◎専門調査レポート


生産情報公表牛肉の導入条件と課題(後編)
─ JET肉牛生産グループの取り組みから─

東京大学大学院経済研究科
助教授  矢坂 雅充

 前号では、JET肉用牛生産グループの生産情報公表牛肉の生産体制について紹介した。本稿では、垂直的な取り引き関係をもつ各事業者における生産情報公表牛肉の位置付けや評価について述べる。

3.生産情報公表牛肉の導入条件と期待される効果

 生産情報公表牛肉のJAS規格の認定に対して、ビーフチェーンの各事業者はどのように作業手順を組み替えたり、新しい作業を導入することになるのだろうか。さらにJAS認定によって、どのような効果を期待しているのだろうか。法律で規定されている基本的なトレーサビリティの確保にとどまらず、付加的なトレーサビリティを導入することによって、取り扱っている牛肉の信頼性にどのような価値を加えようとしているのだろうか。

 生産情報公表JASに取り組む事業者が直面するもっとも基本的な課題であろう。以下、JET肉牛生産グループと(株)フレッセイ(食品スーパーマーケット)の事例から、生産情報公表牛肉の導入条件と導入効果・目標をみていくことにしよう。

(1)ジェイイーティファーム・栃木ファーム

1)導入条件

 生産情報公表牛肉のJAS規格認定を受けるためには、前編で述べたように、付加的な作業が求められる。肉牛の出生からの生産履歴情報を記録保管し、当該牛の牛肉(枝肉・部分肉など)にJASマークのシールを貼付する際にも、生産履歴情報などが正しく公表されることを確認する照合作業が必要になる。逆にいえば、これらの作業に取り組むための条件がどの程度整っているかで、事業者のJAS規格認定への姿勢は大きく異なるといえよう。

(1)繁殖・育成・肥育の一貫経営
 肉牛繁殖・肥育一貫経営であることが、肉牛の出生・ほ育・育成から肥育・出荷に至るまでの飼養管理情報の管理を容易にしている。給餌される飼料や治療に使用される動物用医薬品の種類があらかじめわかっているうえに、直接的に飼養管理作業の内容を捕そくできるメリットは大きい。肥育素牛を市場で調達している肉牛肥育経営は、繁殖経営にそれらの牛のほ育・育成期間の飼養管理情報を求めることさえ難しい。特定の肉牛繁殖経営との特約的な取引関係に基づいて、産地の農協などの協力を得て生産情報の管理を外注することも可能である。それでも生産情報の信頼性を担保する仕組みを作らなければならず、情報管理が複雑になる可能性は否めない。

 こうして繁殖部門を担うジェイイーティファームと肥育部門の栃木ファームが一体となった繁殖・肥育一貫経営であることが、生産情報公表牛肉の生産に取り組む必要条件として意識されている。

 肥育過程では無投薬を原則としている。ほ育・育成過程でのワクチン接種や抗原虫剤の投与、下痢や肺炎治療を目的とする抗生物質の使用は、個体差が大きい牛の多頭飼養経営では欠かせない。ほ育期に投与するワクチンは、50頭程度の牛群への投与として記録され、抗生物質などによる治療履歴は牛個体ごとにひも付けされ記録される。それでも飼養頭数が多いだけに、日々の疾病予防や治療の記録管理は膨大であり、繁殖・肥育一貫経営でなければ対応は困難であるといえよう。肥育素牛の生育環境が同一で、いわゆる常在菌である大腸菌の種類も限定されているので、肥育管理も容易になる。より付加的な情報を的確に管理するためには、情報を生む組織そのものもできるだけ簡潔であることが求められている。

(2)品質管理システム:ISO9001の導入
 ジェイイーティファームと栃木ファームは、2005年5月にISO9001の認証を取得した(注7)。酪農・肉牛経営も飼養頭数が数千頭、従業員も数十人という規模になると、経営者の勘とその都度の判断に頼った経営管理では立ちゆかなくなる。家族経営的な雰囲気の下で、職場での濃密なコミュニケーションを残していく一方で、組織的な品質管理、作業管理が求められていく。

 ISO9001のもとで農場での作業がマニュアル化され、具体的には作業規定書、作業手順書が策定されている。このマニュアルに基づいて作業の範囲、手順が明確にされる。さらに、月ごとに品質管理の重点目標が設定され、四半期ごとにその進捗度、自己評価の報告が義務付けられている。半年に1度、社内でのサーベイランス(内部監査)も実施されており、管理項目の精査と重点化に向けた仕組みも盛り込んでいる。

 大規模乳肉複合経営が直面する複雑な作業は、ISO9001の認証取得によって組織的に管理されるようになった。肉牛生産だけではなく、飼養管理技術、品質管理、資金管理のあり方が異なる酪農部門を抱えるとともに、両者の効率的な連携が重視される乳肉複合経営にとって、組織的な品質管理、作業・労務管理システムの導入は極めて有効であったといえよう(注8)。ISO9001の認証取得のためには根本的な経営組織の再編、従業員の入れ替えをはじめとして多額の投資が必要であったという。それでも大規模畜産経営だからこそ実現できる自社ブランド製品の開発、組織的な労務管理の有効性が評価されたのである。のちに見るように、それはトレーサビリティ導入に必要な生産・流通履歴情報の記録・保管システムをカバーしていくことになった。



