群馬県/望月 雅之
現在の乳牛の泌乳潜在能力は年間15,000キログラム程度と言われている。しかしながら農場では、5,000キログラムから7,000キログラムの成績に甘んじている農家は少なくない。いったいなぜ能力の半分も引き出せないのか、また低泌乳であるということは牛の健康上の問題も抱えているということでもあり、経営上深刻な問題となっている場合が多い。 乳牛の栄養代謝は単胃動物と比べてやや複雑に考えなくてはならない。トウモロコシや大豆かすに代表される濃厚飼料のほか、粗飼料(牧草など)を給与しなければ牛の栄養はうまく回らない。第一胃には微生物が住んでいていったんその微生物の栄養として飼料を設計する。大部分は増殖した菌と菌により発酵してできた副産物の有機酸を吸収して栄養としている。 成績の振るわない背景の一つとして粗飼料と濃厚飼料の給与バランスがあまり良くないことや自給飼料や輸入乾牧草の品質の良否による影響をあげることができる。酪農家は飼料給与について粗飼料の生産や確保がもっとも難しい問題となっているのが実情である。 そこで東日本くみあい飼料株式会社は、効果が期待できる一部の生産者に供給するため、平成14年よりプロジェクトを組み、月間1,000トンの能力を持つ発酵TMR(total mixed ration)製造施設を平成16年3月に完成させた。 群馬県吉井町のAさんは、以前は泌乳量、乳成分、繁殖成績が不安定で安心して経営ができなかったという。それまでは通常の分離給与方法で、粗飼料は輸入乾牧草の購入で賄っていたが品質が不安定で品目の選択やグレード、産地など良品の確保にいつも悩んでいた。発酵TMRを利用して1年が経過したが現在の成績は安定している。 TMRの内容は乾牧草3種類とビールかす、乾燥オカラ、濃厚飼料がブレンドされ一定の発酵期間を経て出荷される。400キログラム詰めされたバックを一度に12本購入し、作業性を良くするためミニローダー、給餌車を導入した。泌乳牛40頭を飼養し泌乳前期牛と後期牛に分けてTMRの給与量を調整しており、さらに一部乳量に応じて牧草、濃厚飼料の給与をしている。E氏は成績の改善のため、換気送風施設、牛床マット、連続水槽、ステンレス餌槽の設置がなされており、すでにレベルが高かったが発酵TMR飼料導入後は徐々に乳量が上がり現在は平均1頭当たり35キログラム/日の泌乳量となっている。 現在の利用者は20名でTMR中心の給与とほかの飼料と組み合わせる一部利用型に分かれているが、ほぼ全員が満足し泌乳量、疾病、乳成分の改善につながっている。同社ではこれからTMR使用生産者の乳牛の健康維持に努め、さらなる経営貢献のために次の商品開発を考えている。
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