山形県/奥山 雄治
酒田農業普及課では、数年前から家畜の尿を曝気処理した有機液肥を水田に投入し、水稲栽培への有効性を確認してきた。今年度も水田780アールに投入し、その効果を実証した。 その中のひとつ、平田町山元では、地区の耕種農家の協力のもと、家業の酪農を継ぐために4年前Uターンしてきた長堀さん(28)の牛尿を使って取り組んだ。 長堀さんは、2年前に牛舎を新築、規模をこれまでの4倍に拡大してがんばっている地区の若きホープである。そこで、地区の先輩たちは、畜産農家の誰もがその処理に頭を悩ませている尿を、肥料として積極的に利用することで彼を応援しようということにした。 長堀さんの牛舎ではこれまで牛の糞および尿を牧草地に肥料として撒いていたが、牧草として牛に給与する際、硝酸態窒素やカリウム濃度が悩みの種であった。そのため、牧草地に必要な量以上の尿を、水稲等牧草地以外に利用することは、長堀さんにとっては牛の健康のため、利用する農家にとっては減化学肥料栽培、肥料代節約のためにと双方に役立つことになる。 4月下旬、一冬分溜まった尿の成分を分析し、投入量を計算、5月中旬、荒代掻きを終えた水田にタンクを使って投入した。その量は10アール当たり約2トン。水田に均一に行き渡るよう、用水と一緒に流し込んだ。曝気処理していたので、臭いはほとんど気にならない。その後、肥料成分が落ち着くまで2〜3日放置してから仕上げの代掻きを行い、田植えを行った。
7月中旬には穂肥として同じように有機液肥を10アール当たり約1トン投入した。8月以降はなかなか好天が長続きせず稲の生育が心配されたが、例年より遅れること約半月、10月上旬になって漸く稲刈りを行った。 協力してもらった農家によると、投入作業も簡単な上、これまでと遜色ない米の出来に、来年は有機液肥をもっと多く使ってみたいとのことであった。 これまでの取り組みで、有機液肥が化学肥料の代替として効果があることは実証できた。しかし課題として、水田への利用を考えた場合、施用期間が限られてしまうことが挙げられる。しかも集中して大量の有機液肥が必要となるため、貯留場所の確保が問題となる。そのため、今後は秋施用や水田以外への利用を考える必要がある。 また、このケースでは、耕種農家が主体となって有機液肥の投入作業を行ったが、ほかの地区では畜産農家が投入作業を行っているため、投入面積および作業時間に限界を感じている。堆肥散布の場合と同様、作業体系の構築も今後の課題である。 |