1.はじめに
世界の飢餓の現状、コメや食肉などの食料生産や食料自給率の向上の必要性について、次代を担う子どもたちの認識を深めることが重要と考えられる。こうしたことから、国際連合が定めた「国際コメ年」活動の一環として、平成16年12月17日(金)に国際連合食糧農業機関(FAO)日本事務所および農林水産省北陸農政局と独立行政法人農畜産業振興機構の主催により「国際子ども食料会議」を金沢市(石川県文教会館)で開催した。
当日は高校生、教育関係者などを中心に約400名が参加し、高校生による研究発表やパネルディスカッションなどを通じ「コメ」、「畜産物」、「農畜産業」に対する理解を深めたのでその概要を報告する。
2.基調講演
(1)「世界の食料事情」
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マルカン氏による基調講演
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クリスチャン・マルカン氏
(FAO日本事務所所長補佐)
現在、世界ではおよそ8億5200万人が栄養不足に苦しんでおり、そのほとんどがアジア太平洋地域とアフリカにいる。この現状に対して、国連のアナン事務総長が2000年に2015年までに栄養不足人口を半減することなどを内容とするミレニアム開発目標を作成したが、栄養不足人口を2015年までに半減する目標達成が厳しい状況を訴えた。
また、コメは世界の30億人の主食であり食料の安全保障や貧困撲滅に重要な役割を担っていることや、食料問題を解決するため、FAOが取り組んでいるタンザニアでの小規模かんがい開発による耕地拡大プロジェクトの紹介もされた。
(2)「日本の食料事情」
飯田健雄氏
(北陸農政局企画調整室長)
日本の食料自給率が経年的に低下しており、現在40%まで低下している。その要因として、農業サイドばかりでなく、自給率の高いコメの消費量が減少するなどの食生活の変化や、食べる種類(洋食、和食、中華など)にもよることが挙げられた。典型的な和食の場合について計算すると自給率が64%と高いが、そうでない種類の場合には低い。そして、食料を海外に依存し自給率が低いと、異常気象やテロなど不測の事態が発生したときにどうなるか心配があると問題提起をした。
また、8億人を超える人々が飢えている中、食べ残しをやめて栄養バランスの良い食生活を、ひいては日本の食料自給率も上がるような食生活を訴えた。
3.研究・取り組み発表
以下の4課題について高校生による研究・取り組みの発表が行われた。
(1) 牛舎を利用した平飼い鶏舎での有精卵作り
(福井県立坂井農業高等学校生産技術科)
(2) 受講者と生徒がともに学ぶ『共学農園』
(富山県立福野高等学校農業科)
(3) オリジナルの米パンづくり
(石川県立七尾農業高等学校生物資源科)
(4) 小規模水田魚道の開発
(福井県立福井農林高等学校環境工学科)
このうち、(1)の福井県立坂井農業高等学校生産技術科による「牛舎を利用した平飼い鶏舎での有精卵作り」の研究発表では、学校で従来飼育していた肉牛がBSE発生後飼養中止に追い込まれたことから、牛舎の有効活用を図るため平飼い鶏舎に改造し、採卵鶏による卵生産に付加価値を付け、地域の人々に喜ばれるよう新鮮で卵本来の味覚を出すための有精卵作りに取り組んだこと、その有精卵を地域で販売したことなどの分析結果の発表が行われた。
分析では、平飼いの場合は鶏の運動量が多く産卵率がやや低かったが殻が厚く、販売した有精卵に対する地域の人たちの反応は良かった。アンケート調査結果では、「安全」、「栄養価が高い」、「味が濃くておいしい」、「アレルギーが出にくい」などの感想があった。これらを実証するための研究を今後の課題とした。
4.パネルディスカッション
「−いま食料について考える−」
コーディネーター:
千田 一貴
(金沢大学教育学部附属高等学校2年)
中元 晴香
(北陸学院高等学校3年)
パネリスト:
小島 怜
(新潟県立加茂農林高等学校3年)
花島 由香
(富山県立福野高等学校2年)
藪野 慎介
(石川県立翠星高等学校3年)
水上 陽介
(福井県立坂井農業高等学校3年)
ブラッドリー・クラーク(カナダ人留学生)
(遊学館高等学校2年)
チュティマ・ヴィチャジャロエン(タイ人留学生)
(石川県立金沢西高等学校2年)
志治 春江(日系ブラジル人)
(石川県立小松高等学校3年)
パネルディスカッションにおける主な発言の概要は以下のとおりである。
(1)日本の農業について
若者が農業を嫌うことが問題になっているが、農業は嫌な面ばかりではなく良い面もある。例えば自分で作った野菜を収穫したときの喜びや、自然を相手に汗を流して働くことは、とても健康的で気持ちが良く達成感がある。農業実習や手伝いをして分かるようになったが、若者にもこういうことを分かってほしい。
