★ 機構から


WTO・FTA交渉に関する意見交換会が開催される

東京事務所、大阪事務所



 WTO・FTA交渉に関しては、メキシコとのFTA交渉が大筋合意に達し、WTO交渉については2005年1月1日の交渉期限を目途に引き続き交渉が行われている状況にある。そのような中、農林水産省はWTO・FTA交渉に関する意見交換会を全国各地域で開催している。

 この中で、関東地区および近畿地区の意見交換会について、当機構の東京、大阪の各事務所が参加したので、その概要を紹介する。

 

 

1 関東地区の意見交換会の概要

 平成16年3月17日(水)、さいたま新都心合同庁舎において関東農政局の主催により、関東ブロックの農業関係者等を対象とする意見交換会が開催された。

 説明者は、WTOをめぐる情勢については實重重実農林水産省国際部国際経済課長、FTAをめぐる情勢については豊田育郎農林水産省国際部国際調整課長であり、説明と意見交換会の概要は、以下のとおりである。


WTOをめぐる情勢

 今回のドーハラウンドは、2005年1月1日が交渉期限となっているが、UR交渉と異なり、開発途上国が貧困削減や経済発展等の観点から、「農業」に強い関心を有しており、特に先進国の輸出補助金や貿易歪曲的な国内補助金と高関税への風当たりが強い。このため、意見調整は依然として楽観できない状況にある。今年の夏までに、農業と非農産品分野の枠組み合意を目指しているが、非農産品については農業よりも交渉が遅れぎみであり、農業で合意された関税削減方式を非農産品に適用してはどうかとの意見があるほどである。

 このような中、我が国としては、「日本は世界最大の食糧輸入国であり、その輸入の45%は途上国からの輸入であり、途上国の発展に大いに貢献している。一方、国内では米について大幅な生産調整を行い、また真剣な農政改革を行っている」旨を繰り返し主張している。日本がグループとして参加しているG10は、上限関税と関税割当枠の義務的拡大に反対するという主張により連携している。残念ながら、国内支持に関しては、日本が主張する「AMS(助成合計量)の55%削減」では負担が大きすぎるとする国(ノルウェー、スイス)があるので、国内支持についての共通の方針を打ち出してはいない。

 先進国同士で唯一立場が一致しているのは、「先進国と途上国の二重規律は避けるべきである」ということである。関税削減方式については、日本としては、UR方式と同等の効果を有する範囲でブレンド方式(UR方式とスイス方式を組み合わせた方式)を受け入れ得るという立場である(スイス方式は一律削減だが低関税品目には有利)。

FTAをめぐる情勢

 意見交換会の直前に大筋合意した日・メキシコFTAの合意内容と現在交渉が進行中のアジア各国との交渉の進捗状況について説明がなされた。メキシコとの交渉については、鉱工業品分野については日本側の望むものがほぼ取れた。農産物については、豚肉、牛肉、鶏肉、オレンジ生果等の主要5品目については一定の特恵輸入枠または市場開拓枠の設定等、すでに低税率の品目については関税の撤廃等を行った。今後の作業としては、数カ月かけて合意文書の詰めを行い、その後の国会承認を経て、条約発効(最も早い場合には、来年1月1日の発効もあり得る)の段取りとなる。

 交渉中には、「農産物の交渉がネックとなって自動車や鉄鋼等の鉱工業品分野の交渉がうまく進まない」という意見が一部にあったが、実際は、メキシコ国内の鉄鋼業界や自動車業界が自動車等の関税撤廃に強く反発していたことから、メキシコ政府は農業分野で過大な要求を日本側に行い、日本側の農産物のアクセスへの対応が悪いために交渉が進展できないと説明した方が、メキシコ側に都合がよかったという背景があったのではないか。

 いずれにしても、今回の交渉では、日本の農産物が悪者になったかのような印象を与えたことは反省すべき点であった。FTAは、農業以外にサービス、投資や人の移動等、非常に多くの分野を包括的に交渉を行うものであり、農業以外の論点も多く時間を要するものである。

 一方、アジア諸国とのFTAについては、韓国、タイ、マレーシア、フィリピンと交渉を行っている。日・韓国FTAについては、韓国がWTOでの米の特例措置の交渉を控えていること等から、速やかに合意できるか否かは不透明な状況にある。タイとの交渉については、タクシン首相は今年中に交渉を終結させたいとの意向を持っていたが、最近は来年の早い時期にとりまとめたいとの意向に変わってきている模様。

質疑、意見交換

 質問: WTO交渉における農業分野のウエートいかん。

 回答: WTOでは、農業以外に6分野の委員会で議論されているが、個人的見解であるが、途上国の関心が高い農業のウエートは最も重要な分野とみなされている。すなわち、農業がブレークスルーすれば、ドーハラウンド全体は一気に加速するとみている国が多い。

 意見: 農業分野を含むWTOやFTA交渉全体の進捗状況についても情報公開をもっと進める必要がある。

 回答: 今後ともできる限り交渉過程を情報公開したい。これまでも、農政局等の協力を得て、本日のような意見交換会等を1,000回にわたり全国で開催してきており、マスコミへの情報提供にも努めているところである。

 意見: 交渉というとすぐにモノとカネの利害の対立となるが、相互の国が発展するよう友好的に交渉を進めるべきではないか。

 回答: わが国は農業交渉において「多様な農業の共存」を主張している。世界の潮流として、グローバリゼーションや市場原理主義が進展している一方で、地球資源には有限性があり、人口、食料、環境、貧困といった問題の解決が重要となっている。米国などは前者の考え方を重視しており、日本や欧州諸国は後者の考え方を重視している。

 意見: WTOやFTAにより貿易の自由化が進む中で、農業者はどのようにしていけば良いのか。

 回答: 農業の果たしている食料安全保障、国土保全などの機能を確保することが必要であるが、一方で、農業者の高齢化などが進んでいるので、農業の構造改革を進め、担い手を育成していくことが必要。これを通じて、過度に国境措置に依存しない体質の強い農業を作っていくことが重要である。これに対する行政の支援は必要であり、その施策のあり方について、現在、基本計画の見直しの中で議論しているところである。皆様からのご意見をいただきたい。

 

2 近畿地区の意見交換会の概要

 平成16年3月22日(月)、大阪府の合同庁舎において近畿農政局の主催により意見交換会が開催され、約200名の関係者の出席があった。

 WTOをめぐる情勢については内田博文農林水産省大臣官房国際部国際経済課課長補佐から、FTAをめぐる情勢については梶島達也同部調整課地域調整室長から説明があった。その後行なわれた意見交換会の概要については、以下のとおりである。

質疑、意見交換

 質問: WTOにおいて同じグループにある韓国とのFTA交渉は矛盾しないか。

 回答: 韓国とは、わが国と農業事情が似通っているので、互いに相手の立場を尊重しつつFTA交渉を進めたい。

 質問: FTA協定対象外諸国、特に開発途上国へ配慮すべきで、その影響のアセスメントの必要があるのではないか。

 回答: アセスメントについては、当事者国については検討会の中でも評価しているが、第三国に対しては難しい。

 質問: WTOによる国内農業の影響については、生産者を指導する立場として、いつもつらい思いをしている。今後のWTO、FTAによりわが国の米の生産に対して何年後にどうなるのかといった具体的なことを示すことはできないのか。

 回答: 決まったことは、農水省のホームページ等で情報開示できるが、何年後にどうなるというシナリオの提示は難しい。

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