★ 機構から


「全国畜産縦断いきいきネットワーク」がスタート
〜酪農、肉用牛、養豚、養鶏の
 畜種横断的な女性ネットワークが発足〜

調査情報部 調査情報第一課長 藤野 哲也


 全国の畜産に携わる女性が平成17年8月29日、虎ノ門パストラル(東京都)において「全国畜産縦断いきいきネットワーク」を設立した。

 発足式には、酪農、肉用牛、養豚、養鶏と畜種横断的に151名の女性関係者が参加した。参加者した女性は、自ら生産した農畜産物の加工や直売の取り組みや子供たちへの生命教育、消費者との交流会などを実践し、畜産の大切さを伝えるべく活動を行っている地域のリーダー的な方が多い。

 畜産をより魅力あるものにするために、全国から畜種を超えて立ち上がった女性たちの熱き想いを「全国畜産縦断いきいきネットワーク」発足式のパネルディスカッションに中心として紹介する。


1 はじめに

 平成16年の基幹的農業従事者(農業就業人口のうちふだんの主な状態が「仕事が主」の者)は2,197千人で、うち女性は1,013千人と46.1%を占めている。また、女性就業者(自営農業に60日以上従事している女性)のいる農家のうち女性が責任をもって担当している部門がある農家は70.6%もあり、女性は農業生産の重要な担い手となっている。女性就業者が責任をもって担当している農家を部門別についてみると、露地野菜が28.3%、稲作が16.4%、施設野菜が15.9%、果樹類が11.5%となっているものの、畜産部門は、酪農4.2%、肉用牛2.6%、養豚0.6%、養鶏0.5%と低く耕種部門と比べ男性の役割が依然として大きい(表1)。

表1 女性就業者が責任をもって担当している部門別農家割合(複数回答)

 しかし、畜産においても、直接生産部門以外では、「全国畜産縦断いきいきネットワーク」の女性達のように、農畜産物の加工、直売、食育などを通じて地域の活性化や付加価値の向上に大きな役割を果たしている事例も多い。

 「農家における男女共同参画に関する意向調査」(平成17年3月農林水産省公表)による男女共同参画社会を形成する上で重要な女性への部門別支援・施策に関する意識では、畜産部門は酪農ヘルパー制度などが普及していることもあり、「家事・育児・介護ヘルパーの設置」が24.2%と第1位であり「女性農業者間の新たなるネットワークの育成・支援や、女性農業者との異業種の女性との交流の場の拡大」が24.6%と果樹部門に次いで第2位、「女性が農業技術等を習得するための研修やセミナーの開催」が37.2%で第3位、「女性のための支援制度、施策等に対する情報提供」が16.5%で第4位となっており、女性農業者間の新たなるネットワークの要望が他部門に比較して高くなっており、今回の「全国畜産縦断いきいきネットワーク」の設立はまさに時宜を得たものであることを裏付けている(図1)。

図1.男女共同参画社会を形成する上で重要な女性へ支援・施策に関する意識(複数回答)

 また、同意向調査を畜産の男女別でみると「女性が農業技術等を習得するための研修やセミナーの開催」は女性36.1%、男性38.3%「女性農業者間の新たなるネットワークの育成・支援や、女性農業者と異業種の女性との交流の場の拡大」は女性21.5%、男性27.7%となっており男性サイドの応援意識が高くなっており、今後のネットワークの活動における男性の理解と協力を得られることが予想される(図2)。

図2.男女共同参画社会を形成する上での重要な女性へ支援・施策に関する意識(畜産部門・男女別)

 さらに、今後10年程度の政策展開の基本方向を示した新たな食料・農業・農村基本計画では、農業の持続的な発展に関する施策として女性の参画の促進に向けて取り組むべき事項が示されている。同基本計画によると、女性の農業経営者としての位置付けの明確化、女性の農業経営や地域社会への一層の参画、女性の起業活動を促進などが掲げられておりそのための環境整備の一環として、女性農業者によるネットワークづくりの促進が謳われている。今後の「全国畜産縦断いきいきネットワーク」の活動に関係者の期待が高まるところである。

 

2 全国畜産縦断いきいきネットワーク発足式

 発足式では、畜産に携わる女性ネットワーク設立準備会メンバーを代表して神奈川県の養豚農家北見満智子さんが設立までの経緯を説明した。続いて、「畜産をより魅力あるものにするために、私たち全国の畜産に携わる多くの女性たちが飼養畜種を超えて集まり、お互いの交流を深め、研さんする場として、また、消費者と交流を図りながら、畜産をもっと知ってもらうための活動の場として、畜産に携わる女性のネットワークを作っていこう」と発足宣言を行った。

