★ 農林水産省から


新たな食料・農業・農村基本計画の策定について
〜中間論点整理に向けて〜

大臣官房企画評価課
政策調整室長 佐々木 康雄




 平成11年7月に施行された食料・農業・農村基本法では、食料の安定供給の確保、農業の有する多面的機能の十分な発揮、農業の持続的な発展、農村の振興という4つの基本理念が明確にされました。また、この基本理念に則し、食料自給率の目標や食料、農業及び農村に関して講ずべき施策等を示した「食料・農業・農村基本計画」(以下「基本計画」という。)が平成12年3月に閣議決定されました。



 この基本計画に基づき、食料分野では、食生活指針の策定等、農業分野では、株式会社形態の農業生産法人への参入、価格安定制度の見直しと品目別経営安定対策の導入等、農村分野では、中山間地域等直接支払制度の創設等、様々な施策を講じてきました。また、食の安全・安心を脅かす事件・事故が発生したことを契機に、農林水産省は、「「食」と「農」の再生プラン」を平成14年に公表しました。同プランに基づき、食の安全・安心の確保に向け消費者に軸足を移した農政の展開や米政策改革の推進など、各分野における改革が進められています。

 しかしながら、我が国の農業及び農村の現状をみると、土地利用型農業、特に稲作における構造改革が依然として立ち遅れている状況にあります。また、農村地域における高齢化、過疎化、混住化等による集落機能の低下や耕作放棄地の増加等により、農業の有する多面的機能の発揮に支障が生じています。さらに、国民と農業との間に依然として距離感が存在しており、「食」と「農」の一体化、食の安全・安心の確保に努めていく必要があります。このような状況に加え、WTO農業交渉やFTA交渉のなかで、各国から国際的な規律を強化すべきとの声が出てきています。

 このような情勢を踏まえると、農政の改革・転換をスピード感をもって推進することが喫緊の課題となっており、現在、すでに方向付けされている重要施策については、迅速に推進するとともに、基本計画に基づく各般の施策について、徹底的な検証と見直しを行っていく必要があります。このため、平成17年3月を目途に新たな食料・農業・農村基本計画を策定することとし、本年1月より食料・農業・農村政策審議会企画部会(以下「企画部会」という。)において議論を行っているところです。特に、担い手の創意工夫の促進と構造改革の加速化、農業の有する多面的機能の発揮という観点から、(1)品目別の価格・経営安定政策から担い手の経営を支援する品目横断的な政策への移行、(2)環境保全を重視した施策の一層の推進と農地や農業用水等の資源の保全のための政策の確立、(3)望ましい農業構造・土地利用を実現するための担い手・農地制度の改革の3つの課題について重点的に検討を行い、その改革の方向性を明らかにし、早期に施策の具体化を図ることが必要と考えているところです。

 3課題の検討方向等は次のとおりです。

(1) 品目横断的な政策への移行

 現行の価格・経営安定政策は、諸外国との生産条件の格差を個別品目ごとに国境措置や価格政策によって是正する手法が採られています。しかしながら、この手法は、結果的に全農家を対象とした支援であり、個別品目の生産量を確保するという観点からは有効でしたが、農業の構造改革の立遅れ等の弊害を招いた面がありました。また、WTO農業交渉においては、国内支持に対する規律強化が検討されており、政策の継続性の確保に努め、生産者への安心感の付与に配慮していく必要があります。このため、これまでの個別品目ごとの価格支持的な政策から、担い手の経営に焦点を当てた品目横断的な仕組みとすることにより、構造改革の加速化、需要に応じた生産を推進し、国際規律の強化にも対応しうる政策体系に転換していくことが必要です。

 その際、諸外国の直接支払制度も視野に入れつつ、日本農業に応じた規模拡大や自給率の維持・向上の重要性に配慮した検討が必要であると考えています。

 この品目横断的な政策の対象営農類型としては、諸外国との生産条件格差が大きく、かつ輪作体系等複数作物の組み合わせによる営農が行われている畑作及び水田作の土地利用型農業が想定されています。対象者の捉え方については、国民の理解を得るという観点から十分に検討を行うことが必要です。支援の構成要素としては、諸外国との生産条件の格差の是正や収入・所得の変動による影響の緩和などが考えられます。

 また、野菜、果樹、畜産等の部門専業的経営については、生産性の向上、構造改革の一層の促進の観点から既存制度の見直しを検討することとしています。これらの論点を踏まえ、今後、検討を進めていきます。

(2) 農業環境・資源保全のための政策の確立

 環境や農地・農業用水等の資源は地域において面的な広がりをもっており、国民全体に便益が波及する社会共通の資本であるといえます。しかしながら、農村地域における高齢化、過疎化、混住化等が進行するなかで、耕地利用率の低下、耕作放棄地の増加がみられ、適切な管理・維持に支障が生じています。このため、これらの環境や資源を保全・増進する仕組みを構築することにより、食料供給基盤の維持と多面的機能の発揮を確保し、国民の多様な期待に対応した自然豊かな農村空間の形成と効率的かつ安定的な農業経営等による農業の展開の両立を図ることが必要です。また、農業の「持続可能な循環型社会の実現」への貢献が期待されていることを踏まえ、環境を重視した持続的な農業生産へ全面的に転換を図ることが必要となっています。

(3) 担い手・農地制度の改革

 農地は、農業生産を行う上で最も基礎的な要素であり、食料供給力の基盤となるものです。しかし、農地面積は耕作放棄等により年々減少し、担い手への農地の集積の鈍化や集落周辺等における個別・分散的な農地の転用がみられるなど、食料供給力の低下や構造改革の遅れが生じています。このため、意欲と能力のある担い手の育成や確保を図るとともに、地域の担い手への農地等の経営要素の集積を加速化することが必要です。また、都市住民の農地利用等の観点からも、農地に対する多様なニーズに対応した農地・土地利用制度のあり方等について検討が必要です。

 具体的には、「担い手」の明確化と「担い手」への施策の更なる集中化・重点化を図るための施策の体系的整備、リース方式による株式会社等の参入を認めた構造改革特区の枠組みの全国展開のあり方、優良農地の確保、多様な担い手の参入促進等のための農地・土地利用制度の見直し等を中心に、検討を深めていくこととしています。

 これまで、上記の3課題に関しては、企画部会において各課題ごとに2回ずつ議論するとともに、有識者ヒアリング等を行ったところです。5月24日の企画部会で議論された3課題の主な論点は以下のとおりです。

主要3課題の主な論点

 今後は、夏に中間論点整理、年末に論点整理を行い、来年3月を目途に新たな基本計画を決定する予定となっております。

 今後、基本計画全体の構成や主要3課題以外の政策の展開方向、食料自給率目標等の設定のあり方についての議論を行っていくことになります。

 これらの施策の抜本的改革を体系的に盛り込んだ新たな基本計画の策定に向けては、国民的議論が不可欠であることから、食料・農業・農村政策審議会等において透明性の高い議論を進めることが重要と考えており、食料・農業・農村政策審議会における全ての提出資料、議事録等は農林水産省のホームページ(http://www.maff.go.jp/)において公表しております。また、同ページには「農政改革に対する意見募集」のコーナーがあり、皆様から頂いた御意見は審議会における議論の参考にさせて頂きますので、是非一度ご覧下さい。

食料・農業・農村基本計画に関する審議の進め方

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