ジェイイーティーファームと栃木ファームは、2005年5月
にISO9001を取得した



(3)品質・衛生管理システム
 ジェイイーティファーム・栃木ファームではISO9001の認証取得に先立って、HACCPの導入が検討されていた。出荷ロットが大きく、生産者としての単独ブランドを構築し得る大規模乳肉複合経営の優位性は、高度の衛生管理システムの下で飼養される乳用牛・肉牛であり、そこで生産される生乳、牛肉であると考えられたからである。購入飼料の品質管理、飼養密度や牛舎の天井の高さなど、牛が病気になりにくい飼養環境を整備する対策などが講じられる(注9)。

 これらの衛生管理対策はISO9001の認証を受けるためのチェック項目とも重なることが多い。ISO9001の認証取得は、作業管理・労務管理から衛生管理に至るまで、広く経営基盤を強化する手法として活用されてきたといえよう。

(4)ISO9001の応用
 このような経営管理基盤のもとでは、生産情報公表牛肉のために追加的に必要とされることはさほど多くない。インターネットで公表するための台帳に記入されていた生産履歴情報のパソコンへの入力、と畜場・部分肉処理場への作業指示・情報確認などのための手順書策定、生産工程管理者などを担当する従業員の講習会への参加などに限られている。生産情報公表牛肉のJAS規格認定は、いわばISO9001認証取得の延長線上に位置付けられており、その応用的な取り組みとして実現されたというべきであろう。


2)導入効果・目標

 生産情報公表牛肉に取り組むことで、ジェイイーティファーム・栃木ファームはどのような効果を想定しているのであろうか。そこにも生産情報公表牛肉だけにとらわれない、広い視野に立った牛肉の新たな価値の追求と経営組織の刷新が目標とされていることがわかる。

(1)付加的な牛肉商品の特性
 大規模乳肉複合経営が提供し得る製品の優位性として、定時定量をはじめとする安定出荷、Non-GMO飼料などの生産資材の効率的な調達・利用、農場を単位とする生産者ブランドの商品開発などが追求されてきた(注10)。飼料と治療歴を含めたトレーサビリティ導入の狙いも、大規模乳肉一貫経営と組織的な作業管理、品質・衛生管理システムを結び付けた「新たなブランド」の確立を目的としている。

 生産情報公表牛肉のJAS規格認定を受ける事業者数が伸び悩むなか、その認定を受けて自社農場ブランド牛肉の信頼性を向上させ、小売市場での評価を確立することが意図されたといえよう。ISO9001のもとでほぼ実現されている生産情報を含むトレーサビリティを、生産情報公表牛肉のJAS規格認定によって、消費者の目に直接訴えかける新商品として示すことができるからである。

(2)経営姿勢への社会的評価
 ISO9001、全農安全・安心システムそして生産情報公表牛肉JAS規格の認定といった一連の安全・信頼性確保対策は、消費者ニーズに対応した商品開発の模索にとどまらない。酪農部門では、すでにNon-GMO牛乳、初産牛限定牛乳などの新商品を開発している。酪農メガファームが生乳生産のコスト低減だけでなく、品質面でも独自の優位性を持っていることをアピールしてきた。

 「食品関連の市場においては牛肉に限らず、このトレーサビリティの対応を中心に、生産者の責任が今後、一層、重くなっていくのは確実」と、経営責任者は指摘する(注11)。そこからは、大規模畜産企業の優位性が規模の経済性の獲得だけではなく、その組織的な品質管理にあり、ジェイイーティファーム・栃木ファームへの社会的評価を高めていこうという強い意欲がうかがえる(注12)。生産情報公表牛肉の取り組みは、大規模乳肉複合経営の革新性や積極性を裏付ける試みとして理解すべきだろう。

(3)経営資源の充実・強化
 生産情報公表牛肉のJAS規格認定など、畜産物の安全と信頼性を確保するための先駆的な取り組みは、製品差別化投資の一つであるとともに、経営資源を有効に活用するための投資でもある。それはとりわけ従業員の仕事に対する理解・評価を高めることに寄与していると考えられる。生産現場の情報を公表するという付加的なトレーサビリティ・システムの導入によって、飼養管理の現場にも消費者の視線が注がれることになる。作業の記録・記帳、保管は企業のリスク管理のためだけではなく、消費者ニーズを先取りした積極的な対応としても認識されるようになろう。生産情報公表牛肉のJAS規格認定は、従業員に企業の事業方針を伝える重要なシグナルになっているのではないか。

