目的
最大骨量獲得期に当たる高校生を対象として、腰椎および大腿骨頸部の骨密度測定、栄養摂取調査、既往歴、食習慣や運動習慣などの調査を行い、高校1年生から高校3年生にかけての骨密度の変化の様相と骨密度に影響を与える要因を明らかにし、骨量獲得期において骨量をできるだけ高めるための実効可能で有効な方策、中でも牛乳・乳製品摂取の重要性と、高校における牛乳給食の必要性を検討することである。
調査方法
京都市の中高一貫教育の私立高等学校の平成13年度に1年生だった生徒を対象に2年間の追跡研究を実施し、骨量測定、身体計測、ライフスタイル調査およびカルシウム摂取量調査を行った。追跡できたのは、168名(男子:83名、女子:85名)で、そのうち、病気などによる服薬が原因で骨密度が低いと考えられた生徒を除外し、156名(男子:75名、女子:81名)について分析を行った。
結果と考察
1.男女とも骨密度は高校1年生から3年生にかけて増加していた。年間変化率は男子で、腰椎4.2%、大腿骨近位部4.1%(表1)、女子ではそれぞれ1.4%、2.7%(表2)で、女子の増加率が小さく、女子では骨成長のピークを過ぎたことが推測された。(図1・2)
表1 初回調査受診時と追跡調査時の骨密度測定値(男子)
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Mean :平均値
SD :標準偏差 |
表2 初回調査受診時と追跡調査時の骨密度測定値(女子)
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Mean :平均値
SD :標準偏差 |
図1 大腿骨近位部骨密度判定結果
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図2 骨密度変化総合判定結果
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2.男女とも、体重が重い生徒ほど骨密度が高い傾向を示し、体重管理の重要性が示された。(図3・4)また、女子では、ダイエット経験者で腰椎骨密度の増加率が小さい傾向があり、この時期のダイエットは行うべきでない、と考えられた。
図3 体重変化別に見た骨密度年間変化率(男子)
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図4 体重変化別に見た骨密度年間変化率(女子)
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3.高校時代のスポーツ活動時間が多い生徒ほど骨密度が高く、またその骨密度の増加率が大きかった。(図5・6)
図5 高校時代総スポーツ時間別に見た骨密度(男子)
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図6 高校時代総スポーツ時間別に見た骨密度(女子)
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4.男女とも、カルシウム摂取量(表3)が多い群ほど、また牛乳摂取量が多い群ほど骨密度が高い傾向にあった。(図7・8)男子では、牛乳・ヨーグルトの摂取量が増加した生徒ではそのほかの群の生徒よりも骨密度が高い傾向があり、女子では、牛乳・ヨーグルト摂取量が増加した群、およびカルシウム摂取量が増加した群において大きな骨密度変化率を示した。(図9)
図7 高校3年時の総カルシウム摂取量群別に見た骨密度(男子)
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図8 高校3年時の牛乳・ヨーグルト摂取別に見た年間骨密度変化率(男子)
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図9 高校1年時の牛乳・ヨーグルト摂取別に見た年間骨密度変化率(女子)
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5.カルシウムの平均充足率は、男子で90%を超えていたが、女子では90%に届かなかった。男子では4割、女子では約半分が充足率80%未満であり、カルシウム不足の状態にあった。(図10・11)高校3年時の牛乳・ヨーグルト摂取状況を1年時と比較してみると、男女ともやや増加したが、顕著ではなく、女子では1日コップ1杯以上牛乳を飲んでいる生徒は6割程度という状況であった。
図10 Ca充足率
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図11 Ca充足状況
