◎専門調査レポート


生産振興

TMR供給組織による資源循環型酪農の構築

九州大学大学院農学研究院
助教授 福田 晋


1.はじめに

 自給飼料基盤に立脚した畜産経営の推進が政策課題に掲げられて久しい。しかしながら、畜産農家戸数の減少もあって、自給飼料面積は容易に増えない状況である。そのような中で、すでに、個別経営主体の自給飼料拡大という方向からスケールメリットを生かした共同化、受託組織利用という方向は、新たな自給飼料拡大の路線として確実に根づいてきているようである。

 中でもコントラクターは、その組織や受委託形態はさまざまであるけれども、その組織数と面積を年々増大させている。しかしながら、そのようなコントラクターにおいても農作業時期の集中による周年的な作業の確保、受託農地の分散と部分的な作業受託の限界により、スケールメリットが発揮できないなどの問題が出ている。

 
  TMR供給組織について語る組合長の大橋清春氏(右)と筆者


 部分作業受託や受託農地の分散という課題を克服するためには、委託者サイドが揃ってまとまった農地をコントラクターに預けて飼料生産を代行してもらうという方法が考えられる。いわば、飼料生産自体の委託である。さらに、コントラクターが、濃厚飼料なども含んだ酪農家にとって望ましいTMR(完全混合飼料)※を供給してくれる飼料供給組織に発展すれば、より酪農家のメリットは増大するはずである。

 本稿で取り上げるのは、以上のような課題を実現した飼料供給組織であり、その展開過程と意義について考察する。

 調査分析の対象となるのは、岩手県金ヶ崎町の「金ヶ崎町効率的飼料生産組合」とその発足から運営に当たって密接な支援体制をとっている岩手ふるさと農協である。岩手ふるさと農協は、平成10年7月に岩手県南部、北上川中域に位置している水沢市、前沢町、金ヶ崎町、胆沢町、衣川村の管内の農協が合併した組合員数18,312人の広域農協である。調査の対象となる飼料生産組合の設立には、合併前の旧金ヶ崎農協が大きく関与している。というのも合併農協の市町村でわかるように、管内には、酪農の金ヶ崎、繁殖の前沢町、肥育の胆沢町というように畜産の中でも特化した主産地があり、独自の動きがあったからである。

金ヶ崎町効率的飼料生産組合


2.飼料供給組織設立の背景・経緯と金ヶ崎町効率的飼料生産組合の設立

(1)飼料供給組織設立の背景

  戦後の入植による金ヶ崎町の酪農経営は、県内でも専業農家が多く(現時点で54戸)、農地面積が豊富であったため、土地利用型酪農を推進してきた。しかしながら、規模拡大に伴う労働力不足は、個別経営レベルにおける粗飼料生産の限界感をもたらし、購入粗飼料の増加につながっていった。また、昭和40年代に金ヶ崎町内でパイロット事業を実施し、1,000ヘクタールの牧草地造成を行っている。飼料生産組合を組織化し、補助事業による大型機械を購入して土地利用型酪農に挑んだが、継続している組織は少ない。未熟な草地利用技術や補助事業導入のための無理な組織化などが背景にあったと言われている。

  しかし、やはり自給粗飼料を基盤とした酪農は、土地の有効利用、ふん尿処理の上からも必要であり、旧金ヶ崎農協が中心となって再度共同化、組織化をベースとした自給飼料生産体制を構築しようと推進してきた。

  そのような中にあって、平成9年頃、粗飼料生産体制とTMR供給体制とを一体化させた組織を構築しようという構想を農協サイドから提案している。当初、酪農家の関心は低く、何度もTMRのメリットを説くなど話し合いを続け、TMRを導入している先進地の視察も行った。

(2)金ヶ崎町効率的飼料生産組合の設立

  農協の広域合併があった平成10年後半に3カ年計画の酪農アクションプランを作成し、デントコーン生産を主体としてTMR供給センターの整備を盛り込んで、ようやく3戸(表2の農家番号1番から3番、経産牛飼養規模は、それぞれ38頭、50頭、130頭)が導入に賛同したため、平成11年に3戸で「金ヶ崎町効率的飼料生産組合」がスタートしている。

