生産/担い手採卵養鶏の企業経営京都産業大学名誉教授 駒井 亨 |
採卵養鶏の7割は会社経営 平成16年の「畜産統計」(農林水産省統計部、平成17年4月)によると、全国の採卵鶏(成鶏めす)飼養戸数は3,734戸で、その内訳(羽数規模および経営組織別戸数および飼養羽数)は表1のとおりであった。
この表で見ると、平成16年の全国の採卵鶏の飼養戸数は3,734戸、また総飼養羽数は136,538千羽であり、採卵鶏10,000羽以上を飼養する戸数は全戸数の56%で、その飼養羽数は全体の95%を占める。 採卵鶏10,000羽以上を飼養する855戸の地域別の分布およびその飼養羽数の各地域内でのシェア(構成比)を調べてみると(表2)、地域別にかなりの差はあるものの、会社経営の採卵養鶏場が全国的に満遍なく分布していることが分かる。
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写真1 新延ふ化場に設置されたアメリカ・JW社製シングル・ステージふ卵機 |
なおブロイラー用初生ひなのふ化事業は平成5年で打ち切り、現在は採卵鶏専門ふ化場として営業し、年間450万羽の採卵用初生ひな(めす)を生産・販売している。採卵用初生めすひな1羽を160円と評価すると、その年間売上高は7億2千万円と試算できる。
新延ふ化場は、初生ひなのふ化・販売事業と併行して、自家用および販売用の採卵用若めす(120日齢)の育すう・育成事業も行っているが、この事業のために、昭和61年には、同業の共立育すう場を買収し、ドイツ・FA社製ケージ・システムの直立4段育すう・育成ケージを導入して、香川県内に高瀬育すう場を新設、また前出の財田第二育すう場、二宮育成場も同じくドイツ・FA社製ケージ・システムに改造した。
平成8年には二代目社長の新延正葭氏が辞任し、新延修氏が三代目社長に就任する。
平成10年には、香川県内にリバーサイド育成場二階建の3棟が完成し、これによって採卵鶏の育すう(え付けから35日齢まで)と育成(35日齢から120日齢まで)施設は、育すう場2カ所、育成場3カ所で合計年間220万羽の若めす(120日齢)が生産できる。
採卵鶏種の種鶏場(種卵生産)は、前出、豊中、観音寺、神田の3農場だが、このうち神田種鶏場には、平成10(1998)年にイタリアのF社製のケージを導入、2階建種鶏舎が完成した。
年間約200万羽生産される若めすのうち50万羽は自家用(採卵養鶏)に仕向けるが、あとの150万羽は120日齢若めすとして外部に販売する。若めす1羽を800円と評価すれば、この若めす生産・販売事業の年間売上(自家用を除く)は12億円となる。
新延ふ化場は、以上のふ化および若めす生産事業に連結して、5農場で合計約80万羽の採卵鶏を飼養しており、採卵鶏のふ化、育成および採卵の3事業を併せて、年商は24億円に上る。また有限会社としての現在の新延ふ化場の資本金は5千万円である。
新延ふ化場のふ化・育すう・育成・採卵の一貫経営は、以下に報告する新延修氏の創意工夫と経営手腕によって、大幅な黒字経営を続けており、同氏は毎年、多額納税者リストの上位をキープしていると言う。
新延ふ化場の現在の従業員数は70人で、そのうち60歳以上の再雇用者は15人に上り、そのうち最高齢者は73歳である。
このほか中国人研修生(女子)10人を受け入れている。
新延ふ化場の現社長・新延修氏(写真2)は、多忙を極める中、筆者のために1日を割いて、同社の主要施設を案内、説明して下さったが、育すう、育成、採卵、集卵、鶏ふん処理など諸施設の随所に同氏の実地の経験と実験に基づく創意工夫が見られ、それらを活用した効率的な採卵養鶏の実際を見て、感嘆のほかはなかった。
