熊本県では、昭和初期に絶滅した幻の鶏「天草大王」を10年の歳月をかけて復活させた。
天草大王は、明治時代に中国から天草地方に持ち込まれたランシャンを基に作出した日本鶏としては珍しい肉専用種で、肉量豊富・極めて美味であったことから、大正時代の好況時には博多水炊き用として遠く離れた博多まで出荷されていた。しかし、昭和初期の世界的経済大恐慌によりその需要が落ち込み、次第に絶滅してしまったと言われている。
天草大王の復元は、日本で飼養されなくなっていたランシャンを平成4年にアメリカから初生雛で100羽輸入したことから始まった。復元のための交配は文献などからランシャンの他にその成立に係わったとされる大シャモとコーチンを選定し、まず平成4年にランシャン×大シャモとランシャン×コーチンの交配を行い、平成5年にそれらのF1同士を交配したF2すなわちランシャンの血液割合50%、大シャモとコーチンの血液割合がそれぞれ25%となったものの中から羽色と体型と体重により基礎鶏(第1世代)となる個体を選抜し、その後1年1世代更新による閉鎖群育種を7世代繰り返し行うことによってほぼ昔どおりの天草大王の復元に成功した。
一方、天草大王と交配して肉用鶏を作出するための雌系統「九州ロード」は、平成6年に熊本ロード×家畜改良センター兵庫牧場の白色ロック13系統のF1を基礎鶏として熊本県、大分県、宮崎県3県共同による1年1世代更新による閉鎖群育種を7世代経過して、羽色が濃褐色で大型でありながら産卵性の優れた能力を固定させた系統である。
肉用「天草大王」は天草大王雄と九州ロード雌の交配で作出したもので、県では復元当初から試験的飼養農家(6戸)、養鶏専門農協、食鶏処理場および卸業者と共に「熊本県高品質肉鶏推進協議会」を組織し、普及について協議してきた。平成15年2月から、毎週約1,000個の種卵を飼養農家に譲渡し、統一した飼育マニュアルに基づき100日間飼養した鶏肉について、同年6月から「天草大王」のブランドとして販売を開始した。その結果インパクトのあるネーミングと味が大きい反響を呼び、県内のデパート、スーパー、鶏肉専門店、居酒屋などで販売されるようになり、県外からの引き合いも多数あって注文に生産が追いつかない状態が続いている。
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