  ただ、11年度の当初事業計画では12戸、680頭の規模であったために、段階的に時期を分けて整備していくと言う構想に切り替えられている。つまり、11年度から農協が事業主体となり、畜産振興総合対策事業の単年度事業で3ヵ年の整備を継続して行った(表1参照)。平成11年に飼料混合機、フォークリフト、ホイールローダー、トラック、コンテナを整備し、12年からデントコーンの共同収穫作業を開始している。

表1 岩手ふるさと農協によるTMRセンター設置に伴う施設・機械整備状況
(単位:千円)
出典:調査時聞きとりによる

  当初の3戸のTMR利用実績に学んで参入者が増え、結果的にはこの単年度整備が奏功している。12年度にはバンカーサイロを2連建設しているが、参加農家の増加によるデントコーン栽培面積の増加に対応するために13年度にはさらに3連設置し、自走式のフォーレージハーベスターも導入している。この時点でデントコーンの栽培面積は54ヘクタールになっているが、さらに14年にバンカーサイロを3連増設して面積は70ヘクタールに拡大、16年現在93ヘクタールまで拡大している。現在の組合員は10戸に増加しており(表2)、組織は、組合長、副組合長の下に刈り取り班(3名)、運搬班(随時数名)と詰込み班(3名)があり、それぞれ班長の下に飼料生産共同作業に当たる。TMR作業は雇用労働力のみで賄っている

 
 
TMR供給センター外観


  ところで、組合の規約の目的には、「この組合は、粗飼料生産及び混合飼料の調製・供給を行うことで、安定的生乳生産を確立し、組合員経営の安定と所得の向上を目的とする。」とあり、実施する事業として1粗飼料生産に関すること、2混合飼料調製・供給に関すること、3施設運営管理に関すること、4環境問題に関すること、5その他必要な事項が挙げられている。目的と事業内容からこの組合の業務が粗飼料生産とその利用調製・供給の2つに分かれることが理解できる。従来の飼料生産コントラクターは、部分的、全面的作業受託の相違はあっても、個々の委託農家の飼料生産の作業にかかわるのみであった。この組合は、粗飼料の生産・調製のみならず、混合飼料という加工製品を供給する点が特徴である。さらに加えて、その粗飼料の生産段階では組合員の農地を組合に集積して、あたかも組合の農場のように意思決定を行って集団的に共同で作付け、収穫を行っている点に特徴を見いだすことができる。都府県には農協などが投資したTMRセンターが設置されている事例が散見されるが、これは粗飼料部分が購入飼料であり、国内自給飼料に依存していないケースがほとんどである。そのような中にあってコントラクターの意志決定の下に効率的な飼料生産を行い、受託農地が分散してしまうという問題も克服し、なおかつ酪農家の需要に合ったTMRを供給するというある意味で究極の飼料供給組織となっていると言える。

  農協が所有権を持つTMR施設は、組合長の土地を借り上げて設置し、機械とともに組合に貸し付けると言うシステムをとっており、JAは減価償却、償還を行う一方、組合は利用料金を農協に支払っている。つまり、現段階ではなるべく組合の資産を持たせず身軽な組織としたい意向がうかがえる。そして、組織が軌道に乗ってきた段階で(10年後)徐々に資本装備を充実させていく計画である。また、組合の財務処理などの支援は設立期から現在までJAが行っており、将来的には若い後継者層が事務処理を管理して自立する方向である。

表2 構成組合員の経営概要(平成16年)
(単位:頭、ha、人)
出典:調査時聞きとりによる


3.粗飼料生産・混合飼料の供給システムと組合の運営

 初年度は組合員各自でデントコーンを栽培していたが、14年から組合で責任を持って共同生産を行っている。15年からは10アール当り4,000円で組合員の農地を借り上げ(契約期限なし)、93ヘクタールのデントコーン栽培面積(4月〜10月)を行っている。

 デントコーンの共同生産過程は、2人が収穫作業に従事し、4人がTMRセンターに隣接するバンカーサイロに搬送、そして別の4人がサイレージの踏み込み、鎮圧に当たっている。このように通常10人体制で収穫調製作業を行っており、5人の組合員と外部雇用オペレータ5人で回している。つまり、組合員はローテーションを組んで組合作業に当たっている。雇用オペレータは、町内酪農家1名、町外酪農家1名(埼玉在住、金ヶ崎に農地所有)、ヘルパー3名という構成である。昼食時に必ずミーティングを行い、翌日の作業調整、意見・情報交換を行うことを日課としている。ロールベールサイレージよりもバンカーサイロを利用する方がサイレージの品質もよく、生産コストも安く上がっている。

