★ 農林水産省から


わが国の肉用牛経営
のあり方について
〜「肉用牛経営に関する懇談会」から〜

生産局畜産部 畜産企画課 経営指導班課長補佐 頼田 勝見


 わが国における肉用牛生産は、国民への良質なタンパク供給源として大きく貢献するとともに、農業総生産の増大や地域農業の発展を通じた地域経済活性化への寄与、国土資源の有効活用等に大きな役割を果たしてきた。

 一方で、食料の安定供給、地域の農畜産業の持続的発展および多面的機能の発揮に関連して、国内肉用牛生産部門が国民から求められる役割は多様化し、かつ重要性を増している。

 こうした状況を踏まえ、(社)中央畜産会は、農林水産省とも協力しつつ「肉用牛経営に関する懇談会」を設置し、平成14年10月から8回にわたり、各地域や分野において肉用牛生産に関わる方々の御意見を伺いながら、今後の肉用牛生産および肉用牛経営のあるべき姿について議論を行った。その議論を踏まえ、懇談会として今後のわが国の肉用牛経営のあり方についてとりまとめが行われた(15年10月公表)ので、以下にその内容を紹介する。




1、わが国の肉用牛生産が果たす役割

(1)国産牛肉の安定供給

 今後、わが国における少子・高齢化の進展、デフレの継続、健康志向の高まり等により、牛肉需要全体の拡大のペースは緩やかになると予想されるが、食生活の一層の高度化およびBSEの発生を契機とした安全性指向の高まり等を背景に消費者に対し安全で高品質かつ合理的な価格で、国産牛肉を安定的に供給することが求められている。

(2)食料の安全保障および多面的機能の発揮

 草食動物である肉用牛は、基本的に人間の利用できない資源である草を主な飼料とする家畜であり、自給飼料生産を通じて国土・自然環境を保全するとともに、中山間地域や離島を中心とした条件不利地域等に多く賦存する未利用資源を有効活用し付加価値を生み出す産業として地域の活性化に寄与するなど、肉用牛生産は食料安全保障や多面的機能の観点からも非常に重要な役割を担っている。

2.わが国の肉用牛生産における 3つ課題およびその対応方策

【課題1:国産牛肉の堅調な需要に応じた安全・安心な牛肉の供給の確保】

 ポイント

 近年、消費者の食肉に対する安全性志向が高まる中で、国産牛肉トレーサビリティシステム確立等により、国産牛肉への需要の回帰が生じつつある。

 今後、国産牛肉に対する信頼を堅持しつつ、合理的な価格で提供する努力を通じて、その堅調な需要に応じた安定的な供給を図ることが必要である。

○対応策

 食品表示制度やトレーサビリティシステム等の公正かつ適切な運用により、消費者の信頼を確保することを大前提として、消費者の多様なニーズに的確かつきめ細やかに対応して国産牛肉の安定供給を図る必要がある。

 このため、価格面で最も輸入牛肉に近い乳用種牛肉については引き続き国産牛肉資源として有効に活用し、比較的気軽に購入できる手ごろな価格の国産牛肉の供給を目指すとともに、黒毛和種については、おいしい国産牛肉としての安定的な供給を目指し、交雑種による補完も含め供給量の確保を図ることにより、全体として国産牛肉供給の量を確保していくことが重要である。

 さらに、放牧主体の粗放的飼養管理に適性のある褐毛和種や日本短角種等の地方特定品種については、産直システムや履歴JAS等の表示制度を最大限活用し、特定ニーズの開拓や積極的な販売の促進を図ることが重要である。

【課題2:肉専用種繁殖基盤の維持・拡大】

 ポイント

 わが国における肉用牛の生産構造をみると、肉用子牛の55%が乳用種雌牛から、45%が肉専用種雌牛から生産されている。乳用種については、1頭当たりの乳量の増大に伴い乳用種雌牛頭数の大幅な増加は期待出来ないことから、乳用雄子牛の増加には限界がある。したがって、肉用子牛の安定的な供給を確保するためには、肉専用種繁殖基盤を維持・拡大する必要がある。

 このためには、(1)担い手の育成・確保、(2)優良種畜の確保、(3)土地基盤・粗飼料等の確保、すなわち「人、牛、草」という生産に不可欠な3つの要素を確保していくことが肝要である。

【課題2−1:肉専用種子牛生産の担い手の育成・確保】

 ポイント

 肉専用種繁殖基盤を強化するためには、一定以上の規模を有し経営感覚に優れた生産者を地域内の中核的担い手として育成する必要がある。

 この際、現に繁殖基盤のかなりの部分を支えている高齢・小規模農家についても、経営が維持できるよう、地域内の分業体制の構築等を通じて労働負担の軽減等を図る必要がある。