写真2 (有)新延ふ化場の新延修社長(右)と筆者(新延ふ化場正門前で) |
床面給温育すう方式は、筆者が昭和33年に箱根小涌園のブロイラー工場で温泉を利用して初めて成功し、これを静岡県御殿場の農場で温湯ボイラーを使用して実用化し、以後全国各地のブロイラー生産施設に普及したが、新延修氏はこの方式(温湯ボイラーによる床面給温平面育すう)を採卵用ひなの育すうに用いて成功している。同氏の育すう舎は飼育床面積150坪(500平方メートル)に採卵用ひな1万5千羽を収容して35日齢まで育すうする。
一般に大群の平面育すうではひなの密集を避けるため、室内に間切りを設けるが、同氏は間切りを設けず150坪の床面全面に1万5千羽を飼育する。同氏によれば、ひなは一定距離以上には移動しないから、間仕切りは必要ないという。
実際、その育すう状況を見たが、ひなは適度に分散して健康に育っていた(写真3)。
写真3 (有)新延ふ化場の採卵用ひなの床面給温大群(間仕切りなし)育すう。床面積150坪(500平方メートル)の1棟に1万5千羽を収容して35日齢まで育てる。 |
新延修氏によると、採卵用ひなはケージ育すうよりも床面給温平面育すうの方が頑健に育つという。
35日齢から120日齢までの採卵用若めすの育成は、ドイツ・FA社製ケージ・システムの直立4段ケージで行われる。
新延修氏は、この直立4段は最上段でも人間の目の高さで、鶏の観察や管理がしやすく、労働効率も高いという。
育成舎は幅11m、奥行70mの770平方メートルで、これを2階建とし、ケージは1区画当たり8羽を収容、1棟当たり6万羽を収容する(写真4)。
写真4 新延ふ化場の採卵用若めす育成舎。育成舎の前に若めす(120日齢)輸送用のトラックが見える。2階建若めす育成舎は、幅11m、奥行70m、1棟で35日齢から120日齢まで6万羽を育成する。ここに見える3棟で18万羽を育成する。若めす輸送用トラックは1台当たり2,160羽を積載する。 |
採卵用鶏舎は、同じくドイツ・FA社製の直立4段ケージで、ケージは1区画6羽を収容、幅11m、奥行82mの902平方メートルの2階建1棟で採卵鶏6万羽を収容する。
採卵鶏の飼養システムは、120日齢で採卵鶏舎に収容、450日齢〜480日齢で強制換羽し、40〜42日間の休産期間を経てその後約10ヵ月間継続採卵する。
新延修氏の採卵鶏の生産性に対する考え方は、「費用対効果」を重視し、採卵鶏の極限的な産卵を獲得するために余分な費用をかけるよりも、できるだけ低い費用で標準的な産卵をさせる方が有利だと言う。
また、新延修氏は、鶏舎を建設する際、幾棟もの鶏舎を同時に建設せず、一定期間を置いて1棟づつ建設して行く。それは、もし不備なところが見つかれば次の1棟はそれを改善して、より良い鶏舎が建てられるからだと言う。不要、節約できるカ所があればそれだけ建設費も節減できる。
新延ふ化場の育成舎、採卵・種鶏舎はすべてウィンドウレスでトンネル・ベンチレーション・システムを採用し、夏期の冷房の目的で気化冷却装置を併設する。トンネル・ベンチレーションおよび気化冷却装置については、ここに解説する紙数を持たないので、その理論と実際は、麻布大学客員教授山本禎紀博士の論文(「畜産の研究」誌、2004年8〜9月号掲載、東京・養賢堂刊)を参照されたい。
