(独)家畜改良センター 技術部 技術第三課長 小林 栄治
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表1 黒毛和種×リムジン種からなる実験家系におけるFASN遺伝子型の効果 |
表2 黒毛和種におけるFASN遺伝子型の効果 |
3.さらに、FASN遺伝子の2種類のタイプでは、オレイン酸を増加させるタイプ(黒毛型)の遺伝子を持つ個体が黒毛和種では多く、他の肉専用種(アバディーンアンガス種、ヘレフォード種)では著しく低いことを明らかにした(図)。
図 品種によるFASN遺伝子型の分布 |
4.オレイン酸含有量は和牛特有の香りやうま味などの食味に影響する要因の1つであることから、この遺伝子のタイプの違いを判定することにより(遺伝子診断法の開発)、生産される牛肉の食味の違いを推定する手法を確立した。
これまでに、(国)神戸大学の研究によって、オレイン酸生成過程で重要な役割を果たす脂肪酸不飽和化酵素(SCD)遺伝子が解明されており、この遺伝子の診断法と今回出願した遺伝子診断法を併用することにより、より正確で効率的なオレイン酸含有量の推定が可能となる。このため、今後も脂肪酸組成をはじめとする食味(肉質評価)に関するデータを収集し、これら遺伝子タイプの効果を検証していくとともに、ほかの形質との関連を調査するなど実際の育種改良への利用性を検討して早急に実用化したいと考えている。
また、出荷された全ての牛肉について脂肪酸組成や脂肪融点などの食味に影響する項目を測定することは現実的に困難であり、現段階では食味を左右する品質を価格に反映させることはむずかしい。このため、今回紹介した脂肪酸合成酵素(FASN)遺伝子を含む関連遺伝子を分析することによって、遺伝的に不飽和脂肪酸を多く含む牛肉を判別し、マーケットにおいてその情報を付加することにより従来困難であった食味に関わる品質評価とその表示が可能となるかもしれない。
一方、「家畜の遺伝資源の保護に関する検討会」において、和牛の特徴に関する遺伝子特許の取得を国全体として推進するとともに、得られた遺伝子特許を戦略的にマネジメントすることが提言されている。今回の特許申請技術は、和牛の香りやうま味と密接に関連する脂肪酸組成に関与する遺伝子を解明したものであり、今後の和牛の遺伝資源の保護・活用に資するよう特許権をパテントプールへ提供し、国家戦略の中でマネジメントしていく予定である。今回の特許出願をスタートとして、わが国全体で和牛の遺伝子特許の取得・活用を推進し、遺伝子育種を活用した和牛改良のみならず、和牛の遺伝的特性を引き出す飼養管理技術等の家畜生産技術の総合的な技術革新の加速化を進めることにより、高品質でより安価な和牛肉を供給するとともに、国産和牛肉の国際競争力を更に強化できると考えている。
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