はじめに
近年、食品の偽装表示、英国や日本などでのBSEの発生、さらに2003年12月の米国でのBSEの発生などを受けて、食肉の安全性に対する関心はさらに高まりをみせている。このように食肉業界を取り巻く内外の環境がより厳しさを増していることから、安定供給とともに、安心・安全への取り組みを強めていくことがより重要になってきている。こうした状況下で、産地・供給側では生産履歴を明らかにし、国もBSEの全頭検査の実施とともに、トレーサビリティー制度導入のため「個体識別番号」の表示を義務付ける「牛肉の個体識別のための情報管理及び伝達に関する特別措置法」を施行して安心・安全への対応を図ってきている。こうした対応をより強化していくことによって、生産履歴の明らかな国産牛への期待はより大きくなると考えられる。
一方で食品を販売する小売業界では、専門小売店からスーパーなど量販店のシェアが高まりをみせている。さらに、近年ではスーパー業態間での競争も激化してきているそうした中で、食品について安全性を差別化商品として品揃え強化を図るスーパーもみられる。こうしたスーパーでは生産段階での生産履歴を消費者に開示することにより、安全性を訴求した商品の品揃えを行って、他店との厳しい販売競争に対応している店舗もみられる。このような近年の小売業界の対応の変化から、産地側との直接取引を推進するところもみられる。そこで、本稿では北海道で生産された肉牛と九州の食品スーパーとの北と南を結ぶ産直取引を事例に、その経緯と取引実態および取引を推進する上での課題を明らかにしたい。
1 JA士幌町・ホクレンとスーパーマルキョウとの産直取引の概況
(1)産直取引開始の経緯
しほろ牛の産直取引は、平成15年3月にホクレンを経由したJA士幌町とスーパーマーケット・マルキョウ(以下「マルキョウ」)によって開始された。マルキョウにおけるしほろ牛の産直取引は開始から日が浅い。ただし、ホクレンとの産直取引は以前から行われていた。マルキョウにおけるホクレンとの取引は、平成10年頃に釧路支所管内のホクチクファームとの産直取引が最初である。ただし、わが国でのBSEの発生が主に北海道であったため、マルキョウの経営トップから北海道産牛肉の取り扱い停止が食肉担当責任者に言い渡され、取引停止となってしまった。こうした経緯があったにもかかわらず、マルキョウ側で再度、北海道産牛肉の取り扱いを検討した背景には、関東を中心に店舗展開していた大手量販店が、福岡を中心に展開していた地元食品スーパーを買収し、進出したことがあった。これに危機感を抱いたマルキョウは、進出する大手量販店がアメリカ産輸入牛肉を中心に品揃えすることに対し、同程度以上のグレードをもつ国産乳用肥育牛の品揃えを強化しなければ競争に負けてしまうと考えたからである。こうした業態間での厳しい販売状況について、食肉担当責任者が経営トップに対して直接訴えかけたことにより、北海道産牛肉の取り扱いを了承された。こうして、国産牛肉の取引先について検討している中で、以前に取引のあったホクレンと北海道産牛肉の再取引が開始された。マルキョウ側が北海道産牛肉にこだわった背景には、取引が休止していた期間に、乳用肥育牛の仕入先として大手食肉加工メーカー、食肉問屋など3社から九州産牛肉を中心に仕入を行っていたが、仕入先により品質ととともに規格(ロースの芯の大きさなど)が一定せず、販売する上で消費者の不満を招くことにもなった。そこで、必要とする頭数を同一地域から、品質の一定な牛肉を手ごろな価格で供給する産地・銘柄牛として、JA士幌町のしほろ牛が候補として選ばれた。
しほろ牛は、従来からJA士幌町と食肉加工メーカーの吉田ハムとの取引がみられた。さらに吉田ハムは、中部関西圏を中心に販売していた。本事例の産直取引の特徴は、これまでの産直取引にみられた食肉加工メーカー、または全農を仲介とした産直取引ではなく、ホクレンが流通の中核となって生産側であるJA士幌町と小売側であるマルキョウとの取引ルートを結び付けたことである。ホクレンにとっては独自販売戦略の拡充としてのルート拡大を図る狙いがあった。また、JA士幌町でも従来、産直取引を行っていなかったことから、産直取引ルートの開拓による消費者側との交流を図る狙いがあった。こうして、生産側のJA士幌町と流通業者としてのホクレン、および小売業者としてのマルキョウを中核とした取引ルートが構築され、産直取引が開始された。
(2)産直取引の担い手と流通ルート
