北海道/宮嶋 望
山のチーズのオリンピックに挑戦 春にフランスサントモール・ド・トゥレーヌでヨーロッパの厳しい目に晒された自分達のチーズ(本誌2003年、11月号に掲載)をどのように完成させていくか、夏の間考え、試作を繰り返した。10月末に3つのチーズを持って、フランスLes Rousses における第2回"山のチーズのオリンピック"に挑戦した。 "山のチーズ"には定義があり、標高700m(地域によっては600m)以上、もしくは傾斜が20度以上で放牧を余儀なくされるなど、条件の不利な地域で生産されているチーズに限られる。北海道の新得山の状況は、フランス農務省に確認していただきエントリーが認められた。山のチーズは圧搾(セミハード)、加熱圧搾(ハード)タイプのチーズが多いが、14のクラスにカテゴリーが分けられていた。 日本から持っていったのは過熱圧搾タイプの小ぶりの"シントコ"。もう1つは特徴を出すために特殊な日本酒で洗ってみたウォシュタイプの柔らかいチーズ。そして、小ぶりの白カビソフトタイプチーズ「SAKURA」。すべて後でどのような評価が送られてくるか楽しみだった。 「SAKURA」 "Petit Plaisir"(小さな悦び)と名づけた白カビソフトタイプチーズを作っていたが、日本らしい特徴をどのように出すか考えたあげくのはて、出来上がったのが「SAKURA」。工房の窓の外には山桜の木がある。その葉をとり、酸処理後乾燥させて、熟成中のそのチーズにのせた。何日かすると素晴らしいさくらの香りがチーズに移った。しかし、長すぎると渋みがチーズについてしまう。ころあいを見計らって葉をはずし、さくら湯に使う塩漬けのさくらの花をのせてみた。バランスもよくいけそうだ。 コンクールにエントリーをした後、主催者から呼ばれ、細かく「SAKURA」の白カビソフトタイプのチーズとしての特徴と狙いを聞かれた。日本らしい風味と日本の市場にあった商品に仕上げたことを細かく説明した。プロはその概念に如何に近づけているか、また、味のバランスが整っているかを評価する。
コンクールの結果発表 Les Rousses の街の会場には参加9カ国の国旗が並び多勢の出品者、バイヤー、マスコミなどたくさんの人々が集まっていた。カテゴリーごとの発表が始まり、「SAKURA」のカテゴリーでは「ブロンズ、フレンチ、ルブロッション」とアナウンスされ、一瞬諦めたが、次に「ダルジャン(シルバー)ハポン(日本)、サクラ」のアナウンスにチーフと二人、驚きと悦びで飛び上がってしまった。金賞はスイスのチーズだった。会場の絶え間なく続く盛大な拍手が日本のチーズ銀賞受賞への驚きと祝福を送ってくれているようで、この上なくうれしかった。
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