消費者の方々が生産現場を実際に見て、生産者や関係者の方々と話し合って、相互に理解と認識を深めていくことが、食の安全と信頼の確保、国産への需要の増進には、何より大切です。
当機構は、情報提供業務の一環として、現地意見交換会を開催し、消費者と生産者との双方でのコニュニケーションの促進に努めてきております。
平成17年度は、9月22日(木)に、神奈川県において、開催しました。午前中は、丹沢連峰の麓の秦野市、午後は三浦半島の葉山町と横須賀市、この2カ所で実施しました。以下、その概要を、2回にわたり、報告します。
消費者代表7名の方々と大学生6名が参加・出席
(1)全国的な消費者組織において、それぞれ指導的な役割、活動を担われておられる7名の方々に参加、出席頂きました。
(2)また、今年度は、大学生6名の若い消費者にも参加頂き、食や農畜産業への理解を深めるとともに、生産者への情報発信をして頂きました。
(3)神奈川県の畜産事情に詳しい行政担当の方々と畜産団体の方々にも同行して、適宜説明や解説をして頂きました。
(4)当機構からは、山本理事長、小林理事(畜産振興部担当)、門田理事(酪農乳業部・食肉生産流通部担当)、野川理事(野菜業務第一部・第二部担当)、担当職員が同行し、案内、説明をいたしました。
秦野市では酪農牧場とアイス工房を訪問
(1)秦野市は、かつては、日本三大はたばこ産地の一つとして、葉たばこを中心に、麦、菜種、陸稲、落花生、そばが栽培されていました。現在は、野菜、果樹、酪農、花きなどが農業の柱となっている地域です。
(2)まず始めに、原盛益さん、あい子さん御夫妻の酪農牧場を訪問。
秦野市内には30戸を超える酪農家があります。原牧場は後述の小泉牧場、大津牧場などとともに、代表的な牧場です。
原さん御夫妻からは、昭和30年代末に酪農経営を引き継ぎ、次第に規模を拡大し、昭和50年代初めに、現在の地域に移転、新たな畜舎施設を建設した現在までの経緯をご説明頂きました。その後、50頭を超える酪農経営を確立、例えば、自動給餌機のように、絶えず新たな技術を導入し、工夫を凝らして、効率的な経営や高品質な牛乳の生産に取り組んできていること、乳牛の個体管理や搾乳した牛乳の衛生管理には細心の注意を払っていること、最近は、国の補助事業により共同の施設を整備し、たい肥の製造・供給、資源循環に取り組んでいることなど、説明をして頂きました。
(3)原さん御夫妻は、同じ酪農家の小泉健次さん、洋子さん御夫妻、大津俊彦さん、早苗さん御夫妻と、農事組合法人秦野アイス工房プラートを設立し、経営しています。
この工房は、「丹精込めた牛乳を新鮮なうちに、多くのお客さんに手渡したい。そのためには、アイスクリームなど加工した形でお客様に提供することも必要」と、平成8年4月にオープンしたお店です。
周辺は住宅街で、3人の酪農家の奥様や近隣の女性の方々が、自分で生産した牛乳や、秦野特産物の落花生やカボチャなどを生かして作るアイスクリームは、人気を博しています。
(4)小泉さん、大津さん、原さんの各御夫妻との意見交換会には、秦野市環境農政部農産課の町田弘主幹(特産振興班)、秦野市農業協同組合(JAはだの)の松下雅雄組合長にも出席して頂きました。
子牛を見つつ牧場主の原さんより
牧場の概要についてご説明いただく
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掃除の行き届いた牛舎でくつろぐ子牛たち
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アイス工房を共同経営する3戸の酪農家の御夫婦と意見交換
初めに、話題提供として、秦野アイス工房プラートの代表の小泉健次さんから、工房プラートの設立経緯、目的などをお話し頂いた後、意見交換が行われました。
概要は以下のとおりです。
(1) 何のために牛乳を生産するだけでなく、牛乳を活かし、アイス工房を経営されているのですか。また、宣伝はどうしていますか。
⇒ 自ら生産した牛乳を使って、自ら加工し、自ら売りたいからです。
宣伝は、HPを開設し、通販もやっています。
(2)アイスクリームに加える材料はどこで生産、収穫されたものを使っているのですか。また、アイスクリームのアイテム、種類で工夫されているところはありますか。