新延修氏によると、夏季外気温35℃以上にもなると、開放鶏舎では産卵は20〜30%も低下するが、トンネル・ベンチレーションと気化冷却装置を設備したウィンドウレス採卵鶏舎では鶏舎内温度は入気口側で26℃、排気ファン側で30℃に保たれる結果、産卵率の低下は2〜3%に止められると言う。もちろん、夏季の卵質や卵殻質も劣化を免れる。
新延修氏によると、この夏季の産卵維持は採卵養鶏経営上極めて重要かつ有利であって、トンネル・ベンチレーションおよび気化冷却装置の設備・運営費用をはるかに上回る収益を得ることができると言う。
新延ふ化場の採卵養鶏場や若めす育成場に案内されて目についたのは、どの施設にもよく整備された鶏ふん処理施設が併設されていることで、鶏舎から搬出された鶏ふんは直結する鶏ふん処理施設で直ちに全量が処理される。
育成舎や採卵鶏舎からベルトコンベアで自動的に搬出された鶏ふんは広大な鶏ふんハウス(写真5)で自然発酵、かくはん、乾燥され、水分を20〜30%に減少させた後15キログラムポリ袋に包装して、主として各地のホームセンターへ販売される。
写真5 新延ふ化場の採卵養鶏場に併設されている鶏ふん乾燥ハウス。新延ふ化場では、育すう2農場、育成3農場、種鶏3農場、採卵5農場のすべてに鶏ふん処理施設を併設している。 |
木材チップなどが混入した育すう舎(平面飼育)の鶏ふんは全量焼却し、その残灰は成鶏の鶏ふんに混合して肥料価値を高めるのに役立つ。
この鶏舎併設鶏ふん処理施設の完成によって、以前は鶏ふんの80%を焼却、20%を乾燥していたものが、現在では80%を乾燥、20%を焼却、いずれも肥料として製品化し、年間40万袋(6000トン)を販売していると言う。
以上見てきたような採卵養鶏場の諸設備のための設備投資は、当然のことながら巨額に上る。
たとえば、前出の気化冷却装置付きのトンネル・ベンチレーション2階建採卵ケージ鶏舎の建設費は採卵鶏1羽あたり2,100円で、1棟6万羽収容だから、1棟の建設費は1億2千6百万円と計算される。このほかに採卵鶏を育すう、育成するための設備、鶏ふん乾燥設備、採卵鶏舎に直結するGPセンター(鶏卵商品化設備)などが必要で、これらの設備費用を採卵鶏1羽について計算すると1,500〜2,000円が必要となる。
つまり、採卵鶏1羽当たりの合計投資額は、3,600〜4,100円で、平均すれば3,850円である。
採卵鶏80万羽飼養設備を新たに建設するには、土地代および基礎(インフラストラクチャー)工事を除いて、約31億円の設備投資を要することになる。
新延ふ化場の場合は、もちろん、昭和40年代から40年間にわたって諸施設を順次整備してきているから、投資は一時期に集中したわけではない。
しかし採卵養鶏の場合、飼育諸設備の投資のほかに鶏そのものに対する投資、つまり産卵開始までの育成費用が運転資金として必要になる。
新延ふ化場の採卵養鶏を例にとると、採卵鶏80万羽に対して、毎年の更新用若めすの育成羽数は50万羽で、産卵開始までの費用を1羽当たり約千円と仮定すると、必要な運転資金は約5億円と試算される。
以上は極めて粗雑な試算に過ぎないが、採卵養鶏企業の経営には巨額の資金を要することが理解されよう。
新延ふ化場の飼育する80万羽の採卵鶏は毎日約60万個、40トン近い鶏卵を産出するが、香川県の西部で生産するこの大量の鶏卵を一養鶏企業の営業努力で販売するのは容易ではない。また、もし販売できたとしても、そのための努力、事務処理、代金回収などの煩雑さと販売上のリスクは、採卵養鶏企業経営者にとっては過大な負荷である。