JA士幌町へ出荷するしほろ牛肥育農家は22戸で、育成牛を導入する肥育専業経営と初生牛を導入し、ほ育・育成、肥育する一貫経営がみられる。初生牛と育成牛はJA士幌町が仲介して導入される。しほろ牛は乳用雄去勢牛であり、出荷月齢は20カ月から21カ月齢である。出荷後は帯広市にある北海道畜産公社十勝事業所で、と畜解体が行われる。JA士幌町出荷のうち、吉田ハム向けは士幌町内の農協所有の食肉処理施設で部分肉にカットされ出荷される。ただし、マルキョウ向けは、ホクレンが枝肉形態でJA士幌町から購入するため、北海道畜産公社十勝事業所内のカット施設で部分肉に加工後、福岡市に向け出荷される(図1)。福岡市のマルキョウ精肉センターへは毎週木曜日に到着する。このため、と畜・解体は毎週月・火・水曜日、2日間貯蔵後の水・木・金曜日に部分肉にカット加工、翌週の月曜日にホクレン帯広支所を出発する。輸送ルートは、帯広市から室蘭市の室蘭港までは陸路、室蘭港からはフェリーで新潟県の直江津港に火曜日に到着、直江津から11t車または18t車で輸送するが、11t車は、直接、福岡市のマルキョウ精肉センターへ木曜日の朝に到着する。また、18t車による輸送では、水曜日にホクレン大阪支所(センター)で積み替え後に、福岡市のマルキョウ精肉センターへ木曜日の朝に到着するルートもあり、週に1回の輸送となっている。
部分肉は、福岡市のマルキョウの精肉センターに到着後、隣接する精肉パックセンターでパックされ、店舗に配送するものと、インストアーパックの店舗へ部分肉で配送するものとに分けられる。
商流については、初生牛と肥育素牛はJA士幌町を通じて導入される。肥育後のしほろ牛の取引は、ホクレンがと畜・解体後に枝肉形態での買い取る方法である。ホクレンは、部分肉加工後に、マルキョウへセット形態(Aセット、Bセット)で販売している。
しほろ牛の産直取引には、このようにほ育・育成牛農家、肥育牛農家、JA士幌町、ホクレンおよびマルキョウが関わっている。そこで、産地側であるJA士幌町と肥育牛農家、流通業者としてのホクレン、小売業者としてのマルキョウについて、それぞれの果たしている機能と役割について実態を明らかにする。
図1 マルキョウ向けしほろ牛の流通ルート
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注:JA士幌町、ホクレン帯広支所、ホクレン大阪支店およびマルキョウからのヒアリング調査により作成。
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2 しほろ牛を生産する肥育牛農家とJA士幌町の役割
本事例でのJA士幌町は、他の農協にみられた生産物の集荷と委託販売業務にとどまらず、多様な機能と役割を果たしている。そこで、産直取引を円滑に推進していく上でのJA士幌町の機能と役割をみてみよう。
(1)JA士幌町の機能と役割
士幌町は、全国的にも知られた酪農と肉牛の畜産と馬鈴しょ、てん菜、小麦、豆類などの畑作地帯である。JA士幌町の特徴を農協の事業案内からみると「農民資本を中心とした生産・加工・流通諸施設の機能を生かし、消費者に安心していただける産物の生産・供給を図る」ことを目指している点にある。この背景には、組合員の経営安定を目指し、農業という産業の基盤の安定を着実に積み重ねいくことがある。このため、畑作物加工施設として、具体的には馬鈴しょ加工処理施設(食品工場)、でん粉工場などの他に、本州にもポテトチップス・サラダ工場、消費地集出荷施設などを整備している。畜産施設としては、酪農団地(リース施設)、育成牛預託施設、肉牛飼育施設(肉牛肥育センター)、食肉処理施設(肉牛)などが整備されている。このように、農民の手による原料の生産・加工を重視し、生産から加工・消費までを合言葉に農業の近代化に努めているところに大きな特徴がある。
JA士幌町の平成14年度の販売高は、206億357万9千円であり、畜産関係は112億8,571万3千円と農協取扱高の54.8%と過半数を占める。畜産関係のうち、肉牛関係は45億1,468万8千円(21.9%)であり、その内訳は肉牛販売32億6,781万7千円(15.9%)、肉牛素牛販売12億4,687万1千円(6.0%)であり、肉牛販売は農協の販売・生産事業の大きな柱となっている。
