◎調査・報告 


流通事情

畜産物加工品を対象とした
通販市場の成長可能性とその条件解明に関する研究

東北大学大学院農学研究科 助教授 伊藤 房雄
明治大学農学部      教 授 廣政 幸生


1.はじめに

 本調査研究の目的は、近年成長著しい通販市場に着目し、先進事例の実態調査を踏まえ、通販市場における畜産物加工品(乳製品および食肉加工品)取引の成長可能性とその条件を、経済学的、経営学的観点から解明することである。

2.先進事例調査

[健康食品の事例]

(1)株式会社 沖縄教育出版(屋号:沖縄自然薬草センター)

ア 会社概要(2003年度)

  所在地:〒900-0013 
      沖縄県那覇市牧志1-2-24
  設 立:1978年1月 
  資本金:1,000万円
  社員数:140名
      (役員3名、正社員13名、準社員10名、パート社員約120名)
  施 設:事務所兼コールセンター2ヶ所(170坪、65坪)、配送センター1ヶ所(70坪)
  売上高:15.0億円、経常利益:4.5億円(2002年11月〜2003年10月:25期決算)
  内 容:書籍出版と健康食品のコールセンター(1月1〜3日以外無休)

イ 通販事業の基本的仕組みと特徴

  図1が沖縄教育出版の通販の基本的仕組みである。商品は自社で企画開発したものを、主に県内の業者に製造委託している。直近1年間の商品売上高シェアをみると、ウコン粒が70%、黒酢10%、イチョウ葉エキス5%、その他15%である。

  商品の販売は、朝日新聞や読売新聞など主要全国紙への広告掲載(月1回、第2社会面の全5段枠使用)とダイレクトメール(DM)を通じて行われる。卸売業者を通じた販売は一切ない。新聞広告に掲載する商品はウコン粒のみで、他の商品はウコン粒の購入者に送付されるDMに一括して掲載されている。メディアとして主要全国紙を利用するのは、購読者数が多いという理由だけでなく、大手新聞社の掲載チェックをパスしたという社会的信用を獲得できる点が大きいという。そして、フリーダイヤルなどによる商品の注文が社内のコールセンターで受付けられ、データ処理を経た後、社内にある配送センターから宅配業者を経由して商品が届けられる。代金決済は、銀行または郵便局での振込が大半である。

図1 沖縄教育出版の通販事業の基本的仕組み
出典:インタビュー調査より作成。
 注1)実線は物流、点線は商流、二重線は情報の流れを示す。
  2)宅配会社やメディアとの商流は、単純化のため省略している。

 沖縄教育出版の通販の最大の特徴は、65%以上という高いリピーター率とそれを支える独自の顧客管理システムにある。2003年11月の売上目標(1億5,580万円)の構成割合をみると、新規申込みが16%、顧客の紹介が7%、残り77%がリピーターと設定されており、いかに商品買上げ後のアフター・サービスが通販事業にとって重要であるかを物語っていよう。そして、このアフターと新規申込みの受付をしているのが、総勢約80名のパート社員と数名の正・準社員から構成されるコールセンターである。ここでは「ハガキは訪問の0.5回、電話は訪問の1回」というコンセプトのもと、オペレーターに1人1日40人の顧客に電話をかける。これを1ヵ月当たりに換算すると(月平均20日間勤務と想定)、1人のオペレーターが月800人の、会社全体で月約64千人の顧客を訪問している勘定になる。年間1回以上の商品購入者数が約11万人であることを併せ考えると、顧客には最低2ヵ月に1度アフターの電話が届いていることになる。まさに、「忘れさせない、飽きさせない、卒業させない」ファンづくりの顧客管理である。

[畜産物の事例]

(2)農事組合法人 伊賀の里モクモク手づくりファーム (以下「モクモク」とする。)

ア 組織概要(2003年度)