 こうした先駆的取り組みは、新規採用への応募者を増やすとともに、事業革新を支えていく積極的な意識を持った人材を集めることに寄与するにちがいない。例年40名あまりの人が会社説明会に参加しており、採用された従業員の定着率も向上している。従業員のモラルを高めるうえで、消費者ニーズや環境保全に対応した企業の先駆的姿勢は大きな役割を果たしているといえよう。



生産情報公表牛肉について語る大貫常務(ジェイイーティーファーム)



 以上みてきたように、生産情報公表牛肉のJAS規格認定はジェイイーティファーム・栃木ファームが継続的に行ってきた経営組織改革、品質管理向上の部分的な成果である。逆にいえば、生産情報公表牛肉は、ISO9001などの肉牛生産の品質管理システムと一体的に取り組むことが、効率的かつ現実的であることが理解される。付加的なトレーサビリティを効率的に導入することができるかどうかは、製品管理や品質・衛生管理などのシステム化の進展状況にかかわっているからである。


(2)本庄食肉センター・(株)ミートコンパニオン

 JET肉牛生産グループにと畜場の本庄食肉センター、部分肉製造メーカーのミートコンパニオンが参加したのは、全農中央畜産センターのあっせん仲介による。生産情報公表牛肉のJAS規格認定を前提として、栃木ファームと新たに取引関係を持つようになった。いわば受動的に生産情報公表牛肉のJAS規格認定に参加したといえよう。それでも両者には生産情報公表牛肉の取扱いに有利な条件や、牛肉の安全性、信頼性にこだわる事業志向をみることができる。

1)導入条件

 本庄食肉センターもミートコンパニオン埼玉事業所も、と畜場そして部分肉製造施設としての処理能力は大きくはない。本庄食肉センターの牛のと畜頭数は41頭/日、ミートコンパニオンの処理頭数は20頭/日を上限としている。当然ながら、と畜処理および部分肉製造施設の構成はシンプルで、と畜・解体過程で生産情報公表牛肉の分別管理は容易である。

 本庄食肉センターに搬入された肉牛は、個体識別番号とリンクしたうえで3ケタのと畜番号で管理され、ミートコンパニオンで製造される部分肉には、と畜番号と照合されて個体識別番号が表示される。その際、前編でみたようにジェイイーティファームから生産情報公表牛肉JASの格付要請を受けて、該当する部分肉の段ボール箱にJASマークのシールが貼付される。こうした一連の作業工程で識別管理が徹底されていることが、生産情報公表牛肉JAS認定の前提条件となることはいうまでもない。

 いま一つは、牛肉の加工処理管理の優位性であろう。部分肉製造施設はHACCPに対応しており、と畜場と隣接しているので、枝肉は外気に触れることなく部分肉製造ラインに運ばれる。牛肉の品質管理への高い関心は、冷蔵庫内の枝肉の肉温を速やかに引き下げる工夫にも現れている。肉質を保持するために、扇風機で冷蔵庫内の換気を図り、さらに床にシートを敷いてシート上にたまる水分をこまめに除去している。さらに、取引先である大手量販店が実施する品質・衛生管理についての検査、いわゆる第二者検査を受けており、作業環境の整備や作業手順の順守がモニタリングされている。




シートが敷かれた本庄食肉センター冷蔵庫内



 きめ細かで小回りのきく品質管理、HACCPに基づく衛生管理システムの導入が、トレーサビリティシステムへの関心を高めるとともに、生産情報公表牛肉システムの信頼性向上にも寄与しているといえよう。


2)導入効果・目標

 生産情報公表牛肉のJAS規格認証のために、本庄食肉センター、ミートコンパニオンが新たに求められた経済的負担はごく限られている。従業員の講習会受講、第三者機関によるJAS認定検査、生産情報JASマークのシールなどの認証費用は、ジェイイーティファームが負担している。本庄食肉センターでは生産情報公表牛肉として搬入された牛のと畜帳票を区分して保管することになり、ミートコンパニオンではJASシールの受け払い台帳の作成・保管とシールを貼付する作業が新たに加わった。それでも、日常業務に大きな変化はない。

 したがって生産情報公表牛肉のJAS規格認証は、ジェイイーティファームおよび全農中央畜産センターといった取引先への協力、いわば通常の委託業務として位置付けられている。

 もっとも小規模施設ながら、トレーサビリティに重点をおいた牛肉の取り扱い、事業所内のトレーサビリティの信頼性を第三者機関に評価してもらうというメリットは意識されている。多様な規格による部分肉製造、きめ細かな製品管理、トレーサビリティに対する積極的な経営姿勢が、生産情報公表牛肉の取扱い事業者という形で評価されるからであろう(注13)。


