◎調査・報告


若い女性において牛乳・乳製品摂取は体脂肪量(率)を減少させうるか?
〜(社)全国牛乳普及協会
   「平成14年度牛乳栄養学術研究会委託研究報告書」から〜

辻学園栄養専門学校中央研究室
教 授 広田 孝子、越山 香里、楠 知子、友兼 泉


要 旨

 世界的な増加傾向にある肥満は、体脂肪が過剰に蓄積された状態であるため、体重が多くとも筋量が多い状態を意味しない。他方、若年女性の平均体重は年々減少傾向にあり、減量するために栄養価の高い食品を摂ることを避け、拒食症の増加傾向すらある。彼女達の目標となるのは単に体重を減少させることであり、体脂肪量の減少を目的としていない。また、体脂肪量を正確に測定することは技術的にも困難である。そこで今回、唯一体脂肪、筋量、骨量、骨密度をそれぞれ正確に測定できる2重エネルギーX線吸収法(DXA法)を用い、若年女性の体重に占める体脂肪の割合を調査し日常の食生活との関係を観察した。中でも、栄養価が高いため、若年女性には太る食品として敬遠される傾向の強い牛乳・乳製品の摂取を子どもの頃までさかのぼり調査した。

 対象者は18〜24歳の女子専門学校生で、身長、体重、体格指数(BMI:kg/m2)は、国民栄養調査成績の同年代の日本人平均値と同様の値を示した。しかし、牛乳・乳製品摂取量においては対象者が高値を示した。体重が平均未満にもかかわらず、体脂肪率が平均を超えた対象者は32%を占めた。また体重が平均未満の者の体脂肪率との相関因子は、小学校の給食を残す、子どもの頃から牛乳摂取習慣のなかった、中・高校生時に運動歴が少ない、インスタント食品の摂取量が多い、卵、果物摂取が少ない等であった。また、平均体重未満で、加えて牛乳・乳製品摂取カルシウム量が200mg/日未満の者は、以上の者より体脂肪率が有意に高く観察された。

 そこで、全対象者の牛乳・乳製品摂取カルシウム量の相関因子を観察すると、骨量、骨密度、運動量の他、大豆、魚、肉、卵摂取、果物、海藻摂取と正の相関が、インスタント食品摂取、外食、欠食回数などとは負の相関が観察された。また、子どもの頃の牛乳摂取習慣のなかった者において、体脂肪率が有意に高かった。体重が平均以上の者では、牛乳・乳製品摂取量と体重、体脂肪との相関は見出されなかった。

 以上のことより、子どもの頃からの牛乳摂取習慣を持ち、牛乳・乳製品を十分摂る食生活は、体重や体脂肪を増加させない。むしろ、低体重(平均体重未満)の者においては体脂肪率の低下、筋量や骨密度の増加に関わっている可能性が示唆された。


緒 言

 若い女性のやせ願望はとどまるところを知らない。標準体重または健康保持のための体重を認識せず、モデルやタレントのようにやせることが美しくなることと誤認している。マスコミもこれら若年女性のやせ願望を強く助長し、種々のエステややせ薬、サプリメント、グッズなどの市場は益々拡大している。

 ヒトの美しさは言うまでもなく健康であることにより裏づけられている。にもかかわらず、真の美しさを理解できず、減量のために食事を抜いたり、栄養価の低い食品を偏って食べ続け、栄養バランスの悪い食生活をおくる若年女性が多い。例えば、吸収効率の高いミネラル類やビタミン類、良質のたんぱく質がバランス良く含まれている牛乳・乳製品は、太る食品として認識される傾向が強い。牛乳、チーズを敬遠する若い女性によく出会うが、その理由として、「太るから」と答える。しかし、最近のYC. Linらの研究によれば1)、乳製品からカルシウムを摂ることにより、減量あるいは体脂肪の減少が観察されている。社会人の男性スポーツ選手を対象とした研究においても、日常及び運動トレーニング後、牛乳を摂取した者の方が体重や体脂肪量の増加が少なく、かつ筋量と骨量の増加がより多く観察されている2)