平成14年度におけるJA士幌町の肉牛農家は27戸であり、うち肥育牛農家は22戸である。肉牛飼養頭数は3万1,478頭であり、乳用種は2万8,153頭、交雑種は3,325頭である。肥育牛の出荷頭数は年間1万6,076頭であり、このうち1万1,174頭を農協の食肉処理施設である士幌町振興公社で部分肉に加工処理し、部分肉形態で販売を行っている。それ以外の4,902頭が枝肉形態でホクレン向け販売となっている。
そこで、肉牛生産に関わる農協の役割についてみてみよう。第1に農協では肉牛育成農家と肥育農家への子牛と育成牛の導入事業を行っている。JA士幌町肉牛事業での平成13年度の初生牛導入頭数は13,836頭である。初生牛の導入先は、士幌町内酪農家から18%、JA士幌町から12%、管外農協から17%、家畜市場から51%であり、これらは、導入頭数の98%を占める。その他の2%は、育成・肥育農家による酪農家などからの相対取引による導入である(図2)。
図2 初生牛の導入ルート(平成13年度)
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注1:導入頭数には乳用牛の他に交雑種を含む。
2:肥育農家は、ほ育から育成、肥育までの一貫経営農家である。
3:JA士幌町におけるヒアリング調査により作成。
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導入後の販売先は育成農家へ40%、肉牛肥育農家(ほ育から育成・肥育までの一貫肥育経営)へ60%となっている。初生牛導入に当たっては、町内酪農家と毎週1回定期的に取引を行っている。また、管内農協と管外農協からの導入については、契約取引により定時・定量での安定集荷に努めている。次に育成牛の導入先は、先の初生牛販売先である町内育成農家から37%、ホクレンから14%、全酪連から10%、家畜市場から5%であり、これらは、導入頭数の65%を占める。その他の35%は、大規模肥育農家が直接、取引先との相対取引による育成牛の導入である(図3)。
図3 育成牛の導入ルート(平成13年度)
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注:JA士幌町におけるヒアリング調査により作成。
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肉用牛販売・生産事業の第2は、肉牛飼育施設(肉牛肥育センター)の建設と肥育農家への施設のリース事業である。この事業は昭和45年に開始され、平成5年までに18カ所(センター)設置されている。飼養規模は1カ所当たり最小で500頭から最大で3,500頭規模である。農協管内の肉牛飼育収容可能頭数は3万4,000頭であり、そのうち、18センターの収容可能頭数は2万3,000頭、個人所有施設の収容可能頭数は1万1,000頭である。JA士幌町が肉牛肥育センターのリース事業を開始した背景には、乳用雄子牛の肥育事業開始があった。規模拡大による施設投資の増大は、農家が離農した場合には膨大な負債となり、また、その後の施設の利用ができなくなることである。このため、施設への投資に伴うリスク負担を農協が抱えることにより、農家は肉牛の飼養管理に専念してもらうことにある。また、経営意欲のある農家に対して、規模拡大に伴う施設投資負担を軽減し、安心して頭数規模拡大を図れるよう支援していくためでもある。
肉用牛販売・生産事業の第3は、昭和62年の肉牛の食肉処理施設の建設である。平成3年には枝肉処理ラインを増設、平成6年には懸垂脱骨装置の導入を行い、1日当たり50頭の部分肉カットが可能な処理能力となった。処理施設を所有することで、販売先の要望に対応した規格部分肉製品を供給することが可能となり、販売強化を図った。
こうした肉用牛販売・生産事業の展開を図る上での、基本方針は、以下の8項目である。
(1)国内の食料供給として、酪農家から生産されている貴重な肉資源である雄子牛を最大限活用し、消費者の需要に応えるために肉牛生産を行う。
(2)安定的な牛肉提供を行うために、JAを中心に子牛の導入・肥育牛出荷及び肉牛生産を計画的に推進する
(3)牛肉の高級イメージを脱却し、より食卓に親しみやすい家庭用牛肉の提供を目指す。
(4)関係機関・JA・生産者が一体となり、生産技術を追求し、おいしく・旨みのある牛肉の提供を目指す。
(5)品質の安定した安全な牛肉生産のために、健康な牛作りをモットーとした飼養管理に努める。
(6)消費者が満足する牛肉を提供することにより、肉牛生産者の経営の継続と安定化を図る。
