はじめに
食品循環資源の再生利用という観点から、食品製造時における残さや副産物を資源として再生利用する試みや研究が企業や自治体においてなされている。これらの未利用資源を飼料として家畜に給与し、単に廃棄物の減量という目的からのみではなく、家畜における機能性成分・有用成分の検索といった側面からも取り組まれている例が報告されている。
例えば、焼酎やウィスキーなど酒製造の過程で発生する醸造粕から機能性成分を検索した報告がされている。そこで、これまでに家畜飼料としての研究報告の少ない「ワイン粕」に着目し、家きん飼料としての機能性成分や有用性成分について調査するための基礎的知見を得るために、ブロイラーの成長に及ぼす影響を調査した。
材料について
本試験で用いた「ワイン粕」は次のようなものである。ブドウ液汁の発酵後、ブドウの果肉や果皮の分解物、酵母、ワイン中の酸味の成分(酒石酸)が結晶化した酒石と呼ばれる物、ワイン中の色素やタンパクなどがほかの成分と結合した沈殿物が発生する。これらを総称して「澱」と呼ぶ。ビン詰め前には澱を除去するために珪藻土を用い、ろ過を行った。本研究ではブドウの果皮は材料として用いず、澱と珪藻土の混合物を「ワイン粕」として実験に使用した。
試験に供試した赤ワイン粕、白ワイン粕は平成16年に島根県内にあるワイナリーから入手した。実際に家きん用の飼料として利用する状況を想定すると、そのままでは水分含量が高く、また、ワイン粕を入手できる時期は限られているため、乾燥保存する必要があると推察された。そこで、乾燥方法によっては機能性成分に影響を及ぼす可能性があると考え、加熱乾燥(60℃、48時間)あるいは凍結乾燥を行い、粉砕した。
試験方法
15日齢のオスブロイラーを各飼料区8羽ずつ割り当てた。各飼料区には、加熱処理赤ワイン粕(HR)、凍結乾燥赤ワイン粕(FR)、加熱処理白ワイン粕(HW)、凍結乾燥白ワイン粕(FW)をそれぞれ5%相当量、市販飼料と置換した飼料を、また、対照として、市販飼料(C)をそれぞれ2週間給与した。試験期間中、飼料と水を自由摂取させ、飼料摂取量、増体量を計測し、試験終了時に右浅胸筋(胸肉)、肝臓および腹腔内脂肪を摘出し、重量を測定した。右浅胸筋と肝臓中の脂肪含量を測定した。血しょう中のグルコース、総コレステロール、トリグリセリド濃度を測定した。
結果
表1に今回使用したワイン粕の成分を示した。珪藻土の主成分は二酸化ケイ素であるため、灰分が高くなったと考えられる。
表1 ワイン粕成分(%)
表2に今回給与した飼料の成分を示した。Cに比べ、ワイン粕を混合した区は粗タンパク質含量が低値を示した。
表2 飼料成分(%)
表3に試験期間中の増体成績を示した。飼料摂取量に差は認められなかったため、し好性に関しては、家きん飼料として問題ないと考えられた。しかし、ワイン粕を給与した区の増体量はC区と比べ低かった。そのため、飼料効率(増体量/飼料摂取量)はC区と比べワイン粕給与区が低値を示した。
表3 増体成績(%)
表4に浅胸筋、肝臓、腹腔内脂肪重量を示した。各飼料区間に明白な差は認められなかった。
表4 浅胸筋、肝臓および腹腔内脂肪重量(%)
表5に浅胸筋および肝臓中の脂肪含量について示した。浅胸筋についてはC区と比べ、HW区、FR区は高くなる傾向を示し、HR区は有意に高値を示した(p<0.05)。一方、肝臓中の脂肪含量はC区と比べ、HR区が有意に低下し、浅胸筋における傾向と逆の傾向を示した。
表5 浅胸筋および肝臓中の脂肪含量(%)
表6に血しょう中の総コレステロール、トリグリセリドおよびグルコース濃度を示した。総コレステロール濃度とトリグリセリド濃度に関しては明らかな違いは認められなかった。しかし、グルコース濃度については、HR区がHW区およびFW区と比べ有意に上昇した(p<0.05)。
表6 血しょう中各種脂質、グルコース濃度(mg/dl)
考察および今後の課題
今回の試験では、ワイン粕の家きん飼料としての利用性について基礎的な知見を得るため、ワイナリーで発生したワイン粕を乾燥後、市販飼料に一定割合で混入し、給与した。そのため、市販飼料区と比較し、ワイン粕を給与した区で、増体成績や飼料効率が低下し、これは、飼料中のタンパク質含量が少なかったためであると推察される。また、ワイナリーの違い、ワインの種類はもちろんであるが、ロット間によって成分に違いがあるので、今回利用したようなワイン粕を家きん飼料として市販飼料に混入し、利用する場合は、(1)タンパク質含量を確認し、適切な添加量を考慮する、(2)タンパク質含量が少ない場合はタンパク質源を加える、などの工夫をすることによって利用できる可能性が示された。
ワイン粕の給与により、肝臓中の脂肪含量は低下する傾向にあり、逆に浅胸筋の脂肪含量は増加した。血しょう中のグルコース濃度が変化していることと合わせて考えると、乾燥方法やワインの種類により、その程度に違いがあるが、脂質や炭水化物の利用性に影響を及ぼす可能性が推察される。しかし、今回の試験では各区の飼料中のタンパク質量が等しくなかったため、エネルギーの利用性に違いが現れたとも考えられるため、今後、タンパク質量を等しくし、給与試験を行う必要がある。また、血しょう中のグルコース濃度の違いについては、ワイン粕中の糖類の含量が影響した可能性もあるので、今後、糖類についても測定し、比較検討したいと考えている。
乾燥方法の違い(加熱乾燥、凍結乾燥)が成長に及ぼす影響については明白な違いは認められなかった。しかし、先に述べたように、脂質の蓄積に影響を及ぼす可能性もあることから、それぞれの処理を行ったワイン粕を分離・分画し、成分の構成に違いがあるかどうかを調査する予定である。
今回の試験結果から、ワイン粕を家きん飼料として利用することは可能であることが示されたが、成長促進因子のような機能性は発見できなかった。今後はワイン粕を種々の方法を用い、分画し、機能性成分の検索を行いたいと考えている。
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