◎今月の話題



国産食肉等のさらなる消費拡大に向けて

財団法人日本食肉消費総合センター 理事長 川合 淳二



見直される国産食肉等の重要性

 昨年末から年明けにかけて、内外の家畜疾病の連続的な発生で、日本の食肉需給は少なからず影響を受けた。昨年の12月末には米国でのBSEの発生により、米国産牛肉の輸入が一時的に停止された。また、アジア各国での高病原性鳥インフルエンザの発生により、韓国をはじめ、ベトナム、タイ、インドネシア、中国などからの鶏肉はもちろんのこと生きた家きん等の輸入が一時停止されている。

 日本の食肉消費量の中で国産の占める割合は、牛肉で4割、豚肉で5割、最も多い鶏肉でも6割強に過ぎず、食肉供給の過半を輸入に依存している状況である。米国産牛肉は牛肉消費量の約4分の1を占め、タイおよび中国産の鶏肉だけでも鶏肉消費量の約6分の1を占めていた。輸入食肉は主に外食産業や量販店等を中心に利用・販売されており、国産や他国産の食肉への代替が模索されているほか、外食産業の中にはメニューの変更を余儀なくされているところも出ている。

 新聞、テレビ等での連日の報道により、図らずも日本の食肉需給に関する現状が消費者に広く理解される結果となったことは、国産食肉等の重要性が見直される契機になるものと期待している。

 一方、国内でも、山口県で79年ぶりとなる高病原性鳥インフルエンザの発生が確認されたが、関係者の懸命な防疫措置により終息に向かっている。発生農場および発生農場から30km以内の周辺農場で生産された鶏卵・鶏肉は出荷されていないため、現在流通している山口県産の鶏卵・鶏肉は安心して食べることができる。同県産の鶏卵・鶏肉に対する風評被害の防止に向けて、多くのチャンネルを活用した消費者等への正しい情報の伝達が重要となっている。


国産食肉等の消費拡大に向けたこれまでの取り組み

 (財)日本食肉消費総合センターは、昭和57年に設立された。同年に農業基本法に基づき農政審議会から内閣総理大臣に答申された「80年代の農政の基本方針」は、これまでの答申と異なり、初めて今後の国民の食生活のあり方に言及している。その中では、米、野菜、魚を中心とした伝統的な食生活に、食肉、牛乳、果物等を加えた多様でバランスのとれた食生活の定着が望ましいとされ、また、答申に先立つ「農産物需給の長期見直し」においても、食肉の消費は安定的に伸びるとの判断が示された。

 当センターは、このような状況を背景として、食肉の利用方法や栄養と健康との関わりについて、広く消費者に正確な知識や情報を提供するとともに、食肉の消費を着実に伸ばすことを目的に発足した。

 第1段階は、当時の「すき焼き」、「焼き肉」、「豚カツ」、「唐揚げ」等の一般的な料理メニューのほかに、肉の各部位の特徴を利用した多種多様な料理メニューの利用と普及が課題であった。このため、家庭でも活用できる「クッキング・ブック」の作成と関係者への配布、新聞・雑誌等への広告掲載、さらに各地での料理講習会の開催等を行ってきた。

 第2段階は、食肉の持つ栄養や健康との関わりについて、「食肉と健康に関するフォーラム」委員会(座長・藤巻正生東京大学名誉教授)を立ち上げ、医学的・栄養学的な見地から分析を行い、その知見を取りまとめ、関係団体・機関等の協力を得ながら幅広く知識の普及を図った。また、都道府県食肉消費対策協議会に委託し、各地域で「食肉と健康に関するセミナー」を開催した。

 第3段階は、O−157やBSEの発生を契機とした食肉の安全性に関する知識・情報の提供である。農場から食卓までの流れを消費者が正確に理解できるように、これらを内容とする冊子・CD・ビデオ・パンフレット等の作成と配布、テレビ・ラジオ・新聞等マスメディアを活用した広報、専門家によるシンポジウム・セミナー、消費者等に働きかけるイベント等の開催を全国的に展開してきた。さらに各段階を通じて、これらの事業の他にも牛肉・豚肉の表示適正化の推進、消費者・販売店における消費実態調査、「Jミート」「Jビーフ」「Jポーク」「Jチキン」のロゴの普及等消費拡大に繋がる事業を継続的に行っている。


今後の展開〜さらなる消費拡大に向けて〜

 近年の食品事故や相次ぐ家畜疾病の発生によって、消費者の食品に対する安全・安心への関心と意識はこれまでにない高まりを見せている。いかに消費者の信頼感を得ていくかが、今後の国産食肉等の消費拡大を図っていく上で最大のポイントと言っても過言ではない。このためには、正しい知識・情報等を適宜適切に各種媒体に乗せて迅速に提供することがきわめて重要である。

 具体的には、医学、栄養学の新しい知見に基づいた知識・情報の提供、蓄積された栄養分析データー等の普及、シンポジウム・セミナー等による消費者を対象とした知識・情報の普及、さらにインターネット利用者が数千万人という現状からホームページを活用した常時対応型の情報提供、消費者に直接接する「見る、聞く、体験する」イベントの開催に力を入れていく必要があると考えている。特にインターネットホームページは、既に現在1日平均700件のアクセスがあり、今後ますますその利用が増大すると見込まれることから、マスメディア4大媒体による広報と並んで、充実・強化していくことが必要である。また、小・中・高校生や短大・大学で栄養学を学ぶ学生に対して、それぞれに応じて「食肉と健康」への分かりやすい情報を積極的に提供することも重要であると考えている。

 


かわい じゅんじ

プロフィール

 昭和35年 農林省入省
 平成 2 年 農林水産省経済局長
 平成 4 年 水産庁長官
 平成 5 年 農林漁業信用基金副理事長
 平成10年 (財)海外漁業協力財団理事長
 平成15年10月より現職



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