 農林水産省生産局町田畜産部長およびネットワークの事務局を務める社団法人中央畜産会の小里会長(中瀬副会長代読)の祝辞の後、19人の参加女性が「女性ネットワークでやりたいこと」というテーマで2分間スピーチを行った。

 さらに、パネルディスカッションでは女性ネットワークの未来に向けて熱心な議論が行われた(詳細は後述)。その後、当ネットワークの名称募集に基づき応募のあった42個のネットワークの名称から、投票により「全国畜産縦断いきいきネットワーク」と名称が決定され、ネットワークの規約、活動計画などが承認された。

 「全国畜産縦断いきいきネットワーク」は、(1)情報発信、会員間の意見・情報交換、(2)研修等での知識向上、(3)若手後継者の育成、(4)消費者や他業種の人たちとの交流、(5)最新情報の収集、(6)行政などとの意見交換―の6つの柱を立て、今後活動することとなった。

 

3 パネルディスカッション

 パネルディスカッションは、「女性ネットワークの未来に向けて」と題してネットワークで何ができるかが議論された。
コーディネターには時事通信社解説委員の野村一正氏が、パネラーには、社団法人全国農業改良普及支援協会主任研究員の安倍澄子氏、社会保険労務士・中小企業診断士の羽田賀弥子氏、農林水産省消費・安全局消費者情報官の引地和明氏、農林水産省生産局畜産部畜産企画課畜産総合推進室長の岡本直之氏、ネットワークメンバーからは渡辺千恵子さん、今克枝さんが参加された。
前半は各パネラーから今後のネットワークの取り組みの方向性やその活動への期待などが出された。その後会場から熱心が意見が出され、ネットワークへの期待の大きさを感じさせるものとなった。


「女性ネットワークの未来にむけて」のパネラーのみなさま

 以下、出席者の主な意見を紹介する

○人見みゐ子さん(栃木県):

 食育基本法が6月10日に成立しましたが、私たち女性を本当に必要とする時代がやってきたと私は思いました。なぜなら、食材を買ってつくるのも女性の方が携わっていることがとても多いですし、子供を産んで育てる部分に対しても女性の方がかかわっていることが男性よりもとても多いということです。

 また女性はおしゃべりがとても上手です。それにより食と農の理解促進とか、そういう部分に対しても本当にこれが役立つことと思っております。また3人集まれば云々といわれますが、3人なら3人の知恵、 100人なら 100人の知恵、そしてこのネットワークの私たち女性がこれだけの人数が集まったら人の数だけ知恵がわくということで、私もこれに賛同いたしました。

○江原美津子さん(群馬県):

 
女性の立場としてこのネットワークの立ち上げというのは、食にかかわる女の立場として農の応援者を作ることだと思うのです。

 例えば「でもあそこの農場は一生懸命取り組みをしているから」とか「おいしい豚肉、安全な豚肉をつくっているから」という応援者がいれば、臭いの苦情などが少しずつ解消されるということもあると思うのです。群馬の場合は「アグリレディースネットワーク群馬」というグループがありまして、食の教育といいますか、消費者交流という形でたった1回きりということではなくて、年間5〜6回農地を耕すことから始めて収穫までというようないろいろな形で消費者交流をやっています。

○渡辺千恵子さん(熊本県):

 
養豚場には病気などの関係がありまして、外の方、体験学習生を入れられないのです。それで肉牛肥育農家の方から「子供たちの小学校から体験学習の依頼を受けてどうのこうの」というお話を聞くたびに、「ああ、養豚もそういうことをしたいな」という思いがありました。ちょうどそのときビデオ教室というのが町でありまして、全財産はたいて12万円の3CCD方式のビデオカメラをすぐ買いました。

 ビデオ教室にも通い、今では地域のケーブルテレビの放送枠を月に15分ぐらい時間を買いまして、それにいろいろな農業のものを作って流しております。そういう仲間がいますので、その人にいろいろ編集してもらって、小学校の子供たち用ということでビデオを編集しました。それを学校のゆとり教育というものがありますね。ああいうところで、ちょうど私の仲間に教育委員さんがいらっしゃいましたので、その人から学校にお願いしていただきまして、ゆとり教育の時間に20分か30分間、ビデオを子供たちにみせています。

 このビデオをアグリチャンネルさんにも送って放映されました。私が今取り組んでいるのは畜産の私の、養豚ですけれども、菊池郡に頑張っている女性たちがたくさんいます。熊本県にも頑張っている女性がたくさんいます。そういう人たちを取材して、それをアグリチャンネルに送って東京などに発信してもらっています。


ビデオ撮影を通して地域の子供たちに養豚の様子を 伝える渡辺千恵子氏

○佐藤弘子さん(長野県):

 きょうここに集まった方たちはとても幸せだと思います。なぜなら、仕事を夫なりヘルパーさんなりにお願いして出て来られたからです。私は地元でこのネットを何でやりたかったかというと、そのここへ出て来られない人たちと仲間づくりをしたかったんです。