新延ふ化場は、地元で直接販売する採卵鶏30万羽分の一般卵を除いて、残り50万羽分の鶏卵はすべて飼料会社の子会社である鶏卵販売会社(GE社)に販売している。その方法は、新延ふ化場の採卵鶏舎に直結して建設した鶏卵処理(商品化)施設(GPセンター)をGE社に賃貸し、このGPセンターに鶏舎から搬入される鶏卵はすべてGE社が買い取り、洗卵、選別、格付、包装した後GE社が販売する。
GE社は自社の銘柄卵を生産するため、親会社(飼料会社)の特定配合飼料を新延ふ化場に購入させるが、こうした銘柄卵の生産については、新延ふ化場は、採卵鶏1羽当たり一定金額の委託料を受け取ることになる。
GE社は新延ふ化場に自社の設定した厳格な鶏卵生産認定基準を順守させ、同時に厳格なHACCP基準で鶏卵を洗卵、選別、包装し、商品化し、この鶏卵を迅速かつ安定的に客先(流通業者など)に配送するための効率的な物流体制を構築し、さらに小売業者や食品サービス産業への情報提供や販売協力を行う。
GE社は大阪府吹田市に本社を置き、全国各地に事業所、営業所を設置して、鶏卵の商品化と販売を行い、その年商は100億円、鶏卵の年間取扱量は約5万トンであると言う。GE社は新延ふ化場のほか、「その地域の伝統と文化を育み、その地域と共存共栄の企業風土を有する地域一番の企業養鶏場」を選定して、鶏卵の生産・供給を受けている。
有限会社高島産業(以下「高島産業」と略記)は、高松空港に至近の香川県香川郡香川町に本社を置き、同県綾歌郡綾上町と三豊郡高瀬町の2カ所にGPセンター併設の採卵養鶏場を持ち、合計70万羽の採卵鶏を飼養する採卵専業企業である。
高島産業は大正11年、現社長高嶋浩司氏の祖父高嶋繁雄氏が創業し、昭和38年には香川町で採卵鶏7千羽を飼育していた。昭和43年には浩司氏の父高嶋幸彦氏(現会長)が、綾上町に農場を開設し、採卵鶏3万羽を飼養、同年、有限会社高島産業を設立した。
昭和62年には、綾上農場に開放高床鶏舎を建設、飼養羽数を25万羽とした。平成3年にはウィンドウレス鶏舎を導入して飼養羽数を50万羽とし、平成16年には一部鶏舎をウィンドウレスに改築して、飼養羽数は70万羽(育成鶏を含む)に増加した(写真6)。
写真6 香川県綾上町の(有)高島産業綾上農場のウインドウレス採卵鶏舎(10m×100m)。1棟に採卵鶏6万羽を収容する。内部はドイツ・S社製ケージ・システム(直立8段ケージ)。 |
これとは別に、昭和63年には三豊郡高瀬町に採卵鶏12万羽飼養の高瀬農場を開設したが、この農場では現在採卵鶏20万羽(育成鶏を含む)を飼養している。
平成3年には綾上農場にインラインGP(採卵鶏舎に直結した鶏卵格付包装)センターを完成させ(このGPセンターは平成15年に更新)、また平成10年には高瀬農場にもインラインGPセンターを併設した。
現社長の高嶋浩司氏は平成10(1998)年に社長に就任、現在同社の資本金は3,680万円、年商(総販売額)は13億円、従業員数71人(内パート25人)である(写真7)。
写真7 香川県香川町の(有)高島産業、高嶋幸彦会長邸前で。高嶋浩司社長(左)と筆者。 |
採卵用の初生ひなは、香川県内の(有)新延ふ化場、(株)ゲン・コーポレーションなどから購入、鶏種は白色殻卵(白玉)鶏種75%、赤色殻卵(赤玉)鶏種25%の割合となっている。
購入した初生ひなのうち赤玉鶏種は、現会長の高嶋幸彦氏が昭和43年に香川町の自宅横に建築したノコギリ屋根の木造採卵鶏舎(写真8)を平面ケージ育すう舎に改造した育すう舎で、1回2万5千羽を年間4回、35日齢まで育てているが、この育すう舎の育すう成績は毎回100%近くで抜群に良く、ひなも極めて強健に育つと言う。