(7)酪農家と畑作農家との有機的連携をすることにより、共に資源の有効活用および農地と地域環境の保全を図り、また消費者・地域社会との共生を築いていくことを目指す。
(8)生産と食肉加工施設の機能を生かし、消費者と流通サイドの対話の中から、ニーズにかなう牛肉生産を目指す。
こうした基本方針に沿って、大規模肉牛経営を行っている西上加納農場を事例に、飼養管理の特徴をみてみよう。
表1 JA士幌町肉牛事業の初生牛導入先別頭数(平成13年度)
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単位:頭、%
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注:仕入頭数には乳用牛の他に交雑種を含む。
資料:JA士幌町資料により作成。
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表2 JA士幌町肉牛事業の育成牛導入先別頭数(平成13年度)
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単位:頭、%
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資料:JA士幌町資料により作成。
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(2)(有)西上加納農場グループ(1法人、2個人)の飼養管理の特徴
(有)西上加納農場グループは、昭和57年に有限会社として設立された。農場は、種子馬鈴しょ、てん菜、小麦、大豆などの畑作部門と肉牛肥育の畜産部門に管理責任分担が図られている。畜産部門は法人化以前の昭和46年に開始している(表3)。昭和54年には肉用牛舎5棟とほ育舎の増設などにより規模拡大を図ってきた。現在、常時飼養頭数は6,500頭、年間出荷頭数は3,000頭である。これを従業員6名と実習生2名で管理(ほ育・育成、肥育)し、飼料生産などにも従事している。
表3 西上加納農場グループの概況
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注:加納三司牧場におけるヒアリング調査により作成。
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西上加納農場における畜産部門の中核をなす加納三司牧場の生産形態は、初生牛を導入しほ乳・ほ育から育成、肥育までの一貫生産形態と育成牛を導入しての肥育生産形態である。飼養管理は0カ月から3カ月までのほ乳・ほ育期間、4カ月から6カ月までの育成期間、7カ月から10カ月までの肥育前期、11カ月から20カ月までを肥育後期とし、肥育後期をさらに11カ月から15カ月の期間と、16カ月から20カ月までの仕上げ期間に区分して行っている。
そこで、飼養管理段階別に飼養の特徴をみてみよう。飼養管理全体のポイントとしては、月齢ごとに発育・発達する部位が異なるため、月齢に応じた成長をしているかを日々チェックすることである。ほ育・育成段階には、その後の肥育段階に耐える健康で、丈夫な骨格と消化器を造ることを目指して管理している。肥育前期では体長・体高が伸びる欠点を是正し、肉付きの良いコンパクトで歩留まりの高い体型造りを目指す。また、育成段階から肥育前期までは粗繊維多給による第一胃内微生物の増殖・発酵が推進される環境を整え、肉質の向上、さらに採食量が伸びるはずの肥育中盤の採食を維持・持続させる。肥育後期には、脂肪交雑・肉色向上のため、ビタミンAコントロール(14カ月から18カ月齢時血中ビタミンA濃度を低めにコントロール)を意識する。こうした飼養管理の下に、肥育牛は終始一貫して健康で充分な栄養摂取が可能な飼養環境、飼養条件(飼料はバランスよく食べているか、発育状況はどうか、牛舎環境は快適なのか)を満たすように行っていくことを目指している。
(3)飼料給与と飼料調達方法
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飼養頭数6,500頭の西上加納農場グループ
肥育舎