 最初やり始めたときには、やはり普及センターとかそういう行政のところから行った通知じゃないと家が受けつけない、家族が受けつけない、夫が受けつけない状態だったんです。そんな仲間を集めてきて、こういういろいろな思いで私たち「同じ畜産をやっているんだから、頑張ろうね」と。私はそれを全国の末端までつないでいきたいと、そういう思いがありました。だからここへ来た人たちは、やはり自分の地元へ帰って、いろいろな人たちを掘り起こしながら仲間づくりをしていっていただきたいとすごく思います。

 それからうんちじゃないですけれども、うちへも「農業体験させてください」という形で学校の方から来ました。これから農業体験をしていく子供たちはいいのですよ。幸せですよね。それを支えようとしている今の若い先生が一番いけないなと思ったのです。

 というのも、2回目に同じ学校の栄養士の先生がおみえになりました。その方はやはり女性で意識も進んでいらっしゃるせいか、「ちっともにおわないじゃないですか。この間うちの担任たちが行ったときには『においがきついので、子供たちが……』」といっていたらしいのです。その話を聞いて、これ子供に教育するより、その先生たちをまず教育しないと、これは農場体験をきっちりさせても、上から下へつながっていかないというのをちょっと感じました。


「この場に来られなかった人たちにも仲間づくりを伝えよう」と佐藤弘子氏

○中尾眞由美さん(福岡県):

 
福岡から来ました酪農をやっております中尾です。私たちがいろいろなことを理解して欲しいという場合に、やはり消費者に私たちの仕事を、畜産すべてを理解していただいて、「ああ、本当に日本にはこういう農業がなくちゃいけないんだ」ということを一つずつ消費者の皆さんにわかっていただけるような組織づくりをやってほしいと思います。

 それから今私たち酪農は本当にすごくて、牛乳離れがひどいですよ。もう本当に高いえさを与えても、毎日朝晩一生懸命に搾った牛乳が今はもう水より安いですよ。それと健康ブームでお茶とか飲料水に追われて、本当にわけのわからないお薬を入れた飲み物よりも牛乳が安いというのはかなり厳しいですよね。

 だからやはり消費者に本当に「食育」とか、「安全」とかといわれるけれども、じゃあその前に何が安全かということを、いろいろな消費者にまずどういうものかと、安全というのは本当にどういうものかということを1個ずつ確かめていただいて、それでそういうことを伝えるのは生産者である私たちが、もう本当に女性でなければわからないということを今回この女性ネットワークに私はすべてを託して、本当に皆さんに頑張ってほしいなと思っております(拍手)。


「水より安い牛乳にはしたくない」と中尾眞由美氏

○今克枝さん(栃木県):

 
消費者が研修に来たときにどういうことが話せるのか、と考えたらまったくきちんと答えることができない自分に気がついたのです。私自身がなんですけれども。それでやはりもっともっと勉強しなければいけないと思っていたところに、この女性ネットワークの立ち上げというものがあったわけです。簡単に女性の立場で、例えば視察に来た方とか、子供たちに話をすると「お父さんの話を聞くより、お母さんの話を聞いた方が身近に迫っていてなかなかいいですね」と先生なんかもおっしゃってくださるのですね。

 それはなぜかというと、男性というのはとても格好いい話をするのですよね。でも女性は、特に私は現実的なことを話します。だから例えば餌にしても何にしても無駄にするとどうなるのかとか、そういう本当に細かいところから話をして、子供たちと向かい合ったときには「お産するとき、お母さんって苦しむの?」というので、「すごく苦しむんだよ。頑張って、頑張って産むのだよ」という話を、自分で出産の経験があるから話せるんですね。「すごくリアルだ」といわれましたけれども、そういうことはできるのですね。

 でもそれよりもっと上に行って、例えば安全とは何か、安心とは何かといったときにきちんと筋道を立てて話せないという自分に気がついたのですね。それと牛乳を扱っていながら、「牛乳は水より安いのだよ」と先ほども出ましたけれども、私ももう声高にいっていたのです。でも「じゃ牛乳の効能って何?」と聞かれたときに、ただカルシウムが多いのだよ、何よりもカルシウムが多いから牛乳を飲んだら骨が強くなるとか、骨密度がすごくよくなるんだよといった話だけでは今は通用しなくなってきているのだなということをすごく感じるんです。

 それで私たち自身、食育ではないですけれども、生産者の女性自身がそういう学びをしないと消費者と向かい合ってきちんと話ができなくなるのではないかという思いがありました。ですから、「なぜ女性なのか」というところに女性は話し方がリアルに話ができるとか、いろいろ細かいことを子供たち相手にして話ができたり、研修生相手にしてできたりということがありますけれども、それよりもうちょっと高めていろいろなことを学ぶ必要があるんじゃないかというところで、「なぜ女性なのか」という部分も入ってもいいのではないかと思っています。