(3)(株)フレッセイ

 群馬県を中心として43店舗のスーパーマーケットを展開しているフレッセイは、JET肉牛生産グループの生産情報公表牛肉を仕入れ・販売している小売業者である。すでに前編で見たように、フレッセイはまだ小分け業者としての認定を受けていない。したがって、ミートコンパニオンで生産情報公表牛肉のJASマークが貼付された「栃木ファーム牛」の部分肉は、店頭ではフレッセイの自社規格「安心飼育牛」ブランドとして販売されている。認定小分け業者でなければ、店舗のバックヤードでスライスしたコンシューマーパックに、このJASマークを貼ることはできないからである。

 のちにみるように、生産情報を含むトレーサビリティシステムへの関心は高いものの、現状では小分け業者の認定には踏み切れないでいる。そこで、フレッセイで牛肉仕入れを担当してきたH氏へのインタビューに依拠しながら、食品小売業の視点からみた牛肉トレーサビリティシステムや生産情報牛肉JAS規格への評価を整理してみよう。

 まず第一に、トレーサビリティなどで牛肉の安全を目に見える形で表すことの重要性である。地域密着型食品スーパーの基本理念は消費者の健康と食の安全にこだわることであり、具体的には日々の買い物のなかで、食品が「安全」であることを認証マークやトレーサビリティといった情報で、消費者が見てわかるように示す必要があるという。そのためには広告・宣伝として受けとられがちな小売業者による保証ではなく、第三者認証に基礎をおいた保証であることが望ましい。全農安全安心システムや食品衛生検査機関への食肉検査の導入は、外部検査の意義を積極的に評価していることを示している。

 したがってトレーサビリティを基礎とした生産情報公表牛肉のJAS規格に対する関心は高い。BSE罹患牛が発見される2年前の99年に、関係者に生産履歴情報を含めたトレーサビリティの導入を呼びかけたという経緯もある。生産情報公表牛肉のJAS規格は、(1)食品の安全性にかかわる生産履歴情報とリンクされ、(2)第三者認証を受けているトレーサビリティシステムであり、この規格を導入する意義は十分に認識されている。

 第二に、短期的な食の安全と信頼性を担保する情報への関心である。家畜への投薬履歴や給餌飼料の内容は消費者の健康に関与し得るが、それは、やや長期的な安全の問題として理解されている。長い間にわたって食べ続けると、徐々に影響が出てくるリスクだからである。フレッセイでは短期的な牛肉の安全性にかかわる牛のと畜・部分肉製造・流通過程における牛肉の衛生的品質への関心が高い。

 たとえば、枝肉表面の大腸菌の多寡が、短期的な安全性を左右するので、枝肉の拭き取りサンプルを外部の食品衛生検査機関で培養して、検査している。牛枝肉の格付検査は肉質検査に終始しており、衛生的品質をとらえることができないからである。と畜・部分肉製造施設の品質衛生管理状況をモニタリングするとともに、さらにシャーレで培養された菌の写真を商品陳列棚に掲示し、大腸菌が少ないという「安全」を消費者に確認してもらうというのである。

 第三に、消費者の健康維持にかかわる食の安全と信頼性への関心である。そのためには牛肉と結び付けられた生産履歴情報の把握、つまり生産情報公表牛肉JAS規格が、最低限消費者の健康を保証する仕組みとして有効であると理解されている(注14)。

 さらに消費者の健康は「家畜・環境の健康」と一体的に考えられている。牛が育っていく過程での、運動量・飼養密度・ホルモン剤投与の有無、畜産の自然環境への負荷、持続的な生産・環境の確保といったように、長期的な牛肉の安全性を担保するチェック項目は広がっていく。それはフレッセイの具体的な牛肉仕入れ方針となって現れる。たとえば、牛の生理に負荷を与え、脂肪交雑・おいしさにこだわりすぎた和牛よりも、交雑種が高く評価される。ほ育期のワクチン接種以外の抗生物質不使用を要件とする自社ブランド規格「安心飼育牛」の設定などは、牛の健康へのこだわりを示している。

 第四に、トレーサビリティを通じた生産者と消費者のコミュニケーションが期待されている。

 チェーントレーサビリティの構築によって、生産者と小売業者の相互間で情報が円滑に流れ、両者の食品の生産・流通への考え方が共有されることが重視される(注15)。こうしたトレーサビリティに基づく情報の相互流通は、取引事業者の信頼関係を醸成するとともに、その関係をモニタリングすることになる。生産者の責任は販売先がわかると重くなる。小売業者も生産現場がわかると販売責任が重くなる。そのために小売業者は積極的にトレーサビリティを導入すべきであるというわけである(注16)。

 したがって、小売業に位置するフレッセイの牛肉仕入れ担当者や売り場担当者の重要性が強調される。生産者と消費者と間にいる小売担当者が、トレーサビリティシステムや牛肉の特徴・特性について十分理解し、消費者への説明能力を高めなければ、トレーサビリティシステムは情報と信頼を担保する仕組みとして十全に機能しなくなるからである。生産情報公表牛肉JAS規格に限らず、トレーサビリティシステムへの消費者の理解を深めていくためには、小売店舗の担当者の意識改革が不可欠であるという指摘は、まさに正鵠を得ているといえよう。

