1.はじめに
「食品循環資源の再生利用等の促進に関する法律(以下「食品リサイクル法」という。)」が平成13年5月に施行された。この法律は、製造・流通過程における事業系の加工残さ、食べ残しなどの食品に由来するもののうち、リサイクル可能なものを「食品循環資源」として位置づけ、家畜飼料や肥料などへの有効な利用を促進することなどを目的としている。
この法律では、事業活動に伴って食品廃棄物などを年間100トン以上発生させる食品製造業、食品流通業、飲食店業などを食品関連事業者として位置づけている(捕そく率は全体の6〜7割程度と見込まれている)。また、基本方針では18年度までに再生利用など(肥料化、飼料化、油脂および油脂製品、メタン化)の実施率を20%に向上させることが目標としている。
農林水産省によると、15年度における食品産業における食品廃棄物などは年間1,134万8千トンとなっている(注)。このうち、食品循環資源の再生利用率は、食品産業全体では前年に比べ4ポイント増加し49%となっている。再生利用への仕向けは肥料40%(前年度37%)、飼料34%(同36%)、油脂および油脂製品3%(同5%)、メタン0%(前年同)と肥料向けは前年度より増加しているものの、飼料向け、油脂および油脂製品は逆に減少した。
(注)調査対象は、食品産業は、1食品製造業、2食品卸売業、3食品小売業、4外食産業2,517事業所(回答2,149事業所)である。
すなわち、食品産業における食品廃棄物などのうち、飼料としてリサイクルされているのものは全体の約17%に過ぎず、その多くは焼却や埋立て処分されているのが現状である。食品循環資源の飼料化に当たっては、食品関連事業者において、分別の高度化、品質管理の徹底が求められるとともに、利用者である畜産経営体は、成分バランスの調整と安定供給の確保が課題となる。
このような中、大規模に飼料給与に液状給与方式(リキッドフィーディング)を取り入れたリサイクル養豚に取り組んでいる有限会社ブライトピック千葉の飯岡農場を訪れる機会に恵まれたのでその概要を報告したい。
表1 食品廃棄物等の年間発生量および再生利用など
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(単位:千トン、%)
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資料:農林水産省統計情報部「平成16年食品循環資源の再生利用等実態調査」
注:1)の業種別については、食品産業計の年間発生量を100とする構成比である。
2)は、食品廃棄物などの年間発生量に対する割合である。
3)は、再生利用への仕向量に対する割合である。 |
2.リサイクル飼料を利用したリキッドフィーディング
リキッドフィーディングは、オランダ、ドイツ、フランスなどのヨーロッパにおいて普及しており、食品加工産業から出る小麦やポテトのでんぷんかす、ビールかす、パンくず、ホエイなどの食品残さや副産物をベースに栄養調整処理したスープ状の飼料給与方式をいい、配合飼料の使用量を減少できるメリットがある。ヨーロッパでは、配合飼料メーカーがリキッドフィーディングへの参入を行っており、配送や付随するサービスを含めたシステムが定着している。
リキッドフィーディングは、食品加工産業および配合飼料メーカーにとっては、1食品産業における廃棄物として処分されている食品循環資源を有効活用できること、2焼却や埋立処分の規制強化への対応策として地球環境保護につながることなどの利点があると同時に、養豚生産者にとっては、1発酵処理などでpHを酸性に保つため、豚の消化器管内を良好に保つことができること、2豚舎の粉塵がなくなり、豚の呼吸器系の疾病予防となること、3安価な資源を利用することができ、飼料費を軽減できることが挙げられる。
このことから、大量の食品廃棄物を焼却などで処分し、かつ、配合飼料の大部分を輸入に依存しているわが国にとって、リサイクル飼料利用の更なる推進が求められている。
3.リキッドフィーディングの事例―有限会社ブライトピック千葉飯岡農場
(1)概要
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リキッドフィーディングの給じ器
中央の青い棒がレベルセンサー