  所在地:〒518-1392 
      三重県阿山郡阿山町西湯舟3609
  設 立:1987年4月 
  出資金:3,800万円
  従業数:正職員約100名
      (社長1名、専務1名、理事4名、マネジャー11名含む)
      パート職員約100名、アルバイト約300名
  施 設:ファクトリーファーム
      (約12ヘクタール:詳細は図2参照、年間入込み客:約40万人)
      直売店2店鋪(四日市、津)、直営レストラン3店鋪(四日市、鈴鹿、松坂)
  売上高:27.0億円(2003年度)
  内 容:直営農場(畜産、水稲、イチゴなど)、農畜産物加工(ハム、ウィンナー、パン、パスタ、地ビール、菓子、惣菜など)、農業公園(手づくり工房、レストラン、体験学習、温泉、バーベキューなど)、通信販売、直売店、農場レストラン、量販店向け卸販売、各種研修受入など

イ モクモクのマーケティング戦略と通販の特徴

  モクモクの事業展開を整理したものが表1である。そして、一連のマーケティング戦略を整理したものが図3である。ここで注目すべき点は、「ネイチャークラブ」会員の存在と会員特性に基づく商品開発および販売手法の革新である。「ネイチャークラブ」はモクモクのサポーター倶楽部、ファン倶楽部であり、その母体は、農事組合法人設立直後(1989年)に組織された「モクモククラブ」にある。入会金2,000円、年会費無料で、2003年12月現在の会員数は約33千人である。その約6割が三重県内で、約3割が京阪神、残り1割が愛知そのほかと、圧倒的に地元中心の組織である。会員になると、年間を通じてさまざまなイベントに参加できるほか、随時、通販カタログやギフトカタログ、会員情報誌「てくてく通信」(旧モクモク通信)などが送られてくる。

図2 伊賀の里モクモク手づくりファーム
      表1 農事組合法人「伊賀の国モクモク手づくりファーム」の展開過程
出典:「モクモク」資料より。

  モクモクでは、このような「ネイチャークラブ」の会員購買データと彼らの率直な意見をデータベース化し、それを従業員みんなで分析・検討することにより、絶えず事業の多角化(水平的展開)と、経営理念および目標の高度化・進化(垂直的展開)を図ってきた。逆に言えば、そういった「企画力」と「商品力」があるからこそ、今日まで事業を発展させることができたとも考えられる。その意味でモクモクのマーケティング戦略は、まさに消費者と共に歩む「ブランドづくり」にあったと言えよう。

図3 「モクモク」のマーケティング・コンセプト
出典:「モクモク」資料より。

 モクモクの通販もまた、「ネイチャークラブ」の会員を対象とするカタログ販売を基本にしており、会員の拡大が着実に通販部門の売上高を押し上げる効果を発揮してきた。そして、カタログはもちろんのこと、チラシや通信といった印刷物のすべてにモクモクの個性と「物語」がきちんと表現されていることも、モクモクの通販の特徴の一つである。これには、法人設立当初からモクモクのほとんどすべてのパブリシティにかかわっている一人の外部専任デザイナーの存在が大きく貢献していると考えられる。丁寧で親しみやすいイラストやモクモクのロゴも、すべて主婦感覚を大切にする彼女の作品である。優れたパブリシティは商品の販売や顧客の確保をもたらすだけでなく、メッセージの伝達と企業のイメージアップにも効果があることを忘れてはならない。

 このように一見順調かのようにみえるカタログ通販であるが、モクモクでは現在、インターネットに重点をおいた通販システムに変更する計画を進めている。その理由として、1つには通販利用客(ネイチャークラブ会員)が多様化していること、もう1つはカタログやチラシ、会員通信といった印刷物の制作にコストがかかり過ぎることである。「ネイチャークラブ」会員約33千人のうち、過去1年間まったく通販利用のない会員が約8千人(昨年から1年更新に切り替えたので自動退会扱いとなる)、それとは逆に定番の「モクモク直販カタログ」を利用して毎月商品を購入している会員が約17千人いるという。このほかにファームだけを利用する会員もいる。しかし、現在のシステムでは利用の程度とは無関係に、カタログやチラシ、通信のすべてが全会員に送られており、経費も相当の負担となっている。そこで、当面の間は従来路線を踏襲しながらも、例えば過去1年間にギフトのみの利用会員にはギフトカタログだけを送るとか、週1回メールマガジンを発行して、多様化する会員にモクモクの最新情報をスピーディに伝えていきながら、インターネット通販への円滑な移行を図ろうと考えている。インターネット通販は、利便性が高い反面「顔のみえない取引」としてさまざまな問題を抱えているが、それでもなお敢えてインターネット通販への移行を図ろうとするのは、先述の約17千人の熱烈なファンを抱えるモクモクの自信の表れなのかもしれない。