 このように、デントコーンは作業の共同化が行われているが、牧草については、各自生産して、ロールベール調製したものがTMRセンターに持ち込まれている。したがって、牧草サイレージ100ヘクタールの共同化とデントコーン−牧草の輪作方式が次のステップと言える。14年度からはバンカーサイロを利用した共同のサイレージ生産が試験的に行われている。

 
自走式フォーレジハーベスターとトラックの共同作業
 
  平成12年に設置された720m3のバンカーサイロ


 利用機械については、収穫には6条刈り自走式ハーベスター(JA所有)、1条刈り直装式ハーベスタ−(農家所有)、運搬にダンプ2トン 車5台、4トン 車(リース)1台、テッピングワゴン1台、フォレージワゴン3台、トラクター3台、詰め込みにホイールローダー2台(1台はリース、他にもリースあり)というように、組合員の機械持ち出しやリース対応を取りながら固定資産保有を極力避けていることがうかがえる。

 デントコーンの栽培にかかわる勘定は、総生産コストからキログラム当たりの単価を算出し、「各農家の使用量×単価」で農家が支払うべき金額が算出される。この金額から農家に支払うべき費用項目(労賃(出役時間自己申告)、農家が提供する機械リース料金、燃料代、地代)を差し引いた残額を農家が支払うことになっている。

 一方、TMR作業については、オペレータ4名(40〜50歳代、3名は稲作農家)を、年間雇用しており、月間の出勤日数に応じて月給支払いをしている。調製されたTMRは、毎日、コンテナまたはトランスバッグで農家の庭先まで配送し、農家からTMRの原料となるロールサイレージをセンターへ持ち帰り、センターと農家間の輸送効率を上げている。

 4人のオペレータは、ローテーションをしながら年間就業体制(福利厚生、保険つきで24日の休暇あり)をとっており、就業時間は8時から15時30分まで(1時間休憩あり)となっている。このオペレータの作業は、オペレータによってミキシング状態に差があるほど熟練度を要し、臨時やアルバイトで対応できない専門職と位置づけることができる。とりわけ、現状の牧草サイレージ調製は、個別ロールサイレージだけの農家4戸、個別ロールとバンカー併用3戸、バンカーのみ3戸というようにばらつきがあるため、農家ごとに牧草ロールの内容が異なり、それに応じてミキシング対応が異なるという問題を抱えている。バンカーサイロへの一斉転換が課題であるが、当該組合に加入していない農家との共同作業でロール体系を採用している農家もあり、過渡期の克服しがたい問題となっている。

 組合の財務管理は4つに分類されている。1デントコーンの播種から収穫調製までの共同生産段階の費用を扱う勘定2TMRセンターの人件費及び光熱費などの勘定3TMR施設・機械のリース料勘定4TMR製造における購入飼料費勘定である。これらのうち、生産段階の勘定については先述したとおりで、残りの3つのTMR勘定とは独立させている。そして、TMRにかかわる3つの勘定について、組合長名で毎月請求して精算している。このTMRに関する勘定処理は、毎月2万円でJAに委託している。デントコーン生産勘定、TMR勘定ともに組合としては、収支ゼロで運営できる体制となっており、現時点では無理のない財務となっている。

 ところで、この飼料生産組合は、単独で構成酪農家の飼料供給を行っているわけではない。つまり、図1に示すように支援機関との緊密な連携がある。まずJAは、施設・機械所有や資材供給はもちろんのこと、会計などの処理を行い、さまざまな情報提供を行っている。さらに、組合と専属契約を行っている獣医師が飼料分析などTMR生産と構成農家の飼養牛のチェックに全面的にかかわっている。また、従来から存続する普及推進検討委員会が、技術面、運営面の指導、アドバイスに当たっている。このように、地域酪農の存続に欠かせない存在となっている当該組織は、支援組織として関連機関の指導を受けながら離陸中という位置づけができよう。



 一方、組合員の畜舎から排出されるふん尿については、93ヘクタール分の組合員農地にたい肥として散布される。この散布労働については、デントコーン生産に携わるヘルパー2名と他の1人を活用している。従って、当然のように自給飼料基盤に立脚した10戸の酪農家は、この組織を通して資源循環型酪農を実践していることになる。


