じような方式とした。アンケート用紙の配布と回収は、4月 下旬から6月上旬にかけて実施し、6月第2週で一斉に報告を受けた。その後の 集計結果の検討に時間がかかったものの、企画から集計までわずか2カ月半。 この点については、畜産農家にはもとより都道府県やJAグループ、専門農協 連など関係者のご協力に深く感謝する次第である。
結果は、図に示したとおりである。
図 家畜排せつ物処理施設整備への対応状況
農家個別調査の結果、全国で6.6万戸分が集積された。このうち整備が終了 していないのが2.4万戸。整備が終了(施設を保有)している4.2万戸のうち、 12〜14年度の3年間の整備実績が1.6万戸、家畜排せつ物法施行以前に整備さ れていた畜産農家が2.6万戸となった。畜産統計(H15年2月、14.6万戸)と の差8万戸は、法の対象外と考えられる。子畜も法の対象外であることを勘案 すれば、総点検の結果は畜産統計とよく一致する結果となった。 既存施設の稼働状況(表2)は、個人施設を保有する畜産農家の75%は排出 される家畜排せつ物の全量を当該施設で処理しているが、残る25%は処理で きていない。これら処理できていない農家のうち64%(全体の16%)は既に 何らかの対策を予定しており、残る36%(同9%)は現段階では対策を有して いないとしている。また、共同処理施設は全国から約1,600カ所分の報告が集 まったが、その平均稼働率は82%と比較的に高いものであった。
工程表は、総点検に基づいて整備が必要な戸数を把握し、その整備方針を定 め、さらにそれを実現するための具体的項目の進行表からなっている。これは 畜産部ホームページ(http://lin.alic.go.jp/maff/frame02.html)に掲載 しているので参照されたい。また、国だけでなく都道府県ごとでも作成されて いる。
農家個別調査で「今後整備が必要」と判断された2.4万戸については、都道 府県ごとに整備年、共同・個人・簡易施設の区分などした上で整備計画を作成 した。表2にその概要を示した。簡易対応を除けば、過去3年の平均施設整備 数と比較して15年度は1千戸、16年度は3千戸も多い。なお、簡易対応の注に 示した3千戸は、猶予期限到来時には管理基準に適合するよう簡易対応で措置 するものの、その後において本格的な施設の整備を希望する農家である。
表1 「総点検」結果に基づく整備計画 注:簡易対応には、将来的な施設整備のための緊急的な対応約3千戸を含む。 表2 既存施設の稼働状況 個人処理施設の運営状況 注: 「対策あり」は、増設や委託処理計画を持つ農家数 たい肥センターの稼働状況
総点検を通じて従来の整備計画の見直しを行い、新たな整備計画を作成した のであるが、15〜16年度の整備戸数は大幅に増加する。これにどのようにし て対応するかが最大の課題である。 @ 関連事業の一体的な実施 施設整備は、畜産部予算で対応してきた非公共・公共事業のほか、バイオ マス利活用事業や農業基盤整備、集落の環境整備と一体的に実施するその 他の事業の活用が重要である。これらは従来から部分的に対応されてきた が、特別プロジェクトを機に積極的に拡大し、使える補助事業を最大限振 り向けることで、この急拡大に対応することが喫緊の課題となっている。 A 適正な施設の整備 個別農家が非効率な施設を設置した事例が多く指摘されている。この施設 を使って将来とも処理を続けなければならない当該農家にとっても損失で あろうが、できるだけ多くの施設整備が必要な中、個別単価はできるだけ 抑制することが必要である。専門家による個別指導を通じた適正施設の整 備を促進する。 B 簡易対応にかかる情報提供 簡易対応は、一部の道県で実際に開発され、補助事業によるモデルの整備 が進んでいる。これから整備を進める対象農家にとっては大いに参考にな るだろう。また、簡易型のたい肥舎、汚水処理施設および防水・被覆シー トについて、10月中にも詳細なパンフレットを作成し全国に配布する計 画である。これらを通じて、簡易対応の着実な伸展を図る。 C 全量処理できていない個別処理への対応 家畜排せつ物排出量が処理施設の能力を超えており、かつ、対応策を持た ない農家に対しては、「畜産環境アドバイザー」を活用した都道府県・市 町村およびJAグループ等の関係団体による個別農家に対する技術指導を 通じた解消を行う。 D 既存の共同利用施設の改善 ほとんどがたい肥を生産している中、販売の不調などが低稼働率の原因と なっているので、ユーザーである耕種農家・農協も加えたたい肥の生産と 利用体制の構築を図り、需要の拡大を図っていきたい。
総点検を通じて、未整備の畜産農家個々が改めて把握されたことを受けて、 工程表はその畜産農家の施設整備を実現させる手法と位置付けられる。このた め都道府県段階での工程表は次のような具体的な項目について作成されること になっている。 @点検活動の実施(施設整備状況の把握) A巡回指導活動(個別重点指導、水質・臭気測定など実態調査) B普及啓発活動(良質たい肥、講習会、事例紹介など) C地域住民説明会(整備計画説明などを通じた地域理解醸成)
工程表に掲げた施設整備を計画どおり実現するため、基本方針の実施状況を 四半期ごとの整備実績として把握する。この進行管理を通じて、整備促進に向 けた多様な施策の結果を評価し、さらに効率的な事業採択を通じた整備促進を 図ろうとするものである。
現在、各畜産農家では、補助事業や資金を活用するなどして施設整備が進め られていると思う。畜産農家に対しては、市町村や農協、都道府県が整備のた めの指導・助言を通じて実現を図っておられるはずである。畜産農家にとって も、「垂れ流している」では消費者からそっぽを向かれる時代、的確な対応が なされることを期待している。 一方、傘下農家に対する個別調査を行ったJAグループでも、計画どおり集 計が進んでいる。今後は、調査結果に基づいてコンサルテーションを通じた施 設整備の促進が図られるはずである。 このように、特別プロジェクトは、関係者の努力の結果が整備実績として着 実に現れつつあると思っている。
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