平成17年度畜産物価格等の焦点
(1)背景には脱脂粉乳の過剰在庫
平成17年度畜産物価格及び関連対策の決定に当たって、酪農分野において議論の焦点となったのは限度数量をいかに設定するかであった。16年度は生産者および乳業者の自主的な対策として脱脂粉乳2万トンの過剰在庫処理対策を開始したにもかかわらず、本年2月の計画生産策定時までに、史上最高水準にある脱脂粉乳の在庫が減少する気配はみられなかった。
このため、17年度の計画生産において、生産者団体は2万トン対策の継続に加え、ナチュラルチーズの需要拡大策を含む脱脂粉乳5千トン相当の需要拡大策(在庫削減策)を講じることを決定した。これに対応して、限度数量についても、脱脂粉乳5千トンの削減を織り込んだ上で205万トンと決定された。
(2)チーズの増産により生産抑制は回避
これまでの経験則に従えば、限度数量の削減は、即、生産抑制につながるというのが生産者の一般的な認識であった。そこで、特定乳製品の需要に応じた限度数量の設定(削減)により、脱脂粉乳の在庫を削減しつつ生産抑制を回避するという一見矛盾した課題を同時に解決するため、特定乳製品以外での需要を拡大する方策が必要であった。
しかしながら、飲用需要を拡大することは、仮に多額の予算を投入したとしても確実に担保されるわけではない。そこで、生産者団体の計画生産をも踏まえ、価格次第では輸入品との置き換えという確実な需要があり、将来にわたり安定的な需要の見込めるチーズの増産を図ることにより、生産の抑制を回避するという方策が採られた。
チーズ増産の必要性
(1)国際化への対応
短期的には当面の生乳需給緩和への緊急的な対処であることは論を待たないが、中長期的な視点に立てば、国際化の進展に対応しつつ安定的な生産を確保していくためには、輸入品と一定の競争力を有する乳製品の需要拡大が必要となる。基幹的乳製品であるバターや脱脂粉乳については、今後、関税引き下げなどにより次第に競争力を失っていくと考えられるのに対して、チーズについては、現在でも約30%の関税水準で輸入品とほぼ対等に競争しており、戦略的に需要を拡大していくべき乳製品といえる。
(2)牛乳乳製品の自給率の向上
本年3月、新たな「酪農及び肉用牛生産の近代化を図るための基本方針」が策定され、平成27年度の生乳の生産目標数量が928万トン(15年度840万トン)、自給率が75%(同69%)と設定された。現在の牛乳乳製品に対する需要構造を前提とした場合、生産の拡大および自給率の向上を図るためには、輸入品との置き換えが可能で需要の拡大しているナチュラルチーズの生産拡大が必要不可欠である。また、1人当たりのチーズ消費量を諸外国と比較すると、わが国のそれはわずか 1.8キログラムとEU平均の10分の1に過ぎず、置き換え需要ばかりでなくチーズ全体としての需要拡大の余地も十分にある。
チーズに対する取り組み
(1)チーズ対策の見直し・拡充
既存のチーズ対策(酪農安定特別対策事業)においては、奨励金単価を計画的に引き下げていくことがあらかじめ定められており、補助対象数量30万トン(12年度実績)までは16年度がキログラム当たり2.9円、17年度が2.3円、さらに30万トンを上回る数量に対しては16年度が5.9円、17年度が5.2円となっていた。
このように、既存の事業のままではチーズ向け生乳供給拡大のインセンティブが働きにくい。このため、事業の仕組みを大幅に見直し、事業実施前の61年度の実績である20万トンを基準数量として、基準数量を超える数量(補助対象数量10万トン)に対しては加工原料乳補給金単価並みの同10円を交付するとともに、前年度までの実績(30万トン)を超える数量に対しては2円上乗せして12円を交付することとした。この結果、予算額は約9億円から約15億円へと大幅に拡充されることとなった。
チーズ対策の見直し |
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(2)乳業再編事業の要件緩和
わが国のチーズ工場をみると、既に製造能力いっぱいにフル操業をしている実態にあるため、製造能力の拡大が行われなければチーズの増産はかなわない。また、生産の太宗を占める大手のチーズ工場は根室地区に2工場、十勝地区に3工場あるが、両地区は220キロメートルも離れているため、地区を越えた再編は配乳などの面から現実的ではない。
他方、乳業再編整備等対策事業においては、工場を新設する場合、3以上の施設の廃棄が必要であったためチーズ工場の再編には対応が困難であったところを、チーズ工場の再編に限り2工場の廃棄でも可能となるよう要件の緩和を行った。
以上のとおり、わが国酪農乳業の縮小均衡という事態を回避し、安定的な発展を図っていくためには、これらの事業を活用しつつ業界が一丸となってチーズの生産拡大に取り組むことが必要であろう。
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