(3)農事組合法人 共働学舎新得農場

ア 組織概要(2003年)

  所在地:〒081-0038 
      北海道上川郡新得町字新得9-1
  開 設:1978年3月 
  居住者:約50名(うち子供10数名)
  売上高:約7,000万円(2003年)
  内 容:教育、福祉活動、農業生産(酪農、肉牛、豚、鶏、羊、有機野菜など)
       バター、チーズ、ハム、ソーセージ、ベーコンの加工製造・販売、自然卵販売
              その他加工品(ケーキ、クッキーなど)製造・販売

イ 事業展開と通販の特徴

  共働学舎は心身に障害をもつ人や、社会、学校などになじめない人、農業を実践したい人たちなどが集まり、農場でのさまざまな仕事を分担して共に働き、精神的にも経済的にも自立できるように互いに支えあって暮らすことを目的とした組織である。創設者は宮島真一郎氏(元自由学園(東京)教員)で、1973年8月に長野県北安曇郡小谷村でスタートした。現在は長野に2ヶ所、東京に1ヶ所、北海道に3ヶ所、計6ヶ所に開設されている。新得牧場の開設は1978年3月で、当初は新得町から牛乳山の山麓に30ヘクタールの土地を無償で借り受け、近くの沢から水道を引き、古いプレハブを利用して共同住宅や牛舎などを建て、農場経営を開始した。代表の宮島望氏は創設者の子息である。

  現在、共働学舎新得農場には、ホルスタインが約100頭(うち経産牛約50頭で年間340トンの生乳を出荷)飼育されているほか、肉牛としてブラウンスイスが約10頭、豚が10数頭、鶏が約250羽おり、羊やサラブレットも数頭いる。経営面積は55ヘクタールで、そのうち43ヘクタールが採草地、放牧地として、9ヘクタールがデントコーン、牧草などの飼料畑として利用されている。また3ヘクタールの畑では有機野菜の生産が行われている。

表2 共働学舍新得農場の販売先別売上高の構成(2003年)
 
  注)*印が通販に該当する。
出典:共働者学舎(新得農場)資料より。
 

  新得農場でのチーズ作りは、いまから16〜17年前にさかのぼる。農場の建設から約10年、すでに搾った牛乳は学舎の外にまで売るようになっていたが、牛よりも学舎に集まる人間のほうが増えてしまい、宮島代表はみんなで生活していくためにはなにか付加価値のある商品を開発しなければならないと考えていた。しかし、学舎で生活するのは障害のある人たちで、何かを習得するのも作業をするのも遅れがちとなり、一般の市場スピードに追い付けない。だからこそ、10年先に売れるもの、じっくり手間ひまかけてつくれるものはないかと考え、チーズ作りを始めたそうである。モッツァレラからはじめたチーズ作りは、カマンベール、クリームチーズ、カチョカバロと続き、その後開発したラクレットは、見事「第1回オールジャパン・ナチュラルチーズコンテスト」(中央酪農会議主催)で金賞を受賞した。

  さて、表2が共働学舎新得農場の販売先別売上高である。*印のついた販売先が通販に該当する。それによると、通販シェアは全体の約4分の1弱で、その中では小野化工(株)という代理店への卸売割合が高く、電話やFAXによる注文(直送)がそれに続いている。インターネット通販やカタログ通販のシェアはきわめて小さい。電話やFAXによる注文は北海道物産展やフェアで関心をもった顧客が多く、インターネットの注文はリピーターからのものが多いという。

