第5回放牧サミットが9月21、22日の両日、山口県山口市内で開催された。全国飼料増産行動会議と(社)日本草地畜産種子協会の主催で全国から約360名の行政関係者、研究者、畜産農家などが参加した。講演や事例発表、パネルディスカッション、現地検討会などを通じて、地域の特性を生かした放牧普及の重要性、耕作放棄地の解消や鳥獣害対策などの放牧効果など、飼料自給率向上に向けての放牧の積極的な利用についての共通認識を深めた。放牧サミットも今回は5回目を迎え定着していることに加え、日本型放牧発祥の地である山口県で開催されたことから、多くの参加者が集まり放牧への関心の高まりがうかがえた。
開会では同協会の浅野九郎治会長があいさつし、農林水産省生産局畜産部畜産振興課姫田尚課長などが来賓祝辞を述べた。
講演では北里大学教授 萬田富治フィールドサイエンスセンター長が、「放牧がもたらす効果について」と題し特別講演を行い、「放牧酪農については、(1)山地酪農、(2)集約放牧酪農、(3)マイペース酪農(山地酪農と集約放牧酪農の中間)の三つのタイプがあるが、肉用牛については、中四国の繁殖経営を中心として、国土保全、中山間地域対策としての環境保全型放牧が拡がっている。肉用牛については、このような放牧技術の普及拡大をさらに推進するとともに、今後は繁殖のみならず、放牧育成牛の産肉特性を生かした安全・安心な肥育技術の開発の必要がある」とした。また、基調講演では、近畿中国四国農業研究センター 土肥宏志畜産草地部長が「放牧の鳥獣害の被害防止について、牛自体のイノシシへのけん制効果は認められないものの、イノシシのえさとなるクズや隠れ場所となるススキを牛が食べることでその防止に効果がある」との研究結果を発表した。続いて山口県畜産試験場
澤井利幸育成業務課長が耕作放棄地を活用した山口型放牧技術の確立過程とその推進体制について紹介し、「県農林事務所、市町村、JAなどが協力し、地域住民への事前調整を根気よく行い理解を求める体制の重要性を強調するととともに、放牧は景観維持の効果のみならず、地域住民の畜産に対する理解が深まり、畜産のイメージアップにもつながっている」と地域の取り組みを紹介した。
また、事例発表では、島根県の木次乳業相談役の伊藤忠吉氏、富山県農業普及指導センター園芸畜産課の佐丸郁雄氏、山口県長門農林事務所畜産部畜産振興課長の岡田講治氏がそれぞれの放牧に対する取り組みを発表した。
パネルディスカッションでは、農林水産省生産局畜産部畜産振興課姫田尚課長、ジャーナリストの増田淳子氏などがパネラーとして、また、近畿中国四国農業研究センター 土肥宏志畜産草地部長がコーディネターを務めて「放牧が及ぼす効果とその普及について」と題して放牧に対する大きな期待が話し合われた。この中で増田淳子氏は「肉用牛の放牧はようやく足が地に着いた取り組みとなってきた。今後、放牧をさらに推進し、新幹線の車窓からも黒毛和種や褐毛和種の放牧風景が見られるように、行政機関を含めて実践をさらに進めていくことを期待する。また、生産者は消費者に対して積極的に情報を提供する必要があるとした上で、畜産のサポーターとなってもらうためにも、放牧は有効な手段になる」と述べた。
翌日は現地検討会として4つの放牧場を現地視察し、日本型放牧の実践の状況を見学し、参加者は熱心にその説明に耳を傾けた。
放牧サミットパネルディスカッション
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