岐阜県畜産研究所は、伊藤忠商事株式会社および京都大学農学研究科との共同研究で、人工授精用凍結精液への無線ICタグ装着による、凍結精液管理システムを新たに構築した。
今回のシステムは、岐阜県畜産研究所内の限定されたフィールドにおいて、農家での人工授精に関する情報集約を想定したモデルシステムであり、生産者や消費者の方々により多くの情報を提供できること、また雄側からの生産性向上を目的に構築した。今回われわれはその手法として、世界最小でかつ128ビットもの情報量を持つ無線ICタグ(ミューチップ:日立製作所開発)に注目し、小型であること、また研究所内で実験した結果、マイナス196度の液体窒素中に保管してもICタグとしての性能に問題はないことが確認されたことから、ミューチップを活用したシステムの構築に取り組んだ。
システムの概要は次のとおりである。まずミューチップ付き凍結精液ストロー(ストローセット)を製造し、対応する精液情報を登録、その後精液保管情報、配布情報を登録する。人工授精の現場では、ストローセットをリーダーにより認証した上で人工授精が行われ、確実にどの精液がどの雌牛に人工授精されたかをシステムに登録する。この人工授精に対応した子牛が生まれた場合、現在行われている家畜個体識別システムに係る耳標の個体識別番号を登録することで、精液製造からの情報が個体識別番号に紐付けされる。
このように、凍結精液からの情報が家畜個体識別システムに確実に紐付けされることにより、生産者や消費者の方々に対しよりきめの細かい情報の提供を可能とし、食の安全性や安心の面からも信頼性の強化につながる。また生産現場においては、近年受胎率の低下が問題となってきているが、このシステムにより、凍結精液の各種情報と授精から分娩に至るまでの情報が一括管理できることから、雄側からの受胎率向上研究への応用が期待できる。
現在このシステムを用いて岐阜県畜産研究所内で実証試験を行っている。 今後は実際にフィールドにおいて使用可能な環境に機能を拡張し、より利用価値の高いシステムの構築を目指して行きたいと考えている。そして将来的には飛騨牛の世界一安全なトレーサビリティシステムを通じ、飛騨牛のブランド力向上につながるものと期待している。
ミューチップを装着した凍結精液ストロー
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ミューチップリーダ
(ノートパソコンに接続して使用)
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