◎地域便り


広島県 ●荒廃水田で和牛放牧

広島県/中田 千代



 広島県双三郡三良坂町の村本昭二さん(54)は2年前から荒廃水田での和牛放牧に取り組んでいる。これは、集落環境の保全や、肉用牛飼養の省力化、低コスト化が目的である。

 村本さんは人工授精師をしながら繁殖成牛10頭を飼育し、自作水田3ヘクタールと借地9ヘクタールを管理する専業農家である。

 放牧に取り組むきっかけとなったのは、今から3年前の集落での会合である。中山間地直接支払や転作対応について話し合い、集落内に点在する耕作放棄水田が話題となった。この会で地権者から飼料作物を作ってほしいと話があった。村本さんは裏山を利用した放牧を行っていたことや、島根県大田市などの先進地で視察研修をしていたことから水田放牧に興味を持っていたため、地権者に資材費の一部を負担してもらい、放牧することを決めた。

 放牧開始前年までは雑草に覆われていた水田が、放牧開始後は牛による舌刈りにより見違えるような草地となった。集落も、稲穂が稔る田園の中でのんびりと牛が草を食むのどかな風景を呈するようになった。広域農道沿いに広がる放牧風景を、車を止めて眺める人の姿がしばしば見られるようになり、牛飼い仲間の注目の的にもなった。町の農業委員会もこれに注目し、町内の耕作放棄地解消のため、補助金を付けて奨励した。

 現在は町内8カ所、町外1カ所の計3.1ヘクタールで水田放牧を行っている。また、興味を持った畜産農家が村本さんのアドバイスを受け、取り組みは県内各地へ広がっている(18戸25ヘクタール)。

 町内外からの放牧依頼に応じきれず昨年2頭増頭したが、まだまだ足りない状況にあり、「誰か牛を貸してくれませんか」と放牧牛を探しているほどである。

 村本さんは以前、里山放牧を行っていたが、親子放牧では子牛の発育が悪く市場価格が安くなるため、23年前から放牧を中止していた。一方、5年前から取り組み始めた子牛の超早期離乳技術を試行錯誤の末確立し、子牛の発育が市場平均以上を得るようになった。これにより、離乳後から分娩1カ月前までの長期間放牧が可能となり、現在の取り組みに繋がった。

 放牧に取り組むことによって、飼料作物の栽培やふん尿処理の労働力を大幅に削減することができた。また、牛が十分運動することができ、1年1産が実現して生産性が向上した。

 三良坂町は中山間地であり冬期間は草が確保できないため、現在、温暖な島しょ部の放棄ミカン園などが活用できないかと候補地を探している。「将来は20頭規模まで規模拡大を」と、水田放牧の拡大に意欲的な村本さんである。

耕作放棄水田を活用した放牧風景



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