写真8 香川県香川町(有)高島産業の高嶋幸彦会長が昭和43年に建築したノコギリ型屋根の採卵鶏舎(木造)は、平面ケージ育すう舎に改造され、1回2万5千羽、年間4回、合計10万羽の頑健なひな(35日齢まで)を100%近い育成率で生産している。 |
白玉鶏種は高瀬農場で、ドイツ・S社の育すうケージで育すうするが、育すう羽数は、1回6万羽を年6回育すうして年間合計36万羽を育すうする。
従って高島産業の年間初生ひな購入、育すう羽数は合計46万羽となり、成鶏70万羽の更新率は65%ということになる。
35日齢まで育すう舎で育てられた採卵鶏のひなは、120〜140日齢までケージ育成舎で育成した後、採卵鶏舎に収容される。
白玉鶏種は、120〜130日齢で採卵鶏舎に収容し、64週齢から70週齢まで強制換羽の休産期間を経て100週齢〜108週齢まで産卵させる。
赤玉鶏種は、130〜140日齢で採卵鶏舎に移動し、64週齢から70週齢まで強制換羽の休産期間を経て100週齢〜108週齢まで産卵させる。
高島産業の産卵生産性の目標は、105週齢までのヘンハウス平均産卵個数450卵、産卵重量29キログラムであるという。ヘンハウス平均とは、1ロットの採卵鶏の一定期間の産卵個数または産卵重量をえ付け(初生ひな)時の羽数で除した平均である。
高島産業の現在の従業員数は、社員46人、パート25人の計71人で、社員の平均年齢は31歳であると言う。
毎年1〜2名の新卒(高卒)者を採用しているが、定年退職者の活用にも留意し、現在、定年退職者の雇用は社員6人、パート11人計17人(全従業員中24%)に上っている。
従業員の能力は、その担当する採卵鶏の毎月の成績によって評価され、この評価に基づいて給与、昇進を決める。また年1回社長が全員面接を行い意志の疎通を図る。
高島産業では、生食のできる新鮮卵の供給のために、次の対策を実行している。
○ ふ化場からひなの検査(無菌)証明書を受け取る。
○ ひな輸送車輌の消毒、検査。
○ ひなの血液・排せつ物の検査。
○ サルモネラ・ワクチンの接種。
○ 鶏舎の消毒、検査の徹底。
○ 鶏舎の環境管理の徹底。
○ 飼料の検査。
○ 採卵鶏の検査と健康管理。
○ 品質管理研究室によるHACCP導入推進。
○ 従業員の健康管理。
○ GPセンターの月次検査。
○ 商品化された鶏卵の公的検査。
高島産業では、ホームページにより生産農場の情報、鶏卵の産卵日などを公開し、また商品(鶏卵)のラベルに二次元コードを印刷し、携帯電話で鶏卵の生産情報を手軽に見られるようにしている。
消費者はラベルに印刷された製品コードによって、鶏卵の賞味期限、産卵日、生産農場、鶏舎番号、GPセンター名などの生産情報をトレースすることができる。高島産業の鶏卵に表示される賞味期限は生食の賞味期限である。また印字に使用されるインクは食品用として安全性が保証されたものである上、結露や煮沸によってインクが脱落しない加工が施してある。
高島産業で飼育されている70万羽の採卵鶏が生産する鶏卵は採卵鶏舎のケージからベルトコンベアで直接GPセンターへ送り込まれるが、このGPセンターは高島産業が建設、所有している施設を鶏卵販売会社(飼料会社の子会社)に賃貸しており、従ってGPセンターの管理運営および生産物の販売は鶏卵販売会社が担当する。
高島産業が直売する鶏卵は、この鶏卵販売会社(GPセンター)から買い戻して販売することになる(写真9)。