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JA士幌町での飼養形態には士幌オリジナルの飼養パターンがみられる。ほ乳期間である0から1カ月齢ではA1からA4までの代用乳が4種類、0から3カ月齢ではB1からB4までの人工乳が4種類ある。育成期・肥育前期の4カ月から10カ月齢では、4カ月から6カ月齢が育成期飼料のC1、その後C2からC5が育成期・肥育前期飼料であり、合計で5種類ある。また、肥育前期の7カ月から10カ月齢では、D1からD4までの肥育前期用飼料がある。さらに、肥育後期の11カ月から21カ月齢にはE1からE8までの肥育後期飼料がある(ただし、E2は7カ月から21カ月齢の肥育前・後期飼料とE3は11カ月から15カ月齢の肥育後期飼料が含まれる)。JA士幌町管内の乳用肥育牛経営農家では、ほ育から肥育後期・仕上げ期までの各段階で上記の配合飼料(代用乳・人工乳を含む)の中から、肥育経営農家が個々に配合飼料を選んで飼料給与を行っており、農家により飼料給与の種類は異なっている。調査対象とした加納三司牧場では、ほ乳期(0から1カ月齢)のほ育期代用乳ではA4のカーフトップET、ほ育期(0から3カ月齢)では、ほ育期人工乳のB2のミルフードBフレークである。育成期(4カ月から6カ月齢)と肥育前期(7カ月から10カ月齢)では、育成期・肥育前期用飼料のC2のブランドビーフ育成用である。肥育後期(11カ月から21カ月齢)では、肥育後期飼料のE1の士幌ビーフ肥育後期飼料を給与している。同牧場での特徴は、育成期以降の肥育段階別に配合飼料と粗飼料の給与割合を変化させていることである。育成開始の4カ月齢では配合飼料78%に対し粗飼料22%、6カ月齢では段階の配合飼料77%に対し粗飼料23%である。肥育前期の7カ月齢では配合飼料60%に対し粗飼料40%、10カ月齢では段階の配合飼料63%に対し粗飼料37%、肥育後期には・仕上げ期配合飼料60%に対し粗飼料40%の割合である。このように、粗飼料は育成期、さらに肥育前期に給与割合が高まりをみせていることが特徴である。その理由としては、肥育前期に粗繊維(NDF)多給による第一胃内微生物の増殖・はっ酵が促進される環境を整え、肉付きの向上、および採食量が伸びる肥育中盤の採食を維持・持続させる狙いがある。このため、当牧場では肥育前期には粗飼料に占めるコーンサイレージの割合が粗飼料全体の65%から66%を占めていることが大きな特徴である。他の牧場と異なり、デントコーンの給与を可能としている背景には、デントコーンの作付面積として55haの飼料畑を所有していることにある。このことが、肥育前期に嗜好性の高い良質の粗飼料の多給を可能とし、その後の肥育後期における肉質向上のための、採食量の維持、穏やかな脂肪蓄積につながっている。また、同牧場では種子馬鈴しょ、大豆、てん菜、デントコーンなどの畑作と畜産の複合経営による環境にやさしい循環型農業を実践していることも特徴である。
3 マルキョウの機能と役割
(1)牛肉売場におけるしほろ牛の位置付け
マルキョウは昭和39年に株式会社丸共ストアとして設立され、福岡市博多区に1号店をオープンしている。2003年の店舗数はFC(フランチャイズ)店舗も含めると110店舗であり、出店地域は福岡県内を中心に山口県、佐賀県、長崎県への店舗展開もみられる。取扱商品は一般食料品、生鮮食料品を中心に、日用雑貨を取り扱う食品スーパーである。マルキョウでは「新鮮でよい商品を、より安く奉仕する」を経営理念に、安定した成長を遂げてきたスーパーである。顧客第一主義として、女性の社会進出に伴うライフスタイルの多様化に対応して、十数年前から早朝9時開店から深夜零時までの深夜営業を開始し、顧客へ利便性とともに良質の生鮮食品を提供している。こうした顧客第一主義は、生鮮品の仕入にも貫かれており、青果物と水産物は卸売市場で直接仕入を行い、流通過程での簡素化による仕入価格の低減と高鮮度の青果・鮮魚の仕入を行っている。食肉の取扱店舗数は99店舗であり、そのうち直営で食肉販売を行っているのは75店舗である。牛肉の種類別内訳は、ホクチクファームとの産直取引以前の平成9年における構成比は、和牛20%、乳用牛50%、輸入牛肉30%であった。その後、平成10年にホクチクファームとの産直取引開始に伴い、月間120セット(60頭分)の仕入を行うことによって、乳用牛が牛肉取扱数量の80%を占めるまでになっていた。平成13年のわが国でのBSE発生によって、ホクチクファームとの取引は停止され、平成14年度の構成比は和牛25%、乳用牛40%、輸入牛肉35%と乳用牛の大幅な減少に伴い輸入牛肉の仕入が大幅に増加することで対応していた。
