◎地域便り


栃木県 ●「栃木和牛」を支える水稲作とニラ栽培

栃木県/調査情報部


 湯津上村の佐藤和徳さん(40歳)は「栃木和牛」の生産者。現在肥育中の
黒毛和牛はすべてオスで60頭弱。繁殖メス牛も9頭所有している。

 肉用牛の生産が経営に及ぼす貢献度は粗収入全体の6割に達し、もうこれだ
けで経営は十分成り立つ。しかし両親である和夫さん(68歳)、キヨさん(6
3歳)の代から続く水稲作とニラの栽培を「おろそかにする気は毛頭ない」と
いうのは、それもこれもすべては良い肉用牛をつくるためだ。コシヒカリの稲
ワラが飼料として肉用牛の飼育に有効活用されているのは容易に想像できる。
では、ニラは一体どのような形で肉用牛生産に関わっているのだろうか。

 月平均2頭の出荷を着々と実行していても、肥育期間は素牛購入から20カ月。
佐藤さんに限らず、肥育経営者の頭を悩ますのは資本投下から代金回収までの
期間の長さである。おまけに一昨年起こったBSE騒ぎのようなアクシデントに
でもぶつかれば「価格下落どころか、牛が渋滞し、アテにしていた入金はスト
ップしてしまう」。その点、ニラなど野菜園芸作物の場合は、回転が早い。

 毎年5月に定植し、12月からハウスを架けて収穫に入る。20日ごとに2−3
回穫れば、次のハウスへ…。これが繰り返されていくのだが、今日ではほぼ周
年出荷体制が確立されており、出荷から入金までに要する日時がどんなに長く
とも1カ月以上ということはまずない。牛に比べ入金の規模こそ小さいが、一
家の生活を支える上で重要な役目を果たしているのがニラであり、「それがあ
るからこそ牛の方でのガンバリも効く」のである。

 このニラは、水稲作での連作障害を防ぐ上でも大きな力を発揮している。多
くを説明するまでもないだろうが、それによって高品質のコメと稲ワラが得ら
れる。毎年、1.5ヘクタール程度の規模で、ローテーション栽培がしっかり繰
り返されていく。今後強化したいのは繁殖部門。「自分で考える通りの肉用牛
をつくるのが夢だ」。しかし忘れてならないのは「バランス」である。粗収面
だけでなく、労働面も含め、経営全体にわたって「肉用牛、ニラ、水稲の3つ
について均衡を保っていくことが最優先すべき課題」と自身に言い聞かせる。

 妻・香代子さん(37歳)との間に子供は1男2女。「将来は…」と佐藤さん
がひそかに期待する9歳の長男を今年初めて矢板市の家畜市場に連れて行った。
セリの活気に尻込みするどころか、眼を爛々と輝かせる様子は、「自分に対す
る何よりの励みに思えた」と語ってくれた。
出荷間近の『栃木和牛』の前での
佐藤和徳さん

元のページに戻る