写真9 (有)高島産業の採卵鶏舎(右)に直結して建築されたGPセンター(鶏卵を洗卵・選別・格付・包装する施設)と鶏卵輸送用トラック。このGPセンターでは1日に15トン(目標は25トン)の鶏卵が処理・商品化される。専用トラックは鶏卵10トンを積載する。 |
鶏卵の洗卵、格付、包装、販売(営業)、需給調整、販売代金の回収など繁雑な業務を鶏卵販売会社に代行させることにより、高島産業は、その経営資源と努力を鶏卵の生産に集中することができ、また鶏卵の販売に伴うリスクを回避することができる。
高島産業の生産する銘柄鶏卵は、「美卵維新あゆみ」、シュリンク包装卵、業務用赤玉、高松三越店限定販売鶏卵(3種類)のほか、ヨード卵の受託生産も行っている。
採卵養鶏企業は、生産物(鶏卵)の価格変動リスクのほかに、鶏病や気候の変動、風水害、火災など困難で損失の大きいさまざまなリスクを抱えている。
鶏病については、衛生管理の徹底や予防手段で通常のリスクは防止できるが、不可抗力的リスクに対しては、各種基金および損害保険への加入によって対応しなければならず、高島産業では可能な限りの基金、保険などに加入して企業防衛に努めている。
高島産業で大量に発生する鶏ふんは、某飼料メーカーが開発したオートコンポ12台を設備して処理している。
このオートコンポは鶏ふんを大量処理できる二槽発酵槽構造で、生ふん(水分60%)を直接投入して、無人運転により、自動的に発酵乾燥鶏ふんを産出する。
高島産業では、この方式で生産した乾燥鶏ふんを主として各地のホームセンターへ販売している。
昭和38年7千羽を飼育していた高嶋家の採卵養鶏は、40年余を経て100倍に拡大したが、この事業を引き継いで経営する3代目の当主、高嶋浩司氏は、生食のできる卵を供給することによって、鶏卵生食という世界にまれな日本の食文化を保守することを採卵養鶏業の社会貢献と位置付け、さらに飼料原料の大部分を輸入に依存する日本の養鶏業のぜい弱さを自給飼料への転換によって改善できないか模索したいという。
日本の採卵養鶏のオピニオン・リーダーの1人であるこの若い採卵養鶏経営者の今後の活躍に期待したい。
全国の採卵鶏飼養羽数の約7割が会社経営に属している現状から、採卵養鶏の企業経営の実情を知るために、香川県の2つの採卵養鶏企業を訪ねた。
採卵養鶏企業の多くは、この調査の事例にも見られるように、大正末期、昭和初期、または戦後間もなく、小規模な養鶏から創業し、2〜3世代を経て、養鶏を家業(ファミリー企業)として継承し発展させ、今日の企業規模に達して、日本の鶏卵産業の基盤を形成している。
養鶏業は一般の製造業同様の企業リスクを負う上に、動物を飼育することに伴う生物学的リスクや環境要因による生産性変動リスクをも想定しなければならない。
その上、採卵養鶏施設の建設には巨額の設備投資を要し、運転資金の回収には1世代の産卵を終わるまで2年前後を要する。
個人またはファミリーによる採卵養鶏が大規模化した場合、経営資源や経営努力のほとんどは生産面に集中せざるを得ず、鶏卵の商品化、流通、販売は、今回の調査の事例にも見られるように、一部地元での直接販売分を除いて、専業の鶏卵商品化・販売会社に依存せざるを得ない、と言うより、こうした専門業者の機能や能力を積極的に活用し、協力・共生してゆくことが望ましいのではないか。そうすることによって採卵養鶏経営者は、少なくとも販売上の煩雑な業務やリスクを回避することができるのだから。
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