◎今月の話題



エコフィード利用推進の展望
〜豚用飼料を対象として〜

日本大学生物資源科学部
教授 阿部 亮

エコフィードの歩み

 平成8年秋、筆者は筑波の畜産試験場に勤務していたが、神奈川県畜産研究所の方から、「海老名市で食品残さから養豚向けに乾燥飼料を作っている所がある、見に来ないか」との誘いを受け、現地見学をした。その時以来、今まで、食品残さの飼料化についての仕事にかかわってきた。翌年秋、畜産試験場の問題別研究会でこの問題を取り上げ、「有機物資源リサイクルの一環としての食品残さ及び食品製造副産物の飼料利用」のシンポジウムを初めて全国的な規模で行った。

 思い返してみると、どうもこの時期がエコフィード(食品残さ等を原料とする飼料)の萌芽期ではなかったかと考えている。海老名市の事業(一般廃棄物処理業者)は平成5年から、山形県鶴岡市(市役所、大学、農家の連携)では平成7年から、札幌市(市役所、廃棄物処理業、民間企業連携)では平成7年に準備を始め平成10年から、茨城県竜ヶ崎市(コンビニエンスストアセントラルキッチン)では平成10年から、それぞれ事業を立ち上げている。いずれも、乾燥飼料の製造を行っていた。また、大阪府下では以前から、複数の養豚農家が食品残さ飼料を自家調製し、この時期には食品残さ飼料からいかにして良品質の枝肉を作るかの努力がなされていた。さらに、横浜市では生ゴミのコンポスト化を飼料生産に切り換える事業を平成11年から開始している。

 そのような下地というか、基盤のある中で平成12年6月に「食品循環資源の再生利用等の促進に関する法律」(食品リサイクル法)が公布され、翌平成13年5月から施行されて、今年で丸5年が過ぎた。

 平成13年には千葉県銚子市に大規模養豚経営者の手によってリキッドフィーディング(液状飼料給与)の施設が作られている。

 平成10年以前の各地の萌芽を基礎に、そして食品リサイクル法の後押しを受けた形で、エコフィードの生産と利用は各地に広がり、現在、40カ所以上で事業展開がなされているようだ。

 動物の成長曲線に例えるならば、ラグフェイズ(ゆっくりとしたのろまな歩みの時期)から、今は、指数曲線的な増加の時期にさしかかっているとも考えられる。 

 そういった意味ではエコフィードは今、第一ステージから第二ステージへの進化の境目にあり、非常に重要な時期である。


現状認識

 事業主体と形態は実に多様である。生産・供給される飼料は乾燥飼料とリキッド飼料であるが、事業数では乾燥飼料製造の方が多い。多様な姿を紹介するが、大きく分けて8つの類型となる。(1)自治体が先導的な役割を果たし、軌道に乗ったところで当事者に運営を任せる(札幌市では毎日50トンの残さを乾燥処理し、年間3,000トンの乾燥飼料を製造、製品は配合飼料メーカーに供給されている。横浜市では、市内の養豚農家がエコフィードで育てた豚を「はまぽーく」という名称で販売し、市民の支持を得ている。)、(2)廃棄物処理業者が飼料製造を行い、特定の養豚農家に相対取引で供給している、(3)廃棄物処理業者が収集した素材を単品ごとに乾燥し、乾燥製品を配合飼料メーカーや農家に供給(パン・麺からの小麦粉製品、乾燥トウフかすなど)、(4)養豚農家が食品残さを収集あるいは配送を受け、飼料を製造して、給与している(大型のリキッドフィードシステムもある)、(5)食品製造業者が副産物や規格外品を飼料化して特定の養豚農家に供給する、(6)食品流通業者がセントラルキッチンあるいは余剰食品から飼料を製造し、養豚農家に供給する(コンビニエンスストアのセントラルキッチンからの調理残さを乾燥して飼料製造の例あり)、(7)NPO法人組織で食品残渣を収集し、乾燥飼料を製造、製品を養豚農家に供給している、(8)異業種の参加(建築業者が乾燥施設を作り、肥育豚を飼養するという、新規養豚経営への参入例あり)。 

 事業の規模も多様である。一日50トンの処理で10トンの乾燥飼料を製造する所もあれば、500キログラム程度の処理で100キログラムの乾燥製品を製造する所もある。また、養豚農家での使用の方法は乾燥飼料の場合、配合飼料の10〜20%をエコフィードで代替し給与する例が多い。養豚農家のエコフィードに対する関心度はどうであろうか。種々の調査では一様に関心度は高く、60〜70%の養豚農家が利用の意向を持っている。肥育豚生産費の60%強を占める飼料費の削減をエコフィードの利用で果たし、経営改善・向上に役立てたいという意識は強い。良い物を作り、定時・定量の供給が出来れば、そして適正なコストであれば、受け皿の心配はないと考えてよいであろう。


成長への課題

 良い物を安く、コンスタントに必要な量を供給する。それを使って、美味しい豚肉を作り、日本の飼料自給率を高めてゆく。そのための課題を解決するのが第二ステージにさしかかった今、必要である。「良いもの」という範疇には安全性と栄養価がある。安全性については、平成18年8月30日に「食品残さ等利用飼料の安全性確保のためのガイドライン」が制定された。ここでは材料の分別、製造、製品管理体制、出荷、記帳などについての指針が示され、このガイドラインの周知によって安全なエコフィードが供給される。

 良質なエコフィードの生産と養豚農家での利用、そして豚肉の流通・消費を円滑に行うためには、異業種による地域ネットワークの構築が欠かせない。例えば、横浜の「はまぽーく」の場合には、市役所、環境コンサルタント、県の畜産試験研究機関の技術者、養豚農家、飼料を作る一般廃棄物処理業者、学識経験者、獣医師、食肉センターの買参人、消費者、料理店シェフがネットワークを形成し、時間をかけて事業化の準備をしてきた。


最後に

 平成17年の豚用の配合飼料・混合飼料の生産量は約588万トンである。その主要原料はトウモロコシが330万トン、マイロが49万トン、大豆かすが89万トンと輸入依存品である。今、エコフィードの豚用としての生産量はどのくらいだろうか。それを精査し、起点とした自給率向上の目標値を立てる時期でもあろう。  


あべ あきら

プロフィール

北海道出身
昭和41年3月宇都宮大学農学部卒業
4月農林省畜産試験場入所
平成5年3月畜産試験場栄養部長
平成10年4月日本大学生物資源科学部 教授


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