 また、肉用牛生産の持続的な発展のためには、新規就農の促進、水田地域や酪農地域等における新たな産地作りも進める必要がある。

 近年、農業経営や地域の組織的取り組みにおいて女性がより一層重要な役割を果たすようになってきており、担い手となる女性組織の活性化を図ることも重要である。

○対応策

(1)中核的な担い手の育成

 一定以上の規模を有し経営感覚に優れた生産者等が地域の中核的担い手となり、必要に応じ地域内に存在する高齢・小規模経営や飼料生産を行う耕種農家等に対し必要な情報提供や技術指導を行うことにより指導的役割を発揮するとともに、地域内の畜産農家や耕種農家が、農協等による作業の外部化組織や、ヘルパー、コントラクターといった作業委託システムに参加することを通じて、中核的担い手を支える環境を整えるといった形が望ましい。

 この場合、中核的担い手となる経営を育成するため、その経営の合理化および高度化を進めるためには、以下のような取り組みを進めるべきである。

 (1) 繁殖雌牛のステージ別の群管理、超早期離乳、哺乳ロボット、遠隔自動発情発見装置等の新生産システム・技術等を組み合わせた大規模かつ効率的な生産体系の導入の促進

 (2) 他作目との複合経営が多い繁殖経営において、繁殖部門に対する施設等への新規投資のリスク低減や他作目との労働力の調整による経営の合理化を図るため、複数の複合経営における繁殖部門の協業法人化の促進

 (3) 計画的な繁殖雌牛の導入や哺育・育成等の外部化等による安定的な繁殖雌牛飼養規模の拡大の促進

 (4) 肥育経営による繁殖雌牛の導入等による経営内一貫生産への移行の促進

(2)高齢・小規模経営の維持

 わが国の肉専用種繁殖部門は、その相当部分が依然として高齢・小規模の複合経営によって担われているため、(1)とともに、以下のような取り組みを進めることによって労働負担軽減等のための環境を整え、需要に見合った供給の基盤を確保するために必要な経営が維持できることが重要である。

 (1) ベビーステーションやキャトルステーションによる子牛哺育・育成、または、繁殖雌牛管理の外部化・共同化の促進

 (2) 市場出荷や飼料調整作業等の一部受託による労働負荷軽減のため、肉用牛ヘルパーやコントラクターによる支援体制の強化

 肉用牛生産における自然循環機能の維持増進を優先させた取り組みや、高齢者や他産業からリタイアした者など地域における潜在的で低廉な労働力の活用等についても、一定の条件の下に改めてその意義を評価し、国民のコンセンサスの下にこれらを支援することができないか、今後検討を行う必要がある。

(3)新規参入の促進

 肉用牛繁殖基盤の持続的発展のためには、経営の円滑な継承のための後継者確保や複合経営としての新規参入および農外からの新規就農の促進が不可欠である。このため、以下のような取り組みを進めるべきである。

 (1) 肉用牛繁殖経営は一般に小規模・複合経営であり、離農した場合に継承可能な離農跡地はほとんどないため、例えば養鶏・肥育等の農家の離農跡地を繁殖部門の新規就農者等が継承し活用することにより施設等への初期投資リスクを軽減する。

 (2) 新規就農者への研修・指導の充実による繁殖経営の技術修得に対する支援の強化や、中高年層による継承等に焦点を当て、酪農経営等で加齢による労働負担の過重を理由に繁殖経営への切り替えを希望する者や、他職種からのリタイア組等をターゲットにした新規参入の支援。

(4)新しい産地の育成

 肉用牛生産の担い手の育成確保については、既存の肉用子牛の主産地の活性化と併せて、これまで肉用牛繁殖部門がなかった地域に新たに肉専用種子牛の産地を作り上げていくという取り組みも重要となる。このため、以下のような取り組みを進めるべきである。

 (1) 水田地域への繁殖雌牛導入の促進と稲わらや水田飼料作物を活用する繁殖経営の育成

 (2) 空き牛舎を保有し哺育育成の経験もある酪農地域への肉専繁殖雌牛の導入の促進

 (3) 肥育地域への繁殖雌牛導入による経営内又は地域内一貫化の推進

 (4) 離島等条件不利地域への肉用牛生産の導入促進

【課題2−2:優良種畜の確保】

 ポイント

 今後、遺伝的な多様性に十分配慮しつつ枝肉格付情報等も利用した広域的な産肉能力評価に基づく高能力種畜の選定・広域的利用をさらに促進するとともに、受精卵移植等を活用した優良種畜の造成等を通じ、雌雄両面からの肉専用種の改良の推進を図る必要がある。