再度、平成15年3月に北海道のしほろ牛の産直取引開始により、乳用牛の取り扱いは増加傾向にあり、5年先には乳用牛を50%へと平成14年に比べ10ポイント高め、これに対し輸入牛肉は10ポイント減少する計
画である。乳用牛の構成比を高める背景には、競合店の輸入牛肉の強化に対応して、乳用牛による国産牛肉の仕入を強め販売強化し対抗するためである。さらに、国産牛肉は生産者の減少がみられるが、乳用牛肉の大衆肉としての値ごろ感があり、また品質も良く安定しているためB−3を中心に消費者の需要も根強いことによる。このため、現在では乳用牛を100として、しほろ牛は87%と圧倒的に多く、しほろ牛が牛肉仕入の基本となっている。その他は長崎牛8%、単品部位5%の仕入がみられるが、季節別需要の調整分として補完的な仕入となっている。このように、マルキョウの牛肉売場におけるしほろ牛の位置付けは、極めて高く、産直取引への取り組みにも強い期待感が伺われる。
(2)産直取引の内容
しほろ牛の取引は、先に述べたようにJA士幌町とマルキョウとの直接取引とはなっていない。JA士幌町から年間出荷される約1万6,000頭の肉牛から、ホクレンがと畜解体後の枝肉形態で約5,000頭を個体毎に相対取引で買い取りを行っている。マルキョウ向けは5,000頭の中から、月間で50頭から60頭程度を販売している。ホクレンとマルキョウとの取引はフルセットでの取引である。取引数量については、1週間に1回、15頭の取引となっている。ホクレンとマルキョウの受発注システムについてみてみると、マルキョウの精肉センターには北海道から毎週木曜日にしほろ牛のセットが到着する。このため、発注数量は、前週の金曜日までに各店舗から上がったセット数を精肉本部で集計し、電話でホクレンに翌週分を発注するシステムである。ただし、通常のフルセット取引では半丸枝肉を部分肉加工したものであるが、ホクレンとマルキョウとのフルセット取引では、半丸枝肉のフルセットを、さらにAセットとBセットに二分割したセット形態での取引となっていることが大きな特徴である(表4参照)。このため、店舗からのセット数の発注はAセットとBセット別に分けた発注となっている。マルキョウが二分割したセット形態での仕入を行っている理由には、単品部位別仕入では一つの部位を大量に仕入るとなると、仕入先が多岐になるため品質にばらつきがみられることから、消費者の信頼が得られないことがある。さらに重要なことは、各店舗での若いチーフバイヤー、サブバイヤーがセット仕入を行うことによって、各部位からの商材づくりとともに、売場づくりを行っていくことが売上を伸ばすためにも必要との考え方によるものである。ちなみに、調査時点での福岡市内の店舗におけるしほろ牛の商品数は57アイテムあり、店頭には14アイテムの品揃えがみられた。こうした、各店舗ごとの商材づくりと売場づくりを行わせて、各店舗のチーフバイヤーに売価設定の決定権を持たせている。このため、マルキョウの店舗であっても、店舗により売場の商材と売価は異なるケースもみられることになる。以前はAセットとBセット別の仕入れ発注も各店舗のチーフバイヤーに任せていたが、AセットとBセットのどちらかに片寄りがみられたことから、現在では本部の指示により各店舗へAセットとBセットを交互に配送している。なお、品質等級については、B−2とB−3の仕入れ割合は決定権を各店舗のチーフバイヤーに持たせている。この背景には、店舗数が多いため各店舗立地により顧客層が異なることから、それぞれの店舗の顧客の所得層や年齢層にあわせて、B−2主体、またはB−3主体に仕入れる店舗が多くみられるためである。
表4 AセットとBセットに含まれる部位
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注1:○印はAセットまたはBセットに含まれている部位。
2:△印は部位を2分割にし、AセットにもBセットにも含まれている部位。
3:マルキョウにおけるヒアリング調査により作成。
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また、従来のホクチクファームとの取引における半丸枝肉からのフルセットは14部位であったが、しほろ牛では1日で売り切れる重量での分割になっているため21部位と、さらに小割分割部分肉となっている。