 そしてやはりいろいろなことを自分の中に取り込んでいきたいというときには、地域だけではだめなんですね。地域の酪農家だけだと「そうだよね〜、そうだよね〜」というだけで本当に仲良しクラブみたいになってしまって、それより先に進まないということで、やはりこういう全国ネットとかブロックネットといったその辺のところまでは必要かなと思っています。


「生産現場の話を女性の立場で伝えていきたい」と 今克枝氏

○渡邉ひろ子さん(福岡県):

 2点申し上げたいと思います。1つは先ほどここに出て来られない人たちが出て来られる場所をつくる必要があるというご意見がありましたが、福岡県ではもう既にこの話が持ち上がった時点で、やはり地域の活動をどうつくっていくかということをこの全国組織につなげていかないと意味がないということで準備を進めておりまして、9月9日に福岡県段階での集まりを持つことがもう既に決定しております。小規模ではありますが、これから少しずつ地道に地元の活動を積み上げていって、それが全国ネットにつながっていけばいいなと思っております。

 それからもう一点、先ほどから出ております「なぜ女性なのか」ということですが、私はもうたった一言で申し上げると、「もう男の人に任せておったってらちがあかん」というそれだけのことではないかと思います(笑声)。

 内向きのことは女がして、外向きのことは男に任せておけばいいという風潮でずっと農村は進められてきまして、「牛飼いの女房」といわれて、「私は牛飼いの女房ではない牛飼いだ」といって抵抗しているんですが、そのように内助の功とかいろいろいわれてきましたが、そういう形で男の人にお任せしてきた結果として今酪農がどういう状況になってきているかということをみたら、もう男に任せちゃおけんぞと、そういう思いで多くの女性たちは立ち上がったのではないかと思います。

 男の人たちができなかった発想が女にはできるのではないか、それが新しい道を切り開くことにつながっていくのではないかと思います。


「もう男の人に任せちゃおけん」と渡邉ひろ子氏

○住田富美子さん(島根県):

 私も非農家から嫁いで、本当に何もわからない状態で主人の経営をみてきて、一生懸命協力して私たちも開拓に入りました。本当に血のにじむような思いをしてやってきて、それをわが子に伝えようと思って一生懸命やってきて、決して泣き言をいわなかったわけです。後継者としてちゃんと長男も次男もやってくれて、今みんなが頑張っているから私がこういった場に出られるわけです。

 ただその地域をみますと、島根県の酪農も決してみんなの輪というものがなくて、本当に別々に組合ごとといいますか、隣の酪農家は何をしているのかという感じで、もちろん勉強会なども若いときはしていたのですが、高齢になると1人減り、2人減りで酪農家もどんどん減っていきました。

 そんな中、島根で酪農していて、自分一人で奮闘しないといけないのかなと思っていましたら、そういう人たちが何人かおられたので、私たちは自主的にネットワークをつくりました。「ミルククイーン」という会を、一応 250人ぐらい酪農家がいらっしゃるので呼びかけてみました。そうすると、やはり「高齢だから」だとか、「車に乗れない」といったことで、結局集まったのは32〜33名程度でしたけれども、みんなすごくそれを望んでおられていたみたいで、私たちの会だから本当に何をしようか、自分たちで勝手に決められるわけなのです。

 そういう思いでいましたら、1月に勉強会で国会議事堂に行きまして、農林水産省の専門技官の方と直接お話もできました。そうした一人一人の思いというものは通じるものだなと今思っているわけです。そして私たち女性がそういう思いをしていたら、今度は男性が黙っていなくて、島根の酪農は一つにしないといけないということでネットワークをつくりまして、私も一応代表ということで参加しているんですが、そうするとやはり取り組み方が違うと思うんです。いろいろな問題点を、私たち女性だけではどうしてもできないことを男性が一緒になることによって取り組んでくださる。

 みんなそういった「自分はこういったことがやりたい」という思いがそれぞれあると思うんです。それを一つ一つ、例えば勉強会にしても何にしてもしていく必要があるのではないでしょうか。



なごやかなムードとともに団結心の芽生えを感じた会場

 畜種横断的なネットワークとして初めて結成された「全国畜産縦断いきいきネットワーク」の発足式は、参加された女性の活気にあふれた場となった。女性の感性を生かした新しい取り組みは、畜産の振興のみならず消費者や異業種との交流を図る意味でも非常に重要なことだと改めて認識された。このような取り組みに畜産業界が一丸となって協力していくことが、畜産を元気にしていく活力になると確信し、ネットワークの今後の活動に大いに期待したい。


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