 第五に、食品スーパーの社会的役割についてである。地域密着型の食品スーパーは「食の本質を見きわめる」企業でなければならないという。そのためには小売業としてもISOの認証取得などへの投資が必要であり、生産情報公表JAS規格の牛肉をはじめとして、消費者の健康に資する農産物・食品の生産を支援する必要が認識されている。具体的には、生産者の経費増の負担をカバーするために、20%程度の範囲であれば、掛かり増し経費を売価に上乗せできると考えている。価格志向一辺倒の小売業とは一線を画しているといえよう。

 健康と食の安全な食品が持続的に生産されるように小売業として積極的に支援することは、「食の本質」に理解を示す消費者をコアの顧客としていく長期的な経営目標と結びついている。あらゆる消費者を顧客として想定している量販店と異なって、地域密着型スーパーの存在価値、期待される社会的役割が強く意識されているといえよう。

 こうした食の安全と信頼性を追求するという社会的評価は、従業員の動機付けにも大きく貢献するという。それだけに近視眼的に短期的な収益にとらわれることなく、長期的な戦略的政策が必要になる。

 こうしてフレッセイでは、05年から交雑種の栃木ファーム牛を牛肉主力商品として、位置づけ、全農安心システム認証牧場「安心飼育牛(栃木県産)」というシールを貼って販売している。ジェイイーティファーム・栃木ファームの(1)飼料への抗生物質・抗菌剤の不使用(代用乳は除く)、(2)自給粗飼料生産への積極的取り組み、(3)味の良さで定評のある黒毛和種と乳牛の交雑種、(4)非遺伝子組み換え飼料による肥育、(5)全農安心システム認証牧場での生産、(6)ISO9001の認証取得農場、(7)環境整備などによる地域生活環境対策、(8)隣接県の栃木産牛肉、さらに本庄食肉センター・ミートコンパニオンの牛肉処理における高い品質衛生管理が、消費者が求める牛肉特性として評価されたといえよう。

 それにもかかわらず、JAS規格が店舗ごとに小分け業者の認定を必要とする現状では、全農安心システムの認証を受けた「安心飼育牛」に生産情報公表牛肉JAS規格認定を上乗せしていくことは難しいと判断されている。42の食品スーパー全店舗で小分け業者の認定を取得するためには、1,000万円ほどの投資が必要になるからである。生産情報公表牛肉JAS規格にたいするニーズを充分に認識し、確かな生産履歴情報を消費者に示していくことに積極的な小売業者であっても、このハードルは容易に越えられないものとして受け止められている。

4.生産情報公表牛肉JAS規格認定の課題

 以上みてきたように、JET肉牛生産グループの生産情報公表牛肉への取り組みは、まだ始まったばかりであり、農場から小売り・食卓に至るまでの仕組みにはなっていない。生産情報公表牛肉の市場評価をみながら、それぞれの事業者が継続的に取り組んでいくための条件を模索しているといってよい。その条件とは何か、また、このJAS規格そのものも、認定を受けて生産情報公表牛肉の生産・流通に取り組む事業者の実態や、消費者のニーズを踏まえて、見直していく必要がある。

 そこで、JET肉牛生産グループを中心とした取り組み事例から、生産情報公表牛肉のJAS規格の基本的な課題を整理してみることにしよう。

(1)ビーフチェーンとしての取り組みの確保

 現状では生産情報公表牛肉が、小売店舗の商品陳列棚に並んでいることはきわめてまれである。このJAS規格が消費者に認識されているとは到底いえない。JAS規格が整備され、国内外を含めてそれぞれ30余りの生産工程管理者、小分け業者が認定されている(注17)。それでも生産情報公表牛肉の普及は遅々として進んでいない。すでにみてきたように、多くの生産情報公表牛肉の流通は、小売店のバックヤードでとぎれてしまっている。小売店で販売されず、消費者の目に触れるようにならなければ、生産情報公表牛肉の認証制度の社会的ニーズが問われることになろう。

 法律で牛および牛肉の基礎的なトレーサビリティが義務付けられてはいるが、ビーフチェーンとして効率的なトレーサビリティシステムが構築されているとはいえない(注18)。

 小売業者を含めて、牛肉産業が主体的に認証制度のもとでどのような牛肉の特性を消費者に保証していけるのかを検証する必要がある。肉牛生産者、と畜業者、部分肉製造業者、卸売・小売業者のなかには、ジェイイーティファームなどのように、義務的なトレーサビリティにとどまらず、より確かな安全と信頼性を担保した牛肉を消費者に提供したいと考えている事業者も少なくない。これらの事業者がトレーサビリティを基礎とした認証制度の設計と運用に積極的に参画し、ビーフチェーンとして消費者が日常的に入手し得る認証付きの牛肉を提供することが求められているといえよう。