 また、繁殖経営を中止した農家の所有していた雌牛のうち、特に優良なものについては、引き続き積極的に繁殖用として有効活用を図る必要がある。

○対応策

(1)雌雄両面からの改良の推進等

 これまでの和牛の改良が、和牛全体の質的向上を通じた輸入牛肉との明確な差別化により特定のマーケットを確立してきたことを評価し、今後とも以下のような取り組みを進めることにより、雌雄両面からの肉専用種の改良を推進するべきである。

 (1) 遺伝的な多様性に十分配慮しつつ広域的な産肉能力評価に基づく高能力種雄牛の選定・広域的利用の促進

 (2) 枝肉格付情報を利用した繁殖雌牛等の広域的能力評価の推進

 (3) 受精卵移植等を活用した優良種畜の造成

 (4) 優良繁殖雌牛の導入促進

(2)繁殖経営の離脱に伴う優良繁殖雌牛の散逸防止

 繁殖経営を中止した農家の所有していた優良な繁殖雌牛の有効活用を図るため、経営中止に伴う優良繁殖雌牛の廃用防止や、有効に活用されない恐れの強い地域外への流出等防止のため、離農経営者の優良繁殖雌牛を地域内に保留する取り組みを進めるべきである。

【課題2−3:飼料生産基盤および飼料の確保】

 ポイント

 肉用牛繁殖経営内での自給飼料生産のための条件整備やコントラクター等の育成を通じた飼料生産労働力の負担軽減を進めるとともに、耕種や林野と畜産との連携を通じ、耕作放棄地や転作水田、林地等を利用して飼料生産や放牧に必要な土地を確保するとともに、優良なたい肥の還元を進めていく必要がある。

○対応策

(1)自給粗飼料生産基盤の確保

 肉用牛繁殖経営の生産コスト低減には、飼料費の削減が重要な鍵を握っており、また、繁殖経営が自然循環型畜産としての多面的機能を発揮させるためには自給飼料生産基盤の確保等を通じた粗飼料多給型の経営の展開を推進することが不可欠である。こうしたことから、繁殖経営の規模拡大に当たっては、自給飼料生産基盤が確保されていることが前提となる。このため以下の取り組みを進めるべきである。

 (1) 地域の土地利用調整機能を活用した遊休農地の集積・団地化の推進

 (2) コントラクター等の育成を通じた飼料生産労働力の負担軽減

 (3) 移動式ソーラー電気牧柵等の技術を活用し、耕作放棄地、棚田等の水田跡地および山林原野等の未利用国土資源を有効活用した放牧の推進

(2)耕種農家との連携による粗飼料確保

 繁殖経営内での粗飼料自給が困難な場合は、経営外から粗飼料を確保する必要があり、耕種農家の余剰な水田を飼料生産ほ場や放牧地として利用する取り組みや、耕種農家で生産される稲わらを収集活用する取り組みが必要である。

 このため、水田農業の構造改革に伴う産地づくり対策や耕畜連携推進対策との連携を図りつつ、以下のような取り組みを進めるべきである。

 (1) 都市近郊の野菜生産における畜産農家からの良質たい肥の事例等、畜産部門と耕種部門の連携の重要性に係る積極的なPRと一層の取組強化

 (2) 転作に係る水田を連坦・団地化し畜産農家が借り受けて利用する仕組みの構築

 (3) 耕種農家が生産する稲発酵粗飼料等の畜産農家への供給と畜産農家からの良質堆肥の還元を促進する仕組みの構築

 (4) 耕種部門と畜産部門の相互理解を深めるための食農教育や相互交流の充実

【課題2の解決に向けた地域における柔軟かつ総合的な取り組みの推進】

 ポイント

 以上の課題2における「人、牛、草」に係る3つの課題の解決のためには、地域における組織的な取り組みの中で、総合的な対応を図る必要がある。

○対応策

 本懇談会として、繁殖基盤を支えている産地を訪問し、生産や経営の実態を調査するとともに、繁殖農家等との意見交換を実施したところ、別表のような課題や取組事例が認められた。