⇒ 落花生など地場産のものを使っています。工夫していることは、四季折々にいろんな食材を使って、お客様の好みに合ったものを作っているところです。新しい食材について、人気がありそうであれば企画しています。夏には、27種類前後、冬には、10種類前後、品揃えしています。
(3)商品開発の中心はどなたですか
⇒ 新しい商品は、私たち6人が月2回会合を開き、その話の中で決めます。
(4)牛や牛乳の出荷とアイス工房の経営形態は異なるのですか。
⇒ アイス工房プラートは、農事組合法人ですが、牧場経営の形態はまちまちです。大津さんは法人経営、小泉さんは個人経営です。牛乳の出荷先も皆違います。老廃牛と肥育牛の出荷ルートも違います。家畜排せつ物は、共同で処理するため、別の組合法人をつくっています。
(5)牧場は家族でやっておられるのですか。代理の人がエサをやることがありますか。
⇒ だいたい家族です。毎日は自分がやっています。旅行の時は、ヘルパーが来てくれて助かっています。
秦野アイス工房プラートを経営しておられる
酪農家の方々(左から小泉夫妻、原夫妻、大津夫妻)
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ピンク色が目印の秦野アイス工房プラート
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アイスクリーム工房プラートの店内の様子
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共同で利用しているたい肥舎
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秦野市おける意見交換の後、次の訪問先、三浦半島の葉山町と横須賀市に向かいました。三浦半島(葉山町と横須賀市)編は、次回報告します。
現地意見交換会に参加・出席した大学生から寄せられたメッセージ
現地意見交換会の後、参加した大学生の方々から感じたこと、思ったことなどのメッセージが寄せられました。
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私がこの意見交換会の話を聞いたのは担任の先生からでした。これから私が栄養士として仕事をしていく上で勉強になり役に立てるのならという気持ちと、このような会に参加できるなんて楽しそうだなという気持ちで参加しました。
初めに訪問した乳牛を飼養している農家では、子牛の飼育には自動的にミルクが出るという機械が備わっていたり、乳搾りをする際にはすべて機械で行うといった感じでした。また、衛生面で気を付けていることは、搾った乳をできる限り空気に触れさせないようにしているためすべて機械化していることでした。私は農家の家とかかわることがないためすべてが機械化していたことにとても驚きました。
次に肉牛を飼養している農家の方では観光牧場などでは見ることのできない大きさの牛が小屋の中にいました。私達が食べるため体には肉がたっぷりとついていて、自分の力では立ち上がれそうもありませんでした。どちらの農家とも家畜独特の臭いはなく、衛生面には気を付けているとのことでした。
今回の意見交換会では消費者団体の方や普段では話すことのできない方達の貴重な意見や考えを知ることができました。主に農家の方を訪ねたり、JAの方を訪ねたりと消費者の立場としての参加でした。しかし、私は将来病院の栄養士となることが夢です。立場的には農家の方・JAの方の立場になるのだと思います。そしてこの意見交換会で栄養士としてもその現場で患者様が私達に何を望んでいるのか、何を期待しているのかがわかったような気がします。とても勉強になりました。そして色々な方とお話ができて楽しかったです。貴重な体験をさせていただき本当にありがとうございました。充実した1日でした。またこのような機会があるのならば是非参加したいなと思いました。
私はこの意見交換会に参加して、神奈川県のイメージが変わりました。今まで神奈川県の特産品など全く知らず、こんなにも酪農や農業が盛んに行われていることを知りませんでした。
酪農や農業の生産者のお話を聞き、スーパーに並んでいる食材や、普段何気なく食卓に並ぶ食材はすべて一つ一つ生産者の様々な思いが込められているのだと分かりました。消費者が安全かつ満足いくものを食べられるように様々な工夫や苦労をされていました。