(2)ビーフチェーンのコーディネーター

 生産情報公表牛肉のJAS規格では、とくにビーフチェーン事業者が一体的に取り組むためのコーディネーターの役割は明確には規定されていない。規格は運用面での論点について詳しく言及する必要はないので当然ではある。しかし、トレーサビリティシステムを重視した規格では、事業者の連携が重要になることはいうまでもない。JAS規格の解説書では、やや具体的な状況が例示される。肥育業者や小売業者などの特定の事業者が、リーダーシップを取って、生産情報を含むチェーントレーサビリティシステムの構築を図ることが想定されている(注19)。生産工程を効率的に管理・把握するためには、取引先の事業者のグループ化や外注管理が欠かせないからである。

 すでにみてきたように、ジェイイーティファーム・栃木ファーム、本庄食肉センター、ミートコンパニオン、フレッセイは、いずれも牛肉の安全性や信頼性に強い関心を寄せ、それぞれが独自にISO、HACCPの導入やトレーサビリティシステムの効率化に取り組んできた。それゆえこのような事業者を生産情報公表牛肉JAS規格に取り組むビーフチェーンとして結び付けていくコーディネーターの役割を見逃すことができない。ジェイイーティファーム・栃木ファームの事例では、全農中央畜産センターが部分肉製造メーカー、小売業者への橋渡し役を担ってきた。ヨーロッパでは食品産業に大きな影響力を持っているハイパーマーケットチェーンが、認証制度への参加を通して食品事業者を統合していく傾向がみられる。しかし、日本ではむしろ肉牛生産者や食肉加工業者などがコーディネーターとしての役割を担う可能性がある。

 コーディネーターの役割は垂直的な牛肉取引の仲介にとどまらない。それぞれの事業者が目標とする牛肉の安全、信頼性の内容についてすり合わせていくことが重要である。フレッセイのように牛へのワクチン接種だけは認める小売業者もあれば、一切抗生物質の使用を認めない小売業者もある。牛肉の安全・信頼性確保に積極的な事業者が一つの連携したビーフチェーンを形成しても、同床異夢といった状態では明確な規格について認証された牛肉生産・流通は長続きしないであろう。生産情報公表牛肉のJAS規格認定においても、各事業者の認識を揃え、結びつけていくコーディネーターの役割を重視することが必要である。


(3)生産情報公表牛肉JAS規格認定の経済的負担

 生産情報公表牛肉のJAS規格は、登録認定機関による認定とその後の定期検査を義務付けている。当然ながらJAS認定を取得する事業者は、一定の経済的負担を求められる。認定費用は事業者の規模や組織によってさまざまであるが、1件10〜30万円程度であるといわれる。ISO認証の取得に比べればはるかに少額であるものの、第三者機関による認証の信頼性と費用とが比較考量されることになる。生産情報を自らのホームページなどで公表し、自己認証している事業者の信頼性に対する消費者の評価が問われているということにもなる。

 JAS認定費用がとくに高い参入障壁となっているのは、小分け業者の認定である。牛肉の安全・信頼性向上に意欲的な小売業者であるフレッセイも、小分け業者としての認定に二の足を踏むように、店舗ごとに認定を受ける仕組みが小売業者の取り組みを鈍らせている。食品の鮮度や売れ行きに応じた陳列などを重視して、店舗のバックヤードでの食品加工を充実させてきた食品スーパーなどでは、店舗ごとの小分け業者認定は過重な負担として受け止められている。

 この問題はJAS規格のあり方とかかわっており、生産情報公表牛肉JAS規格だけで対応できるものではなく、慎重な検討が求められるといえよう。しかし、事業者の自主的な内部検査と改善への取り組みや外部検査結果が、定期的に実施される第三者機関検査の頻度などに反映される仕組が検討されるべきであろう。完成度の高いトレーサビリティシステムを確立し、組織内部で十分なモニタリングを実施している事業者への第三者機関検査は、毎年ではなく隔年とするなど、経費が軽減される可能性が提示されてよい。


(4)生産情報に対する消費者のニーズ

 生産情報公表牛肉のJAS規格にとって判断が難しい課題は、消費者の生産履歴情報に対するニーズをどのように理解し評価するかである。

 生産情報の公表に対する消費者の要望は、食肉がどのように生産されているかが消費者にはわからなくなっているという状況を反映している。それはまた食肉生産の現場で安全性が確保されていることを、自分自身で可能な限り確かめたいという潜在的な要望を反映しているといえよう。

 しかし、生産情報の信頼性を確保した牛肉の取引価格は特に高いわけではない。栃木ファームと全農との枝肉取引価格は、一般の牛肉よりは高いもののNon-GMOの、非JAS牛肉と同じであるという。生産情報公表牛肉であっても、一般的な牛肉よりもそれほど高く売れるわけではないからである。先にみたように、生産情報公表牛肉JAS規格の消費者認知度はきわめて低い。この規格そのものが理解されていないからであるとも考えられるが、以下のような基本的な課題が示唆されている。