農業法人は収入も安定しており、就労時間も決まっているので良いと思う。農業法人という新しい経営体系を導入することにより、若者の農業に対するイメージが変わるのではないか。
(2)日本の食料自給率について
自給率が低下したのは食生活が変わったからではないか。また、野菜などを外国からの輸入に頼っているが、外国で栽培されている農産物は、外見重視のため日本で使用できない農薬などを使用している場合があるので怖い。輸入に頼るのは良くないので、地産地消などを進めていくことが良いのではないか。
(3)地産地消について
地元の誰が生産したかが消費者に分かるのが地産地消だと思う。地産地消により食の大切さが分かり、安心して食べることができる。また、地域で生産した安全なものを食べることで、その地域の農業が活性化するという役目もある。
(4)地域農業の活性化について
地域農業の活性化のためには、地元の小学生などの食への関心を高める必要がある。コメ作りや野菜作りなどを通して、小学生などに食や農について理解を深めてもらいたい。一緒にコメ作りや野菜作りなどをして、自分たちの地域の農業に興味や理解を持つことで、将来、地域の農業を支えるサポーターになり、地産地消も推進されるだろう。
(5)食への関心の低下と食生活について
コメの消費量の減退は、食への関心の低下や食生活の変化、食の洋風化が原因だと考えられる。食への関心の低下から栄養バランスが崩れ、体に悪影響が出るなどの問題がある。
肥満を防ぐ一番良い方法は、野菜を中心としたバランスの良い食事を摂り、そして運動するということだ。伝統的な日本の食生活が肥満防止に大いに貢献すると思う。
(6)コメについて
学校給食でご飯を出すことにより、子どもたちにご飯の味を覚えてもらい、家庭でも毎日ご飯を子どもたちに食べさせてもらうことがコメの消費につながると思う。
コメでパンを作り、米粉パンを学校給食に取り入れるのも1つのアイデアである。
(7)水田の機能について
水田は大きく分けて、四つの機能((1)洪水や土砂崩れを防止、(2)地盤沈下を防ぐ、(3)水をきれいにする、(4)生物のすみかになる。)を持つ。
このほか、タイ、カナダ、ブラジルからの留学生から、それぞれの国の農業事情や食生活などの紹介があった。
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食料についていろいろな意見が出た
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5.子ども宣言の採択
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「子ども宣言」発表
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「国際子ども食料会議in金沢」の閉幕に当たり、金沢大学教育学部附属高等学校の生徒の取りまとめによる「子ども宣言」の採択が行われた。
宣言では、先進国で日本ほど食料自給率の低い国はなく、輸入に大きく依存するような生活を見直す必要があるとし、若い世代にもっと魅力を感じてもらえる産業に農業を変えていく必要があるとした。
さらに、今、「コメ」の消費減退もあって、稲の作付面積は減少傾向が続き、野菜・果樹や畜産などほかの産業についても、輸入品との競争激化、輸入飼料への依存など様々な問題を抱えていることから、これら諸問題の解決に当たっては、農業者だけではなく、消費者である私たち一人一人の心がけが大切であるとして、具体的に「私たちは、自分の食べるものにもっと関心を持つことが大切である」、「ほぼ国内需要を満たしている『コメ』について新しい価値を創造することが必要である」、「法人化などにより農業を若い世代にもっと魅力を感じてもらえる産業に変えていく必要がある」、「専業農家であれ兼業農家であれ、やる気のある農家を支援していくことが必要である」などの取り組みの必要性を掲げた。
そして、私たち消費者、生産者など関係者が一つになり、日本の農業を活性化させ、食料事情を一歩一歩着実に改善していくことが、今、求められており、「まずはできるところから始めましょう。明日からといわず今日からでも」と呼び掛けがなされ、満場一致で宣言が採択された。
(注)国際子ども食料会議in金沢の詳細については、機構のホームページ(http://www.alic.go.jp)の消費者コーナー「フォーラム等報告」に掲載している。
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