 地域における様々な課題や特徴のある取組事例が存在することを踏まえれば、次のような観点から、対策の拡充・強化を図る必要がある。

(1)課題2における「担い手(人)、牛、草」の確保のため、それぞれの課題に対応する事業等が行われているが、こうした事業により各課題に個別に取り組むだけでは、地域内の肉用牛繁殖基盤の強化に対し十分な効果は期待できない。これら地域における様々な課題への対応が一体的、総合的に行われるようにしていく必要がある。このためには、これまで行われてきた肉用牛繁殖基盤の強化のための事業について、地域において総合的な取り組みが行いやすくなるようなメニューの見直しなどを行う必要がある。

(2)一方で、地域の側から見れば、核となる組織やリーダーを育成・確保し、これらを中心として地域ごとの多様な課題を整理し、地域内の役割分担を明確化しつつ必要な施策を選択し、それらを総合的に実行していく体制を構築していくことが必要である。こうした核となる組織やリーダー等に主導された地域の自助努力がなされることを前提に、地域によって異なる課題の解決や優良事例の普及等を進めるため、地域ごとの自主性や創意工夫を生かすことの出来るような柔軟な支援の仕組みを検討する必要がある。その際には、上記の課題や事例を踏まえつつ、例えば以下のような観点に着目して支援を行うことが考えられる。

 (1) 規模拡大時の設備等投資額の軽減、繁殖・子牛管理技術の向上・普及等を通じた生産コストの低減、子牛の品質向上等による経営の合理化

 (2) 傷病時の飼養管理代行等が可能な肉用牛ヘルパーなど作業外部化のための組織の高度化・運営の安定化を通じた地域の肉用牛経営の安定

 (3) 耕作放棄地、転作水田、山林原野等の地域の未利用国土資源や人的資源の有効活用等を通じた多面的機能の発揮

 (4) 地域で生産された飼料の給与と良質な堆肥の還元等の地域内の耕種農家との連携による自然循環機能の発揮

 (5) 離島等の条件不利地域における地域資源の活用

 (6) 大規模経営者等が地域内の飼料の積極的な活用や、低コスト生産技術の地域内普及等を通じて、地域の畜産振興に指導的役割を果たすこと

【課題3:価格変動に対応した経営の安定】

 ポイント

 肉用牛経営の生産構造改革への取組を進めるためには、個々の経営における子牛生産コスト及び肥育コストの合理化の推進、肉用子牛生産者補給金制度等の価格変動に対するセーフティーネットの機能の発揮が必要となる。

【課題3−1:子牛生産コスト及び肥育コストの低減】

 ポイント

 肉用牛生産者が収益性を維持・向上させるためには、肉用牛経営者自らが、商品である子牛や牛肉の品質向上による販売価格の向上を目指すとともに、子牛や牛肉の生産コストを低減する努力が必要である。

○対応策

(1)子牛生産コストの低減

 子牛生産コストの合理化を進めるための具体的な対応方策としては、課題2−1において示した対応方策による経営規模の拡大や法人協業化等を通じた合理化促進を進める必要がある。

 また、子牛生産コストのうち物財費の約半分は飼料費が占めており、飼料費をいかに抑えるかがコスト削減の鍵となる。肉用牛繁殖雌牛は生産活動に要するエネルギー要求水準が低く、粗飼料多給による生産が可能であることを踏まえ、粗飼料基盤の拡大や放牧の推進等により安価に粗飼料を供給することにより生産コストの圧縮を図る必要がある。

 本来肉用子牛の生産は畜産部門の中でも最も非効率的であり、限界的な条件下での飼養で初めて経営が成立するというのが基本である。例えばアメリカの肉用牛繁殖経営のうち大部分を占めるコマーシャル子牛生産は、広大な野草地や穀物地帯の穀物残渣を未利用資源として活用した放牧飼養により、ほとんど手をかけずに生産されている。一方、純粋種子牛の生産を行うブリーダーは極わずかで、この子牛はある程度集約的な飼養管理の下で生産され、高い価格で取引されている。

 日本の和牛繁殖経営はもともとコマーシャル子牛生産とブリーダーの両方の側面を併せ持ち、良い雌牛に良い種をつけてできるだけ高く売ろうとする、やや投機的な部分が経営を支える特殊条件となっている。しかしながら、子牛の市場価格向上のみを過度に重視するのではなく、常に生産コストを意識しトータルの所得確保を目指すコマーシャル子牛生産としての繁殖経営のあり方を改めて認識することも必要と考えられる。

 わが国においても、近年全国レベルで繁殖雌牛頭数が減少傾向にある中、沖縄や鹿児島県の離島等の条件不利地域において、地域内の未利用資源を有効活用しつつ低コストで安定的な収益を確保している肉専用種繁殖経営が増加しており、わが国における繁殖部門のあり方について、1つのモデルケースを示していると言える。