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千葉県海上郡飯岡町にあるブライトピック千葉飯岡農場は、台地状の地形に立地し、周囲には養豚農家が多く、畑作地帯でもある。敷地面積は3万5千平方メートルで8年に工事に着手したものの、埋蔵文化財包蔵地であったため、基礎を地上に置くなど時間と費用を要し、11年に完成した。なお、ふん尿処理施設には約3億円を投じており、その償却コストは、豚1頭当たりで2,000円、枝肉1キログラム当たりでは30円に及ぶ計算となる。
飯岡農場は、ブライトピックとして千葉県下で3番目の農場であり、現在、母豚1,100頭規模(LW×D(3元交配)種)となっており、11名(中国人研修生を含む)が従事している。15年4月から食品残さを利用したリキッドフィーディングに取り組み始めた。
また、コマーシャルSPF農場の認定を受けており、豚舎に出入りする際には、従業員、外来者を問わず全員シャワーを浴び、下着から帽子まですべて専用の作業着に着替えることを義務付けするとともに、豚舎へ持ち込むものはすべて紫外線の照射による殺菌が行われる。また、肥育豚房は、オールイン・オールアウト方式で、出荷後、消毒と乾燥を徹底している。
(2)飼養管理
ア 分娩・ほ育
人工授精による妊娠が確認され母豚は、分娩の5日前に分娩舎へ移動され、離乳は25日齢を目標としている。
産子数は10頭前後であるが、生まれて数時間のうちに自分専用の乳房が決まり、その乳しか飲まなくなるということであった。
雄は生後すぐに去勢される。この方がストレスが少ないとのこと。生後25日ごろまで分娩豚舎で飼育され、その間、エサに慣らすため子豚用の配合飼料を粉じで給与している。
離乳1週間前くらいに、母豚ごとの仕切りを取り外し、2〜3腹の子豚を交流させ「仲良しグループ」を作る。
イ 離乳・育成
子豚は生後25〜26日齢、体重7キログラム程度で離乳され、離乳舎へ移動させる。70日齢、30キログラムを目標として育成される。
「仲良しグループ」の中で大きさをそろえて子豚舎の各豚房へ入れられる。最初の10日間は、分娩豚舎で使用していた粉じを水に溶かし、練りエサとして給与する。暖をとれるよう母豚の代わりとしてマットによる床暖房を入れている。
ウ 肥育
その後、徐々にリキッドフィード(後述)に切り替えるとともに、肥育ステージに合わせて配合内容を3段階に分け、肥育後期には脂肪過多にならぬよう配慮している。従って、個々の食品残さの栄養成分を調査した上で、肥育ステージに合せて成分調整するほか、リキッドフィードには水分が含まれているので、水は与えない。1日10〜12回、合計3時間、コンピュータ管理の下に自動給与される。給じ器にレベルセンサーが設置されており、余りがある場合は給与されない仕組みとなっている。
エ 出荷
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出荷間近の肥育豚、中央の赤い目印がついた個体は、明日出荷予定
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現在は、体重108〜109キログラムで出荷しているが、115キログラムを目標としているそうである。翌日出荷する豚は、1頭ずつ目検で体重、仕上がり状態を確認して、背中に赤い丸印をつけている。450〜500頭/週が出荷されている。
(3)食品循環資源の利用
受け入れ対象の食品残さは、パンの耳、牛乳をはじめとしてドーナツ、うどんなどの麺類、ヨーグルト、アイスクリーム、ゆで卵、納豆など非常に多岐にわたっている。
これら各種の食品残さに牛乳、水などを混ぜて専用の攪拌機で攪拌、混合し、乳酸発酵させたものをベースに、肥育ステージに合わせた配合飼料を加え、ミキシングタンクでさらに攪拌、混合してリキッドフィードが完成する。完成したリキッドフィードはスープ状のまま各豚舎に設置されている給じ器へと送られる。なお、これらはコンピュータにより管理が行われる。
特に豚はヨーグルトや牛乳が大のお気に入りとのことであった。
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牛乳を攪拌しながら乳酸発酵させる