1)期待される付加情報

 まず、生産履歴情報は基礎的情報であると考える消費者・流通業者の認識と、それを付加的情報と考える生産者の認識との間にずれがある。

 使用された動物用医薬品や飼料の情報を理解するには、かなり専門的で技術的な知識が要求される。消費者が求めているのは、生産情報そのものではなく、生産過程での安全性の確保であるといえよう。生の生産情報データが示されても消費者にはあまり意味がない。

 生産情報を公表している生産者ならば、適正な生産管理が行われているにちがいないという期待もあろう。またいつでもその情報にアクセスすることができることが安心感につながっているともいえよう。それは牛の個体識別番号をパソコンで調べる消費者は少なくても、必要ならばいつでも調べることができることで牛肉の信頼性が担保されているのと似ている。

 その場合、牛肉の安全性に大きな問題が生じているのでなければ、生産情報の提供に対して対価を支払ってでも購入しようとする消費者は少なくなる。牛への投薬や給餌飼料に問題が発生したときには、生産情報公表牛肉の高い信頼性が改めて認識されるにちがいないが、平常時にはこうした付加情報は看過されがちである。生産情報公表牛肉への取り組みも、現状では、肉牛生産者が自らの信頼性を担保するための確かな「保険」として理解すべきであろう。食品衛生法改正による農薬などのポジティブリスト制度が施行され、生産情報の記録・保管は肉牛生産者の基本的な責任として位置付けられるようになった。一般の牛肉の生産情報管理・監査が整備されれば、平常における生産情報の公表そのものへの消費者の関心はいっそう希薄になるかもしれない。生産情報公表牛肉のJAS規格認定は、より信頼性の高い保険として評価されるべきであろう。


栃木ファーム牛は、(株)フレッセイの自社規格「安心飼育 牛」として販売される



2)付加情報による牛肉の信頼性向上

 それでも生産情報公表牛肉のJAS認定は信頼性の高い保険への加入にすぎないのだろうかという質問が寄せられるに違いない。JET肉牛生産グループの事例からわかるように、肉牛生産からと畜処理・部分肉製造に至るまで、事業者内部および相互の組織的な牛・牛肉の識別管理システムの構築がJAS認定の基盤となっている。こうしたビーフチェーンの連携は、より高い信頼性を担保した牛肉製品の開発可能性を広げている。

 トレーサビリティの機能は、たんに消費者に届くまでの製品の流れを追跡し、また生産者までの流通履歴を遡及するだけではない。トレーサビリティを確保することによって、牛肉のさまざまな特性が保証される。たとえば、牛肉の特性として、放牧の導入など牛の飼養方法が取り上げられてもよいし、またHACCP的管理のもとでの肉牛飼養といった飼養環境へのこだわりがアピールされることもあろう。

 さらにフレッセイが安全な牛肉の条件として重視していたように、牛のと畜や部分肉製造過程の衛生管理状態も牛肉の特性として位置付けることができよう。と畜・解体施設におけるHACCPシステムの導入、ISO9001の認証取得、さらに枝肉表面の大腸菌数や温度管理履歴など、牛肉の安全性に関わるポイントは、牛の飼養過程よりも牛肉の加工処理過程に多いといえよう。

 模擬的な試行によって、トレーサビリティシステムによる製品回収・流通履歴遡及の正確さ・迅速さを保証することも、牛肉の信頼性を増すことになろう。おいしさ・味のバランスが消費者ニーズの基本であるとしても、安全・信頼性の高い牛肉、あるいは牛の飼養環境への関心が、新たな牛肉の特性として評価される可能性が広がっている。付加的な情報を取り込んだ牛肉トレーサビリティシステムは、こうした新たな牛肉製品を開発する基盤として機能する点にある。


(5)トレーサビリティに基づく多様な認証制度設計

 以上を踏まえていえば、生産情報公表牛肉JAS規格のもっとも基本的な課題は、多様な牛肉製品の特性を保証する基盤システムとして、トレーサビリティシステムの展開に弾みをつけることであろう。

 まず第三者認証トレーサビリティシステムとしての先導的・実験的役割である。第三者機関による検査は任意のトレーサビリティシステムや認証制度の必須要件であろう。法律によって導入されている基礎的な牛肉トレーサビリティシステムの信頼性を担保するためにも、枝肉と最終製品のDNA照合検査から第三者機関によるシステム検査へと外部検査のあり方を転換していくことになろう。現在、食品トレーサビリティシステムにおける第三者認証・検査のあり方が検討されているが、生産情報公表牛肉JAS規格はそのための検討材料を提供しているといえよう。

 さらにトレーサビリティ認証制度を2つのパートから構成される仕組みとして理解することが必要であろう。第三者検査機関による認定・検査を受けたチェーントレーサビリティシステムと、その下で識別管理された牛肉の特性や提供される情報などを保証する付加的な認証システムである。生産情報公表牛肉のJAS規格は、個体識別番号とリンクされた生産履歴情報の提供を、牛肉の一つの特性として位置付けたことになる。