 若い女性の体重意識は強いものの、体脂肪や筋肉、骨量など体重を構成する体組成分については無関心なことが多い。例えば、体重減少を目的とした時、体脂肪は減少しているのか、筋肉量や骨量は保持できているのか、このためには適切な食生活や運動はどのようにあるべきか等、全く考慮されない。そのため若年女性の体成分の実態は、体重は低くても体脂肪率(体脂肪量/体重)が高く筋肉量の少ない者が増加している可能性が高い。これは最近の若い女性達の体重減少傾向があるにもかかわらず3)、胴回り(ウエスト)は増加しているとの報告からも察せられる。

 そこで今回、若年女性において、太る食品として認識されがちな牛乳・乳製品の摂取を過去から現在まで調査し、体脂肪量、筋量、骨量、骨密度とどのように相関があるのか、精度の高い2重エネルギーX線吸収法(DXA法)による体組成分析を行って検討した。


対象者と方法

対象者

 大阪市内の専門学校に通う18〜24歳の女子学生285名のうち、低体重者(平均体重より15%以上低い)20名と、過体重者(平均体重より20%以上高い)32名を省いたおよそ標準体重範囲内にあると考えられる233名を対象とした。

全身または部位別の体脂肪、筋肉、骨量、骨密度の測定

 2重エネルギーX線吸収法(DXA法;Lunar社製 DPX)により、全身または各部位別(胴、脚、腕)の体重、脂肪、筋肉量、骨量および、腰椎(L2-L4)、大腿骨近位部(頸部、ワード三角、大転子部)の骨密度を測定した。

過去から現在にわたる食事及び運動、身体状況の調査

 学童期から現在にわたる食生活、運動などのライフスタイルおよび初経、月経歴など身体状況をアンケートまたは聞き取り調査により行った。なお、1日当たりの乳製品カルシウム摂取量は、牛乳、チーズ、ヨーグルトの週当たりの摂取量と摂取頻度から計算した。

統 計

 統計処理はSPSS 9.0J for Windowsを用い、2群間の差の検定はt検定、また多群間の検定はone way ANOVAで行った。危険率5%を有意水準とした。なお、表中の数字は平均値±標準偏差により表した。

結 果

1.対象者の体格、体組成

 対象者233名の身長、体重、BMIの平均値は平成12年国民栄養調査成績3)における日本人20歳の平均値とほぼ同様の値を示した(表1)。しかし、対象者の乳製品摂取量は国民栄養調査成績の20歳代の平均値に比べかなりの高値を示した。

 DXA法で測定した対象者の体重、体脂肪量、体脂肪率、筋量、骨量の分布を図1〜5に示す。体重の分布は平均値をピークとする左右対称の正規分布ではなく、低体重者の割合が高かった(図1)。対象者を平均体重により2群に分類したところ平均体重より大きい者は、平均体重より小さい者に比べ身長、BMI、体脂肪量、体脂肪率、筋量、骨量、骨密度(腰椎、大腿骨頸部)が高かった。しかし、牛乳や乳製品摂取量では体重による差が認められなかった(表2)。また、体脂肪率分布を平均体重による2群間で比べたところ、体重が平均未満の者でも体脂肪率が平均を上回る者は1/3(32%)を占めた(図6)。

表1.対象者の特徴

表2.平均体重により分類した対象者の特徴
*p<0.05、**p<0.01、***p<0.001

図1.対象者の体重分布

図2.対象者の体脂肪量分布

図3.対象者の体脂肪率分布

図4.対象者の筋量分布

図5.対象者の骨量分布

図6.平均体重による体脂肪率分布


2.体脂肪率の相関因子

 体脂肪率との相関因子を対象者の平均体重で2分し観察した(表3)。平均体重未満の者においては、体脂肪率は筋量、身長と負の相関が、体脂肪量、BMI、体重と正の相関が観察される他、小学校給食の残食、インスタント食品摂取と正の相関を示し、卵、果物摂取、子どもの頃からの牛乳摂取習慣、運動歴とは負の相関を示した。平均体重以上の者の体脂肪率は、全身骨量、夜食回数、運動歴と負の相関が観察された(表3)。