一方、産直取引での取り決めとして、牛肉の品質等級がみられる。当初の取り決めでは、B−2は70%、B−3は30%の構成割合での取引となっている。調査時点でもB−2とB−3との構成割合に大きな変化はないといわれている。ただし、九州は和牛の産地でもあることから、店舗のバイヤーからの要望として肉の色とサシの入りからB−3の構成比を高める要望が聞かれる。この問題は産地側での肥育月齢の延長と関連する問題を含むことから、今後の課題と考えられる。
また、従来の産直取引における大きな問題として、フルセット取引での不需要部位の処理問題が挙げられる。通常の産直取引では産地側と小売側との間に、食肉加工メーカーや全農が入り、不需要部位についてはこうした中間の流通業者が販売対応を行い、必要とする部位のみの部位別取引が多い。ただし、しほろ牛の取引ではホクレンからマルキョウへの販売形態がセット販売であるため、マルキョウでは不需要部位の問題に対して、先に述べたように各店舗のバイヤーの多様な商材づくりによって各店舗で対応を図っている。ただし、一方でマルキョウでは最低必要とする一定数量をセット仕入で行い、季節毎の不足部位を単品部位での仕入で対応している。とくに、夏期は手切りの焼肉商材としての「うちもも」と「ランプ」、冬期のスライスの合わせ肉すきやき用商材としての「そとひら」と「ばら」などである。
今後、不足部位については、新たな北海道産の乳用肥育牛の仕入で対応する考え方がみられる。これに対して、産地側でどのように対応していくかが課題である。
4 ホクレンの機能と役割
従来の産直取引には産地側である生産者、単協・経済連と生協、スーパーなど小売側の他に、食肉加工メーカー、全農などが流通業者として代金決済、季節別の部位別需給調整機能などの業務を行っているケースが多い。本事例では、産地側である生産者、単協と小売側であるスーパーの他に、ホクレンが流通業者の担い手として重要な役割を果たしていることが大きな特徴である。また、食肉加工メーカーや全農が流通業者として介在せず、生産者から小売側までの流通過程の短縮が図られていることも特徴である。そこで、産直取引を円滑に推進していく上でのホクレンの機能と役割をみてみよう。
これまで農協系統の産直取引では全農
が流通業者として介在していたが、本事例ではホクレンのみが流通業者としての役割を担っている。この背景には、ホクレンから全農への委託販売頭数が徐々に減少し、ホクレンが独自の直販を行ってきたことが挙げられる。本事例では大阪支店がマルキョウとの取引窓口となって日々の取引業務を行っている。さらに、東京・大阪支店が二大消費地にあることから、取引先の他にスーパー・小売業者などからの情報収集を行い、産地側へ伝達するとともに、こうした消費者ニーズ、小売販売状況などの情報収集の分析・検討から今後の販売戦略の構築と販売ルートの開拓に役立てている。
ホクレンの産直取引での基本的な役割は、生産側と販売するスーパー側とを結び付けることにある。現状では、スーパーからのしほろ牛受発注の窓口と代金決済業務を行っている。また、マネキンによるしほろ牛の販促活動もマルキョウの店頭で行われている。
さらに、近年のBSE問題、鳥インフルエンザの発生、偽装表示問題などの発生により、食の安心・安全に対する消費者の厳しい目が向けられている。このため、ホクレンでも「トレーサビリティーシステム導入とHACCP管理方式導入」に向けた取り組みが開始されている。生産者は消費者に適切な生産情報の提供が求められているためである。とくに、個々の出荷牛毎に添付される生産履歴を作成するためには、飼養管理体系と飼養牛の管理記録などのデーター作成と整備が必要である。こうした、生産側の情報と共に、と畜解体施設と解体処理方法、部分肉カット工場と加工方法、パック包装などを含めた生産・加工工程の全般にわたる、生産から流通までの履歴についての情報開示を行うことが生産者とホクレンに求められている。今後、産直取引を推進していく上でホクレンに求められる最も重要な機能と役割の一つと考えられる。
5 しほろ牛の展開方向と課題
マルキョウにおける北海道産の乳用肥育牛の取り扱いは、ホクレンを通じたホクチクファームとの取引からであった。当時、乳用牛の取り扱いは牛肉全体の80%を占めるまでになっていたが、平成13年のわが国でのBSE発生に伴い、取引は停止された。そして、平成15年3月にマルキョウ精肉部責任者の経営者トップへの直訴によってホクレンを通じたしほろ牛の産直取引が開始されたわけである。
