富山県/前坪 直人
富山県の東部に位置する黒部市は、3,000メートル級の山々が連なる立山連峰から流れ出る黒部川の左岸にあり、豊富な雪解け水が伏流水となって、黒部川扇状地の至る所で湧き出している。この湧水は「日本の名水百選」に選ばれ、市民は日常生活でもこのおいしい水を利用しており、まさに名水の里として知られている。 黒部市で養豚業を営む4戸の農家からなる黒部市養豚組合では、この水と環境、そして鮮度にこだわった肉豚生産を行っている。黒部のおいしい水で育てた豚は、「黒部名水ポーク」としてブランド化することにより、地元消費者のみならず、県内各地のスーパーや、トンカツ店を中心とした外食産業で広く販売・利用されている。 中でも、木島敏昭さん(54歳)は「黒部名水ポーク」の顔として多くのメディアに取り上げられ、今や全国区である。木島さんは、黒部川河口のすぐ横で、母豚100頭規模の一貫経営農場を営んでいる。骨太で赤肉のしっかりついた康な豚にこだわり、オランダ系のランドレース種を元に、大ヨークシャー種に県の系統豚「タテヤマヨーク」、デュロック種に静岡県の「フジロック」などを利用した三元交雑により肉豚を生産している。すべての豚は、ミネラルを豊富に含み一年を通して水温・水質が安定した「黒部の名水」を飲んで育てられ、また飼料には、竹炭を生産する際の副産物「竹酢」を添加したり、仕上げ期に大麦を配合することで、ドリップロスが少なく旨味と肉汁をギュッと閉じこめ、ジューシーで豚肉特有の臭みが少ない豚肉に仕上げている。
出荷する肉豚が精肉となり、「県産豚肉」として一本化され店頭に並ぶことに、自分たち生産者の顔が今ひとつぼやけて見えてしまうと考え、「地元黒部の方々に、黒部で育ったおいしい豚肉を食べてもらいたい」との思いから始まった「黒部名水ポーク」の生産であったが、結果的にとても良い形で「地産地消」につながっている。今後も、これまでの生産体系を崩さず、地域に根差した、「生産者の顔が見える、安全・安心・おいしい豚肉」の生産を続けていきたい、と話される木島さんの目には、「名水ポーク」に対する愛情と自信に満ちあふれていた。 |
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