◎地域便り


沖縄県 ●黒い豚「アグー豚」を中心とする新たな挑戦

沖縄県/調査情報部


 名護市の我那覇(がなは)明さん(54歳)は農業生産法人有限会社我那覇
畜産の代表取締役。沖縄県が本土復帰を果たす前、祖父の代から養豚を家業と
する環境の中に育った。本格的に引き継いでから30年以上になるが、「もう
小学校に入った頃には立派に(笑)手伝いをしていた」というほどで、我那覇
さんの半生は養豚とともに刻まれてきている。

 1万平方メートルの敷地に合計10棟の豚舎を擁し、500頭の繁殖母豚と種豚
40頭、肉豚5,000頭等が現在飼養されている。通常の飼育期間は8カ月。枝肉
ベースで75キログラムとなる大きさを目標に育てられた豚はオリジナル・ブ
ランド「琉美豚」として出荷される。その特徴は、豚特有の臭みやアクが抑え
られている点にある。肉汁のしたたりもわずかで、高タンパク質でありながら
低カロリー、低脂肪であることもセールス・ポイントに挙げられる。

 このような銘柄豚としての地位を得るまで、我那覇さんは品種へのこだわり、
選抜はもちろんのこと、独自にさまざまな工夫と改良を重ねてきた。その1つ
が飼料で、ヨモギ、海草、ニンニク等を添加するなど、沖縄ならではの地域資
源を活用した給じ体系が確立されている。また豚舎内の消毒に際しても「薬品
を使用しないことが基本方針」とされており、有効微生物が活用されている。

 「立地条件に恵まれた」と我那覇さんがいうのは水。沖縄本島には高い山が
ないため、畜産に限らず農業全体にとって最大のネックとなるのが水であるが、
名護岳の麓に位置する豚舎ではミネラルウォーターとして販売されている水そ
のものをふんだんに利用することができる。これによって「豚の健康が増進す
る」という訳だ。

 「琉美豚」に加えて我那覇さんが生産しているのが「やんばる豚」である。
“やんばる”とは頑張るの意。「琉美豚」が外国産品種を源とするのに対して、
「やんばる豚」は沖縄古来の品種を掛け合わせたもので、我那覇さんの養豚に
賭ける心意気そのものといえよう。そして、その中心に置かれているのが黒い
豚「アグー豚」である。

 中国がまだ明だった頃に台湾を経て島伝いに沖縄にもたらされたのが「アグ
ー豚」と言われており、今日の「黒豚」と呼ばれているバークシャー豚に比べ
て一回り小さいが、足がしっかりしているのが特徴で、何よりの魅力は脂肪の
質が良いことである。

 琉球在来豚アグー保存会の会長を務める我那覇さんは「種を絶やさぬことは
もちろん、消費者ニーズに応じた肉質を持つ豚の生産に向けて、これから“や
んばる”」と語ってくれた。
  「アグー豚」と我那覇明さん

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