 また、F1、受精卵移植および体外受精卵移植による、乳用種雌牛からの肉専用種子牛の供給は今後も一定量が見込まれ、近年その品質に対する評価も高まりつつあり、低価格高品質子牛の供給基盤として今後とも一定の位置づけを確保する事が可能である。

(2)肥育コストの低減

 肥育牛の生産コストのうち、物財費については、もと畜費や飼料購入費等が主体となっており、経費としてはほぼ固定化している。このため、肥育コストの削減のためには、次のような取り組みが主体となる。

 (1) TMRの利用等、肥育牛管理の省力化による一頭当たり労働時間の短縮

 (2) 肥育期間の短縮、適正化

 (3) 一貫経営への移行による飼養管理ロスの減少

 また、肥育経営においても安全・安心な食肉生産の観点や家畜排せつ物の適正な処理と利活用の観点からは、可能な限り輸入飼料依存体質からの脱却を図ることが必要であり、生産コストを増嵩させることなく飼料自給率を高めるための努力が重要となる。このため可能な限り自給飼料生産を確保するとともに、水田における飼料作や畜産からのたい肥還元といった耕種経営との連携の中で、稲わらやホールクロップサイレージ(WCS)を積極的に活用することが重要である。

【課題3−2:価格変動に対するセーフティーネット】

ポイント

 肉用牛経営の安定を図りつつ、生産構造改革を進めるためには、その前提として子牛生産者や肥育経営者に対し、子牛等の価格変動に対するセーフティーネットが確保され、これが十全に機能していることが必要である。

○対応策

 牛肉及び子牛の市場価格の変動に対しては、それぞれ肉用牛肥育経営安定対策及び肉用子牛生産者補給金制度により、肥育経営及び肉用子牛生産者の経営の安定のためのセーフティーネットが構築されている。

 自由化以降、牛肉の消費が低価格の輸入牛肉を中心として拡大する中で、黒毛和種は、輸入牛肉とは別の特定マーケットにおいて一定の需要を確保し、その中でむしろ生産量が伸びなかったことや、肉用牛肥育経営安定対策交付金の交付が肥育農家の購買意欲を喚起したことが子牛価格の下支え要因となってきたと見ることができる。一方で、乳用種牛肉が輸入牛肉との非常に強い競合関係にさらされたこと、また、BSE発生後の枝肉価格の下落幅が和牛より大きかったこと等の影響により、乳雄子牛価格が保証基準価格を大きく割り込む状況が続いたことから、乳用種子牛への補給金交付額が相当に大きなものとなっている。

 こうした中で、肉用子牛生産者補給金制度については、子牛そのものが主産物である肉専用種と、酪農経営の副産物である乳用種子牛とで、セーフティーネットの仕組みが全く同一で良いのかということについて疑問があるという意見や、また、褐毛和種や日本短角種といった地方特定品種に対して1頭当たりで見れば相当の額の交付金が交付されてきたにもかかわらず、結果的に飼養頭数が急激に減少していることに関し、セーフティーネットとしての有効性に疑問が残るとの意見もある。

 一方で、乳用種および地方特定品種の牛肉についても、子牛資源の有効活用の観点や、わが国の牛肉自給率の確保への寄与という観点から、その再生産の確保のためのセーフティーネットが必要であると考えられる。

 乳用種子牛への補給金交付額が相当に大きなものとなっているのは、乳用種牛肉が輸入牛肉との非常に強い競合関係にさらされたことが主な要因であり、自由化の影響を最も強く受けた乳用種子牛に対し多くの補給金が交付されてきたこと自体は、肉用子牛生産者補給金制度が所期の目的通り機能したととらえることができるが、近年本制度の財源である牛肉関税収入が大幅に減少している中で、前述のような意見や考えも踏まえ、乳用種子牛に対し多額の補給金が恒常的に交付されている状況が続くことが妥当であるかどうか、今後検証していく必要があると考えられる。

 本とりまとめにおいて提言された内容を踏まえ、農林水産省としては、平成16年度予算において、国産牛肉の安定供給の鍵となる和牛繁殖地域の活性化と育成を図るため、「人」「牛」「草」の確保に向けた取組を総合的に推進する、「和牛のみなもと再生・強化対策」を実施するとともに、今後更にわが国肉用牛生産基盤の維持・強化に必要な取り組みについて、その具体化のための検討を進めることとしている。

「肉用牛経営に関する懇談会」委員

 



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