地元の産業を普及させるために作られた「じばさんず」では地元で生産された新鮮な野菜やその加工品などの種類が豊富で、お客さんで賑わっていました。そして並べられた商品はみな、生産者の顔が思い浮かんでくるようで、生産者の方がとても身近に感じました。価格も安いので、消費者にとっては安心して買い物できる場所なのだと思いました。また、珍しい食材や、その土地の特産品などもあり、見ているだけでも楽しい場所でした。
日本の食料自給率が低下する中、このように地域農業をPRして、消費者に地元の良さを知ってもらい、いいものを安く提供できる場を設けることはとてもいいことであり、今後もっと普及させていくべきだと思いました。
私も消費者として、賢く農畜産業を利用していかなければならないと感じました。地元の特産品を知ることから始め、野菜を買うときには生産者がはっきりと分かる安心できるもの、そして地元産のものを購入しようと思います。
この意見交換会に参加して、農畜産業に関する知識の無さや、関心の無さに気づかされました。毎日食べるものだから自分でもっと考えていかなければならないと思いました。
農業・畜産が一体となる仕組みづくりが必要である、また都市近郊だから可能であるということが今回訪れた秦野市と横須賀市に感じたことであった。
都市近郊での酪農には未来がある。まずは流通コストの低減が可能になるということ、都市近郊であるがゆえの後継者の多さもあげられる。デメリットとしては道路工事や騒音によって乳牛の乳が3〜4割減る、妊娠しにくいなどである。確かに地価が高く小規模での酪農には難点もあるが、乳牛・肉牛・野菜づくりを一つの場所で行うということができれば多くの問題が解決するように思えた。原さんが牛を動かすことは難しいが野菜や果樹・アイスなどの加工品生産・販売所が消費者に近づいていくこと、すなわち消費者にとって近い存在である販売という空間を生産の場の近くに設置することは可能だとおっしゃっていたことが非常に強く印象に残った。道路から近く騒音や振動の大きいところにはアイスの販売所を作り、その奥には加工所、そのアイスを作るために牛乳を生産する乳牛が飼われ、子牛が放牧されている。そこで子供達が遊ぶ、横では野菜が育てられ、反対側では湧き水を使ったそばが打たれ、隣で採れた野菜のてんぷらがその横のそば屋で並ぶ。また、葉山牛のステーキの横に添えたジャガイモも育てられた野菜畑はそこからすぐそこに見えている。
目に見えるカタチでの実感が農畜産業一体になることで可能になる。どうして人が生かされているのかを感じながら、大事に食事をしたい。現代、パソコンからインターネットで知りたい情報はすぐに入り、ゲームの画面にはリアルな世界でのバーチャル体験が可能である。しかし実感する喜びを大事にするということが豊かさの原点であると私は考える。そうした場所が人口の多い都市近郊には必要である。今回訪れてみて農畜産業のハイテク化、効率化は時代の要請に応えていることを充分に感じ取れた。原さんの牧場では餌は各牛の口元にチューブから配給され自動化、子牛に乳を与えるのもセンサーで管理されそれぞれの成長・体格に合った量が定められ、それを超えて飲むことができない仕組みになっている。また、たい肥には臭いの出ないつくり方を研究開発している。横須賀の野菜の作付けではテープ状になった種まきを実行し、効率化が図られていた。
職の選択と共に農業を職に選ぶ可能性の大きさも感じたことの一つである。調べてみると最近若い人の間で職業の選択として農業が挙げられていることを知った。私が専攻している建築でもやはり木の温かみが求められること、昔のような田舎暮らし風も好まれる傾向にある。都会での狭小な空間と暮らしにはすべてを望めないだけに、一般の人も土日などの休日を利用した農業への参画も都市近郊であれば現実味を帯びてくる。実感としての農畜産は私たちがこれから直面していくであろう深刻な食の選択に大きな影響を与えるだろう。少しでも多くの人が現在の状況を知り、これからの在り方を考え、職の選択の自由を主張していくためにも都市近郊での一体型酪農には大きな期待、夢を感じる。
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