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パン工場から運び込まれたサンドイッチ用のパンの耳
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原料となる食品残さは、工場や店舗から直接搬入されており、安全面から異物混入に最も注意が払われている。搬入された原料は、劣化が進む前に速やかに処理が行われていた。各原料は、混合する前に成分検査を確実に行う必要があるが、季節などによる受け入れる食品残さの種類や量が異なるため、リキッドフィーディングを行うためには、各種の栄養成分を調整する技術や専用の攪拌機をメンテナンス出来る技術が不可欠となっている。現在、リキッドフィードの原料は60〜70%が食品残さ、30〜40%が購入配合飼料ということであった。
リキッドフィーディングの特徴としては、
1 パン、牛乳など各種の食品残さを飼料として安価に利用できるため、コスト削減につながる。(食品リサイクル法の規定により食品残さを買取って利用している。)
2 加熱処理をしないので、熱に弱い栄養素の損失がない。
3 できた飼料は水分を多く含んでいるので、飼料の他に水を与える必要がない。
4 リキッドフィーディングに使用するパイプラインは、給餌後清水で洗浄するとともに、週に1回アルカリ洗浄を行うため衛生的である。
などが挙げられる。
一方、その課題としては、
1 飼料を集中管理し、自動給じすることから、原材料以外のものが混入しないよう、食品残さの受け入れには細心の注意を払う必要がある。
2 品質的、量的に安定した原料供給先を確保することが必須条件である。
3 各原料の成分分析や機械のメンテナンスなどの技術者が必要不可欠である。
などが挙げられる。
ところで、ブライトピック千葉は、リキッドフィーディングのドイツ製のものを13年に第一農場(千葉県山田町)で初めて導入した。飯岡農場では、よりプラントがシンプルでリサイクル飼料の比率を高められる可能性が高いオランダ製のものが導入されている。また、飯岡農場にほど近いブライトピッグ銚子農場でも同様にオランダ製のものが導入されている。
銚子農場は、肥育豚5,000頭が飼養されており、子豚は系列農場から導入する肥育専門農場である。ブライトピッグ銚子農場の石井場長は、リキッドフィーディングの製造技術を持っており、ここに別会社の(有)日本リキッドを新たに立ち上げ、銚子農場で生産したリキッドフィードを他の農場へ販売、配送を行っている。
なお、銚子農場では、敷料におがくずを混合し、発酵させたものを敷料としてリサイクルしている。さらに、たい肥状の敷料を使用することで、豚にストレスを与えないという長所もあるということであった。
4.おわりに
現在、「食の安全、安心」が消費者の一番の関心事となっている。したがって、高品質な豚肉を作ることはもちろんのこと、安全な豚肉生産のための飼料の安全性確保は重要な課題となっている。従って、環境にやさしいリサイクル飼料と言えども、安全性や品質が確保され、安定的な供給体制を整備する必要がある。これを担保するためには、食品循環資源を生み出す食品産業とこれを利用する養豚農家の間における安全性確保や品質維持などでの相互理解や協力体制の確立が不可欠となっている。
なお、食品循環資源の飼料へのリサイクル利用は、今回報告したリキッドフィーディングだけでなく、乾燥飼料として乾熱乾燥方式、加熱減圧乾燥方式や発酵乾燥方式なども行われている。いずれにしても「食品リサイクル法」の趣旨に沿った食品循環資源の肥料などへの有効活用の必要性はますます高まることは間違いないと考えられる。このような中、畜産、とりわけ養豚産業の果たす役割は最も重要な部門の1つとして期待されている。
(有)ブライトピック代表取締役の志澤社長は、神奈川県で農事組合法人高座豚手作りハムを立ち上げ県内の養豚農家とともに本物のハム作りなどを通じて消費者との対話を欠かさない。「養豚農家というより豚肉を作っているんだという意識を常に持ち続けている」という言葉がすべてを物語っているようで非常に印象的であった。
本調査に当たり、志澤氏をはじめ坂井飯岡農場長、石井銚子農場長ほか多くの職員の方々にお話をうかがうことができた。この場を借りてお礼申し上げたい。
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