4.飼料供給組織のもたらす2つの効果

 当該飼料組合が機能し始めたことによって1自給飼料生産コスト低減の効果と2TMR給与の効果が生じている。

 まずの第1には、自給飼料生産の共同化によるコスト低減効果である。旧金ヶ崎農協の時代から作業の共同化や組織化に取り組んできたが、その組織が数戸単位のものであったため、機械装備、労働力などの制約要因のために面積規模の限界、作期幅が短く熊の食害にあったなどの理由で、デントコーン栽培が減少し、牧草のロールラップ体系に転換しつつあった。しかし、10戸の農家の農地集積と大型機械を利用した共同作業により作業効率も上っている。ちなみに、共同生産にかかわるほ場距離は半径2.5キロメートルで、現有機械装備で平均7〜8ヘクタール/日、最大で10ヘクタール/日の作業効率であり、むしろ、運搬面が制約となっている。これによりデントコーンの拡大と低コスト化が実現された。

 デントコーンの生産コストについては、平成13年54.9ヘクタールでキログラム当たり8.95円、平成14年61.9ヘクタールで同13.75円(労賃6.8円、資材費5.38円、地代1.57円)、15年79.6ヘクタールで同11.33円となっており、従来の当該地域でのデントコーンの標準的なコスト水準のキログラム当たり15円を大きく下回っていることがわかる。

 第2に、TMR給与の効果である。TMR給与体系に代えて乳量、乳質ともに影響を与えている。牛群検定を行っている6戸について、TMR利用開始前の13年と開始後の14年の1日1頭当たり乳量を比べると、4戸で乳量が増加し、平均日量が25.8キログラムから27.0キログラムへ増加している。また、無脂固形分についても13年と14年を比較すると、農家番号1番から8番全戸で成績が向上し、8戸の平均値は8.68%から8.82%へ上昇している 。 i )

i )この数字は農林水産省16年度全国飼料増産戦略会議「自給飼料の活用に係わる優良な取組」(資料)より引用している。


5.要約と今後の課題

 当該組織では、当面、生産段階においては、作付全面積の借り上げや労働賃金、機械借り上げ料の見直し、雇用の拡大の課題を抱えながら、生産費のさらなる低減、調製技術の向上を目指している。中長期的には、現在の10戸の構成員の規模拡大計画を見定めて1、000頭規模のTMR施設設置構想がある。さらには組合員の入会希望は現在もあり、組合としての資材共同購入やほ場作業のスケールメリットを追求するために、組合員の増員を計画している。そして、当初の計画通り、この飼料生産組合を法人化することが将来的な課題である。

 当該組織は、委託農家が自ら受託組織を形成した共同組織とも理解できる。しかし、コントラクターの生産上の課題を飼料生産受託、農地集積という形で克服した点が最も評価されるべきである。そして、それ以上に、農家のニーズにあった形で、技術的なアドバイスも仰ぎながらTMRという最終飼料製品を供給しているという点が評価できる。

 
 
青刈トウモロコシの収穫風景


 今般の食料・農業・農村基本計画の見直の中間論点整理において、コントラクターが畜産経営のサービス支援の担い手として位置づけられており、それは大変評価できることである。しかし、そのサービス事業体自体が如何なる経営が可能かという点が次に問われなければならない。そのような意味においても、部分作業・分散農地の受託という生産面の課題を飼料生産受託という点で克服し、農家が利用しやすく、しかも乳量・乳質に好影響をもたらすTMR供給を安定的な経営の下で運営している当該組織は見習うべき点が多い。そして、当該組織から学ぶべき点は、コントラクターも不特定多数の委託農家との契約取引をするのではなく、ある基準や目的に基づいた農家に限定した受託構造とすべきということである。それは、飼料生産の効率化に向けた農地の集積、栽培様式、飼料供給のあり方など多様な基準、目的があろう。コントラクターと畜産農家が相互の経営にとって望ましい一定の条件を契約事項として取り決め、その上でのサービスを提供するという環境形成を構築すべきである。おそらく、そのような取り決めを「契約」できるコントラクターと畜産農家が将来ともにわが国の自給飼料基盤に立脚した担い手となるであろう。

 ※TMR(total mixed ration)牛の飼料として濃厚飼料とともにサイレージ、生粕類、乾草などを適正な割合で混合し、必要な物理性を保ちつつ、粗飼料因子のほか、栄養的に必要な養分を補給できるようにした飼料をいう。(「飼料ハンドブック」(社)日本科学飼料協会より)


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