はじめに
6月26日に国内初の弱毒H5N2亜型鳥インフルエンザウイルスによる高病原性鳥インフルエンザ発生が、茨城県の採卵養鶏場で見つかった。発生は茨城県に限定しているが、34養鶏場でウイルス感染が判明している。感染経路は特定されていないが、渡り鳥など野鳥の関与した可能性は低い。劣悪な不活化ワクチン、または生ワクチンがこっそり国外から持ち込まれ、使用された可能性を、分離ウイルスの性質からは考えざるを得ない。昨年、国内で認可を得たH5亜型鳥インフルエンザワクチンは3種類あるが、本ワクチン使用には制限が付けられていることから、違法ワクチンを違法に使用した可能性が取りざたされている。
渡り鳥から分離された鳥インフルエンザウイルスの鶏への感染性
私たちは、数多くの鳥インフルエンザウイルスを渡り鳥より分離しているが、H5あるいはH7亜型ウイルスを含むすべてのウイルスは、分離当初は弱毒である。ヒナにウイルスを感染させても感染が成立しにくいこと、感染が成立しても、特徴的な臨床症状も見つけにくく、特有な病変を特定の臓器に発現しにくい。死亡率も低く、認めらない場合も少なくない。弱毒ウイルスのヒナでの体内分布は、通常呼吸器、消化器などに限定される。回収されるウイルス量も少ない。鶏での伝播力は弱い。しかし、弱毒でもH5ウイルスは、鶏から鶏への感染が続けば鶏への伝染力が大幅に高まり、最終的には典型的な高病原性鳥インフルエンザウイルスに変異する。
鶏よりも鳥インフルエンザウイルスに対する高い感受性を持つ、七面鳥あるいはアヒル産業を持たない日本での鳥インフルエンザの発生する危険性は、欧米、東南アジア、中国、韓国にくらべて本来少ない。今回の茨城県の抗体陽性鶏群では、調べた鶏のほとんどすべてが抗体陽性である。抗体価にも大きなバラつきは認められていない。鶏に順化したウイルスによる感染の可能性は否定できない。
茨城県で分離されたH5N2ウイルスの抗原性
今回、茨城県で分離されたH5N2ウイルスのHAの抗原性は、渡り鳥などから分離されたウイルス株、あるいは世界で猛威をふるっているH5N1ウイルスとは明らかに異なる。茨城県で行われている抗体検査(HI検査)では、抗原として従来使用されているH5ウイルスではなく、先述したように、茨城県で分離されたウイルス株のHA抗原性が大幅に変化しているため、茨城県分離株が用いられている。2002年、グアテマラで分離された株と茨城株は酷似している。このように、従来の抗原性とは異なる抗原性を持つH5N2ウイルスは中米以外存在していない。
防疫対策
全国調査の結果、ウイルス汚染が、茨城県に限定することが明らかになった現在、ウイルスの感染地域が手に負えないほど拡大したという状況ではない。今回の発生で明らかになった、廃鶏を利用した採卵養鶏場の存在することは大きな問題であり、早急に対策を講ずべきである。いずれにしても、ウイルスが高病原性を獲得する前に、消滅させてしまうことを考えなければならない。
茨城県で分離されたウイルスは、従来のH5ウイルスとは大きくHA性を異にしており、例えワクチン接種を行っても、現在認可されているワクチンの効果はほとんど期待できない。世界で使用されているH5鳥インフルエンザワクチンも同様に効果がないであろう。
ほとんどの飼育鶏が抗体陽性となった鶏群中には、ウイルスは存在してもごく少数にとどまっているであろう。しかし、この養鶏場からウイルスを完全消滅させるためには、陽性鶏群の早急な処分、処理後の鶏舎の徹底した消毒が必要不可欠である。農場敷地全体の徹底的な消毒も求められる。消毒の手を抜けば、H5N2ウイルスは養鶏場内のどこかに必ず潜み、常に再汚染の機会を伺うことを念頭に置くべきである。ウイルス感染鶏群飼育鶏舎を含めた養鶏場全体から、徹底的なウイルス消滅ができたか否か、ここに本疾病再発防止に大きな鍵が存在する。
また、防疫対策の一つとして、安全な鶏ふん処理が重要となる。2003年12月に、韓国でH5N1高病原性鳥インフルエンザがまん延した決定的な要因として、ウイルスに汚染した鶏ふんの運搬があげられている。各養鶏場は、鶏ふんを他所へ運搬することなく処理する方策を講ずべきであり、当該養鶏場敷地内で処分すべきである。その重要性を改めて認識する必要がある。鶏ふんを養鶏場外へ持ち出すことの大きな危険性を、十分に認識しなければならない。
これまで指摘されていることであるが、現在、世界の家きん産業界では、高病原性のH5N1ウイルスの感染が拡大している。したがって、国内にこのウイルスを持ち込ませないことが、非常に重要である。厳重な動物検疫が必要であるが、本疾病のまん延している地域への旅行は差し控えるのが安全であろう。また、各養鶏場においても、無用な外部との接触を極力控えることが肝要で、野鳥対策、ネズミ対策も確立することを心がける必要がある。
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