 いうまでもなく新たな牛肉の特性は、ビーフチェーン事業者や消費者のニーズを反映して多様である。こうした観点からみれば、生産情報公表JAS規格を「トレーサビリティJAS」として一般化するのは好ましくない。それはトレーサビリティの機能を活用した新たな食品認証制度を、具体的に模索していく際の「里程標」として位置付けるべきであろう。目には見えない食品の新たな特性の信頼性を、個体あるいはロットで識別されたチェーントレーサビリティの導入によって担保する、最初の試みであったということもできる。農産物・食品に寄せられた農業生産者・食品産業の工夫と努力が、トレーサビリティシステムによって食品事業者や消費者に伝えられ、共感される食品認証制度のデザインはどうあるべきか。生産情報公表牛肉JAS制度の再検討を含めて、食品認証制度をめぐる議論をワンステップ先に進めていかなければならない。


(注7)「ジェイイーティファーム ISO9001認証取得をブランド価値向上につなげる」『月刊 アイソス』No.98 2006年1月を参照。ジェイイーティファーム・栃木ファームがISO9001の認証を取得した経緯や評価にについて、インタビューを中心に整理している。また2005年7月20日付けの『下野新聞』も、ジェイイーティファームのISO9001認証取得を報じている。

(注8)ジェイイーティファームにおける労務管理の特徴については、拙稿「雇用型酪農のマネジメント」『酪農ジャーナル』58-10、2005年10月を参照されたい。

(注9)たとえば、ほ育・育成舎ではガス暖房装置、断熱材を使用した屋根、二重カーテン、強制換気システムの導入によって飼養環境が制御されている。さらに専属の嘱託獣医師による毎日の巡回や、農場の環境整備(消毒漕の設置、入場車両の消毒、場内の清掃、従業員の服装統一、扇風機・細霧システムの設置、定期的な防虫・防鼠、野犬対策、植樹など)を疾病予防対策として位置づけている(ジェイイーティファーム資料参照)。外部からの危害の進入をできるだけ防ぎ、飼養環境を細かく制御することで、多頭飼養による疾病リスクの増大を防いでいるといえよう。

(注10)たとえば酪農生産部門では、日量約45トンといった大きな出荷規模を生かして、他の生産者の生乳とは合乳せず、分別管理のもとで加工処理された「ジェイイーティ牧場牛乳」が製品化されている。

(注11)前掲『月刊 アイソス』参照。

(注12)ジェイイーティファームは2005年度に「全国農業コンクール・グランプリ(毎日農業大賞)」、さらに同年度の「畜産大賞特別賞」を受賞した。いずれにおいても日本有数の大規模畜産経営としての発展ではなく、乳肉複合経営、ISO9001取得、自給飼料生産などによる経営リスク軽減対策への積極的な取り組みが高く評価されている。

(注13)ミートコンパニオンは東京都畜産試験場(現 東京都農林総合センター)が開発した銘柄豚「TOKYO X」の加工処理・販売に携わっており、「生産から販売まで一貫した履歴管理と透明性を出す」流通システムに参画している。全頭に耳標が装着されており、個体管理でのトレーサビリティが検討されている。また2004年度の農林水産省食品トレーサビリティシステム開発実証事業で、「TOKYO  X」豚肉の食肉処理業者として参加している。もとより生産履歴情報を含むトレーサビリティシステム構築への関心が高く、生産情報公表牛肉JAS規格認証への認識も深まっていたといえよう。

(注14)JAS規格に基づくものではないが、生産履歴情報を含むトレーサビリティは、プライベートブランドのウィンナーソーセージにも導入されている。

(注15)H氏は「生産者のモノづくりに賛同して、こういう価格で販売したいおちい、生産者もどういう考えの小売でどんな形で販売されているのかを知る。生産者と小売の向く方向が同じでないといけない。」(『農業協同組合新聞』2004年10月30日付け)と、トレーサビリティシステムがもたらす事業者間の食に対する認識共有の意義を強調している。

(注16)このことは地産地消の取り組みにも表れている。食品スーパーの多くが地元産の農産物販売を積極的に取り入れているが、フレッセイではたんに地元産であることが最優先されるわけではないとする。上述のような安全性の高い農産物・食品を確認したうえで、地域の環境や住民と共存している生産者であるかどうかといった、農業生産に対する姿勢に関わる情報が重視される。トレーサビリティも地産地消も、生産者と小売業者・消費者の実質的な距離を埋めていくための手法として位置づけられているといえよう。

(注17)農林水産省資料によれば、2006年1月10日現在、登録認定機関数10、認定生産工程管理者数29(うち外国7)、認定小分け業者数33(うち外国4)となっている。

(注18)矢坂雅充「日本の牛肉市場の変容−牛肉トレーサビリティ・システムの導入実態と課題」『農村と都市をむすぶ』56-3、2006年を参照されたい。

(注19)食品産業センター『生産情報公表牛肉のJAS規格ガイドブック』2〜8ページ参照。




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