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以上より、牛乳摂取の多い群ほど骨密度の上昇が大きい傾向にあり、高校生における牛乳摂取の奨励を支持する結果を得た。しかし、牛乳の摂取状況では、1日コップ1杯以上飲む者の割合は、男子81.3%、女子66.7%で、追跡期間中に顕著な改善を認めなかった。(図12・13)この事実は、健康教育に力を入れている対象校であっても、生徒の自由意志に任せていると、残念ながら牛乳の摂取は大きくは改善されないことを示している。したがって、給食として牛乳を提供するなど、現物給付によって摂取の改善を図るべき時期に来ていると考えられた。
図12 男子の牛乳・乳製品の摂取状況
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図13 女子の牛乳・乳製品の摂取状況
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表3 性別にみたカルシウム摂取量
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高校生における骨粗鬆症予防対策の提言
骨粗鬆症の予防を効果的に行うためには、各ライフステージに適した予防対策を講じなければならない。中でも大切なのは骨密度獲得期に当たる中学生および高校生の時期にできるだけ高い最大骨量を獲得することである。
本調査から、高校期のスポーツ活動や牛乳・ヨーグルトの摂取は骨密度の獲得に対して好影響をおよぼし、骨密度の増加率に差異をもたらすことが明らかとなった。また、適切な体重管理は骨密度の獲得においても非常に重要な役割を担っていた。さらに、第二次性徴の発来の早い生徒では増加率が徐々に縮小する傾向が示唆され、小学校期からの継続的な予防策を講じることは非常に重要である。しかしながら、子ども達の体格やライフスタイルを見つめてみると、不安な側面も見え隠れしていることが明らかになってきた。そこで、本調査結果から以下の対策を提言したい。
1 個人がすべきこと
(1) やせが低い骨密度につながることから、標準体重を下回ることがないようにする。また、ダイエットは骨密度の増加を抑制する可能性が示唆され、ダイエットは絶対に行わない。
(2) 1日1回は牛乳や乳製品をとる習慣をつける。特に、女子生徒では牛乳の摂取量が少ないことから重点的な指導が必要である。
(3) 睡眠時間が7時間未満の者が男女とも8割に達し、ほとんど毎日朝食を取っていない者も見られることから、毎日、朝食をとり、睡眠時間を十分確保するなど、規則正しい食生活を身につける。
(4) 継続的に運動やスポーツ活動を行い、積極的に身体を動かす習慣をつける。学校外でも比較的低料金で利用できる公共のスポーツ施設が多く見られるようになってきたので、友達同士や家族で利用するように心がける。
2 学校がすべきこと
(1) 小学生からいのちと健康の大切さを教育し、そのためには何が必要かを理解させる。
(2) 体格、運動、栄養の大切さを伝えるキャンペーンを定期的に行う。特に、中学生以降、体重増加に過度の関心を示し、ダイエットに興味を持つ生徒が増えることから、学校を挙げての健康教育に対する取り組みを行う。特に、美しい体、望ましい体格とは何かを考えさせる。
(3) 女子において牛乳摂取が少ない生徒が見られた。中学校や高校での学校給食の導入や牛乳やヨーグルトなどの乳製品を積極的にとるような栄養指導を行う。また、家庭でも冷蔵庫に牛乳、ヨーグルト、チーズなどの乳製品を常備するように保護者に働きかける。
(4) 学校において積極的に運動やスポーツができる環境を整える。休み時間や放課後などでも自由にスポーツができるように用具の貸し出しや場所の提供を行う。さらに、手軽にできる運動やスポーツに関する情報を提供し、スポーツ活動を促進するよう学校を挙げて取り組む。
3 行政がすべきこと
(1) 学校の保健体育、理科、生物、家庭科などで、単に身体の構造にとどまらず、生活習慣病予防を念頭において、健康問題を重点的に取り上げる。
(2) その際には、生徒の年齢に応じたテーマを重点的に取り上げる。骨の健康では、女子では骨密度が最も急峻に上昇するのは小学校の高学年から中学校期の前半、男子では中学校期の後半から高校期の前半と考えられる。この時に、もっとも効率的な骨密度の上昇が期待できるので、特にこの時期に取り上げる。
(3) 近年の行動科学的知見によれば、知識だけがあっても、健康行動には帰結しない。問題を認識することは行動への第1歩であるが、それだけでは不十分である。これまでの学校教育は知識に偏重し、問題解決能力の養成が不十分であった。骨を強くするために具体的に何をすればよいかを考えさせるライフスキルを上達させる意味での教育が必要である。
(4) しかしながら、本研究からもわかるとおり、現状では牛乳・乳製品摂取の改善は相当困難である。少なくとも1日に200ミリリットルの牛乳飲用を確保するためには、牛乳を学校で現物給付することがもっとも有効であると考える。すなわち、現在、公立の小中学校で実施されている牛乳給食を国立、私立の小中学校を含めて完全実施するとともに、現在行われていない高等学校にも拡大することを提言する。
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