  共働学舎新得農場の通販の特徴は、良き理解者である外部のサポーターが代理店の役割を果していることにある。例えば、小野化工(株)はナチュラルチーズ工房、製造機材の輸入代理店であるが、社長が宮島代表の友人ということもあり、共働学舎の商品のみを扱うウェブサイトを開設している。ほかにも、かつてチーズを卸していたレストランの社長が設立した(有)ウェブスパイス(業務:通販の商品企画開発)のサイトや、十勝のおいしさ、素晴らしさを伝える十勝テレホンネットワーク(株)のサイトでも、共働学舎新得農場のチーズを注文することができる。さらに、これらのサイトでは単に商品を注文することができるだけでなく、共働学舎の取り組みについても知ることができるよう工夫が施されている。いわゆる共働学舎のファンづくりである。このようなファンづくり、サポーターづくりの重要性はあらためて述べるまでもなかろう。

3.通販の経済的特質と先進事例の評価

(1)取引費用論からのアプローチ

 通販は、消費者が商品情報を申し込む(アクセスする)ことから始まる。消費者がアクセスするケースは大きく2つある。1つは、口コミなどによって商品に関する情報を知り、通販業者に商品情報を申し込む場合であり、もう1つは消費者がホームページ(HP)などで商品情報自体を知る場合である。前者はいかに多くの人に商品情報を届けるかが課題となる。沖縄教育出版は毎月1回、全国紙に広告を掲載し、不特定多数から商品情報に関する申込みを受けている。このようなタイプは積極的な能動型である。後者は、消費者が商品情報の載っているHPにアクセスすることを待たなければならず、受動的なタイプである。共働学舎はHPのアクセスが主であるが、関係者のHPを利用して多くのリンクを張っている。言うまでもなく、能動型はコストが大きく申込み数も多い。費用対効果では、前者が優るようである。やはり受動型の場合には、一定数以上の顧客を確保しない限り、商売として成り立つことが困難なようである。これはインターネットショッピングの弱点でもある。なお、モクモクでは、来園して会員になった消費者に対してカタログとDMの送付によって商品情報の提供を行っており、不特定多数を対象としない能動型であるといえる。

 一般に、通販における商品情報は、カタログ、HP、DMによって届けられる。そこに記載される商品数は店舗に陳列される数より少ない。しかし、自分の商品だけに限るならば、棚の商品数より多いこともあり得る。さらに重要なことは、価格情報のみの棚の商品と違い、メッセージを加えることができる。つまり、自分の商品に付加情報を加えることが可能であるため、メッセージを強調して、プライベートブランド(PB)化することに適している。畜産加工品において通販を活用することは、ナショナルブランド(NB)を売るわけではない。自分のこだわり商品をアピールすることが主眼であることから、メッセージを付加した商品のPRが何よりも大切である。先進事例のすべてが、この点を強調していた。情報を付加して商品の差別化を図り、ブランド化をなすことによって消費者を囲い込み、リピーターとすることによって顧客とし、収益を上げていく構造である。販売上、畜産物がほかの農産物と違うのは、加工製品が多いことである。加工製品が多いことはバリエーションを多くすることができることであり、付加価値を付けやすく、ブランド化しやすい利点を持っている。

 消費者による、商品の探索、商品の評価、商品の選択に至る過程は、通販を運営する上で最も問題が多く、重要度も高いプロセスである。それは消費者にとって、探索コストと評価コストがかかる過程だからである。畜産加工品を含めた食品の通販は、NBではなく、こだわりを持った、言わば訳あり商品であることが多い。探索費用や評価費用を減じるためには、信用力を付ける、すなわちブランド化することが肝要であり、それを継続していくことにより収益を伸ばすことができる。例えば、モクモクでは、製品の品質の高さを信用力で確保することにより、顧客を獲得しブランド化を図ってきた。また、そこではモルタル(店舗)とカタログの相乗効果も生じていた。すなわち、コンセプトが明確でブランド化が成功すれば、マルチチャンネル化が可能となり、規模の経済性だけでなく、範囲の経済性を追求することができる。

 商品の購入者をリピート化し、顧客とさせることは継続取引であって、取引費用を節約させ、取引の効率化を図ることで双方にメリットがある。購入者をリピーターにすることができるかどうかは、製品差別化やブランド化といった商品自体に関わることや通販業者の信用力にもよるが、より根本的には通販業者のマネージメントシステムに依存していると考えられる。沖縄教育出版では、顧客担当を決めたグループごとの競争システムを導入しており、社員の創意工夫を引き出すインセンティブシステムがある。モクモクにも同様のシステムがある。