表3.体脂肪率との相関因子
*p<0.05、**p<0.01、***p<0.001

3.牛乳・乳製品摂取カルシウム量の相関因子

 牛乳・乳製品摂取カルシウム量との相関因子を観察すると、全身骨量、骨密度(大腿骨頸部)の他、子どもの頃からの牛乳摂取習慣、大豆、肉、魚、卵摂取や果物、海藻摂取、運動量と正の相関が、インスタント食品、外食、欠食回数と負の相関が観察された(表4)。


表4.牛乳・乳製品摂取カルシウム量との相関因子
*p<0.05、**p<0.01、***p<0.001


 次に、牛乳・乳製品摂取カルシウム量により対象者を2群に分類すると、牛乳・乳製品摂取カルシウムが1日当たり200mg以上の者は200mg未満の者に比べ体重、身長、BMI、体脂肪、筋、全身骨量は変わらないものの、骨密度(大腿骨頸部)は5%の高値を示した(表5)。

表5.牛乳・乳製品摂取カルシウム量による対象者の特徴
*p<0.05、**p<0.001

4.牛乳・乳製品摂取カルシウム量と体脂肪率と筋量

 対象者を平均体重により2分し、その中でさらに牛乳・乳製品摂取カルシウム量により分類すると、平均体重未満の者で牛乳・乳製品摂取カルシウム量が高い(200mg/日以上)者ではカルシウム量が低い者(200mg/日未満)に比べ、体脂肪量、体脂肪率が有意に低く(表6、図7)、骨密度(大腿骨頸部)が高かった。身長、体重、BMI、全身骨量は変わらなかった。


表6.平均体重と牛乳・乳製品カルシウム量により分類した対象者の特徴
平均体重未満
 
平均体重以上
*p<0.05、**p<0.001

図7.平均体重と牛乳・乳製品カルシウム量と体脂肪率と筋量


5.子どもの頃の牛乳摂取習慣と体脂肪率

 学童期に牛乳摂取習慣のなかった対象者は36名いたが、牛乳摂取習慣のあった者との間で身長、体重、 BMI、体脂肪量(率)、筋量、全身骨量、骨密度に差は見出されなかった(表7)。これらの対象者を平均体重で分類すると、平均体重未満の者の中で、子どもの頃の牛乳摂取習慣のなかった者は、牛乳摂取習慣のあった者に比べ体脂肪量、体脂肪率ともに有意な高値が観察された(表8、図8)。


表7.子どもの頃の牛乳摂取習慣により分類した対象者の特徴
NS

図8.子どもの頃の牛乳摂取習慣と体脂肪率と筋量

表8.平均体重と子どもの頃の牛乳摂取習慣により分類した対象者の特徴
平均体重未満
 
平均体重以上
*p<0.05

考 察

 世界的に急増している肥満は、生活習慣病など数々の慢性疾患の危険因子となる。肥満の定義は、身長に対して体脂肪が過剰に蓄積した状態であるため、実際に体脂肪量を測定することが肥満の最良の判定法となる。しかし、正確に体脂肪量を測定することは実質的に困難で、ほとんどの場合、体脂肪量を間接的に推測する方法をとっている。現在最も広く利用されている体格指数(BMI:kg/u)は、単に身長に対する過体重を判定するもので、過体重が体脂肪によるものか筋肉の発達によるものかは判定できない。総じて、肥満は豊かな社会状況を背景とし、豊富な食物供給や運動不足などの因子が関与している。このような豊かな社会では、特に若い女性の間に過体重に対して文化的に否定的な考え方が強くなり、日本でも若年女性の体格指数は年々減少傾向にある3)。今回、若年女性を対象とし、高度医療に用いられる精度の高い2重エネルギーX線吸収法(DXA法)により、体脂肪、筋量を測定し、体重に対する正確な体脂肪の割合を求めた。そして過去から現在にわたる食生活や運動がどのように体脂肪率に影響を与えているのか、相関因子を検討した。

