◎今月の話題


畜産環境保全のさらなる取り組みに向けて

財団法人 畜産環境整備機構 理事長 本田 浩次

 家畜排せつ物法(「家畜排せつ物の管理の適正化及び利用の促進に関する法律」)が11月1日に完全施行された。この機会に、財団法人畜産環境整備機構(以下「機構」という。)のこれまでの環境対策に関する取り組みと今後の課題について記してみたい。

施設整備の推進

 昨年の農林水産省の総点検を踏まえた計画によれば、平成12〜16年度の5年間に、2万7,900戸の畜産農家が本格的に家畜ふん尿処理施設を整備し、そのうち、1万5,300戸は、個別の農家が独自に対応するとしている。(図1)

図1 総点検をふまえた施設設備計画
資料:農林水産省生産局畜産部
 注:各数字の末尾2ケタは四捨五入したもの

 機構では、主に、個々の畜産農家が行う施設の整備について、補助付きリース事業で支援している。この事業は畜産農家からの要望が極めて強く、農林水産省では16年度予算で大幅な増額を図った。私どもも、この予算の円滑な執行に全力で取り組んできたところであり、今年度予算を含めて、12〜16年度の間に、個別農家の施設整備計画の3分の2程度は、補助付きリース事業によって整備されるものと見込んでいる。主な施設、機械のリース額別の割合は、たい肥舎、発酵舎などたい肥関係の施設が6割強、バーンクリーナー、かくはん機、スプレッダーなどの機械類が4分の1弱、そのほかが浄化槽、貯留槽などの汚水処理施設で、たい肥関係が中心となっている。


アドバイザーの養成と低コスト技術の開発普及

 機構では、家畜排せつ物法の施行に伴い、畜産農家の実態に応じて、技術的な指導、助言ができるアドバイザーを緊急に養成するため、最新の畜産環境技術について研修を行った。(図2)11年度から現在まで、都道府県、市町村、農協の職員や農業改良普及員など延べ5千人余が研修に参加し、約3,300人を畜産環境アドバイザーとして認定した。

図2 畜産環境アドバイザーの養成
(平成11年度〜平成16年8月)
資料:16年8月20日現在 財団法人畜産環境整備機構
 注:複数の研修を受けた者もいるため受講者数は延べ人数。
 実人数は計3,306名。

 また、この間、畜産環境対策関係の投資が増えたこともあって、企業、大学などでたい肥の生産や汚水処理からバイオガス発電まであらゆる分野の研究が活発化し、関係技術は、まさに日進月歩で進歩している。機構では、現場に密着した低コスト技術の開発のため、企業や大学に助成するとともに、その成果の公表、普及に努めている。また、付属の畜産環境技術研究所(以下「研究所」という。)では、各研究機関などと連携して、現場で活用が見込める独自の研究を行っており、こうした中で、たい肥の熟度を測定する簡易測定器(コンポテスター)を開発し、その普及を図っている。また、民間で開発されたいわゆる在野技術について検証、評価する事業に着手するとともに、メタン発酵技術に関しては、消化液の脱窒、脱色法など簡易で低コストな技術の開発を進めている。

堆肥の熟度器「コンポテスター」

家畜排せつ物の有効利用の促進

 家畜排せつ物法は、家畜排せつ物を適切に管理することと、これを有効に利用することとの2つの柱から成っている。いよいよ家畜排せつ物の有効利用を促進することが正念場を迎える。たい肥の有効利用を進めるためには、第1に、わが国の畜産は主産地が偏在しているので、たい肥の全国レベル、地域レベルの需給の把握と調整が必要であり、第2には使い手が使いたいと思うような良質のたい肥を供給することが肝要である。

 このことから、13年3月に発足し機構が事務局を務めている「全国堆肥センター協議会」では、堆肥センター機能強化推進事業(図3)に取り組むとともに、たい肥センターでのたい肥の生産流通の実態を調査し、地域におけるたい肥の需給状況を正確に把握し、優れた利用事例の収集とその普及に努めている。また、リース事業によって整備した施設についても、規模の大きなものを中心に、その施設の管理状況やたい肥の利用状況を調査し、地域において、出来るだけたい肥が有効に活用される方向を見出していきたい。さらに、良質なたい肥の生産については、研究所の調査研究事業を通じて、たい肥の品質のチェックを行うとともに、堆肥センターやリース対象農家とも協力して品質の改善に寄与したいと考えている。特に、今後は、畜産環境アドバイザーが技術的な知見を生かして、それぞれの地域でたい肥の有効利用を進める中核となって活躍出来るよう、どのような場で、どのような役割を果たせるかなど、その活用方策について検討する必要があると考えている。

図3 堆肥センター機能強化推進事業の事業実施フローチャート

畜産環境保全の取り組みに向けて

 家畜排せつ物法が検討されていた当時、家畜排せつ物を適切に管理することは畜産農家にとって何の得にもならないマイナスの投資ではないかという意見が多かった。しかし、私が昨年5月から機構で仕事をするようになり、各地の畜産農家を訪ねると、「マイナスではなく、プラスの面も大いにあった」「環境対策をきちんとやったら、息子が跡を継ぐことになった」などという話を聞くことが多い。これは、予想されたことで、もともと環境対策をしっかりやっている畜産農家は、経営も優れているのが一般的である。畜舎が衛生的だと、家畜にとっても居心地が良く、健康にも良い。ふん尿をたい肥化して牧草地にまくと良い牧草が出来る。これを牛に食べさせれば、肉質や乳質が向上し、乳量もアップする。この結果として経営改善に結びつく。また、主要畜産地帯では、従来から、ゆとりある畜産経営のため、酪農ヘルパーやコントラクターが活用されているが、今後はコントラクターが牧草地だけでなく、家畜排せつ物の管理も行うなど、環境対策に関連して新しいビジネスが生まれるきっかけになるのではないかと思う。

 このように、家畜排せつ物法の完全施行は、畜産環境技術の進歩と相まって、これまで厄介者だった家畜排せつ物を資源として有効利用することにより、わが国の畜産が元気になる契機と成り得るのではないかと期待している。


ほんだ こうじ

プロフィール

1968年 農林省入省
97年 農林水産省 食品流通局長
98年 農林水産省 畜産局長
00年 地方競馬全国協会 副会長
03年 (財)畜産環境整備機構 理事長


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