(2)消費者意思決定論からのアプローチ

 通信販売のキーワードは「安、環、健」といわれる。「安」は安全な商品、安心できる企業、「環」は環境に優しい商品、環境に理解のある企業、「健」は健康にいい商品、健全な企業を意味する。商品だけでなく、通販業者の姿勢も問われている。3つのキーワードは、食品(畜産加工品)にそのまま当てはまると共に典型的な商品であるといえよう。流動的な消費者を捉えることのできる特質を持っているために、今後、食品(畜産加工品)の通販は伸びる可能性が十分にある。通販向きの商品は、NBではなくPBであり、ニーズ(必需品)ではなくウオンツ(必欲品)であり、メジャー市場ではなくニッチ市場向けである。これらの点においても、食品(畜産加工品)は有望であるといえる。

 このような特質をもつ商品の販売戦略を、消費者意思決定プロセスモデルの視点で考えてみよう。そこでは、消費者が能動的であればあるほど探索に要する時間は大きくなると考えられるが、自己の時間評価が高くなければ探索費用もそれほど大きくない。例えば、「安、環、健」の意識の高い消費者は主に論理的に意思決定を行うと考えられるので、求められる商品を通販業者がいくつかのメディアに載せ、その消費者がアクセス可能であれば、消費者の探索費用と評価費用は節減され、得られる効用レベルは高く、リピーターとなる可能性も高くなる。目標意識の高い消費者がアクセスするウオンツ市場は、「安、環、健」のホンモノ商品にメッセージを付加して提供することが重要である。ホンモノ情報を継続的に発信し、学習効果を高めることによって、顧客を囲い込むことが可能となるのである。

 モクモクの顧客へのアプローチは、(1)明確なコンセプトを持つファームの来園者が会員になり、(2)会員へカタログなどによって情報を発信し、(3)会員の目標意識が高まり、(4)商品購入の選択を論理的に決定するようになり、(5)学習効果によって継続的なリピーターとなるシステムを採用している。共働学舎でも、固有のメッセージを発信することにより、より意識の高い消費者、目的を共有できる消費者を獲得しようとしていた。これも同じく、論理的意思決定を行う消費者を顧客にしようとすることにほかならない。

4.おわりに

 以上から、畜産物加工品を対象とした通販市場は、今後、市場規模(範囲)は限定的であるものの、その成長可能性はまだ十分に高いと考えられる。

 そして、成長していくための条件を、「関係性マーケティング」という売り手と買い手がコミュニケーションを通してお互いの立場を超えて一体化し、新しい価値を創るコンセプトの視点から検討した結果、「ブランドづくり」に当たっては、消費者ニーズに合致した「ものづくり」を図ることはもちろんのこと、そこにどのような「物語性」をもたせて、顧客に「つくり手の想い」をきちんと伝えていくのかということが、生産者と消費者の信頼構築に極めて重要な役割を果すことが明らかになった。

 次に、取引費用論から検討した結果、通販では供給者と需要者の交渉費用は極めて小さいが、需要者の探索費用と評価費用は大きく、これらの費用をいかに低減できるのかということが市場拡大の重要な要因となること、評価費用は経験や学習によって低下させることができるためブランド化を図ることが有効であることなどが明らかになった。さらに、消費者意思決定プロセスモデルから検討した結果、「安全、環境、健康」に意識の高い消費者に対しては、ホンモノ情報を継続的に発信し、学習効果を高めることでリピーターを囲い込むことが可能になると考えられる。

 ただし、「売り手」と「買い手」の双方向コミュニケーションを円滑に進めていくためには、沖縄教育出版やモクモクの先進事例にみられるように、相応の工夫と一定の時間コストをかける必要がある。そして何よりも、それを成し遂げられる人材が必要である。

附記:本調査研究を進めるにあたっては、実に多くの方々から多大なご協力を得た。特に、先進事例調査で取り上げた企業、組織の方々には、多忙にもかかわらず時間を割いてインタビューに応えていただいた。深く感謝する次第である。なお、執筆分担は、3.通販の経済的特質と先進事例の評価を廣政が、残りを伊藤が担当した。


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