 最近のYC. Linらの報告1)によると、米国人において高い食事のカルシウム摂取量は体重や体脂肪を減少させるという2年間の前向き研究結果が示された。今回、我々は18〜24歳の女子学生233名を対象とし、まず後ろ向き研究を行った。その結果、体重が平均未満の者において、小学校の給食を残したり、子どもの頃から牛乳摂取習慣のない者、インスタント食品をよく摂る者に体脂肪率は高く、卵、果物摂取の多い者、中・高校生時に運動歴のある者に体脂肪率は少なく現れた(表3)。体重が平均以上ある者では、運動歴以外は体脂肪率とこれら食生活の相関は観察されなかった(表3)。そして体重が平均未満の者で、牛乳・乳製品をよく摂る(カルシウム≧200mg)者に、また、子どもの頃に牛乳摂取習慣のあった者にも体脂肪率が低く表れた(図7、8)。これらのことから、体脂肪率の低下と牛乳・乳製品摂取の増加が相関する可能性が示唆される。牛乳・乳製品摂取量と相関があった因子を観察すると、大豆、肉、魚、卵、果物、海藻摂取であり、インスタント食品、外食、欠食頻度とは負の相関が認められた(表4)。即ち、牛乳・乳製品摂取をよく摂る者は、欠食、外食、インスタント食品が少なく、良質のたんぱく質、ビタミン、ミネラルの豊富な食品をよく摂り、栄養バランスのとれた良好な食生活をおくっている可能性が高いことが推測される。また、牛乳・乳製品摂取と運動量とが相関したことからも、食生活のみならず運動習慣など良好なライフスタイルを送っていることも推測される。そしてこれらは、現在だけでなく子どもの頃からの牛乳摂取習慣からも裏づけられる(表3、4、6、8)。

 今回の結果からは、牛乳・乳製品摂取量と体脂肪率の低下との相関が観察されたのは体重が平均未満の者に限られた(表6、8、図7、8)。平均体重未満の者にのみ体脂肪率と子どもの時の学校給食の残食、牛乳摂取、現在のインスタント食品摂取、卵、果物摂取など食生活と体脂肪率との相関関係が観察された(表3)。これらのことから、体重の低い者ほど食生活が筋肉や脂肪量などの体組成に影響を与えるのではないかと推測される。これまで体脂肪とは余分なエネルギーが蓄積されるものと考えられていたが、今回の研究から、体重が平均を上回る者とは異なり、低体重で食生活が良好でない者に体脂肪はより多く蓄積される可能性が示唆され(表6、8)、これは、不適切な食生活、ライフスタイルによる筋量の減少を反映したものか、あるいは、生理学的な脂肪蓄積による何らかの生体防御システムによるものか更なる研究が必要である。またこの研究で、牛乳・乳製品摂取カルシウム量が過去から現在にわたる良好な食生活や食習慣を反映することが明らかとなり(表4)、加えて、低体重者(平均体重未満の者)において牛乳・乳製品摂取による体脂肪量(率)の低下が観察された(表6)ことは意義深い。また、これまでの報告4)、5)にもあるように、牛乳・乳製品摂取カルシウム量は体重の大小にかかわらず大腿骨頸部骨密度上昇に明確に影響を与えている結果が示された(表4〜6)。

 以上のことから、子どもの頃から牛乳・乳製品を十分摂取することは、体重、体脂肪量を増加させる可能性は少なく、むしろ骨密度を増加させ、低体重者の体脂肪量(率)を減少させる可能性がある。この点については前向き研究を行い、確認せねばならない。

[参考文献]

1)Lin YC, Lyle RM, McCabe LD, McCabe GP, Weaver CM, Teegarden D. Dairy calcium is related to changes in body composition during a two-year exercise intervention in young women. J Am Coll Nutr. 2000; 19(6): 754-760.
2)広田孝子, 今井奈保子, 越山香里, 楠知子, 村田斉潔, 濱田健次郎。社会人アメリカンフットボール選手において練習直後の牛乳摂取を伴った栄養指導は疲労回復や競技力向上に有効であろうか。平成13年度牛乳栄養学術研究会委託研究報告書, 2002: 199-211.
3)健康・栄養情報研究会編: 国民栄養の現状, 平成12年厚生労働省国民栄養調査結果. 2002; 第一出版, 東京.
4) Hirota T, Nara M, Ohguri M, Manago E, Hirota K. Effect of diet and lifestyle on bone mass in Asian young women. Am J Clin Nutr. 1992; 55: 1168-1173.
5)広田孝子, 廣田憲二. 骨粗鬆症の環境要因 -栄養と骨粗鬆症-. CLINICAL CALCIUM. 2000; 10(12): 14-22.


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