産直取引後にホクレンの販売促進活動の一環として、全店でのマネキンを入れての販促を行ったが、消費者に「士幌町」という地名は知られていなかった。また、消費者からは、なぜ遠い北海道の牛肉を九州で販売しなければならないのかとの声も聞かれたと言われている。マルキョウ側では、消費者に対して必要とする一定の頭数を安定して供給できる国内産地は北海道しかないと答えている。マルキョウではしほろ牛を大衆肉として、定番商品であるロースを100g当たり498円で販売している。このため、仕入に当たって品質の安定、とくに肉の色と肉のきめ・しまりが一定であることを条件としている。しほろ牛はロース芯が大きく、また肉の色が九州の消費者に好まれる色である。さらに、大衆肉としての手頃な価格帯であること、また肉のきめ・しまりがよいことから安定した販売量で推移し、店舗によってはすでに一定の固定客がみられ現在に至っている。
今後の課題としては、取引開始時点に設定された等級構成割合、「B−2は70%、B−3は30%」である。九州は和牛の産地でもあることから店舗のバイヤーからはサシの入るB−3への要望が高い。一方、精肉本部の責任者は、品質が少し高いB−3よりも、品質の安定した牛肉を一定量、安定的に供給できればB−2でも良いとの考え方も聞かれる。それは、消費者からみて今週は品質の良い牛肉があっても、次週に品質の悪い牛肉が売場に並べられていれば、しほろ牛の品質そのものに疑いも持たれてしまうためである。このため、一定の品質の牛肉を安定的に供給していくことが産地側に求められている。一方で、B−3への要望の高まりは市場取引価格の変動によっても変化するが、今後、店舗バイヤーからB−3への要望は強まるものと考えられる。こうした小売側からの要望を受けて産地側では乳用牛去勢肥育牛の肥育期間を従来の18カ月齢から、20カ月齢、さらに21カ月齢へと期間の延長を図っている。また、産地側ではそれに伴う配合飼料代などの生産費の増大が増体量と品質の向上に見合うだけの取引価格となっていないことを問題として取り上げている。このことは、本事例での産直取引の開始当初に両者間で打ち合わせが行われていたが、その後の調整が行われていないためとも考えられる。こうした産地側と小売側(本部と店舗バイヤーと話し合いを含め)とのしほろ牛に対する取り組み、取り扱いへの微妙な考え方の違いを解消するためにも積極的な交流を図る必要がある。とくに、産直取引を行うメリットは生産者と小売および消費者と直接に話ができることであり、そこでのお互いの考え方・取り組み方を話し合うとともに、理解し合うことが重要であり、今後の大きな課題である。
一方、小売側であるマルキョウにおいては産直取引におけるセット仕入対応が課題となっている。先に述べたようにセンターパックで各店配送が35店舗、インストアーパック対応店舗が40店舗である。牛肉の商品特性として鮮度が最も重要視されることから、インストアーパックに全面的に移行する考え方が聞かれる。現在、各店舗から本部への発注は前々日の午後2時30分までにEOS発注(オンライン受発注システムによる発注)で行われている。各店舗からの発注を受けて、前日に包装パック作業が1日中行われ、その後、当日の午前3時から午前10時までに各店舗へ配送されている。パック製造が前日の夜午後12時前のパック包装であるなら、製造日付の関係で販売は翌日と翌々日の2日間のみとなってしまう。センターパックの推進は人件費削減ができることが大きな理由であったが、加工日付の問題から深夜にパック作業を行うため、人件費の高騰と深夜労働者の確保の問題が発生している。このため、マルキョウではインストアーパックに全面的に移行する計画であるが、インストアーパックになると、安易な商品づくりに走り、そのことが単品部位での仕入に移行することを危惧される。このため、フルセットでの仕入を維持するためにも各店舗のチーフバイヤーの商品づくりが最も重要となる。このため、各店舗のバイヤーの商品づくりを行う技術の向上を図ることがセットでの産直取引を推進するための大きな課題である。
こうした問題点と課題はあるとはいえ、マルキョウの牛肉売場ではしほろ牛を基本的な品揃え商品として位置付けて販売を行っている。また、補完仕入としての単品部位の仕入についても北海道産の牛肉部分肉仕入を希望しており、産直取引への拡大が期待されている事例である。
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マルキョウ志免店(福岡県下)にて(右端が筆者)
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